自由と意志(3)
――クィリアダリア王国はかつて中央大陸の半分を占めた一大国家であったが、フェーズ1開始時点で既に魔物により滅亡の危機に瀕しており、王都奪還を終え二年の月日で復興を進めたとしてもそれは完全ではなく、現在王国でまともに機能する都市は五つ程しか存在しない。
その中でも特に守りが厚く、魔物の進攻を退ける要塞都市がオルヴェンブルムを取り囲む三つの都市。王都の南に存在するリーベリア。東のマルダクス。そして西のウィンクルムである。南、西、東の要塞都市の内特に重視されたのは西と南、即ちウィンクルムとリーベリアである。
リーベリアはフェーズ2における王都奪還作戦の足掛かりとして使われ、ウィンクルムは先の自由革命軍との戦いに巻き込まれる事になった。勇者連盟が拠点を設置したのはウィンクルムよりも更に西、中央大陸と西大陸との間にある場所で、嘗てはクィリアダリア王国に所属する地方都市として栄えていたが、魔物との戦いで放棄された都市を再利用していた。
現在は勇者連盟を支援する東大陸、南大陸から選抜されたNPCによる兵団が警護についており、この拠点を足掛かりに西方大陸へと進軍。自由革命軍と各地で戦闘を繰り広げていた。レイジ、遠藤、マトイの三名はウィンクルムの傍にログインし、そこから遠藤の精霊クリア・フォーカスに乗って移動してきた。クリア・フォーカスは人間を三人乗せた状態でもおよそ時速40kmほどで移動が可能で、大した時間も取られずに連盟本陣へと辿り着く事が出来た。
「到着っと。いやー、お疲れ様」
自らの精霊の頭をぽんぽんと叩き姿を消させる遠藤。クリア・フォーカスは巨大な蜘蛛の精霊だ。その外見は魔物の特徴を持ち合わせていないとはいえ、何も事情を知らないNPCは見れば大体驚くし怯える。本陣に近づきすぎないうちに徒歩による移動に切り替えたのは無用な争いを避ける為の配慮であった。
嘗てラハンと呼ばれていたこの小さな町は既に廃墟同然であったが、無数のテントや簡易のバリケード等が構築されており、小さな町には収まりきらないほどのNPCの兵士達が集められていた。警備兵は既に事情を聞いていたのかレイジ達を見るなり素通りさせてくれたものの、戦闘に備えたピリピリとした空気、緊張感が伝わってくる。
「すごいな……これ全部勇者連盟のNPCなのかな?」
「ていうか……勇者連盟もNPCの兵隊を利用しているんですね。それを言い出せば私達も同じなんですけど……」
「なにせ勇者は一度に三時間しかログイン出来ないからね。どうしても不在が多くなる以上、自分たちの成果をある程度彼らに守らせる必要がある。そういう意味では勇者連盟も自由革命軍もクィリアダリア王国も同じルールの上でゲームをプレイしているというわけだ」
NPCに国を守らせるのも、NPCに敵を魔物と戦わせるのも、人間と戦わせる事さえも基本的に本質は同じだ。不在の間に何をさせるのか、それに尽きる。勇者の力は絶大だが時間という制約を受ける以上は万能とは程遠い。クィリアダリアにオリヴィアという王が必要であるのもそれが理由である。勇者の不在を埋めるNPCの性能こそ戦局を左右する要素だと言えるだろう。そういう意味で自由革命軍の自由騎士という存在は脅威そのものであった。
勇者と戦えば負けはするだろうが、あの力ならば勇者以外には殆ど負けない。戦力的に勇者連盟に劣る革命軍が互角の戦いを続けているのは、このルールの裏をかく戦略が存在していた。
「それにしいても、あちこちに明らかにNPCじゃない人たちがいるね。こんなに多くの勇者が一堂に会するというのは中々お目にかかれる光景じゃないね」
興味深そうに呟く遠藤。三人は見張りの兵士に言われた通り、本陣の中にある建物にやってきた。元々は酒場か何かだったようで、そこが現在連盟が本部として使っている場所であった。中に入ると複数の勇者が慌しく行き交い、NPCに指示を出している。その中にオリヴィアとクピドの姿を見つけ三人は駆け寄った。
「あ、レイジ様!」
