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鈍色のパラディン  作者: チノフ
一章~駆け出し冒険者編~
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11話

次の日からメリッサの生活は一変した。

朝は自力で起きれないので起こしてもらい 朝食を食べ、作ってもらった昼食を片手にギルドへ向かう。

アンジェとデイジィはで生活費の為に依頼をこなす為、そこで分かれてメリッサは単身マスターの待つグラウンドへ。


午前中は只管基礎の訓練だ。

20キロのランニングから始まり休む間も無く腹筋、背筋、腕立て、スクワット。

終える頃には昼過ぎになっているので昼食を食べて午後は技術的な訓練。

歩法に始まり用意された斧槍の振い方を習い、

全力で打ち込んでくるマスターの攻撃を大盾を使っていなし、受け止める。

ミスをすると容赦なく顔面に拳が飛ぶ。

マスターが用事の日は一人で反復練習。

一月に一回はダンジョンに潜り実地訓練。

雨が降ろうが嵐が来ようが休みは無い。

十分に備わっている膂力に慢心せず極限まで体を苛め抜いていく。


日が沈むと宿に戻り水を浴びる。

夕食は訓練前の倍は食べるようになった。

夕食が終われば勉強の時間だ。

アンジェとデイジィに見てもらい、文字から始まり、地名を覚え、現在の大陸の社会情勢を学び、礼節、教養を身につけていく。この時はマリーも一緒に勉強させてもらう。

そして最後に一日の情報交換をし、9時には布団に入り泥のように眠る。


そんな生活が一月、二月、と続くうちに、

周りの冒険者達の評価も変わっていく。

挨拶し、情報交換をする知り合いも増えた。

あの日、試験に耐え切れず吐瀉物を撒き散らした<ガード>の青年はメリッサに先人としてマスターやアンジェ、デイジィでは出来ない、近い目線でのアドバイスをしてくれる。

街の人の評判も悪くない、誰も受けたがらない雑用依頼を修行の一環としてマスターが依頼金の半額で押し付けるからだ。

畑を耕すのはいい訓練になるし、屋根の修理は平衡感覚が鍛えられる。

三月が経つ頃にはすっかりこの街に馴染みきっていた。



            ~~~


「まいったな・・・」


金髪碧眼、絵本に出てくる王子様の様な青年。

この街<ベティラード>近辺の領主であるグラディウス家、その嫡男カール・グラディウスは困り果てていた。

経験を積む為、一人で視察に行くように現当主である父、クレメンテに言われてやってきたのだが見栄を張って家が所持する中で一番大きく、一番上等の馬車に乗ってきたのがそもそもの失敗だった。

街に入ろうとした途端馬ごと馬車が横転し、御者と自身には怪我がなかったものの二匹いた馬のうち一頭は逃げ出し、もう一頭は倒れた拍子に足を折ったらしい、御者曰くもうこいつは走れませんね。との事だ。

集まってきた野次馬に問うた所、この街にはダンジョンと街を往復する馬車便以外、馬はいないらしい、牛ならいるんだけどねぇ、と申し訳なさそうに言った老婆に貴方が気にする事ではない、と返したものの打開策が浮かばないので唸っていると先ほどの老婆が言った。


