14話
話し合いの後、夕食が運ばれて来たのでそれを食べながら、
細かい計画を詰めていった。アンジェは相変わらず拗ねていたが。
まず現時点ではパーティを組まない。
というよりはランク差が離れすぎていてギルドの承認が下りない。
なのでアンジェとデイジィのうち一人ががギルドの依頼を受けて日銭を稼ぎ。
もう一人が迷宮に潜るメリッサのお守りをする。
これを1日交代で週7日のうち6日行い、1日は休養日にするという。
お腹いっぱい食べたエルフの2人の正面では未だにがっついて食べてる欠食児童の姿があったのは言うまでも無い。
余談ではあるが<ノービス>になったばかりの冒険者は1日3時間程度。二日置きに潜るのを推奨されているのだが、3人はペースなどまったく考えていない。
メリッサの身体能力に任せたゴリ押しで通すつもりなのだ。
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「めりーくん、朝だよ。起きて」
耳元で甘い声が聞こえて思わずメリッサは飛び起きた。
相変わらず誰も居ない筈の大部屋で声がしたのは枕元に座ったデイジィが自分を起こすのに耳元で囁いた声だった。
既に彼女は準備を終えている。
昨日見た寝起きのだらしない姿ではなく黒いワンピースに長めの編み込みブーツ。肘まである皮手袋に腰には魔力媒体なのだろう表紙の無い本がケースに入れてぶら下げてある。頭の上から足元まで殆どが黒で揃えられている。
顔を見上げると唯一蒼い瞳と右の一房だけ編みこまれた髪の毛が揺れていた。
すぐに用意すると伝えて部屋の外で待っててもらう。
昨日の自己紹介を終えた後から彼女は自分の事をめりーくん、と呼ぶ。
少し気恥ずかしいが9つも年上の彼女の感覚からすれば自分は子供みたいなものなのだろう。
いつもの平服に着替え、貴重品をしまう為のプライベートボックスに鍵を差込みバックラー(丸盾)とサーベル(片手剣)を取り出す。
バックラーの裏側のベルトに腕を通し固定、留め具の無いサーベルは鞘ごと持つ、首から下げたギルドカードを確認し、もう殆ど中身の無い小銭入れの小さな麻袋を持てば準備完了だ。アンジェに買って貰った勉強用の本はまだ開いていない。大事に仕舞って鍵をかけた。
部屋を出た所で待っててくれたデイジィと一緒に食堂へ向かう。
アンジェは既に準備を終え、食事を採り終えた所だった。
鮮やかな銀髪は左右の後頭部で留められ、ポーションを差し込むベルトのついた白いローブに丈の短いスカート、膝下までのブーツの下は水色のワンポイントの付いたハイソックス。昨日一昨日は付けてなかった縁にファーのついたマントを羽織って、強気そうな赤い瞳がこちらを向いていた。
魔力媒体である先端に蒼い宝石の付いた長さ1m程の杖は机に立てかけられている。
「遅いじゃない、ギルドに話通すんだから早くしないとダンジョンに潜る時間なくなっちゃうわよ。」
食堂にある置き時計を見るともう9時を過ぎていた。
どうりで食堂に人がいない訳だ、謝りつつ席に付いた。
朝日が昇ると共に目覚めて残飯を漁りに行っていたのが随分昔に感じる。
マリーがシチューの入った木皿とふんわり焼かれた白パンを目の前に置いてくれる。
今日はダンジョンに潜るから遅くなるかもしれない、と伝えるとがんばってください!と激励をもらった。
朝食を少し急いで食べると3人でギルドへを少し急いで向かった。
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アンジェを先頭にギルドに入ると幾つもの視線が此方を向いた。
この時間と夕方は人が多いんだよ。とデイジィが教えてくれる。
アンジェは対して気にもせず5つある受付カウンターからニーニャの居る席へ座った。ニーニャ以外に受付に座ってる職員を初めて見たが、向こうも此方を興味深そうに眺めていた。
ニーニャとアンジェが手際よく手続きをしている横でデイジィはコルクボードに貼られた依頼を物色している、自分は所在なさげに立ってるだけだ。
「メリッサさん、こっちの誓約書にサインお願いします」
ニーニャに呼ばれるとアンジェが横に退いて自分の座るスペースを作ってくれていた。
簡単に説明を受けたが要するにこれは用心棒契約の誓約書らしい。
パーティを組めない自分達なのでとりあえずメリッサがデイジィとアンジェを雇う、という形になるそうだ。
自分の名前を書けないと伝えるとため息をつきながらアンジェが横の白紙に綴りを書いてくれたのでそれを真似してなんとか書く、魔力の篭ったこの書類は本人が書かないといけない決まりで代筆は出来ないんですよ、とニーニャが苦笑しながら教えてくれた。
みみずののたくった様な字でも大丈夫だったらしい、書き終えると書類は淡い光を放った。
丁度いい依頼を見つけたが手が届かないデイジィの代わりにコルクボードから依頼書を取ってアンジェに渡すと、頷いて再びニーニャの元へと持っていった。
こちらに背を向けながらアンジェは手をひらひらさせて言った。
「ここからは別行動よ、防具取りに行ってそのままダンジョンに行ってらっしゃい」
デイジィが先導してくれたので大人しくついていく事にする。
後ろからニーニャのお気をつけて!という声がしたので振り返り、頭を下げて防具屋へと向かった。