呪縛(3)
「レイジ様……お久しぶりです。ミユキには、もう会ったのですね」
リア・テイルの会議室に入った俺に声をかけてきたのは鎧姿の少女だった。それがあのオリヴィアだという事に気付いたのは、彼女と向き合って数秒経ってからの事だった。
ミユキは二年以上が経過していると言っていた。オリヴィアはその年月を経たに相応しい成長を遂げていた。二年前に中学生くらいだったのだから、今は高校生くらいの年頃だろうか。要するに、俺と同い年くらいに成長したという事だ。背は伸び、身体つきも随分と大人びたように見える。声色にどこか落ち着きを感じ、俺は逆にどぎまぎしてしまう。
「オリヴィア……だよね?」
「はい、オリヴィアです! 再会をお祝いしたい所ですが……その様子ではミユキの事は既にご存知ですね? 他の皆様にも、先ほど私の方からご説明申し上げた所です」
オリヴィアの事は驚いたが、今はじっくりその事を考えている場合ではない。見れば会議室にはJJやシロウ、マトイだけではなく、勇者連盟側の主要人物が席についていた。俺たちは円卓を囲み、それぞれ重苦しい表情を浮かべたままで話を始める事となった。
「それで……マジなのか? ミユキがログアウト出来ないって話はよ」
「……はい。あの日……皆さんにとっては三日前の事でしたか。私はダイブ装置を使ってこのザナドゥという世界にログインしました。ログインの時にログイン先をイメージすれば場所を指定できるという話を聞いていた私は、レイジさんをそのイメージ先に指定したんです」
……なるほど。それはこれまで試した事がなかったが……そんな事が可能だったのか。だとすればあの日、何も知らないミユキがあの場に現れた事も頷ける。
「私がログインした場所に既に皆さんの姿はありませんでした。建物から外に出てみると、あちこちで戦闘が始まっていました。私はそこで精霊器を取り出して、初めて戦闘を経験しました。それで、勇者連盟の人達に話を聞いて皆さんを追いかける事にしたんです」
「あの日初めての戦闘であれだけ動けたっていうの? 流石はあの姉にしてこの妹ありという事なのかしらね……」
じっと瞳を見開くJJ。今ミユキの魔力量について測定しているのだろう。彼女は露骨に驚きを表情に浮かべ、それから何かを考え込むようにして黙り込んだ。その間にもミユキは話を続ける。
「そこからは皆さんも知っての通りです。それから私はログアウトした皆さんに取り残される形でこの世界に残りました。わけもわからず呆然とする私を助けてくれたのは……オリヴィアでした」
あの後、オリヴィアは残存する戦力を纏めながら撤退を開始。革命軍、勇者連盟共に彼女の言葉に従い、生き残りは協力しあう事を強要された。それは俺達がログアウトした後、あの場に残っていた魔物達が動き出した事に起因する。
オリヴィアはダンテが使っていた剣、アーティファクト“ダモクレス”を手に撤退戦を指揮。集まった戦力の半数近くを魔物の大群との戦闘で失うも、命辛々オルヴェンブルムまで逃げ帰る事に成功した。その撤退戦を支えたのもまたミユキであった。
それからオリヴィアとミユキは常に協力し合いこれまで何とか世界を守ってきたという。オリヴィアは知る限りの知識で戸惑うミユキを支えた。いつかきっと他の勇者が迎えに来ると、彼女を励まし続けた。オリヴィアが彼女と共に居なければミユキはどうなっていたかわからないだろう。
「今はこの王城の部屋を間借りして、それなりに生活を送っています。最初は辛くて仕方ありませんでしたが、二年も経てば慣れるもので……。だから……その、大丈夫です。とりあえず、命の危険等はありませんから……」
「命の危険があるかどうかはわからないわよ。そもそもあんたの現実の肉体がどうなっているかが問題じゃない。このゲーム……何も事情を知らない第三者がダイブ中に装置と肉体を切り離したらどうなるわけ? まさか倒れたままの娘を何日もほったらかしにするような親じゃないんでしょう?」
「それならば問題ありません。今はまだ、ミユキの肉体は無事である筈です」
JJの疑問に答えたのはアンヘルであった。俺たちの視線は否応なくアンヘルへと向けられる。彼女は立ったまま、普段通り冷淡な声色で語る。
「ダイブ中に装置と肉体が切り離された場合にも、精神や肉体に与えられる影響は皆無です。そういう意味において、安全面に問題はないと言えるでしょう」
