代償(4)
「……ふあー、疲れた。JJの奴いっぺんに色々言いすぎなんだよなあ」
パンデモニウムからの脱出劇の後、オルヴェンブルムへと帰還を果たしたレイジ達。JJの予想通りレイジはパンデモニウムを離れてもログアウトが出来ず、ミユキとアンヘルの二人と共に城に残される事になった。
「そして案の定ログアウトは出来ず、と……。ま、別にいいけどね」
「レイジ様が無事に戻られただけで十分な進展ですよ! それよりレイジ様、しばらく身体を洗っていないんじゃないですか? ちょっとくさいですよ?」
「そりゃ何日も投獄されてましたからね……この城、風呂ってあったっけ?」
「ありますよ。お背中お流ししましょうか!?」
はしゃぐオリヴィアに必死で首を横に振るレイジ。ミユキとアンヘルは少し離れた場所で二人のやり取りを眺めていた。
結局、レイジはその能力を封じられたままだ。唯一あの魔王にさえ届き得た切り札を失ったプレイヤー達は、今度こそ本当に打つ手を失ったように思えた。しかしJJは一切諦めてはいなかった。パンデモニウムへ到達したプレイヤーがいる限り、あの城に攻め込むのは容易い。問題はログインしたままの強力な戦力であるミユキやレイジとどのように足並みをそろえるかだが、ひとまずレイジの安否が確認できただけ良しとした。
そしてはっきりしない事と言えばもう一つ。レイジが何故遠藤にみすみす撃たれたのか、である。それに関してレイジは答えようとしなかった。答える事を避けたという事は彼が何かを隠しているという意味でもある。だがどれだけ仲間たちが問い詰めようとレイジは口を閉ざしたまま、ただ謝るだけであった。
「はあ……。ほんと、何を考えているのかわからないお人好しですね」
「ミユキも大浴場で疲れを取ってはいかがですか? 今回はミユキの負担が最も大きかった筈ですから、当然疲労している事でしょう」
「……そうですね。急いだ所で現実世界の皆が次にいつログインしてくるかはわからないわけですから、あまり肩肘張らずに休むとしましょう」
まだオリヴィアとじゃれているレイジを目端に捉え苦笑を一つ。ミユキは会議室を後にし、王城内にある大浴場へと移動した。NPCの兵士たちが常駐するようになったこの王城だが、王族専用の大浴場のある王宮には人気がない。基本的にオリヴィアやミユキ、アンヘル以外にこの付近へ立ち入る者はいなかった。
NPCが犯罪を犯す可能性が極限まで低いこの世界だからこそ警備は最小限であり、広大な空間を静寂だけが包み込んでいた。王宮に引かれた天然温泉が満ち満ちた大浴場は大理石に似た石材で作られた豪勢な空間で、何故か翼を広げた鳥の彫刻の口から流れ出すお湯を眺め、ミユキは服を脱ぐ。
脱衣所と呼べる空間は殆どなく、浴場は殆ど壁でも仕切られずやたらと解放感だけは充実していた。最初は入るのを躊躇する程だったこの開けっ放し感も、付近に人がいない事を把握したら心地よさに変わった。が、念の為なのか何の為なのかタオル一枚を胸に当て、ゆっくりと熱い湯船に足をつけ、ゆっくりと腰を下ろした。
「はあ……」
昼間の戦い、正直な所疲労したし、傷も負った。ログアウトするだけで完治する身分とは異なり、ミユキが負ったダメージは回復に相応の時間を要する。勇者特有の身体能力は回復も大幅に早めてくれるが、一日二日で完全回復するには難しい傷が脇腹に残っていた。
「遠藤……次にあったら絶対に泣かす……」
ジト目で忌々しい男の姿を脳裏に思い浮かべる。基本的な戦闘スペックで言えばミユキはあの男を圧倒しているのだ。先のような予想を上回る動きをされさえしなければまず負けはない。
肩まで湯船に浸かると温かさがじわじわと頭にまで昇ってくる。心地よい感触だ。目を瞑ると様々な後悔や苛立ちばかりが彷彿とされるが、温かく体を包み込む湯は全てを穏やかにしてくれる……と、そんな事を考えていた矢先である。何やら外から騒がしさが近づいてくる。オリヴィアが誰かと話しているのがわかって湯船に浸かったまま振り返ると、そこには服を脱ぎながら歩いてくるレイジの姿があった。
「…………まあ、なんとなくそんな気はしていましたが……」