「よかった。無事にここまで辿り着けたんだね」
当然の事だが、レイジ達にとっての“明日”とオリヴィアの“明日”は異なる。故にオリヴィアは先にこの拠点まで護衛を伴って移動を終えていたのである。そのついでに情報収集を終え、誰に説明されるでもなく現状を把握しつつあった。
以前ならばNPCだけによる移動、それも王の移動には細心の注意と大戦力による護衛が必要であった。それそのものは今も変わらないが、フェーズ2までクィリアダリア国土に蔓延っていた魔物の出現率はフェーズ3に入って激減しており、町から町まで移動する間にほぼ間違いなくエンカウントしていたかつての状況に比べると安全性は格段に向上していた。オリヴィア自身がある程度護身の術を身につけた事も、覚醒者の騎士による護衛をつけられるようになったのも、彼女がここまで先行する事をレイジが許可した要因となっていた。
「連盟の方々にはとてもよくしてもらいました。南大陸や東大陸から来た異国の人々からお話を聞けたのもとても勉強になりました。既にここに来てよかったなーという感じです!」
「この子凄いわねぇ。私達の知っているNPCの概念をぶっちぎるくらいの覚醒率だわ。話してると普通に人間なんじゃないかって思えてくるくらいだもの」
「あはは……実は俺も、最近本当に人間なんじゃないかと思えてきてて……」
笑顔で小首を傾げるオリヴィア。アホ面そのものなのだが、彼女からは高い知性を感じる。考え、決断し、答えを模索する力。“生きる力”。それこそが覚醒したNPCが持つ者であり、オリヴィアは全てのNPCの中でも圧倒的な意志の力を獲得しつつあった。クピドにはそれが少々不安でもあったが、今はその問題は棚上げしておくべきだろう。
「マスター達は奥に集めてあるわ。こっちよ」
クピドに案内され酒場の奥にある部屋へと向かう。その小さな部屋には卓を囲んで四人の勇者がレイジ達を待っていた。中には見知った顔もあるが、勇者連盟という一大組織のリーダー格を前に思わず緊張するレイジ。そんなレイジに一人の男が声をかけた。
「おう、お前がクィリアダリアの英雄か。こんな所までわざわざ来てもらっちまってすまねえな。俺がこの勇者連盟のリーダーだ。名前はカイゼル。宜しく頼むぜ」
「あ、はい。レイジです……よ、よろしく」
カイゼルと名乗った男は筋骨隆々の大男であった。先日交戦したブロンという男よりも更に筋肉が張っており、厳つい顔でニンマリと笑顔を作りながら握手を求めてくる。白髪交じりの黒髪からして明らかに年上であり、フレンドリーな挨拶でもどうしても固くなってしまう。そんなレイジの肩をばしばしと叩き、カイゼルは腕を組んで頷いた。
「声が小せぇぞ~? 人間関係は第一印象が大切だ。元気よく、そして愛想よく挨拶! これだけで世の中不思議なくらい上手く行くもんだ。相手が厳ついジジイだろうが、パツキンのチャンネーだろうがやるべき事は一緒だ。そう思うだろ? お前も」
「は、はあ……そう……ですね?」
「だろぉ~? はいっ、そういうわけでもう一度挨拶! 元気よくだ!」
「はっ、はい! クィリアダリアのレイジです! 宜しくお願いします!」
背筋を伸ばして声を上げるレイジ。カイゼルは納得したのかまたニンマリと笑みを作った。それから振り返り、椅子に座ったままのサブマスター達を指差す。
「レイジか。ん~、素直で良さそうな奴じゃねえか。それに比べてウチの連中と来たらどいつもこいつも一癖も二癖もありやがってなぁ。多分ほっとくと挨拶もしやがらねぇと思うんで、面倒だから俺が紹介しちまっていいか?」
苦笑しながら頷くレイジ。カイゼルは頷いて一人ずつ肩を叩いて回る。
「こいつは知ってるんだっけか? 槍使いのタカネだ。うちじゃ四番目に強い。おっかねぇ事に口より遥かに早く手が出る特攻隊長だ。なんだかんだで面倒見はいいんでうちのサブマスターの中ではクピドに続いて人望がある」
「また会ったねえ、レイジ。今日はマトイも一緒かい」
会釈するマトイ。二人は一度刃を交えた仲だ。手が早いのは身を持って体験している。