「……それって逆におかしくない? 肉体と切り離されてもログインが継続されているという時点で意味不明なんだけど」
「それは……それについては、わたくしの持つ権限では、お答え出来かねるのでございます」
にらみを利かせるJJを制するようにマトイが席を立った。そうして身を乗り出し、アンヘルへと声をかける。
「ねえアンヘルさん……本当にアンヘルさんは……その……天使……なんですか?」
「……はい。その様子では、ギドの残した情報を手に入れてしまったのですね」
「アンヘルさん……どうして……?」
「それがわたくしに与えられた役割だからです。それ以上も以下もなく、是非すらも問わない。私には考える事も、権限を越える事も……」
「――そんな事、どうだっていいよ……」
立ち上がり、机を飛び越えてアンヘルに迫る。そうして目の前に立ち彼女を見つめた。
「それよりもミユキを救う方法が知りたい。ミユキがセカンドテスターの装置を使っているからログアウト出来ないっていうのなら、それはこのサードテストにおけるイレギュラーだろ? 元々ミユキはセカンドテスターじゃなかったんだ。最初からその条件を飲んでいたギドとは訳が違う。GMに伝えてくれ! 今すぐミユキをこのゲームから解放するように!」
しかしアンヘルは無言で目を逸らした。俺はその肩を掴み、強く揺さぶる。
「これまでアンヘルが俺達を裏切っていたとかそんな事はどうでもいいんだ! それよりもミユキだ! このままじゃあんまりだろ……! お前だって見てきたんだろ、今日までミユキがどうやって生きてきたのか……その苦しみを!」
「確かにわたくしはミユキの同行を監視してきました。しかしレイジ様、わたくしにはロギアに何かを要求する権限はありません。ミユキをゲームからログアウトさせる方法についても、一つしか心当たりがありません」
俺にだってわかっている。セカンドテスターがこのゲームからログアウトするための条件ならすでに判明しているんだ。だがそれは……それは、ミユキにとってはあまりにも……。
「“他”にないのか……? いやそんな事よりロギアだ。ロギア! どうせ聞いてるんだろ……見てるんだろ!? おいっ、これは何かの間違いなんだ! ミユキを解放してやってくれ!」
周囲に向かって叫ぶが返事はない。あの亡霊のような姿をした女はいつまで待っても姿を見せなかった。そんな俺を見かねたようにJJが溜息を零す。
「……GMに訴えかけるのは、もうミユキ本人が散々やった後でしょ。二年もあったんだから」
そりゃそうだろうな。まず最初にGMに質問するだろう。だけどじゃあ……だったらなんでロギアは何も言わないんだ。なんでミユキをこの世界に縛り付けるんだ。おかしいだろ……関係のないただの女の子なんだぞ? それがなんで、こんな酷い目に遭わなきゃならないんだ。
「世界は既にフェーズ4に入りました。ロギアは世界の動向を監視し、見届ける状態に入っています。最早彼女は二度とプレイヤーの前に姿を見せる事はないでしょう」
「じゃあ……どうしようもないっていうのかよ……。ミユキはこのまま、ゲームの中で生きて行くしかないって言うのかよ!」
握り締めた拳を感情任せにアンヘルにぶつけそうになり、その矛先を壁に向けてなんとか堪えた。水を打ったような沈黙の中、何もかもが暗礁に乗り上げようとしていたまさにその時。状況を一転させるような人物が、唐突に俺達の中心に姿を現した。顔に仮面をつけたスーツ姿の男で、あまりにもなんの前触れもなく現れたもので、俺は暫く出現に気付かなかったくらいだ。全員が驚愕する中、男は両手を広げて明るく第一声を放った。
「――ザナドゥ、フェーズ4到達……おめでとうございまーす!」
全く予想外の言葉に全員が固まっていると、男は首を傾げながら両手をズボンのポケットに突っ込んで笑った。
「あれ? 反応薄いなぁ……? せっかくお祝いに来てあげたというのに」
「クロス……なぜここに?」
「アンヘルが見ている映像はロギアにも、そして僕にも見えているからねぇ。まあ最近はロギアはプレイヤーの事に関してはおざなりだから、もっぱら監視情報は僕に流れてきているの」
「そういう事ではありません。クロス、貴方とプレイヤーの接触は一級禁止事項の筈です」
アンヘルはクロスと呼んだ男へリピーダを向けた。どうやら彼もGM側の人間のようだが、あまり穏やかな様子ではない。アンヘルからは露骨な敵意が感じられる。だが男は飄々とした様子で、その視線を意にも介さなかった。
