4話
時間は少し巻き戻る。
アンジェとデイジィ(と引退した女性)は、王都からこの街に流れてきて以来憧れの的である。それもその筈、そもそもこのあたりにはFからCまでのダンジョンしかなく、Bランクになった冒険者は拠点を首都に移すからである。
。
自分達より強く、王都出身の垢抜けている彼女達は荒くれの多い冒険者達の中でも高嶺の花として扱われている。その上現在2欠け――前衛とヒーラーが欠けてる状態――なので、ランクの比較的近いフリーの前衛やヒーラーはいつ自分に声がかかるかと楽しみにしていたくらいなのだ。
それが最近新米冒険者を拾った上に可愛がっているらしい。
それも男である。当然憧れていた冒険者達は面白く無い。
つい昨日一昨日の話なのにもう広まっているのがその証拠である。
そしてメリッサに向けられる嫉妬、羨望、憎悪の視線は本人には伝わらず。
逆に傍に居た2人に筒抜けだった。
エールを片手に何時もの席に着いた二人はとりあえず乾杯して今日の戦果について話し始めた。
アンジェは腰から下げていた袋を机の上に置き。
「こっちは銀貨15枚、やっぱ魔法使い一人じゃこんなもんよね」
デイジィが選び、アンジェが受けた依頼は近くの森に発生したウルフの上位種であるグレーウルフの群れの討伐である。
「で、肝心のそっちはどうだったのよ?」
余程楽しみにしてたのか、少し身を乗り出してアンジェが問う。
「凄かった、めりーくんが戦ってるの初めて見たけど
暴力の台風っていうか、<バーサーカー>―ファイター系の最終職―ってあんな感じなのかな?
ほとんどの敵一撃で倒しちゃって、息切れするかなーって思ってたんだけど、モンスター見つけたら走っていって倒すし、魔石とか素材拾うこっちの方が疲れてたくらい。」
「どのくらいまで進めた?」
「ボスまで行って、1匹倒した所でめりーくん武器折っちゃって、
帰ろうとしたらもう1匹沸いたからそっちは私が倒した。
でも手伝ったのその1匹だけで、帰りも折れた武器でぜーんぶめりーくんが倒しちゃった。」
自力でボスまで倒したから踏破判定もらえるんじゃないかな?と付け加えると
アンジェはエールを一気に煽ってやるじゃん、と呟いた。
ふと聞き覚えのあるがなり声が聞こえたので2人がそっちを見ると丁度ギルドマスターが出てきた所だった。
視線をそっちに移したまま、デイジィがでもさ、と続けた。
「明日はアンジェが付き合ってダンジョン行く予定だったけど変えたほうがいいかもね。」
「そりゃまぁ武器折れちゃったならしょうがないわよ。」
「それもあるけどさ、先に戦い方習った方がいいんじゃないかなって、
私達だって冒険者としてはともかく、魔法の基礎は学院で習ったでしょ?」
「つまり、ダンジョンじゃなくてまずは戦い方を習わせるって事?」
メリッサが受付に麻袋を乗せるとドスン、と建物が揺れた。
「基礎っていうか、そもそもめりーくんって武器の振るい方知らないと思うんだよね。今日は剣使ってたけど、斬るっていうか叩くって感じだったから。」
「そりゃまぁ、考えてみれば当然よね。本人スラムの外は知らないって言ってたし。」
体力も集中力も十分あるから転職は急がなくていいと思う、とデイジィが言うとアンジェも、ちょっと焦ってたかもね。と同意する。
「ねえアンジェ。」
「なによデイジィ。」
「後でめりーくんにごめんなさいしなきゃいけないね。」
「そーね、私達の都合で振り回す所だったもんね。」
清算が終わったのか、こっちに歩いてくるメリッサと合流する為に2人は立ち上がった。相変わらず睨まれてるがまったく気づく様子が無い。
男ってほんとやーね!と言いながらアンジェは左手を取り。
でもめりーくんは別だよ、と言いながらデイジィは右手を取った。
冒険者達の嫉妬は深まるばかりである。