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鈍色のパラディン  作者: チノフ
一章~駆け出し冒険者編~
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9話

朝、ギルドにやってきた冒険者、職員は受付の奥に座る人物を見て大なり小なり驚いた。

何時もならこの時間は酒の匂いを撒き散らしながら娼館から帰ってきて部屋で寝ている筈の自堕落なギルドマスターが服装を正してご機嫌そうに鼻歌なんぞを歌っていたからだ。


伸ばし放題にされていた白髪交じりの茶髪は後ろで括られていて、汚らしかった髭も全て剃られている。巨大な体躯を覆うのは半袖の白いシャツの上に機能性を重視したベスト、動きやすいズボンに頑丈な編み込みのブーツだ。傍らには荷物が大量に入った皮袋と現役時代に使っていたのであろう、大斧が立て掛けてある、酒の匂いはまったくしない。鷲色の瞳は機嫌よさそうにギルドの入り口をずっと見つめている。

依頼を受けに来た冒険者達は本人に聞こえない様に受付に座る職員に聞くが、職員達も何も知らないらしく、要領を得ない返事が返ってくるだけだ。

テーブルに座る冒険者同士でああでもない、こうでもない。と言っているとギルドの扉を開き、3人組が入って来たのを見て、ギルドマスターはニィ、と笑って出迎えた。


「ようきた、ちいとばかし遅かったな。こっちの準備は出来てるぞ。」


時計は丁度9時を少しまわったところだ。


アンジェリカとデイジィは面食らった、目の前の偉丈夫が昨日までの老人とはまるで別人だったからだ。


「ごめんなさいね、メリィってば寝起きが悪いのよ。」


「構わんさ、坊主の年齢ならしっかり食ってしっかり寝るのが大事だ。」


メリッサは恥ずかしそうに身を縮ませる、デイジィが慰めといわんばかりに背中をさすってくれた。


「訓練の前に基礎的な部分を調べるから裏に行くぞ。」


訓練、という言葉を聞いて事情を察したのか、

聞き耳を立てていた立てていた冒険者の一人が咄嗟に遮った。


「待ってください、話の流れからその新米にギルドマスターが直々に稽古を付けるつもりなのは分かりましたがそれは不公平ではないでしょうか!」


一人が文句をつけた所でメリッサを快く思っていなかった冒険者達からも野次が飛ぶ。


「えこひいきだ!」

「新米のくせに!」

「身の程を弁えろ!」


ギルドマスターに直接言う勇気の無い者ばかりである。

自然とその矛先はメリッサへと向かった。


スラムで人の悪意に慣れていた彼であるが一度にこんな大人数から悪意を向けられるのは初めてであった為少し戸惑っていると、彼を守るようにアンジェとデイジィが前に立った。

思わず冒険者達は息詰まった、格上の冒険者に逆らう勇気も彼らには無い、出来る事は恨めしそうに睨み付けるだけだ。



そうしてるうちにギルドマスターが大きく手を叩いて注目を集めて言った。


「お前さんらの言いたい事は分かった、これからこの小僧をちぃとばかし試験する。その様子を傍で見て、自分もその試験を受けたいと思ったなら遠慮せず言うといい。お前らも試験してやろう、見込みがあれば稽古つけてやる。裏でやるぞ、見たい奴はついてこい。」


ギルドマスターは皮袋を拾い、3人を伴って裏のグラウンドへと歩いて行く。

残された冒険者達は隣の者と相談した後、彼らを追いかけていった。



             ~~~



20人程の冒険者達と一部の職員が見守る中ギルドマスターは真剣な表情でメリッサの体を叩いて筋肉の付き具合を確認し終えると。


「あいつらは案山子とでも思っておけ、坊主が相手するような連中じゃない。分かったら、服を脱げ、靴もだ、下着は履いてていい。」


メリッサは頷くとベルトを外し、ローブとスラックスを脱ぎ、デイジィに渡した、靴と靴下も脱ぎ、裸足で地面の冷たさを感じて次の指示を待った。


ギルドマスターは皮袋に手を突っ込み長さ1m程の単純な作りの棍棒を取り出し、それで再度足元から首筋まで軽く叩いて言った。


「手を上げて腹に力入れろ、殴るぞ。」


ミシリ、とメリッサの腹筋が隆起するのを確認して棍棒で最初は軽く、じょじょに力を強めていく。


ギルドマスターは最高職まで自身の位階を高めた元冒険者である、老いて引退したとはいえ基礎的な膂力はそこら辺の冒険者とは比較にならない。


湿った音がグラウンドに響き渡るが、殴られている当人の顔色は変わらない、都合10度殴った後、痛みは?と問われたので無い事を告げると、


「本気で行くぞ、力入れなおせ!」


ギルドマスター渾身の力を以って振るわれた棍棒は、一際大きい打撃音と共に砕け散った。手に残った柄を放り捨てて笑う。

唖然としている冒険者達に向き直ると


「まぁ、試験っつってもこんなもんだ。俺が殴る、お前らが耐える。

命の補償はせんがな、受けたい奴は残れ。無理だと思う奴は散れ、ダンジョンで鍛えなおして来い。」


誰が好き好んで馬鹿力で殴られたいと思うのか、まず後衛職がさっさとギルド本部に戻り、残った前衛職は少し躊躇したが去っていき、残ったのは最初に意見した青年一人である。


若干顔を青くしながらお願いします、と言ったその青年も三度目の殴打で吐瀉物を撒き散らし、意識を失ってギルド職員に担架で運ばれていった。




メリッサの少し赤くなった腹をアンジェが擦りながら


「ただの<ノービス>に随分な仕打ちじゃない。」


「お前さんら将来的に3人でパーティ組むんだろ?魔法使いを守るって事ぁ、要するに敵を受け止めて殴られるのが仕事って事だからな、支援職入れる予定がないなら尚更素の頑強さが必要になる。ま、他の冒険者には疎まれるかもしれんがもう文句を言う奴はもうおらんだろうよ。」








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