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鈍色のパラディン  作者: チノフ
一章~駆け出し冒険者編~
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7話

「メリィ!起きなさい、今何時だと思ってるの!」


怒鳴り声が響き渡るとメリッサは飛び起きた。

枕元に怒り心頭のアンジェが立っている。

生憎この部屋には時計がないので分からないが、アンジェの怒り方からして相当寝坊したのは間違いなさそうだ。

スラム時代は起床時間が飯を食えるか食えないかの別れ道だったが、それが無い今になって寝ぼすけの本性が出てきたのだ。



アンジェに蹴っ飛ばされながら急いで平服に着替えたメリッサが食堂に出てきたのは10時近くだった、食堂で待っていたデイジィも無言で怒りのオーラを放っている。メリッサは何度もすまなかった。と言うしかない。



今日は戦闘する予定が無いので3人とも平服で宿を出た。



             ~~~



最初に寄ったのは服屋でメリッサ用の服を買うらしい。

女将にもらった平服1枚では破れた時に困るし何より匂うので洗濯用の替えが纏めて必要だそうだ。


しかしここで問題発生、食事環境が改善されたおかげでメリッサの体はスラムを出た時よりふたまわりは大きくなっているし、15歳という年齢を考えると更に成長する余地は残っているのだ。

大きくなる度に買い換えるという無駄はしたくないので多少成長しても着れる大きめのローブと伸縮性のあるスラックスを数枚、ローブを絞る用のベルトと部屋着を、隣の靴屋では鉄板で補強された冒険者用の編み込みブーツを纏めて購入し、訓練所へと向かった。


 


              ~~~



相変わらず活気のある露店街を通って訓練所に着くと受付には見知らぬ男性が座っていた。、アンジェが話しにいったのを見送って


「ここのお弟子さんでドッズが工房に篭ってる間は彼が訓練所を取り仕切っているんだよ」


とデイジィが横から教えてくれた。


しばらくお待ちください、と言って男性は奥の建物の扉を開けて大声でドッズを呼んだ。


「親方ぁ!お客さんですよ!」


「手が離せん!中で待っててもらえ!」


というやり取りの後、戻ってきた男性に中へと促された。



長椅子にアンジェ、メリッサ、デイジィの順で座るとしばらくしてドッズが奥から汗をタオルで拭きながら出てきた。


「待たせたな、で用件はなんだ。」


サーベルが折れたので新しい武器を見繕って欲しい事、戦い方を教えてくれる場所を紹介して欲しい事を伝える。


「そうだな、魔法使いにゃ前衛の事なんざ分からんもんな。

そういう意味ではうちに来て正解…と言いたいが、わしも今この街でお前さんに合った武器を見繕えて戦い方を教えれるような奴に心当たりは無い…あ、いや待てよ。一人いた!もう引退してるが毎日暇してて丁度いいのが!」


嬉しそうに言うドッズにアンジェリカとデイジィは嫌な予感がしたが当の本人が乗り気なのを見て諦めた。


「さあギルド本部へ行くぞ!」


ドッズの言葉に嫌な予感は確信に変わった。



              ~~~



昼の冒険者ギルドは暇なもんである。

ほとんどの冒険者は依頼やダンジョンに潜ってるし、昨日ダンジョンに潜って今日休みにしてる冒険者が昼からロビーでエールを煽って雑談してるくらいだ。あまり出番のない冒険者登録試験官のシャントットも普段は事務の手伝いをしてる訳だが今日はそれすらない。

椅子に座って腕を組み、昼の陽気に当てられて舟をこいでいるとギルドの裏口が勢いよく開かれた。何事かと振り返るとドッズが入ってきた所だった。

周りを見回して一番暇そうな自分が対応する事にした。


「ドッズさん、何か御用ですか?」


「シャントットか、大将はいるか?」


「さあ、マスターなら何時も通り宿舎の自室で寝てると思いますけど。」


起こすのはお勧めしませんよ。と言いかけて止めた、自分よりも彼らは長い付き合いなのだ、寝起きの機嫌の悪さを知らぬ訳もあるまい。

邪魔したな、と言って裏口から出て行くドッズを見送ってまた暇をするという仕事を再開した。




ギルドマスターは宿舎にいる事を聞きだしたドッズは3人を伴ってギルド職員用の宿舎へと歩き出した。


「大将はな、元々AAAランクの<バーサーカー>だったんだ。国王から<二つ名>も授与された数少ない一人でな、一人で特Aランクと呼ばれるAAランク以上しか入る事の許されないダンジョンを幾つも踏破した様は王都にいきゃ今でも吟遊詩人が謳ってる、50過ぎて体が衰えたってのを理由に引退して後進を育てる為に王都の冒険者ギルドで働き始めたんだが賄賂とかお上の圧力に嫌になってな、ある日賄賂を渡しに来た貴族をぶん殴ったせいで10年前ここに飛ばされてきたわけだ、それ以来腐っちまってな、知っての通り酒と女の毎日よ。なんでそんな詳しいかって?俺ァそもそも大将の身の回りの世話をするサポーターだったからな、大将が飛ばされるのと一緒にこっちにきたって訳よ。」


ドッズがグラウンドを越えてギルドの宿舎までの道中、ギルドマスターについて教えてくれた。


「さ、ついたぞ、大将の寝起きの悪さはドラゴン並だからな、ちょっと離れているように。」


真剣な様子のドッズに押されて3人は後ろに下がる。


扉の前に立ったドッズは静かに深呼吸してドアを激しくたたき出した。


ドンドンドン!「大将、起きてくだせえ!」ドンドンドン!

ドンドンドン!「大将、大将!用事でさあ!」ドンドンドン!


「やっかあましいわあ!!!!!!」


凄まじい怒鳴り声の後、部屋の中で何かが割れる音と共に

部屋の中から投げたのだろう、扉に突き刺さった戦斧の先が見えた


しばらくすると少し落ち着いたのだろう

のっそりと扉から顔を出して。


「なんじゃいドッズか、わしがこの時間寝取るのはしっとろうが。」


「大事な用事です、大将に取っても悪い話じゃきっとねえ筈です。」


ギルドマスターがじろりとこちらに視線を向けた後。


「あいつらの事か」


「そうでさあ、小僧に戦い方を教えてやってくだせえ、自分からもお願いします!」


ドッズが何故そこまで自分の為に必死になってくれるのかは分からなかったが自分も頼み込むべきだろう、と判断したメリッサはドッズの横に並び、膝をついて頭を下げた。







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