1話
カラン、相変わらず安っぽいベルと共に防具屋に入る。
デイジィは既に鼻を抑えていた、エルフは皮の匂いに弱いのだろうか。
「いらっしゃーい、できてるわよー」
相変わらずひょろりと背の高いバジルの高い声が響く。
店に入ってすぐ左手の所に真新しいレザーアーマーが置いてあった。
ちょっと合わせるわね、と上部分を平服の上から被せて肩口のベルトをしめる。腰と腿を守る部位をズボンを履く様にして腰周りのベルトをしめる。
寸法は問題ないみたいね、動ける?と問われたので立って肩ををぐるりと回し
、その場で腿を上げ下げする。動きにくさは無い。腰に剣帯がついていたので有難くサーベルの鞘を差し込む。
感謝する、と一声かけて頭を下げるとバジルはまたご贔屓にー、と言って奥に戻っていった。
デイジィはまだ鼻を抑えているのですぐに出よう、と言うと2度頷いた。
よほど皮の匂いが苦手らしい。
道具屋に寄ってかなり大きい麻袋と解毒薬、ポーションを買って2人は一番近いFランクのダンジョンへと向かった。
メリッサにとっては生まれて初めての町の外である。
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古代遺跡・・・ダンジョンにモンスターが沸く原理はいまだに分かっていない。
分かっているのはモンスターの数が一定以上減ると壁や床から染み出るように湧いてくるのだ。そしてダンジョンの中で倒されたモンスターは消える、魔素と魔石、素材を残して。
新しい遺跡が見つかると国によって入り口には番所が設置され、万が一にもモンスターが外へ出ないように見張られる。最初に探索する権利は発見したパーティに与えられ、攻略不可能だった場合は国から有力な冒険者パーティに依頼される。攻略が完了した時点でランク付けが行われ、以後一般の冒険者パーティが入れるようになる。
攻略された後も番所は残り、国によって管理される。下位の冒険者が上位のダンジョンに挑み、無駄に命を散らさない為の処置である。
また、ダンジョンに入り72時間以上経過しても連絡がない場合、行方不明とされ、懸賞金付きで冒険者に捜索が依頼される。この懸賞金は死亡、或いは行方不明となった冒険者の遺産等から支払われる。
基本的に浅い階層程弱いモンスターが多く沸き、深い階層程強いモンスターが少なく沸く、そして一番下の階層には必ずそのダンジョンで最も強いモンスターがいて、そのモンスターの素材を持ち帰る事でダンジョン踏破の認定を得られる。
という内容を行きの馬車の中でデイジィから教えてもらった。
最寄のダンジョンなので馬車で片道15分程の距離である。
この馬車は国営で行われており、
どんな辺境のダンジョンでも1日1往復はするように義務付けられている。
ダンジョンの前に着くとデイジィとメリッサは馬車から降り、番所でギルドカードを見せて中に入った。
ダンジョンに入ると少し肌寒く感じたが明かりには困らなかった。
壁や地面のいたるところに光る苔が生えており、その明るさは松明に匹敵するだろう。ダンジョン特有の光苔は魔力を吸って発光しており、街灯に使われる魔石灯と同じようなものだという。
ふと視界の隅に動く物を捉えると、反射的に抜剣し臨戦体勢に入った。
が、相手はじりじりと寄って来るがその動きは非常に遅い。
デイジィに視線を向けるとクスクスと笑いながら説明してくれた。
このモンスターはスライムといって不定形な体を持つ剣士の天敵である。適当に剣で斬っても核さえ残っていればすぐに再生するので、倒したければ鈍器等表面積の多い武器か魔法で倒さないといけないらしい、主な攻撃手段は体当たりで、動きこそ遅い物の威力自体はそこそこあるという。
剣士の天敵、と言われて右手を見る。サーベルである、剣である。
葛藤してるうちに目の前まできたスライムは身をかがめてこちらに飛び掛ってきた。
しかし飛び掛ってきたスライムは無残にも、咄嗟に全力で振り払われたバックラーに叩き潰されて一撃で命を絶たれた。
彼の膂力にかかれば丸盾も立派な鈍器である。
壁の染みになったスライムは数十秒程で黒い霧を残して消えた。黒い霧はメリッサの体に吸い込まれて消える。これが魔素である。残されたのは小指の爪程の魔石と半固形のスライムゼリー、と呼ばれる素材だ。
デイジィは内心驚きながら魔石と素材をひょいひょいと拾い麻袋に収めた。
驚いたのはメリッサの膂力を見るのが今回は初めてだったからである。
これは期待出来そう、と思いながら麻袋の口を縛りながら勝手に先を進むメリッサの後を追った。