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XANADU  作者: 神宮寺飛鳥
【異世界】
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開戦(2)

  王都オルヴェンブルムの西門に駆けつけたJJ達が見たのはNPCの衛兵に囲まれている三人の姿であった。一人は魔術師らしい格好の男、その隣には背の高く豊満な身体つきの女が一人。その背後には何度も見たことのあるあの白いロボットの姿があった。


「やっぱりアレ、バウンサーなのね……。一応精霊器なのかしら?」

「精霊器ってレベルじゃねー気がするが、まあそうなんじゃね?」


 冷や汗を流しながらぼそぼそと話すJJとシロウ。勇者達が前に出ると衛兵は入れ替わりに下がった。彼らの到着を待ちわびていたといわんばかりにバウンサーの男は前に出ると、胸に手を上て礼儀正しく頭を下げた。


「初見ではありませんが、改めまして。私はバウンサーの長を務めている氷室と申します。彼女は東雲、そしてこちらの大きいのがイオです。これから何度か顔を合わせる事になるでしょうから、どうぞお見知りおきを」

「おめぇがバウンサーの長ねぇ……? まあそんなこたどうでもいいわな。おい氷室さんとやらよう、一体ここまで何しにきたってんだ?」

「今日はただのご挨拶ですよ。ここで戦闘を起こすのはルール違反になる……ただ、私一人では皆さんに襲いかかられてはひとたまりもないので、護衛として二人を連れてきただけの事です。ですからそういきり立たずとも構わないでしょう?」


 唇を尖らせるカイゼルを横目にJJは氷室と名乗った男に目を向けた。魔力量はそれほど多くはない。隣の東雲という女もそうだ。すばぬけて力が強そうなのはやはりあのロボット。だが能力についてはざっと見ても解明出来そうになかった。やはり情報が不足しているのだ。バウンサーの持つ得体の知れない力はパワーアップしたハイネを見れば一目瞭然。ならば彼らも見た目通りであるとは考えない方が良いだろう。


「それで、ルール違反って? 戦いに来たんじゃないという事?」

「はい。ルールについてもご説明申し上げるべきでしょうね。このフェーズ4における、我々バウンサーと貴方達勇者との戦いのルールを……」


 笑みを浮かべながら語る氷室。その表情からは圧倒的な余裕が垣間見える。


「ルールといっても、皆さんはこれまで通り自由にしていただいて構いません。ただ我々魔王軍に関しては、活動に制限を設けさせていただきました。その制限と言うのは、魔物の出現に関する事です」


 これまで魔物はどんな場所にでも――極端な話をすれば、オルヴェンブルムの内側にすら唐突に出現する事が出来た。だがその出現パターンを、フェーズ4からは大幅に絞るというのが氷室の語るルールであった。


「まず、魔物のランダム出現を停止します。これにより魔物は全て魔王軍、つまり魔王様と我々バウンサーの手で運用される事になります。しかし人が意識的に魔物を操るとすれば、そのどこにでも出現できるという能力は少々行き過ぎたものになるでしょう」

「当たり前でしょ。私だったら真っ先に全軍敵の拠点に沸かせて一気に終らせるわ」

「ええ。我々もそう考えるでしょう。そうであるが故に、魔物を出現させられる範囲を絞ります。我々が魔物を出現させる事が出来るのは、自軍の領土内に限る……とさせてもらいましょうか。ここで言う“領土内”とは、皆さん勇者側の拠点……町や要塞の手前……そうですね、五キロくらいにしましょうか。そこまでしか魔物を出現させられないものとします」


 するとどうなるか。勇者側は人類の拠点を守ってさえ居れば、自軍陣地内に魔物を出現させられるような事はなくなるという事だ。勿論出現させるポイントがそうなるだけで、出現させた魔物を進軍させて領土内に侵入する事に対しての制限はない。


「要するにこのフェーズ4の戦いでは、皆さんは領土を守り、我々は領土へ侵攻するというルールになるわけです。最終的な勝敗は人類の絶滅か、或いは魔王の消滅か……このどちらかでしかつかないものだと考えていただいて構いません」

「拠点を設置して守る限り、防衛ラインを維持する事は可能……但しラインが崩されれば魔物の出現地点がこっちの陣地内に深く食い込む事になり、守りづらくなる……か。まあどこにでも魔物を出されるよりは遥かにマシね」

