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XANADU  作者: 神宮寺飛鳥
【異世界】
81/123

ごめんなさい(2)

「一体何を考えているのですか、クロス?」

「何って、なんの事かな?」

「……露骨に惚けないで下さい。例の勇者、織原礼司に真実を伝えた事です」


 レイジに伝えられた真実はこの世界に新たな変化を齎そうとしている。世界変動率はこれまでにないほど爆発的に跳ね上がるだろう。停滞した世界に一石を投じる……確かにそれはロギアにとっても望むところではある。だがそこから放たれる波紋に人間が耐えられるかどうか……問題は彼らがその真実の重さと向き合うだけの強さを持つのかどうかである。


「人はそれほど強くない。多くの人間にとって真実とは決して望むべきものではないのです。本当の事を知りたがるくせに、それを受け止めるだけの器量を持たずその身を滅ぼす……。炎の揺らめきに群がっては焼け落ちていく羽虫と何が違うのでしょう」

「流石は元詩人、中々詩的な表現じゃないかぁ」

「茶化さないでください、クロス。私はこれでも腹を立てているのですよ? 真実を知られた事よりも、クロス……貴方の裏切りにも等しい行いに対して」


 管理者のみが立ち居る事を許された白の中、一組の男女が向き合う。女は素性を隠す為に身につけていた仮面を外し、僅かに眉を潜めるだけの非難の視線を浴びせる。しかし男は一向にそれを気にかける様子もない。


「クロス……私は貴方に感謝しています。絶望の最中、孤独に戦い続ける日々を貴方の笑顔が救ってくれた。貴方という協力者がいたからこそ、私はこの“ゲーム”を作り上げる事が出来た。しかしクロス、私には時々貴方が理解出来ない。貴方は何を望み、何を実現しようとしているのですか?」

「僕のやりたい事なんて最初から最後まで決まってるじゃないか。完璧なゲームを作る……それはつまるところ、現実をモノにするという事さぁ。すべてがアトランダムな世界。僕はねぇ、運命って言葉が大嫌いなんだ。だって自分の限界を決め付けられている気がするだろぉ?」


 腕を組み、溜息を零すロギア。すべてに絶望しきった神が、ありとあらゆる滅びと願ったこの神が唯一心を許し、憎む事の出来ない存在……それこそがこの黒須惣介という男であった。

 本来ならばこのような裏切りを許せるような性質ではないロギアが、それでもこれ以上何も言えなくなってしまうのは、彼にこれ以上ない程の大恩を感じているから。そして何より、彼の存在なくしてロギアの目的は達成不可能だからだ。


「ロギア、君は言ったよね。もしも目的を達成できたその時は僕の願いを叶えると」

「ええ。私の権能の及ぶ範囲で、という条件つきですが……。なにせ、神とは“全知全能”には程遠いもの。私が好きに出来る範疇など、たかが知れているのですから……。そして貴方は願いましたね。私がこの席を空白にした時、“世界”を譲ってほしいと」

「それなんだけどねぇ。やっぱり、神の座は要らないかなぁ」

「……座を欲しないとは。貴方の目的は世界を創造する事ではなかったのですか?」

「そうだね。それを別に諦めたわけではないんだけど……神の座は僕ではなく、レイジ君に譲ってほしいんだ。もしも彼が、僕らの願いを同時に叶えるような、そんな奇跡的な存在ならば……どちらにとっても悪い話じゃない。皆幸せになれると思うんだよねぇ」


 神の座を人に譲る――それはロギアにとってなんのデメリットも存在しない提案だった。そもそも、彼女は“神の座を捨てる為に神をやっている”のだから、“目的”を果たした後この世界の神がどうなろうと興味の外である。だがロギアは元々座をクロスに渡すつもりでいたのだ。それが別の人間にとなれば思う事がないわけでもない。


「相当入れ込んでいるようですね。レイジという勇者に」

「僕はねぇ、勇者とか英雄と呼ばれる存在は、単体では成り立たないと思うんだ。彼らは往々にして最初から英雄であったわけではなく、レベル1からストーリーを開始する。彼らは多くの体験をし、多くの人々に支えられ、特には幸運としか言いようが無いほどの恩恵を受けて初めて英雄を体現する。それは彼ら自身がそう願うのではなく、彼らにそうなってほしいという無数の願いが織り成すものだ」