「……え? 誰かいるの……って、なんでミユキが入ってんの!? ここ男湯じゃないの!?」
「この宮殿に浴場はここだけですよ。兵士たちは兵舎の風呂に入りますからね……」
「えっ、じゃあ女湯しかないの?」
「女湯とか男湯とかそういう概念がないんですよ……はあ」
「へえ~……じゃなくて! オリヴィア、ちょっとこれどういう……あ、タオルありがとう……じゃなくって!!」
駆け戻りオリヴィアと言い争うレイジ。ミユキは片手を顔に当て深々と溜息を零した。せっかくの静寂もこれですっかり台無しになってしまった。もう雰囲気もへったくれもあったものではない。
「……もう、別にかまいませんよ。もう少ししたら私、上がりますし」
「えっ!? い、いいの……!?」
「何に対する“いいの?”なのかは議論の余地があると思いますが……まあ、レイジさんなら大丈夫でしょう。能力が使えないレイジさんなんて、間違いの起こりようもありませんからね」
ニヒルに笑いながら肩を竦めるミユキ。そこへひょっこりとオリヴィアが顔をのぞかせる。
「ではでは、私も一緒に! お二人の御背中をお流しして……」
「君はいいからっ!」
「外で待ってなさい!」
しょんぼりした様子で引っ込んだオリヴィア。そうして出来上がったのはなぜか肩を並べて湯船につかるレイジとミユキの奇妙な光景であった。レイジは完全に目をつぶって微動だにしようともしない。
となりでミユキが湯を掌に掬い肩にかけると、その音に反応してレイジの背筋がびくりと跳ねる。あまりの初心さにどちらが女なのかと呆れ返ったミユキだが、それもまたレイジらしいと考えを改めた。
「ところで、その手足の鎖ははずれないんですか?」
「え、あ、うん……。見ての通り緩いっていうか周りに浮いてるだけだから、服を脱いだりするにはさほど不便じゃないんだけど、完全に外すのは無理みたいだね」
自らの両手を見つめるレイジ。両手両足が椅子に括られていた時は身動きもとれなかったが、今はとりあえずさほど邪魔には感じていなかった。そのままの流れで手を降ろし、ミユキの方に目を向けようとして、自分を見ていたミユキと目が合い慌ててまた目を瞑って顔を上げた。
「見てないよ! 俺は何も見てないからぶたないで!!」
「……あなた、私の事をなんだと思っているんですか……? 今は緊急事態ですし、それに子供じゃないんですから……多少肌を見られるくらいで怒ったりしませんよ」
「ほ……ほんと……?」
「ほんとです。なんならじっくり鑑賞しますか?」
「いやそれは問題あるでしょ!?」
薄目を開けて苦笑を浮かべるレイジに笑い返すミユキ。無論、ミユキも男に肌を見られる事など滅多にない……というかこれほどまで裸の状態で異性と近づくのは父親以来であった。本来ならば絶対に拒絶反応を示すはずなのに、何故か落ち着いている自分にミユキ自身が驚いている有様である。
何故かレイジの事は“他人”に思えないのだ。心を許しているから? ……確かにそれもある。これまで共に戦ってきたから? ……勿論、それもある。だが、それだけではない。この安心感はきっと、もっと別の所から湧きだすものだから。
「……ここから見下ろす街は、そしてここから見上げる空は絶景なんですよ。目を閉じていたら勿体ないです」
「ホントだね。オルヴェンブルムの街に暮らす人達の明かり、か……。あれが全部俺達の護ってきた命なんだって思うと、なんだかすごく誇らしいよ」
笑顔を浮かべ、それからミユキへ視線を向ける。その視線には照れや戸惑いはなく、当然下心も見えない。ただ穏やかで優しい、家族のような温かさがあった。
「ログアウトできなくなったのは困るけど、でもこれはこれでよかった。これでやっと、君を独りぼっちにしないですむ。今は少しだけ、それが嬉しいんだ」
「私は一人ではありませんでしたよ。オリヴィアも、アンヘルもいましたから」
そう――まるで、家族のような。そんな淡い感情。
恋心かと、そう考えもした。だがこれはきっと違う。彼に向けられた愛情はもっと純粋で……もっと複雑で……もっと悍ましい。