「ゲームマスターがサポートをサボってるから僕がこうして出張ってきてあげてるんじゃないか。元を正せばロギアが悪いんだよぉ? プレイヤーが呼んでるのに出てこないんだから」
「その口ぶり、まるであんたがロギアの代わりに来てくれたみたいね?」
「そうさぁ、JJ。セカンドテスターの装置を流用してダイブする人間が現れるだなんて、こちらとしても想定外の状況さ。一応、それなりの説明が必要だと思ってね……。まあ出血大大大サービスって事で、なんでも聞いてちょうだい!」
「だったら教えてくれる? どうやったらミユキをログアウトさせられるのか」
「ああ教えよう。ぶっちゃけると――現状、彼女をログアウトさせるのは僕らにも無理だ!」
あまりにもあっけらかんと男がそんな事を言うので、また全員で黙ってしまった。だがこれは先ほどまでの驚きによる沈黙ではない。圧し掛かる絶望に言葉を失った様であった。
「どういう事だよ!? 運営にもログアウトさせられないって、そんな話があるか!?」
「それがあるんだねぇ……厄介な事に。まあなんていうか、このゲームはそもそもまだテスト段階でね。僕らにも上手く制御出来ない部分がたくさんあるんだよ。特にログインとログアウトのシステム周りはロギアが担当してるんだけどね。このゲーム、お察しの通りめちゃくちゃ複雑な理屈で動いているから、その“道理”を捻じ曲げるのは凄く難しいんだよねぇ」
「何言ってんだ……? ゲームだろ、ただの!?」
「ただのゲーム、たかがゲーム、されどゲームだよレイジ君。それは君が最も理解しているはずだ。この世界での様々な出来事を身を持って体感した君がね」
「今はそんな話をしているんじゃない!」
「それは失礼。だけどね、セカンドテスターの“ログインルール”は僕らには変えようがないんだ。つまり、ログアウトしたければ“正規の方法”を取ってもらうしかない。つまり――」
「……魔王を……ミサキを倒す。それしかないって事?」
俺が口にしようとしなかった事実をJJが代わりに口にしてしまった。その瞬間、避けようのないその絶望的な未来が俺の目の前に横たわってしまった気がした。愕然とする俺の気持ちなどお構い無しに男は頷き、笑顔で同意する。その瞬間身体中から力が抜け落ち、俺はその場に膝をついてしまった。
「レイジ君!?」
「なんだよそれ……。なんなんだよ……」
マトイが駆け寄り傍らで支えてくれているのがわかるが、何も言う気力が沸いてこなかった。ただ胸の中にあったのは強烈な罪悪感だ。なぜこんな恐ろしい事になってしまったのか……その原因は間違いなく俺の中にもあるのだ。守ろうとした物がどんどん遠ざかり、どうしようもなくなって行く……その事実に心が押し潰されそうだった。
「待って! そもそもあれは……アスラはミサキなの!?」
「それには応えられないね。だって教えちゃったらゲームが面白くなくなるから」
「はあっ!? 今そんな話してる場合じゃないでしょ!? バカなの!?」
「うん、僕はねぇ、ゲームバカなんだぁ。だから教えられない。不具合対応はするけど、ネタバレはできません! その謎については是非、レイジ君! 君に体当たりで挑んでほしいんだ! なんの前情報もなく純粋な気持ちでね!」
男は仰々しくそんな事を言うが、俺は……そんなもんどうでもよかった。乾いた笑いが浮かび、気付けば手の中にミサキの刀を取り出していた。素早く立ち上がり男に斬りかかるが手ごたえはなく、男の姿がただの幻なのだと気付く。
「危ないなぁ……!? 僕が生身だったらどうするつもりだったの? 死んじゃってたよ?」
「テメェ……ッ!」
「いいね、実にいいよ! 悪に対するその憤り……素晴らしい! 僕は君こそが真の勇者に相応しいと思うんだ。君は何も持たないただの一般人だけど、勇気と気力だけでここまで辿り着いたんだ。まさに主人公だよね! 仲間に支えられ、大切な人を守る為に戦う正義のヒーロー……だけどその身には次々と悲劇がふりかかる。きっとその嘆きや怒りは君ともっと強くするだろう。だから安心して前に進むといいよ! 世界は――君を待ち望んでいるのだから!」
呻き声にも似た叫びを上げながら何度も刀を振るうが、幻に過ぎない男にはなんの効果もなかった。男は肩を竦めると俺の目の前から姿を消してしまう。
「まあ……がんばってよ、レイジ君! 僕は遠くで、応援してるからさ……!」