「貴方もその願いの一つになると?」

「それがストーリーを盛り上げる為に必要ならば」


 目を細め、静かに息を吐く。どちらにせよこのクロスという男は常識の外に身を置く人間だ。一般的な物の見方で把握出来るような男ではないし、首輪をつけてもいつの間にかいなくなっているような奴なのだ。それを完全に制御しようなどと、ロギアも最初から思ってはいなかった。女は苦笑にも似た表情を浮かべ、そっとそれを仮面で覆い隠した。


「……貴方が彼に与えた真実……それが世界を壊してしまわなければ良いのですが。既に波紋は広がりつつあります。世界はまだ見ぬ段階へと進行しつつある」


 それに――ロギアとて一切手を打っていないわけではない。クロスが裏切り上等、制御不能の存在だというのならば、こちらも相応の手段で打って出るだけの事だ。

 何も問題は無い。ロギアという女はこれまでずっとそうしてきたのだ。騙し、裏切り、計略で他者を食い物にする。そんな人生に辟易していたからこそ、理想に憧れたというのに。


「それでも信じられるというのならば見物でしょう。楽しみに拝見させてもらいますよ、クロス。貴方の作る、ゲームのシナリオをね」




「結局、残ったのは私達だけですか」


 深い溜息交じりのミユキの声にレイジは申し訳無さそうに俯いた。会議室には二人の他、オリヴィアとアンヘル、計四名の姿があった。しかしそのほかにこの場に同席する者はおらず、それは要するにミユキの言葉が事実であるという事であり、レイジの告げた真実が勇者達にとってあまりにも重すぎたという事であった。


「当然と言えば当然の結果ですが……仕方ありませんね」

「ごめん、ミユキ……。でも、皆に黙ったままっていうのはフェアじゃないし、言わないわけには……」

「それはわかっています。本当に命懸けの戦いならば、それこそ知らないまま命を落とすだなんて……そんな事、あってはならない事ですから。それにしても……その真実にしても、現実の世界に逆召喚……でしたか? を、するにしても……アンヘルは明らかに神の意思に反していると思うのですが……大丈夫なんですか?」

「大丈夫と仰いますと?」

「アンヘルは神の創造物なんですよね? まだこの世界がゲームだという感覚が抜けていない発想かもしれませんが、裏切り者であるあなたを神は放置したままにするんでしょうか?」

「それならば問題はありません。なぜならば神は全知全能ではないからです」


 顔を見合わせるレイジとミユキ。思えばレイジもそのあたりについては詳しく聞いてはいなかった。これも良い機会という事でアンヘルに説明を願うと、彼女は頷いて流暢に喋り始める。


「まず……神の能力、それは“創造”する事です。しかし、一度自分が作り世界に放った物をどうこうする力は持ちません。作ったのが自分だとしても、既に自立を始めた時点でその存在に干渉する権限は失われ、神と言えども好き勝手にする事は出来ないのでございます」

「つまり、アンヘルが裏切ったからといってアンヘルを殺すとか、そういう事を無条件で出来るってわけじゃないんだな……」

「それという事はつまり、神は人間……例えばオリヴィアを操ることも出来ないのですか?」

「はい。“だからこそ”、神は苦心していたのだと思います。ロギア一人では世界の全てを管理する事は出来ない……だからその管理の為に私達天使が作られたのでございます」


 神はあくまで無から有を創造する為の存在にすぎない。そして神は例え自分が作った物だとしても、既存の存在に無条件で干渉する事は出来ない。それは天使も人間も、そして魔物も同じ事だ。


「わたくしも不死ではありません。その存在の力を使い果たすなり肉体を欠損するなりすれば死に至ります。ですから神がわたくしを始末しようという事になれば、その時は私を物理的に破壊するという手段を取るでしょう。どちらにせよ、スイッチ一つでわたくしを消失させられるようなものではないとお考え下さい。そしてそれはレイジ様達勇者にも言える事です」