「そのルールからすると、ここにこうやってワープしてくる事自体がルール違反になりますが、まあご説明の為ですから目を瞑っていただきたい。勿論こちらから攻撃を仕掛けるような事はしませんし、ご納得がいただけたらばさっさと引き上げるつもりです。要はただの、宣戦布告ですから」

「――ただの宣戦布告だからって無事に帰れると、本気でそう思ってるのか?」


 声に振り返るJJ。その視線の先にはレイジの姿があった。レイジは既に八咫の太刀を手にしており、仲間たちを追い抜くと氷室の前に立ち、ゆっくりと刃を抜いて構えた。


「レイジ、ちょっと……!?」

「JJ、これは好機だよ。あいつらは自分たちには制限を敷いたが、俺達は自由に振舞っていいと言った。つまりここでお前らに襲い掛かって……倒しちまっても構わないって事だろ?」

「ええ、まあ……。しかし、情報よりも随分と好戦的ですね……レイジ君」

「お前らが魔物を操るようになったって事は、バウンサーを全部ぶっ潰しちまえば魔王と直ぐ闘えるって事だ。だったらお前らをさっさとぶちのめして……俺がこのゲームを終らせる!」


 有無を言わさず襲い掛かるレイジに仲間も止めに入る余裕はなかった。レイジの一撃を氷室に変わって防いだのはイオと呼ばれたロボットだ。片腕を伸ばして斬撃を防いだが、レイジはぎろりとイオを睨み、すぐさま刃に雷を纏うと次の一撃でイオを弾き飛ばして見せた。


『何……ッ!? こいつ、どこからこんなパワーを……!?』

「フェーズ3の段階よりも明らかに強くなっている……これは興味深いな。折角です、レイジ君……貴方が本当にあの方の眼鏡に適う存在なのか、少し試させてもらうとしましょうか」


 背後に跳び、氷室が手の中に取り出したのはスマートフォン形の精霊器であった。男が画面にタッチすると大地に幾何学模様の魔方陣が浮かび上がり、精霊器を突き出すと同時、光が収束し眩く放たれた。レイジはお構い無しにイオの腕をすり抜けると氷室へ向かうが、そんな彼の目の前に光の中から唐突に竜の首が襲い掛かった。噛み付いてくる竜の顎を雷になってすり抜けると、氷室の能力が徐々に露になっていく。


「コール・オブ・クリーチャー……それが私の精霊器の名前です。能力はこの世界で魔物とカテゴライズされる存在の自在召喚。このように身体の一部だけでも可能ですし、全てを呼び出す事も可能な能力です」


 男の身体を覆うように長い竜の首がとぐろを巻いているが、虚空から出現しているのは首だけで本体の姿は見えない。竜は口から炎を吹き出し、レイジがそれを交わしている間に男は再び精霊器を振るう。


「フフフ……! コール!」


 無数の魔方陣が浮かび上がり、次々に魔物が出現する。無数の猛獣を合体させたような大型のキメラが四体レイジへと襲い掛かるが、飛び込んで来たシロウが拳の一撃で早速一体を始末。続けて回転蹴りを連続で放ち、三体を一瞬で片付けてしまった。


「シロウ……!」

「ったく、らしくねぇぞレイジ。自分一人で闘おうとしやがって……。いいか、そうやってバカみてぇに突っ込むのはなぁ……俺の仕事なんだよ!」


 目を見開き突撃するシロウ。氷室は竜の顎を放って対応するが、シロウはその顔面に身体を捻りながら鋭く拳を放った。


「しゃらくせぇんだよッ!」


 インパクトの瞬間、周囲に光が迸り爆炎が竜を粉砕した。これには氷室も驚いたのか慌てて後退。そこへ間に入ったのが東雲と呼ばれた女であった。まるでトレンチコートのような近代的な服装をした女はサングラスを投げ捨て、鋭い眼光をシロウへ向ける。


「チッ、女を殴る趣味はねぇぞ……! 退け!」

「生憎そういうわけにもいかなくてな。これも仕事だ……付き合って貰うぞ」


 手の中に出現させた煙草を咥えると勝手にその先端に蒼い炎が灯る。次の瞬間シロウが繰り出した拳を東雲は素早く回避していた。それも必要最低限の動き、首を僅かに動かし身体をそらすだけで、である。