男の残した言葉に身体中が震えていた。こんなに誰かを憎いと思った事はなかった。心底殺してやりたいと思った。その激しい怒りをどこにぶつければいいのかわからなくて、ただ叫びながら刀を壁に投げつけた。雷を伴って壁に突き刺さった剣を見届け、がっくりと肩を落とす。
「くそ……っ! くそぉ……っ!」
「レイジ君……」
「触るなっ! 俺は……俺はっ! ちくしょう! もう……ほっといてくれっ!」
マトイを振り払い部屋を出る。誰の顔も見たくなかったし誰とも言葉を交わしたくなかった。もう何もかも投げ捨てて逃げ出したい……そんな衝動に素直に従う事にした。誰かの呼び止める声を無視して会議室から駆け出し、そのまま向かったのは城の裏にある墓地だ。他に行くべきところも思いつかず、俺は墓地の芝生の上に腰掛けて頭を抱えるしかなかった。
何かを考える事が恐ろしかった。思考を停止していたかったのだ。もしもミユキを救う手段が、魔王を倒す事しかないのだとしたら……それは、ミユキにあの魔王を、姉の姿をした魔王を殺せという事だ。そんな呆れ返るような悲惨があってたまるか。そんなもの認めない。俺は絶対に認めない……。
「なんでだよ……。なんでなんだよ。ちゃんとやってきたろこれまで! 俺は……ちゃんとやってきたんだ……なのにどうして……なんで……」
何も自信なんかなくて、いつも不安で仕方がなかった。間違いを恐れながら、それでもなんとか這い蹲って前に進んできたんだ。
怖くて、辛くて、それでもミサキを助けたくて……。あの日何も出来ずに立ち尽くしていた自分から変わりたくて……罪を償いたくて。必死に、ただがむしゃらにやってきたんだ。
俺はただの人間なんだよ。ただの高校生なんだ。あいつの言う通り凡人だ。俺にはもう背負えないんだ。無理なんだ、これ以上……誰かの悲劇を背負うなんて……。
「……レイジ……もしかして、泣いてんの?」
背後からの声に背筋が震えた。見ればそこにはばつの悪そうな表情を浮かべたJJが立っていた。“よう”なんていいながら片手を挙げるその姿から目を逸らし、袖で顔を拭った。
「な、なんでJJが……? 意外な人選だね……」
「ん……まあ、なんていうか……私自身、こんな“策”はまともじゃないとは思うんだけど……。ミユキもさっきの話で相当ショックを受けたみたいでね。ぶっ倒れちゃって、マトイとオリヴィアがそっちについてるから……」
言われて見れば全くその通りだ。何を俺は自分が一番の被害者みたいな面してるんだ? 一番辛いのはミユキに決まってるじゃないか。また強烈な自己嫌悪に襲われる。俺はあの時怒りに身を任せてミユキの事なんか頭の片隅にもなかった。なんて自分勝手な奴なんだろう。本当に嫌気が差してきた……。
「シロウがあんたの事は少しほっといてやれ、男には一人になりたい時があるんだとか言ってたけど……心配してきてみたら。なるほど、そういう事だったか。俯いて走り出したのは」
年下の女の子に泣いている所を見られるというのは想像以上に恥ずかしかったが、もうそんな事はどうでもよくなっていた。涙もすっかり止まった。俯いたまま項垂れている俺の隣に立ち、JJはゆっくりと語る。
「予め言っておくけど……私、人を励ましたり慰めたりした事一度もないから。多分ろくなこと言わないと思うけど、それは勘弁してよね……」
「……別にいいよ。慰められたいわけじゃないんだ」
「そうだろうけど……。その……だから、ね。とりあえず、望みは繋がったんじゃないかしら。魔王を倒せばミユキは解放される、それは確実になった。なら状況は好転してると言えるわ。魔王の正体について言及する事を避けたという事は、むしろ魔王がミサキではない可能性を高めたと思うの。あいつの性格からして、どうせ嘘を吐くのならあんたが苦しむ事を目的とするはずだから……つまり、真実はミサキとは関係のないところにあって……その、だから……ごめん、今こんな事言ってもしょうがないか……」
何故かJJの方がしょんぼりしてしまった様子で、俺の隣にゆっくりと腰を下ろした。俺はJJの方へ目を向けずにただぼんやり遠くを眺める。城壁に閉ざされたこの街の向こう……空の境界線へ。JJは俺と同じ様に空を見ている様子だった。
「レイジ……あんたが今考えている事はわかってるわ」
「精霊の能力か何かで?」