「今若いのがメリッサちゃん呼びに行ってるからねぇ、あの子ならきっとなんとかしてくれるから心配なさんなお若いの。」


「気持ちは有難いが女性一人でなんとかなる状況では無いだろう。」


「いんやぁ、メリッサちゃんは男の子だよ。最近冒険者になった子でね、街の事を良く手伝ってくれるから皆よく「困った時のメリッサ頼り」なんて言ってるよ。」


そらきた、と言うと先導する少年に続いて男が近づいてきていた。

体のあちこちに妙な装飾品を付けたガタイのいい男である。

身の丈は180はあろうか、くすんだ灰色の髪を揺らして近づいてくる様子を見ているとメリッサちゃん、なんて呼ばれているのに凄まじい違和感を感じる。


「お客人、怪我はあるまいか。」


体格に似合った低い声だ、腹の底に響くような。


「幸いにして私も御者も怪我は無いが見ての通り馬車が横転してしまった上に馬が使い物にならなくなってしまってね、どうしようかと悩んでいたのさ。」


「馬車は自分がなんとかしよう。」


言うなり馬車の縁に手をかける。


「無茶をするんじゃない。さっき5人がかりでも無理だ・・・ったんだが、君はよっぽど力があるのだね」


特に力を入れた様子も無く馬車をひっくり返すと、先ほどの少年を呼び寄せて2、3言告げるとこちらに戻ってきた。


「それだけが取り得だからな、今馬車の状態を確認してもらってる、馬に関しては・・・ああ、来た。マスター!こちらです!」


メリッサが声をかけた方に振り向くとこちらも2m近い壮年の男性がこちらに来る所だった。


「どうも、この街の冒険者ギルドのマスターをさせて貰ってるケチなもんです。」


「お客人、馬についてはこの人に相談するといいだろう。」


と、空気が揺れたかとメリッサが吹き飛んでいた。

壮年の男性が殴り飛ばしたようだ。


「このクソジャリが、目上のモンには敬語使えって嬢ちゃん達から教えてもらわなかったか!?」


「待ってくれギルドマスター殿!、非は私にある、私はまだ彼に名乗っていないのだ。」


「む・・・おいメリッサ、起きろ。不問にしてくださるそうだ。」


私に非があると言ったのだが・・・意地でも自分が悪いとは認めないらしい

メリッサは鼻血を拭いながら戻ってきた。


「敬語は使わなくて構わない、丁度同年代の友人がいなかったのでね。対等に話が出来る機会はそうないんだ、是非さっきのまま話してくれると嬉しい。」


「分かった、僕はメリッサ、この街でこちらのマスターに師事しながら冒険者をしている。」


「ああ、カール・グラディウスだ、よろしく頼むよ。」


握手を交わして再びギルドマスターに向き直る。


「不躾な願いなのですが馬を譲って頂けないでしょうか。

本来視察に来たのですが、到着するなりこの様で。

供回りも連れてこなかったので参っていたのです。」


「あー・・・確かにダンジョンと街を行き来する馬車はありますがね。ありゃ国営なんで自分の差配ではどうにも出来んのですよ。

そん代わり・・・こいつ貸しましょう。」


メリッサを指差して言うギルドマスターだが訳が分からなかった。


「おいメリッサ、あの馬車くらいなら引けるな?」


「無論です。」


「待、待ってくれ。本来あの馬車は馬二匹引きなんだ。いくら君の力が強くても私の居城までは二日かかる、体力が持つまい。」


「大丈夫だ、カール、二日程度なら問題無い。」


すると、メリッサのにいちゃん!、と先ほどから伝言役を買って出てくれている少年が報告した。


「うちの父ちゃんがねー、この程度だったら一晩でなんとかできるってさ!」


「そうか、ありがとう」


メリッサは少年に銅貨を2枚握らせ父親の元へと送り出した。


「だ、そうだ。まだ日は高い、軽く街を見回って一泊してから明日出発すればどうだろう。」


「いや、それは有難いが・・・本当に馬車を引けるのか?」


横からぬっと顔を出したギルドマスターが。


「大丈夫ですよ、貴族様。こいつぁ確かに冒険者駆け出しですがね、体力と力は本当に馬鹿みたいにあるんで。」


「む、むう。ギルドマスター殿がそういうなら信じよう。

では報酬はどうするか。」


「ではあの馬をもらえまいか、骨折したと言う事はもう座して死ぬだけなのだ、せめて食らってやるのが情けだろう。」


「ふむ・・・分かった、メリッサ、君に任せよう。」


「任された、任されついでに街を見回るなら僕が付き合おう、構いませんね、マスター!」


「おう、好きにしろ。俺ぁ久しぶりにお姉ちゃんとこでもいってくらぁ。」




そう言うと馬をひょいと担いで、少し待っててくれ、すぐ戻る。

と言って街の中へと戻っていった。

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