「要するに、イレギュラーである俺を殺す為には、やっぱりバウンサーなり魔物なりを使って物理的に殺すしかないってわけか」

「はい。ただ、元々この世界に存在しているわたくしやオリヴィアとは異なり、勇者の召喚と送還は神の権能に頼っていますから、ロギアが召喚を取りやめてしまえば、レイジ様を殺す事は出来ずともこの世界から切り離す事は容易でしょう」

「……いつはじき出されてもおかしくない、そいつはロギアの気分次第って事か」


 今や四人分の勇者の力を取り込み、自らの中で改造する事に成功したレイジはこの世界の希望の光だ。たった一人でバウンサー三人を退けたその戦闘力は最早唯一無二と言っても過言ではない。だがそのレイジがこの異世界に出入り禁止を食らってしまえば、その時点でありとあらゆる望みは絶たれてしまうだろう。


「俺がまだここに普通に転移してこられるって事は、今はまだロギアも俺を放置していいと考えているって事だね。ロギアは俺に何をさせたいんだろう?」

「ロギアの真の目的については不明ですが……間違いなく言えるのは、ロギアにとって“勇者が魔王を倒す”というストーリーラインが重要視されている事です。セカンドテスト、ファーストテストともに、今回のサードテストと大まかな流れは同一でした。ルールやその内容に若干の差異はありましたが、フェーズ4にて魔王を勇者が討つ……わたくしには理解できませんが、その一連の流れそのものになにか意味があるのではないでしょうか」


 天使と勇者二名が同時に腕を組んで考え始めると、オリヴィアはその三人の並んだしかめっ面を楽しそうに眺めて笑った。それから自身も腕を組み、明るく頷いてみせる。


「今こんな事を言うのもなんですが……こうしてまた一緒に戦えて、なんだか嬉しいです」

「オリヴィア……そうだね。でも俺は一度この世界を見捨てようとしたんだけど……」

「でも今はこうして戻り、そしてたった一人になったとしても戦い抜こうとしているではありませんか。私はずっとレイジ様を信じていました。レイジ様は迷ったり苦しんだりしながらも、それでもちゃんと目の前の難題から逃げ出さず、戦い抜こうとする方だって、私は知っていましたから」


 そう、レイジを信じていたし、今も信じている。だからこそ笑っていられる。それは別に彼に全ての責任を被せる為の言葉ではない。

 嘗てはNPCと呼ばれるに相応しい、自我に目覚めぬ魂であったかもしれない。だが今は違う。今は本当に彼を理解したいと願っているし、彼を信じる事を信じている。誰かに言われたからでも設定されたからでもなく、オリヴィア・ハイデルトークは自らの意思でそう決めた。


「戻ってきてくれてありがとう、レイジ様」

「……俺の方こそ、ありがとう。こんな俺を信じてくれて。信頼にはきっと応えてみせる。だから諦めないで力を貸してほしい」

「勿論です。それに……もしも神が自らの手で作った物を好きに出来ないというのなら……」


 そこから先は口にはしなかった。きっと本来は口にしてはいけない言葉だったし、何よりもそうなってしまう事は最悪の状況を意味していたから。

 もしも世界に神を殺せる存在があるとしたら、それはやはりきっと人間を置いて他ならない。神を殺せる存在が神以外にあるとしたら、やはりそれはその創造物以外は成しえない。

 信じて、信じて、それでも裏切られたから殺す……。その泥臭さこそ人間らしさなのか。確かに胸の内に目覚めつつある神への反逆に嘲笑を向けながら、オリヴィアはそっと目を閉じた。気に入らない神ならば殺す。だがそれは――永遠に続く大きな殺し合いのサイクルに自分達が身を置いている事を意味しているのではないか。そう考えると憂鬱であった。その時……。


「……陛下! 会議中失礼致します!」

「ツァーリ? 別に会議というほどの事はしていないけど……どうしたの?」

「それが……城内に、勇者連盟の一派と思われる勇者が現れ、兵に攻撃を……!」


 肩で息をしながら飛び込んで来たツァーリの報告にミユキはやはりかと言った顔をした。それから直ぐにレイジの手を取り走り出す。アンヘルとオリヴィアもそれに続き、ツァーリの誘導に従って城内を駆けていく。