「ち、違うわよ。もう半年、あんたの事を見てきたんだから……何を考えているのかくらい見ればわかるわ。あんたはわかりやすいしね。だから言うけど……レイジ、あんまり自分を責めても仕方ないわよ。わかってるんでしょ? あんたの所為じゃないんだって」
「だったら誰の所為なんだ? ミサキやミユキの自業自得か? それともGMが悪いのか?」
「……一つの事柄に必ず一つの悪が存在するという考え方は子供よ。どんな事だって、悪は一つとは限らない。正義にも同じ事が言えるわ。誰にでも悪い部分はあったのよ。でもこうなってしまった以上は、原因を追究した所で仕方がないでしょ?」
JJの言葉は正しく、そして冷静だ。そう分かっていても俺は自分自身の中のどす黒い感情を抑える事が出来なかった。何も言葉を返さずに黙り込んでいると、JJは小さく溜息を零し、片手で癖の強い髪をくしゃくしゃと乱した。
「……やっぱりキャラじゃないわね、こういうのは。こんな時に理屈をこねても意味がないって事はわかってるつもりなんだけど……性分というのは怖いものね」
ちらちらとこちらを見ているのがわかるが無視していると、JJは眉を潜め、俺の肩をちょんちょんと叩きながら唇を尖らせる。
「ねえちょっと……何か言ってよ。そうだねーとか、ウザいとかでもいいからさ。何も言わないっていうのが一番その……気まずいんだけど」
「JJはどうしてそんなに冷静なの?」
「えっ? うーん……そういう家に生まれたからだろうけど……。でも、心のどこかであんたやミユキの事、この世界の事……他人事みたいに思ってるからなんだと思う。私にとってこの世界は所詮ゲームで……確かにあんな事実を突きつけられた後だけど、現実感はなくて……。心此処に在らず。だから平然としていられるのかもしれないわね……」
立ち上がり、風に髪を揺らしながら彼女は寂しげに呟いた。俺が何も気の利いた事を言えずに居ると、彼女は上着のポケットに両手を入れたまま踵を返した。
「……悪かったわね、邪魔して。他の連中には上手く言っておくから、泣くなり自己嫌悪に陥るなり好きなだけしなさい。その代わり……ミユキの前ではしゃんとしてなさいよ。男の子なんだから、ね」
言い残して立ち去るJJ、その背中を一度だけ振り返ってみた。小さな背中は直ぐに見えなくなり、俺は芝生の上に身体を投げ出し、両腕を広げて空を仰ぎ見た。
「わかってるよ。ミユキは俺が守る……絶対に……絶対に、ね……」
~とびこめ! XANADU劇場~
ミ「さあ始まりました第四部! 相変わらずここは私、ミサキちゃん事魔王アスラの独壇場ですよ!」
姫「あの……今それどころじゃないんで……」
ミ「おっ? いや確かにそれどころじゃないみたいだけど、そんな時だからこそミサキちゃんが出てくるべきだと思うんだ! ほら、やっぱりミサキちゃんは死んでなかったんだよ! しかもヒロインからラスボスに昇格だよ!」
姫「それって上がってるんですか? 下がってるんですか?」
ミ「それはわかんないけど、むしろラスボスにしてメインヒロインを兼ねるんだから凄い事じゃない? 見て見て、この金色の派手な鎧! 何かしらのゲートオブ宝物庫とか使いそうだよね! この派手な赤いマントもヒーロー感あるよね!」
姫「ところで、なぜその鎧は弱点むき出しなんですか?」
ミ「わかんない。おっぱい強調したかったんじゃない?」
姫「たしかにおっぱいが強調される鎧ですね」
ミ「いわばおっぱいメイルだと言えるだろうね。そして私はおっぱい魔王だね!」
姫「そんなに爽やかな笑顔で言われても困ってしまいます!」
ミ「この魔物的なコアを破壊されたら死ぬ気がするんだけど、なぜこれを守る気がないのか。その辺はきっとなにかの伏線に違いないからね!」
姫「まあ、あえて描写したからにはそうなんでしょうけど……本当にただおっぱいメイルにしたかっただけじゃないですよね?」
ミ「うーん、どうかなー? ただおっぱいメイルにしたかっただけにしては、私は別に巨乳キャラじゃないからねー」
姫「ところで、魔王のセリフを言っている時はどんな感じなんですか?」
ミ「できるだけキリっとするようにしていますよ?」
姫「魔王になってよかったことは?」
ミ「なんか変な部下がいっぱいできた事かなー! でも武器がカワイくなくなってへこたれる……」
姫「必殺技は?」
ミ「暗黒剣インフェルノブレイバー! 相手は死ぬ!」
JJ「何やってんのあいつら。レイジが泣いてる時に……」
アンヘル「それは心配してるんですか? ツンデレなんですか?」