胸の内をざわつかせるこの気持ちの正体がただの懺悔である事にミユキはもう気づいている。彼の中にずっと、彼女の姿を見て来た。今はもう傍にいない姉、ミサキ。喧嘩別れをしたまま、もう口を利く事も出来なくなってしまった姉。その気配はどんどん強くなり、それが彼なのか、彼女なのかさえ、最早曖昧になりつつあった。
「……って、ミユキ? どうして泣いてるの?」
「え……? あ……」
指摘されてようやく気付く。両目から流れる滴は確かに涙だ。それを隠すように顔を洗い、潤んだ瞳で空を見上げた。その様子にレイジは苦笑を浮かべ、同じく空に目を向ける。
「ミユキも泣くんだね。あの時は、こっちの方が泣いてたのに」
「あの時……?」
「俺がミユキを慰めようとして……それで、俺の方が泣いちゃった事があったじゃないか。ん……? あれは、いつの事、だっけな……」
困惑するレイジの言葉にミユキは思わず唇を噛みしめた。それは――違う。それは、“レイジの記憶”じゃない。そんな事はなかったはずだ。少なくとも、彼の前では。
わかっていた事だ。レイジはその身を磨り潰しながら生きている。沢山の人の願いを受け取って、背負いあげて、それに潰されながら生きている。レイジから感じるこの暖かさも、彼が自分に向けている愛情も、全てはまやかしに過ぎない。織原礼司という少年自身の持つ感情は、もうどこかへ消えてしまったのかもしれない。そう考えるとどうしても虚しく。どうしても、悲しかった。
「レイジさん……あなたは……」
「……え? なあに、ミユキ?」
優しく微笑みかけるその声が、その笑顔が、どうしても彼女と重なってしまう。ミユキはその顔をまっすぐに見つめ、真っ直ぐにただ見つめ、うつむき、口元を押さえた。首を横に振り、もう何も語り掛ける事が出来なかった。言葉が続かなかったのだ。壊れ始めている彼の心に対し、自分に出来る事が何も見つからなかったから。
「な、なんで泣いてるの? 俺、君に何かした?」
「してないです。あなたは何も悪くないんです。悪いのは……悪いのは……っ」
堪え切れずに縋り付くと、レイジは驚いた様子を見せたものの、すぐに落ち着きを取り戻しミユキを抱きしめた。違う、そうじゃない。本当の織原礼司なら、こんな時もっと困惑するはずだ。照れて、慌てふためいて……それが当たり前のはずなのに。その二つの現実の乖離にミユキの心は苛まれる。ただ悲しかった。涙を止められないほどに。
「もっと早く……あなたを止めるべきだったのに……」
「何の事だか、よくわからないけど……でも、大丈夫だよ。全部帳消しにするまであと少し。あと、もう少しなんだ。だから一緒に頑張ろう……ね?」
泣きながら顔をあげると、目の前にレイジの優しい笑顔がある。二人はそうしてしばらく見つめ合っていたが、何故か同時に視線を逸らした。その先にはタオル一枚で支柱の陰からこちらを覗き込んでいるオリヴィアの姿があったのだ。
「……何をしてるの、オリヴィア?」
「……へぇっ!? ば、ばれてしまいましたか!? だ、だってだって、私だって一緒にお風呂入りたいです! 仲間外れは寂しいですよ!」
両腕を小さく振りながら地団太踏むオリヴィア。その仕草は子供そのものだが、その体つきはフェーズ1から随分と成長している。最早レイジ達と同世代の少女なのだ。むしろ日本人離れしたその発育の世さはレイジ的には目の毒であり、地団太踏む度にボインボインと揺れる双丘に唖然としてしまう。その自分に対するものとは明らかに異なる反応に思わずミユキはカチンときてレイジの顔面を強烈に殴打した。
「ぐほっ!? えっ!? 殴らないって言ったよね!? なんで!?」
「いえ、なんとなく……」
自分に対しレイジが欲情しない理由については明白に心当たりがあるのだが、なにかこう、女として腑に落ちない感じがしたのである。仕方ない。
「ところで不躾な質問なのですが、お二人はもしかしてセックスしていたのですか?」
「「 はああっ!? 」」
顔を晴らしたレイジと顔を真っ赤にしたミユキが同時に声を挙げながら振り返ると、オリヴィアはただただキョトンと目を丸くしていた。そのままちょこちょこ近づいてくると、レイジの隣におずおずと入水する。
「今の俺達のどこを見てたらセックスになるんだ……?」