「今はブロンがなんとか持ち堪えていますが、相手は勇者です! 生身の兵ではまったく相手になりません! どうかご助力を……!」

「えっと、どういう事? 連盟の勇者が暴れてるって事? なんで?」

「レイジさん……バカですか? いや、バカっていうか凄まじいお人好しなんでしょうけど……。あんな真実を突きつけられたら、こういう風になるのは当たり前でしょう」


 完全に状況についていけない様子のレイジ。その手を握り締めたままである事に気付き慌てて手を離すと、ミユキは見た方が速いといわんばかりに現場まで無言で駆けつけた。

 リア・テイル城の入り口にある大ホール、そこで陣形を組んだオルヴェンブルムの兵士達と数名の勇者がにらみ合っていた。いや、睨み合いは今始まったところで、恐らくは彼方此方に散らばった兵士の残骸が物語るに既に人の命は失われてしまったのだろう。勇者の数は八名ほどだが、どれも戦闘型なのか兵士では手に負えそうもなかった。


「……遅かったか……!」


 ミユキの呟きに反応し、精霊器を握り締めながら兵士の頭上を飛び越え勇者達の前に降り立つレイジ。鞘に収めたままの剣に手をかけながら戸惑いの視線を向ける。


「殺したのか……ただの兵士を? どういう事だ。君達は何をしている!?」

「何をしているじゃねえよ……! クィリアダリアのレイジ……俺達はな、ずっと騙されてたんだぞ。この世界をVRMMOだって、ただのゲームだって信じてたんだ! それが今更本物の殺し合いでしたってなあ、言われたって納得出来るかよ! 俺の友達は……仲間は……NPCに……革命軍に殺されたんだぞ!」


 大斧を手にした勇者の男は目尻に涙を浮かべながら叫んだ。その顔にも叫びにもレイジは覚えがあった。フェーズ3、勇者連盟の拠点に革命軍が襲撃を仕掛けてきた時、あの場で共に戦っていた勇者だ。大型の得物だった事、そして連れ添っていた女性の勇者を革命軍に滅多刺しにされて殺された事……よく記憶に残っている。だからこそハっとした。これは彼らにとって正当な復讐なのだ。こんな事――彼らにしてみれば当たり前の事だ。


「人の命をなんだと思ってやがる……! 許さねぇ……! この国の王は革命軍の後を受け継いでいるはずだ! だから革命軍の指揮官だったブロンやツァーリがいるんだろ? だったら! 俺達はこいつらに報復する権利があるはずだ!」


 傷を負って膝を着いているブロンを横目に確認し、レイジは眉を潜めた。男が叫ぶと同時、八名の勇者全員が精霊器を取り出し構える。


「確かに君の言っている事は正しい……正しいけど……だからって彼らに復讐した所で何の意味もないだろ!? この戦いを仕組んだのも、この戦いで命を落としたのも、決して彼らが悪いわけじゃない! 本当に裁かれるべきはこんな戦いを仕組んだ神じゃないか!」

「俺達はな、別に自惚れているわけじゃない。魔王の力はまざまざと見せ付けられたし……神が恐らくあれ以上に凶悪だって事もわかる。正直な話、俺達に神を倒すのは無理だ」

「だから目の前にある安易な復讐対象で気晴らしってわけか……?」

「気を晴らして何が悪い! もう二度と……死んだ人間には二度と会えねぇんだぞ!? お前にだってわかるだろ、レイジ! 失った時間はどう足掻いても取り戻せないんだ! だったら気を晴らして何が悪い! 俺はこの世界をぶっ壊して……全てを過去にする!」


 魔力を身体に滾らせながら突撃し、斧を叩き付ける一撃をレイジは鞘に収めたままの剣で受け止めた。しかし同時に男の左右から片手剣の勇者と槍の勇者が挟撃を仕掛けて来る。レイジは目を見開き、自らの影を纏うようにして身体を黒いマントで覆うと、その場でくるりと回転しながら三つの攻撃を同時に弾き飛ばすが、更にその後方から遠距離攻撃型の勇者の第二派、そして控えていた近接型の第三派が襲い掛かる。次々に繰り出されるコンビネーション攻撃は彼らがこの世界をゲームとして楽しんでいた証であり、それが勇者の力を以って強力な暴力に昇華されて居る事を意味していた。