 無論シロウは女が相手と言う事もありある程度の手加減はしていたのだが、それでもとても常人に見切れるようなものではない。驚きのあまり絶句するシロウ。スローモーションのように動く世界の中、東雲はその場で回転し勢いをつけた膝をシロウの腹に減り込ませる。確かにそれも鋭い動きではあったが、シロウのように人間離れした挙動ではなかった。それでもシロウは大量の血を吐き、はるか後方まで衝撃と共に吹き飛ばされてしまった。


「うそっ!? シロウが徒手格闘で吹っ飛ばされた!? 有り得ないわッ!!」


 JJが叫ぶのも当然の事である。シロウはそれほどまでにずばぬけた強さを持っているのだ。女相手に油断したとは言え、顔面から地べたにダウンしたのが本人にも信じられないようで、目を白黒させながら血を拭い立ち上がった。


「なっ、なんだぁ!? なんで今の攻撃を避けられるんだよ……つーか俺はなんで当たった!? 完全に見切ってたはずだぞ!?」

「驚いたのは此方の方だ。完全に殺す気で蹴り抜いた筈なのだがな……“運が悪かった”か」


 紫煙を吐き出し、再び唇で煙草を挟みながらグローブを正す女。そうしている間にレイジは再び氷室に迫るが、側面から拳を向けたイオが突然その拳を射出して攻撃してくる。


『野郎、ナメた真似しやがって……くらえ!』

「腕が飛んできた……!? あいつ、どれだけ武器を隠し持ってるんだ?」

『ロケットパンチだッ!!』


 炎を吹き出しながら飛来した拳は大地ごとレイジの姿を吹き飛ばす。その間に氷室はケータイを光らせ、次なる魔物の召喚を終えていた。


「東雲、イオ、引くぞ。あまり油断してかかるとこちらが痛い目を見そうだ。出直すとしよう」


 新たに召喚したのは翼を持つ小さな竜であった。その背に飛び乗った氷室が舞い上がると、離陸した竜に東雲も跳躍して足に捕まる。イオは不満げな様子であったがブースターで飛行を開始する。だがレイジは諦めず、精霊器を持ち変えて追撃を試みた。


「逃がすと思うなよ……!」


 手の中に取り出したのはスリーピング・ビューティー。無数の荊を触手のように伸ばして空に舞い上がったイオを捉えると、巨体に引っ張られるようにしてレイジの身体も空に浮かんだ。そのまま荊を手繰り寄せてイオに取り付くと、すかさず刀に持ち替え装甲の隙間に刃を捻じ込んだ。


『何!? こいつ……ついてきてやがる!?』

「イオ、振り払うのです!」

『言われなくてもぶっちぎるっつーの!』


 急加速したイオに振り回されるレイジ。だがレイジは決してイオから離れようとはしなかった。突き刺した切っ先から一気に電流を流し込むと青白い光が何度も瞬き、ロボットの各所にスパークが起こる。属性相性的に効果覿面だたのか、ブースターは停止し、ロボットはあらぬ方向に向かって墜落を開始した。


『ぐああああっ!? てってめぇ……!? くそ……制御できねぇ!?』

「レイジ! ちょっと、墜落するわよ!?」

「ぐ……っ、くそ……あの女の蹴りがかなり効いてやがる……今の俺じゃあそこまでは跳べねえぞ……!」

「え……逆にシロウ、あの高さまで普段なら跳躍できるのね……」


 JJとシロウがそんなやり取りをしている間にもロボットの姿は遠ざかって行く。氷室と東雲を乗せたワイバーンとは全く異なる方向へ落下していったロボットは、どうやらオルヴェンブルムの西にある森へと墜落したようだった。


「落ちたぞ氷室。どうするんだ?」

「……まあ、イオならどうにかするでしょうが……一応様子を見にいきますか……」


 ワイバーンは大回りに逃走しつつ森へと向かう。それを見届けたカイゼルは溜息混じりに走り出した。


「しゃあねえ、レイジは俺に任せろ。行くぞファング、場合によっちゃ戦闘になるぜ!」

「めんどくせぇな……。おい金髪、そっちの赤毛はちゃんと休ませておけよ。死なすと俺の仕事が増えやがるからな……」


 二人がレイジ救出に向かったのを見届け、仕方なくシロウに肩を貸そうとするJJ。しかしシロウとのウェイト差は絶対的なもので、肩を貸すどころかもたれかかったシロウに抵抗も出来ず、一緒になって道端にぶっ倒れるのであった。