「えっ? だってセックスというのは、親密な男女がするものなのですよね? ミユキがこの間そう教えてくれたのですが……違ったのですか?」
オリヴィアとレイジ、二人の視線がミユキへ向けられる。びくりと背筋を震わせ、ミユキは頬を掻きながら視線を逸らした。
「ミユキ……なんでそんな事を……。まさか……君って……レズなの……?」
「何を言い出しているんですかこの変態は……? 空間に磔にしますよ」
「私が質問したんですよ、レイジ様。セックスについて教えてほしいって」
今度はミユキとレイジの視線がオリヴィアへ向けられる。オリヴィアはたわわな胸を叩き、えっへんと語りだす。
「ミユキが言うに、セックスというのは親密な男女が素っ裸で行うものだと聞きました! だから二人がセックスを始めるものだろうと予想していたわけです!」
「しねぇよ! セックスっていうのはそんな簡単にするものじゃないの!」
「ですが、お二人は親密な間柄の男女で、お風呂場で裸になっていますよね? どうしてしないんですか、セックス?」
「……というかまず、そのセックスという単語を連呼するのを何とかしませんか……」
顔を真っ赤にして眉を引くつかせるミユキ。レイジも同感なのか、肩を竦めて提案する。
「えーと、じゃあ、セックスじゃなくて……“えっち”にするかい?」
「えっち? レイジ様……えっちしないんですか?」
「その文章なんかおかしくない!? っていうかなんでだろう、さっきより犯罪臭がするんだけど!? 俺の気のせい!?」
慌てふためく二人と首を傾げる一人であったが、とりあえず呼称は“えっち”という事で落ち着いた。というかあまり落ち着いていない。そもそも何故そのような話になるのか、それはミユキも明るくない事であった。
「そういえばこの間の有耶無耶で話が中断されてしまいましたが……オリヴィア? 何故その、えっちについて知りたいと思うようになったんです?」
「えっと……それが、私達ザナドゥの民が生きていく為に必要な事だと聞いたからです。嘗て自由革命軍を率いていた勇者ギドは、ザナドゥ側の人間である“天使”グリゼルダと、年がら年中えっちをしてたそうです。そしてその様子をダンテはよく観察していたと聞きました」
「あのおっさんマジでなにやってんの」
「……不潔です」
「それでですね。私も良く意味がわからないのですが、天使グリゼルダはギドの“こども”を身籠っていたそうなんです。それが、私達がえっちをしなければいけない理由だとダンテは言っていたそうなのですが、私にこの話を伝えてくれたブロンたちも意味はよくわかっていなかったようでして……」
そこまで聞いてレイジとミユキは絶句していた。二人がぴくりとも動かないので慌てるオリヴィア。それから目を見開いたまま、レイジは口元に手をあてた。
「まさか…………“妊娠”していたのか……?」
「そんな事があり得るんですか……? NPCと、現実世界の人間の間に子を設けるなんて事……いや……まさか!?」
「ギドはそれを確かめる為に……?」
――この世界は“完成”している。
魔物が現れなければ人間に死は訪れない。動物も植物も死ぬ事はあれど、いつの間にかリセットされたかのように再生される。“死がない”という事は、“誕生がない”という事でもある。だからこの世界の人間は人間が本来当たり前に持つはずの愛情を持たず、性欲を持たず、性行為を知らない。それは彼らが生きていく為に不要な物だったからだ。
男と女という二種の性別がありながら、しかしその二つが本来果たすべき役割が放棄され、ただ永遠だけがある世界。永遠があるのなら性行為は不要であり、性別も不要になる。性別があるのなら、永遠は無用の長物だ。だがその二つが歪んで両立しこの世界は成り立っている。
「妊娠……それがもし本当に可能なのだとしたら……それは……」
「確かにこの世界のあり方を揺るがす事実ですね……」
改めてオリヴィアを見る。オリヴィアは明らかに成長している。それもレイジ達の体感時間で言えばすさまじい速度でだ。一年足らずで十代前半の幼い少女に過ぎなかったオリヴィアは、女らしい体つきに、つまり子供を産めるような身体に成長した。