「レイジ様……!?」

「大丈夫です、あのくらいの攻撃でレイジさんは倒されません。ただ……」

「なぜ反撃しない、レイジ……?」


 無傷で攻撃を全てやり過ごしたレイジに眉を潜めながら斧を構え直す男。レイジは未だに鞘から力を解き放とうとしていなければ、反撃に打って出ようともしていない。ただ攻撃を次々にはじいてかわしているだけだ。それも自分の後ろにいる仲間や兵士達に当たらないよう、的確に。


「反撃する理由がないからだ。君たちの言い分は理解出来る。だけどそんな理由でウサ晴らしの為だけに人殺しをされるわけにもいかない」

「こいつらはNPCだ! 俺達とは違う!」

「違わない……人間だよ。もうわかっているはずだ。彼らは作り物のデータなんかじゃない、本物の……血の通った人間なんだ。俺達との違いは力があるかないか、それと生まれた世界だけだ。それを殺すっていうんなら、君だってやっている事は同じじゃないか」

「違うっ! 俺達は……」

「違わないんだよ……! ただ少し強い力を持っているからっていい気になってるだけだろうが! 本当に強い奴には勝てないからって弱者をいたぶって殺すだと? ふざけるな! 安易な打開策に甘えてなにが正当な復讐だ! まだゲームをやっているつもりなのか、お前達は!」


 腕を振るいながらレイジが行ったのは単純な魔力の放出であった。そもそも放出しようという気すらなく、全身に力を滾らせただけであったが、その結果放たれた青白い光は彼を取り囲んでいた勇者達を怯ませ、絶えず噴き出すようにして周囲を照らす魔の流れは仲間さえも圧倒していた。


「この世界では手足が千切れても現実に戻れば復活する。当たり前だな、精神だけの召喚で、こちらの肉体は仮初のものなんだから。実際俺も腕が片方なくなった事あるけど、ログアウトまでは持ったよ」


 ゆっくりと言い聞かせるように語りながら刃を抜く。その精霊器は並の勇者が持つ代物とは明らかに一線を画している。禍々しささえ感じる力の圧力に、誰もが戦意をそがれつつあった。


「どうしてもやるっていうのなら、戦闘不能に追い込ませてもらう。これから何度同じ事をしたって何度でも同じ様に俺が止める。君たちにそれでも戦うという覚悟があるのなら……それを無駄にはしないよ。どこからでも好きに掛かってくればいい」


 勇者達がたじろぐのも無理はない。あの日見た魔王アスラと同じく、今目の前にいるレイジという勇者は他の存在とは明らかに格が違う。まともに戦えば間違いなく殺される……そんなイメージしか沸いてこないのだ。歯を食いしばり、眉を潜めながら斧を下ろす男……その肩を叩いたのは、遅れて登場した連盟の勇者であった。


「お前ら……その辺にしておけ。後の事は……俺が奴と話をつける」

「……ファング……さん? それに……クピドさん?」

「お久しぶりね、少年♪ なんだかこんな事になっちゃって申し訳ないけど……剣を収めてくれるかしら? それくらい強い精霊器だと、普通の勇者には耐えられないみたいだから」


 周囲を見渡し刃を収めるレイジ。その威圧感から解放されたように仲間の気が抜けたのを確認すると、クピドはファングを伴ってレイジの前にまで歩み寄った。


「多分こうなるだろうとは思っていたけど、やっぱりこうなっちゃったわねぇ……。身内の間違いは私達が謝らせてもらうわ。でもねレイジ君、あなたのしてしまった事は、あなたが思っている以上に人々の心を揺さぶってしまった……これがその結果だというのはわかって頂戴」

「理解しているつもりです……さっきまでわかってませんでしたけど……」

「……そう。それじゃあ、とりあえずこの場は一旦切り上げましょうか。双方言い分はあるだろうけど……まともにやりあっても死人が増えるだけよ。それは望まないところでしょう? 特に――有限であるこの世界にとってはね」


 クピドの投げかける視線の先、オリヴィアが目を細めた。ファングが襲撃してきた勇者達をまとめて一旦引き下がらせると、二人の連盟の勇者を加え、レイジ達は再び会議室に戻っていくのであった。

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