 墜落直後、衝撃で吹っ飛んだレイジはうつ伏せに倒れていたが、直ぐに気を取り直して立ち上がった。周囲に精霊器が見つからなかったので手の中に再召喚し刃を握る。墜落地点には破損したロボットが火花をあげながらあらぬ姿で横たわっており、レイジはふらつきながらゆっくりと近づいて行く。


「散々これまで邪魔をしてくれたな……。だが……ここで終わりだ……!」


 刃を振り上げるレイジ。しかしその目の前でロボットは光になって消滅し始めた。この現象には覚えがある。所有者が気を失う等して精霊器を維持できなくなった場合、消滅して行く様がまさにこれである。恐らくは墜落のショックでこのロボットの主は気絶してしまったのだろう。刃を振り上げたまま本体が露になるのを待っていたレイジの前に現れたのは、年端も行かない幼い少女であった。

 まだ年齢的には小学生くらいだろうか。ワンピースタイプの水着にも似た、肌にぴったりと密着するようなパイロットスーツを身につけており、苦しげな表情で横たわっている。レイジは目を見開き、相手がまだ子供である事に動揺し、震える手でゆっくりと刃を降ろした。


「これがあのロボットの中身……? 子供じゃないか……。でも、相手はバウンサー……いつかは倒さなきゃならない相手……なら、俺は……っ!」


 きつく目を瞑り、再び自らの胸の中に渦巻く憎しみの炎に薪をくべる。ミユキやミサキの事を思えば、こんなゲームは一刻も早く終らせるべきなのだ。その為にバウンサーの頭数を減らす事は非常に効果的であり、必須であると言える。ここで止めを躊躇ったとしてもいつかは決着をつけねばならない。だとすれば刃を収めたところでただの綺麗事ではないか。


「う……、うぅ……」


 そこへ苦しげな少女の呻き声が耳に入った。レイジは改めて剣を振り上げ――しかしそれを振り下ろす事がどうしても出来なかった。自らの不甲斐なさを呪いながら剣を横薙ぎに振るうと、衝撃波で無数の大樹が両断された。だがそれだけで、少女には傷一つなかった。


「くそっ! どうしてこんな小さな子がバウンサーなんかになるんだ……!」


 刀をパナケアへと持ち帰ると、レイジは溜息混じりに刃を少女へと突き刺した。気付けの薬が効いたのか、少女は直ぐに目を覚ます。そして目の前にレイジが居る事に気付き、慌てて後ずさった。


「くそ……あれ!? 精霊が解除されてやがる……しかもリキャストで出せねぇ! 修理中かよ、こんな時に……!」

「あまり急に動かない方がいい。まだダメージは消えていないはずだ」

「……んだと? 恩でも売ったつもりかよ! ナメんじゃねぇ、敵だぞ、あたしは!」


 しかし雷撃と墜落のダメージが抜けていないのか、少女の力では立ち上がる事も出来ない。元々イオは精霊器の能力こそ強力だが、それに反比例するように本人の力は極端に弱い。雷撃による本体へのダメージというのがコントロール不能に陥った主な原因である。肩で息をしながらレイジを睨み付けるイオ。そこへレイジは刀へ持ち替えてゆっくりと迫る。


「確かに君の言う通りだ。だけど勘違いするな。俺は別に君を助けたわけじゃない。ただ殺すより、色々と聞き出してから殺すほうがいいと思い直しただけだ」

「なっ、何をするつもりだよ……ひっ!?」


 鋭く切っ先を突きつけられ怯える少女。強がってはいるが、恐怖を掻き消せるような年齢ではない。レイジは冷たい眼差しで少女を見下ろし、抑揚のない声で問う。


「教えろ。魔王の正体について。あいつとミサキの関係についてだ」

「……し、知るかよ。魔王に関してはクロスしか詳しい事は知らねぇんだ」

「だったらバウンサーとはなんだ? これは知らないわけないよな?」

「い……言わねぇ! 脅したって無駄だからな! あたしは屈しな……ひゃあっ!?」


 切っ先から雷撃を迸らせると、少女は慌てて飛び退いた。倒れている少女の胸倉を掴み上げると、レイジは怒りに濁った眼差しを向けたまま首筋に刃をぴったりと当てた。


「ゲームの中とは言え、痛みはあるんだ。死ぬのは嫌だろ? それとも首筋をゆっくりと裂かれ、血管から血が噴出して行く感触を味わってみるか? 君の身体がゆっくりと冷たくなって行く様を見届けてやっても、俺は別に構わない」