それは成長と言えば聞こえは良いが、“老い”が始まった事も意味している。つまりこのままこの世界の時が流れてゆけば、当たり前にあった永遠が崩壊すれば、この世界の人々は老い、やがては自然に死んで行く事になるだろう。“誕生”を欠落させたまま“死”の法が流れ始めれば、その先にあるのは滅びだけだ。
「ギドとグリゼルダの子供は!? まだどこかに生きているのか!?」
「えっ!? えっ? いえ、その、“こども”については誰も何も知らないと……」
「生きていればそれだけで確かめられる事があったのに……はあ……」
「ギドは知っていたのでしょうか。だからそんな言葉を残して……」
考え込む二人。それからミユキは意を決したように口を開いた。
「……セックス……えっちをすると何が起こるのか。それは、新しい命を……人間を作り出す事が出来るようになるんです」
「……えぇっ!? に、人間をですか!? 人間が、人間を作るって……そんな神様みたいな事が……!? た、ためしに作ってみてくれませんか!?」
「あ、いや、直ぐに作れるわけではないのです。それに一度えっちをすれば即座に子供が誕生するわけではなく、確率とかがありまして……」
「だから何回も何回もえっちしなければいけないんですね!?」
瞳を輝かせ、オリヴィアはレイジの手を取る。そうして顔を近づけて言った。
「私、その人間を作るえっちというのをしたいです! 相手はレイジ様がいいです! 私……レイジ様と“こども”を作りたいです!」
赤面したまま固まるレイジ。無論ミユキも同じである。きりきりとまるで錆びついた人形のように首を回しミユキに助けを求めるレイジだが、ミユキにも何をどうしたらいいのか見当もつかない。
「その……オリヴィア? えっと、誰とでもえっちしていいわけでは、ないんですよ……。なんていうか、えっちというのは、人を選ぶんです……」
「新しい人間を作り出す神聖な儀式であるという事はわかります。限りなく禁忌に近いその行いを気安く出来ないのも理解しました。ですが、私は誰よりも……この世界に生きる誰よりも、レイジ様を想っています。レイジ様と共に生きたいと、そう願っています。レイジ様の事を考えると胸がずきずきして、あったかくて……今はすごくどきどきしてます。この感覚をなんと呼べばいいのかさっぱりわからないのですが……」
「……愛……かな?」
「“あい”!? なんですかそのすごく不思議な言葉は!?」
「いや俺も正直よくわかんないけど……そこまで人を愛した経験なんて……」
「“あい”は“する”ものなんですね!? だったら、“あいしたい”です! 今っ! 私はっ! 限りなくレイジ様を、“あい”です! “あいして”います!!」
お湯を巻き上げながら立ち上がり、両腕を広げるオリヴィア。無論タオルがぱさりと落ちた。レイジの目の前には露わになったオリヴィアの素肌がある。
「レイジ様……レイジ様は、私を“あい”ではありませんか!? 私、レイジ様にも“あいして”ほしいです! そうしたら“えっち”して、“こども”作れるのですよね!?」
「いやっ、ちょっと……オリヴィアさん!? お乳……じゃなくておちついて……っ」
「いえ、落ち着けません! ああっ、どうしてでしょうレイジ様……今、どうしようもなく“あい”! この気持ちを表現する言葉を得られた喜びに私の心は打ち震えています! “あい”! 果てしなく“あい”ですッ!!」
瞳を輝かせながらレイジに抱き付くオリヴィア。レイジの両手は固まったまま虚空を掴んでいる。レイジの顔はオリヴィアの腹にめり込み、その頭の上に胸がどっしりと積まれている。完全にわけのわからない状況に目が死んでいたミユキだが、無言で立ち上がるとオリヴィアの腕を掴んで強引に引き寄せ、フリーになったレイジの顔面を精霊器でぶん殴るのであった。
「首がぁああああああああああああ――ッ!? 今絶対しちゃいけない音がしたぞミユキィイイイイーーーーーッ!? 誰かアンヘルを呼んで! あっ!? なんか耳と鼻から血が出てき……っ!?」
白目を剥き、そのまま湯船に倒れ込むレイジ。その様子をミユキはただひたすらに冷ややかな視線で見下ろし、小さく舌打ちするのであった。




