10話
アンジェとデイジィは驚いていた。
元AAAランク冒険者にして傍若無人で知られるこのギルドマスターが部屋に入るなり膝に手を付き座ったままだが頭を下げているのだ。
「メリッサ殿、アンジェリカにデイジィの嬢ちゃんもわざわざ呼び出しちまってすまねえ。」
エルフの女性二人から目の前の老人が冒険者ギルドの最高責任者である事を聞いたメリッサは一つ頷くと自分は昨日冒険者になったばかりの新米であり、Fランクの<ノービス>である自分相手に下手に出る必要は無い、とそれより何故ニーニャやシャントット、宿屋の親子までここにいるのかと問うた。
「この部屋にいるのはお前さんが冒険者になってから関わった奴らだ、
幸いにして昨日の今日だからな、かかわった人数が少なくて済んだが、事が重大なだけに関わった奴らにお前さんがどんな奴か聞くために集まってもらってたのさ。」
重大、と言われてもいまいち実感の無いメリッサは頷く。
道中アンジェからは要するにとんでもない力持ちである事。
デイジィからは一つ目巨人は特有の魔眼を持ち、魔力との親和性を持つと過去の文献に書かれていた事を聞かされたが、それだけだ。
「さっきまで話し合ってたんだが、これからお前さんはどう生きたいか。
それを尊重する事にわしが決めた。それだけの力があれば国に仕官する事も冒険者として名を馳せる事も出来るだろう、だが平穏には暮らせないだろう。大きな力は良くも悪くもトラブルを招くもんだ、それを踏まえてだ、お前はどうしたい?」
それは道すがらずっと考えていた事だ。
自分はまだスラムの外の世界をよく知らない、アンジェ達には恩を受けたままだ、ダンジョンにも潜った事が無い。市民権もまだ獲得していないし、旨い物ももっと食いたい、ただ成したい事と言われると一つしかない。
「――冒険者に、吟遊詩人に唄われる様な冒険者になりたい。」
ギルドマスターの眼をじっと見つめ、しかし臆することなく少年は言い放った。
ギルドマスターは思う。意思の篭った良い眼だ、覚悟を決めた男の眼だ。
ならば大人として、責任ある立場として、同じ男として応援してやらねばなるまい。
ニヤリと笑って口を開いた。
「あい分かった、ただし特別扱いはせんぞ、自力で上がって来い!」
以上、解散!と言ってギルドマスターは奥の自室へ引っ込んでいった。
残された面子は置いてけぼりを食らったものの事態はおおよそ把握した。
少年はこれから冒険者の階段を駆け上がるだろう。
折れぬように、大人として、あるいは先輩として手助けしてやれば良い。
一人一人激励の言葉をかけながら部屋を出て行った。