13話
盛大に破壊した案山子の掃除を手伝おうとすると明日丁稚にやらせるからいい、と言われた。
そろそろ日が傾きかけているので宿屋に帰る旨を伝えるとドッズはお疲れさん、明日から頑張れよ。と励ましの言葉をかけて訓練所の建物に引っ込んでいった。
宿屋に帰る道中、メリッサの意識は今日握った武器に飛んでいた。
ナックルでを殴る感覚。
斧で叩き切る感覚。
メイスで砕く感覚。
そして盾で押しつぶす感覚に斧槍を振り回す感覚
どれも力任せではあったが多少の訓練をすれば実践で使えない事はないだろう。貴重な経験をさせてもらった。
問題は気に入った斧槍と盾が合わせて銀貨40枚という点。
スラム時代の経済感覚が抜け切ってない自分にとっては途方も無い金額である。まだ冒険者として銅貨1枚も稼いでないのだから当然ではあるが・・・。
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宿に戻るとアンジェと女性が言い争ってるのが見えた。
弓を担いでいる所を見ると女性も冒険者なのだろう。
近づくにつれてアンジェがこちらに気づいたのか、視線を寄越してくる。
「じゃ、そういうことだから。ごめんね!」
と言い、アンジェが視線を逸らしたその隙をついて相手の女性はさっさと逃げてしまった。
アンジェも追う気はないのか不機嫌そうに腕を組むだけである。
「まぁいいわ。後で話があるから食堂で待ってて頂戴」
デイジィ起こしたらすぐに向かうわ。と言われたので事態を飲み込めないまま食堂に向かう。
食堂で座ってると女将が顔を出したので、今日は自分のせい迷惑をかけてすまなかった。と頭を下げるとその頭をワシワシと撫でて、これから苦労するかもしれないけどがんばんな、と逆に慰められてしまった。人に撫でられたのは初めてである。どこか懐かしい気持ちに浸ってるとアンジェがデイジィと伴ってやってきた。
「あんたの秘密も知っちゃった訳だし、私達も詳しく自己紹介するわ」
と、アンジェが対面に座りながら言う。
アンジェは本名アンジェリカ・リーフテイル
元はこの国の貴族生まれだったが魔法学園に通ってる内に家が没落したので
冒険者になったらしい。凄いタフネスの持ち主だ。
Bランクで年齢は22歳、職業は3次職<ワイズマン>。
<マジシャン>から派生する魔力の探求者である<セイジ>。
更に<セイジ>を極め、魔力を応用する事で敵の弱体化魔法を行使出来るようになったのが<ワイズマン>と説明と受けた。
デイジィは本名デイジィ・ブラッドニール
彼女は元々アンジェの御付で魔法学院に通っていたのだが主家が没落して路頭に迷いかけていた所をアンジェに引っ張られて冒険者家業に入ったそうだ。
同じくBランクで年齢は24歳、職業は3次職<ネクロマンサー>
<エレメンタリスト>から派生する夜妖精と波長の会った者がなれる<ナイトウォッチャー>
そこから夜に精神が馴染み、死霊と交感出来るようになったのが<ネクロマンサー>。
二人とも最初に王都のギルド所属し、そこで出会ったパーティと8年程男1人女4人の5人パーティを組んで様々なダンジョンを踏破してきた。
ところが半年ほど前、前衛の男とヒーラーの女が結婚する事になり、王都で祝福した後、パーティの要である2人に抜けられた3人はダンジョンのランクを落とす為にこちらに流れてきたのだが。
もう一人の<アーチャー>の上位職、<レンジャー>が最近ダンジョンに潜りたがらないと思っていたらこちらで恋人が出来たらしく、引退する。と言いにきたのがさっき言い争ってた経緯だそうだ。
残されたのは打たれ弱い魔法使い2人である、貯蓄はある物のBランク帯で新しくパーティを組む事は難しいらしく。今後どうするか相談したい、というのが今日のお題目なのだ。
アンジェもデイジィも腕を組んで黙っている。
本来無関係である筈の自分がここに居る意味を考えて口を開いた。
「アンジェには既に沢山恩を受けた、それを少しでも返したい、僕にできる事はあるか」
と問うとアンジェはその言葉を待っていた!と言って続けた。
「あんたに前衛をしてもらって私達3人でもう一度パーティを組むわよ!」
だが待って欲しい、自分はまだダンジョンに潜った事すらない<ノービス>である。確かに巨人族の血なんて胡散臭い物が流れているかもしれないが、経験不足はどうしようもないだろう。
すると今度はデイジィが小さく口を開いた。
「別に今すぐとは言わないし、こちらも可能な限り支援する。日銭を稼ぐだけなら小さな依頼をこなせばいい。貴方とは今日会ったばかりだけど、アンジェがここまで人に執着するのは珍しいから・・・」
暴露され。エルフの特有の尖った耳が真っ赤に染まる。そんなアンジェを見てめったに笑わないメリッサとデイジィは顔を見合わせ思わず笑みが漏れてしまった。
「別にアンタがいいってわけじゃないのよ、他にアテが無いってだけで!
こら、笑うな!私はアンタの名づけ親なだけで・・・、笑うなってばぁ!」
涙目になりながら必死に弁解するアンジェの声が厨房を抜け、宵闇に染まりつつある空へと溶けていった。