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鈍色のパラディン  作者: チノフ
序章
2/67

2話

ガチャリ、と冒険者ギルドの扉が開く。

朝の早いこの時間、いるのは職員だけである。


唯一受付口に座っていたニーニャが目を向けるとみすぼらしい少年が一人、視線をあちらこちらへやっていた。

ニーニャがまず思ったのはスラムの住人であろうという事。

体格は悪くないが痩せこけている上に目元には大きな隈がある。

着ている物も粗末だし離れていても臭いが少し気になる。

鞘ごと掴んでいる片手剣と丸盾がミスマッチしていて大体の経緯は悟った。


少年の様に冒険者になろうとスラムから出てくる人は多くは無いがたまにいる。

その大半は試験を突破できず、彼らにとって大金の銀貨5枚を失ってスラムに帰っていくのだが・・・


考え事をしているうちに目の前まで少年がやってくるとニーニャは臭いを我慢して営業スマイルを作った。


「冒険者ギルドへようこそ、本日はどのようなご用件で?」


少年は無愛想に一言。


「冒険者登録を。」


「では銀貨5枚を先に頂きましてから登録について説明させて頂きます。」


少年は頷くと硬貨の入った麻袋をニーニャの前に置いた。

確認させて頂きます、と言うと手際よく数え、丁度銀貨5枚分あるのを確認した。

錆びた銅貨や垢のこびり付いた大銅貨は少年のこれまでの苦労を物語るようであった。


「改めまして冒険者ギルドへようこそ、わたくし、ニーニャが冒険者登録について説明させて頂きます。」


そういって二コリと笑うが少年は無表情で頷くだけである、このくらいの年頃にしてはスレている。

自分の容姿にそれなりに自信のあるニーニャは心の中でマイナス5点した、何の意味もないのだが。


「冒険者登録に必要なものは3点。

・登録料銀貨5枚

・ギルド地下における魔物との実践試験の合格

・実践試験に使用する武器、防具。


実践試験ではこちらで用意した低級の魔物と戦い、試験官から合格をもらう事によって認可されます。

ここまでは宜しいでしょうか?」


コクリ、と少年は頷く。

あの老人から聞いていた通りだ。


「禁止事項等は実践試験合格の後、冊子をお渡しさせて頂くのでそれに詳しく記載されています。

本日はこのまま実践試験をお受けになられますか?」


もう一度頷く、昨日は緊張して眠れなかったが体調に問題はない。

むしろずっと目標にしていたスタートラインまでもう少しなのだ、力がふつふつと沸いてくる。


ニーニャは一度下がって通信用の魔石に冒険者登録試験の旨を伝えている。


神に祈った事は無い、縋るものもありはしない。

ただひたすらにゴミ溜めから抜け出るのだと、残飯を漁る鼠ではなく人間になるのだと自分自身を叱咤する。


「もうしばらくすれば準備が完了する様なので待合室までご案内します」


ニーニャが言う。産毛の生えた頬をざらりと撫でる、覚悟は出来た。




             ~~~




冒険者ギルド職員、戦闘試験担当のシャントットは目の前の少年を値踏みしていた。


体格は悪くない、170程の身長にがっちりした肩幅、痩せぎすなのはスラム出身だから目をつぶるとして。

それでも垢だらけの皮膚の下はしっかりと筋肉がついている。片手剣と丸盾も丁度体格に見合っている。

雑に切られた灰色の髪に目元が窪んでいる黄金色の瞳はまるで飢狼を思わせる。


近頃は貴族や商家の坊ちゃんが何を勘違いしたのか高級な装備で試験に挑むのだが、この試験で必要なのは基礎的な力なのだ。

良い武具があったとしても初めての命の取り合いに足が竦んで案山子になるなんてよくある話だ。


「いいか、これから試験を行うが相手は低級とはいえモンスターだ、もし無理だと感じたら言うように。」


一通り値踏みし終えたシャントットが言う、低級モンスターの一番の恐ろしさは数である。

試験では一対一であるから脅威度は低いといっていい。

だが命の取り合いなのは間違いがないし、モンスターは飢えさせてあるので死に物狂いで襲い掛かってくるであろう。



シャントットが檻に手をかけると視線で準備はいいかと問う。

少年はコクリと頷いた。


「それでは試験を開始する!」


ガシャン、と

試験用の地下闘技場に檻が開く音が響き渡る。



出てきたのはウルフと呼ばれる狼が魔力に当てられて変異したモンスターだ。

最下級ではあるが突進をまともにもらえば成人男性でも転倒は免れないし馬乗りにされれば喉を食い千切られるだろう。


ぐるり、ぐるりと少年の周りを涎を垂らしながら値踏みしながら、いつでも跳び付けるようにウルフは旋回する。

対して少年は腰を落とし視線を固定する、相手は突進くらいしか攻撃手段を持たない。


拮抗を破ったのはウルフだった、持ち前の俊敏性を生かして飛び掛かる。


予想より速い、だがそれだけだ。

一度目の突進を丸盾でいなして構えなおす。


宙を泳いだウルフが地面に足を付けた時には少年は地面を蹴っていた。

三歩で加速を終えて体を捻り横腹に一閃するとウルフはいとも簡単に臓物を撒き散らして絶命した。


シャントットはほう、と感嘆の声を上げた。魔獣と化したウルフの体皮は硬い、それを一撃で破れる膂力はそう簡単に身に付く物ではない。

スラムのような悪環境でその肉体を維持するのがどれ程困難な事か。


久しぶりの<本物>の冒険者だ、そんな思いを抱きながら上のニーニャに通信用の魔石を通じて合格を報せた。


これで晴れて少年はFランク冒険者に登録される訳だが本人は何を感じたのかその場で剣を2度3度振り回している。



喜びよりも違和感が勝っていた、この違和感が後に命取りになるような気がしてならなかったのだ。

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