 ごくりと生唾を飲み込むイオ。その潤んだ眼差しに心を揺らしながら、それをレイジは憎しみで焼き尽くしながら何とか体裁を保っていた。思考を停止しなければ、なぜこんな少女がバウンサーをやっているのか、その事情にお節介を焼いてしまいそうな自分を抑え切れそうになかったからだ。


「言え。バウンサーは何人いる? その能力は?」

「い……言わねぇ! 殺したきゃ殺せ! あたしは死ぬのなんか怖くないんだ! どうせ元々死んでるようなもんだからな、好きにしろってんだよ!」

「……だったらそうさせてもらう。これでバウンサー一人……始末出来るんだからな!」


 少女の首を撥ね様とした正にその時だ。生い茂る木々の葉を突きぬけ、上空から東雲がレイジに襲い掛かった。東雲は無造作に繰り出した蹴りで何故かレイジだけを捉え、その手からイオを回収すると吹っ飛んだレイジを一瞥した。


「無事か、イオ?」

「べ……別に助けに来てもらわなくても一人で何とか出来た! 偉そうにすんじゃねえ!」

「ふむ、そうか。しかしあの少年……以前見た時とは随分と様子が違っていたな。あれは本当にお前の首を落とすつもりだったようだぞ?」


 今更になって背筋が寒くなっているイオを抱き抱えたまま東雲は踵を返す。その背中にレイジは斬りかかるが、東雲は振り返りもしないまま一撃を屈んで回避した。


「首を狙って一撃……なるほど、人斬りの覚悟は決まっているようだな」

「見もしないで避けた……!? なんなんだ、こいつの能力……!?」


 そこへ上空から次々に火炎弾が降り注ぎ、レイジの傍に着弾する。これにも東雲は巻き込まれる様子がなく、炎に巻かれるレイジからまんまと逃げおおせる事に成功する。そのまま跳躍し木を蹴って更に舞い上がると、片腕で小さなイオを抱えたまま上空を飛行していたワイバーンの足に掴まる事に成功する。


「流石東雲ですね。完璧な仕事です。これでもう少し真面目にゲームをしてくれれば助かるのですが……」

「そう言われてもな……。それより氷室、あの少年についてだが……」

「ええ。まあ、その話は後にしましょう。今の彼ならもたもたしているとここまで追ってきそうですからね……」


 あっという間に引き返して行くワイバーンを木々の陰から見送りレイジは刀を下ろした。それに遅れる事数分、カイゼルとファングが到着するが、そこにはレイジの姿しかない。大まかな状況は見ての通りで、カイゼルは頬を掻きながらレイジに近づいた。


「あのロボには逃げられちまったか。まあ気にすんなよレイジ。また次があるじゃねえか」

「……ええ。次は……次こそは、迷い無く仕留めて見せます」


 ごちゃごちゃ考えたりせずに一息に眠っている間に仕留めてしまえばそれでよかったのだ。結果的になんの情報も得られず、獲物にも逃げられてしまった。これではわざわざ無茶をしてまで追撃を行った意味が無い。

 それもこれも全てはイオが想像以上に幼い少女だったからだ。相手があんな子供でなければ躊躇わずに倒す事が出来た……そう信じたい一方で、相手がどんな邪悪な存在であったとしても斬る事は出来なかったのではないか。そう考える自分も居た。

 何せあのクラガノですら倒す事を選ばなかったのだ。レイジはその優しさとだけ表現するには甘すぎる感覚を自覚していた。これからの戦い、大切な者を守る為には自ら手を汚す事も必要となるだろう。遠藤やギド、ダンテがそう言っていた様に……。


「今日のログアウト時間が迫っている。その前に戻って仲間に顔を見せて安心させてやれ……」


 ファングの声に頷き返すと、レイジは二人と共に森を後にした。宣戦布告、そして最初の衝突はこうして幕を降ろした。フェーズ4は開戦を迎え、いよいよ世界は後戻りの出来ない段階へと進行しつつあった……。

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