1話
少年は自分のねぐらで息を殺している、このゴミ溜めのようなスラムを脱するにはいくつもの幸運が重なった今夜しかないと考えていたから。
物心ついた時にはスラムの住人だった。
残飯を漁り、小銭で雑用を請け負い、裏ギルドの抗争から逃げ回る。
他人と深く関わるのを嫌った少年はいくつもある裏ギルドに入ろうとしなかった。
幾度か勧誘も受けたが断った、裏ギルドの息のかかった住人から煙たがられたが我慢した。
その結果が今回の幸運の一つ目だ
裏ギルドに所属すればギルド員は管理される。
仕事は与えられるし、ある程度の安全は保障される。
しかし収入の何割かを持っていかれるし、隠した場合は制裁される。
つまり所属していないと言う事は自分で得た物は全て自分の好きに出来るという事なのだ。
ただし盗まれたり強奪されたりする危険性は伴うのだが。
そして二つ目の幸運は酔っ払ってスラムで喧嘩を始めた間抜けな冒険者達がいた事。
(スラムは一種の治外法権である)
更に勝者が敗者の装備を剥がずに去った事
(スラムの住人が相手なら全裸にされてゴミ箱行き)
その冒険者の装備を最初に剥いだのが自分であったという事。
武器と丸盾、財布のみを奪って逃げた。
そして人に見つからずに自分のねぐらまで逃げれたという事。
まともな武器がなければ冒険者登録する事は出来ない。
逆に言えばまともな武器さえあれば冒険者になれる可能性があるという事だ。
元冒険者のスラム住人から冒険者ギルドについては聞いてある。
老齢で片目を失った彼は珍しく少年に対して好意的だった。
戦う術を教えてくれたし冒険者についでも詳しく教えてくれた。
そんな彼も半年程前に唐突に姿を消したのだが・・・
冒険者になるにはいくつかの規定がある
登録時に銀貨5枚(スラムの住人の平均日収が銅貨5枚、50枚で大銅貨、100枚で銀貨1枚)
試験を受けるための武器
後は賞金首登録されてない等があるが最大の難関は登録料と武器だ。
試験に落ちれば登録料は無駄になるしまともな武器は安くても銀貨10枚はくだらない。
つまるところ冒険者はそう気軽になれる物ではないのだ。
よしんばなれたとしても駆け出し職である<ノービス>から上位職になれずに終わる冒険者が多い。
それでも<ソードマン>や<ファイター>等、所謂一次職になれれば市民権を得られる。
それがスラムの住人から一般市民になる唯一といえる方法なのだ。
少年は思う、教えられた試験は持ち込んだ武器で魔物を倒す事。
その為にこの元冒険者の老人に基本を習い棒を剣に見立てて訓練してきた。
登録料も冒険者から剥いだ銀貨2枚とこの数年食費を削って溜めた銀貨3枚分の大銅貨と銅貨がある。
後はスラムの住人に見つからず、冒険者ギルドが開くと同時に駆け込めばいい。
少年は緊張と歓喜を押し殺しながら冒険者から剥いだ丸盾と片手剣をかき抱いた。