6話
一旦風呂で汗を流し、一足先に食堂に入ったアンジェとデイジィは自分達のこれからついて話し合っていた。
1日で銀貨27枚を稼いだメリッサであるが、宿代を払ったので残りは20枚。
更に武器を折ったので新調せねならない上に戦い方を学ばせるにもお金がかかる。
武器と戦い方については専門外なので明日ドッズに丸投げするとして、相談するのは金銭的な問題だ。
以前のパーティではダンジョン攻略や依頼で得た報酬の一部をプールして各自の装備が破損した時や新調する時は相談してプール金から出す形を取っていた。
あくまでこれはパーティとして活動する際によく取られる方法で、現在のアンジェリカ、デイジィとメリッサとの関係はまだ保護者と被保護者である。
現状は冒険者の寄り合いであるクランが有望そうな駆け出し冒険者を取り込み、支援し、育てた後で改めてパーティを組む形に似ている。
その場合は、金銭的負担をクランが全面的に一時的に支援し、パーティを組めるようになった時点で少しずつ返していくのだ。
その形を利用できるか、と問われると、主に金銭的な部分で無理が生じる。
まず2人もそれなりの貯蓄はあるが、まるまるもう一人継続的に面倒を見る事が出来る程に金銭的余裕はない。
さらにメリッサが心変わりして自分達から離れていった場合クランを組んで無いので拘束力がない為丸損する。
ああでもない、こうでもないと2人が相談していると皮鎧を磨き終わって一旦部屋に戻り装備をプライベートボックスに納めたメリッサが食堂に入ってきたのでアンジェが手招きすると大股で歩いてきて席に座った。
予定では明日はアンジェとダンジョンに潜る予定だったが、武器が壊れたから中止して武器屋と訓練所に行く事、これからの方針を一旦変更してまず戦い方から習う事。を伝え、悩む事が嫌いなアンジェは最後に本当に自分達とパーティを組む気があるかを問うた。
――突然であるがインプリンティングという言葉をご存知だろうか。
刷り込みとも言われる現象は一般的に動物が産まれた際、最も近くにいる動く物を親として認識し、行動を真似する習性をこう呼ぶ。
これに似た現象がスラムから出てきたばかりのメリッサの中で起きていた。
簡略してしまえば自分に名前を付けたアンジェリカの事を無意識に親、デイジィを番いの親として認識し、行動の全てを信用していたのである。
奪い奪われが日常のスラムで育った彼がなんの躊躇も無く大金をアンジェリカに預けようとしたのもこれが原因である。
つまり、メリッサ本人から積極的に離れる事は無いと言って良い。
「僕は二人に恩を受けてばかりいる、今はまだ駆け出しで役に立つ事は出来ないが、将来徒党を組む事によってその恩を返せるなら自分を使い潰して欲しい。」
アンジェリカの赤い瞳とデイジィの蒼い瞳を交互に見つめてそう言うと、意思が固まった二人は顔を見合わせて頷きこれからの計画について話し始めた。
・当分ダンジョンに潜るのは止めて戦い方の習熟に専念する事。
・その間は自分達が経済的に面倒を見る事。
・この3人を一旦仮パーティとし、収入の一部をプール、管理はデイジィが担当する事。
・Cランクになって正式にパーティが組めるようになったら使い潰すつもりで酷使するので覚悟しておく事。
運ばれてきた夕食をつつきながら計画を練り直していく。
昨日立てた計画がたった一日で破錠した事を愚痴りながら。
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たらふく食べ終わって大部屋に戻ったメリッサは後学の為に、と以前買ってもらった絵本を取り出し、小一時間程眺めた後、する事も無いので布団へと潜り込んだ。
疲れは感じていないつもりだったが初めてのダンジョンで精神的に疲労していたのだろう、目を瞑るとすぐに眠りに落ちていった。
この世界の風呂は水を張った大理石製の浴槽に熱の力を込めた魔石を落とし、湯加減が良くなったら魔石を取り出す方式。設備が高価な上、維持費がかかるので富裕層しか利用しない。大衆浴場と呼ばれるサウナ式が一般的。