「で、うちの参謀というか、実質的なマスターであるクピド。オネェ口調の変な奴だが、ちゃんと男じゃなくて女が好きらしいからレイジも安心していいぞ。なぜオネェ口調なのかは俺にもさっぱりわからん。見ての通りのキレ者だ」
「別にいいじゃないのオネェだって。それに私がマスターなんてやれるわけないでしょ? ボスがトップに立っているからこそ、私の命令を皆が聞いてくれるんだから♪」
ウインクして手を振るクピド。つまり先日遭遇した勇者連盟特使の内二名がサブマスターだったという事になる。残るは二人。こちらはレイジも見覚えのない顔ぶれだ。
「こいつはファング。うちで二番目に強い。ぶっちゃけサブマスターという感じの性格じゃねえが、とにかく強いんで誰からもあてにされてる。この間自由騎士三人を相手に一人で撃退したくらいのバケモンだ。ただ基本的に人付き合いは苦手。普通はまずシカトかます」
「……ちっ、めんどくせぇな……」
腕を組んだ姿勢のまま気だるそうに呟くファング。黒髪の青年で、体系はシロウに近い。いかにもリアルで身体を動かしていますという様子で、ぼそぼそと小声で喋るので何を言っているのか聞き取るのが難しい。素肌の上に上着を羽織るという風貌が若干クピドと同じ様だが、こちらはクピドのように趣味という理由ではなく、きちんと戦いに関連付いたものだ。
「ファングだ……。別に覚えなくてもいい」
「よ、よろしく……」
「んで最後はこのヘラヘラした奴。名前はケイオス。うちで三番目に強い。こいつもサブマスターって感じの性格ではないな。しょっちゅうフラっとどっかに居なくなるし、何を考えているのかさ~ぱりわからん。だが強いしクピド並に頭もキレる」
最後の一人はレイジと同じくらいの背格好、年齢の少年であった。白い学生服のような奇妙な格好をしており、癖が強くやたら長い前髪の合間から穏やかな眼差しを向けている。立ち上がったケイオスはわざわざレイジの前に向かい、爽やかな笑顔で握手を求めた。
「ご紹介に預かったケイオスです。君の話はオリヴィアから聞いているよ。救国の英雄レイジ……君とは後でじっくりお話してみたいな」
「えっと、俺はそんな大したもんじゃないけど……よろしくね」
ぎこちない笑顔を浮かべて手を取るレイジ。その握った手を引いてケイオスは距離を詰めると、至近距離でレイジの瞳を覗き込んだ。そうして溜息混じりに微笑む。
「君はとても面白そうだ。もしかしたらこの世界に本当に必要なのは君の様な人間なのかもしれないね。神に選ばれし救世主……そんなものが実在するのだとしたら、だけど」
慌てて身を引くレイジ。ぱっと手を離したケイオスは両手をズボンのポケットに捻じ込む。
「友達になってくれると嬉しいな。だけど私語はまた今度。今日は大事な話をしにきたんだろう? さっ、はじめようか。オリヴィアもそこに座るといい。席は空いているからね」
笑顔のままてきぱきと仕切るケイオス。吐息がかかるほどの距離で誰かと見詰め合ったのはミサキ以来で、なんだか鼓動が早くなってしまう。深く深呼吸をしているその横でマトイがなにやら目を輝かせていたが、遠藤は見なかった事にしてレイジにも伝えなかった。
全員が席に着くといよいよ今後の方針についての相談が始まった。勇者連盟側は既に意向を伝えてあるという事で、その話を吟味した上でレイジ側から話を切り出す事になった。
「まずクィリアダリアとしての今後の対応ですが……まず、革命軍に和平を持ちかけてみるつもりです。ついてはその席に勇者連盟も同席してもらいたいのですが……」
「アホか……。連中が話し合いなんかに乗ってくるわけねぇだろ……バカが」
俯いたままぽつりと辛辣な言葉を呟くファング。しかしそれもその筈、彼はこの中で最も自由騎士と交戦した人間だ。自由騎士がどのような存在なのか、肌で感じ取ってここにいる。
「連中は容赦なく俺らを殺しに掛かってくる……まず話し合いの席に着かせるのは不可能だ」
「向こうが一方的に俺たちを攻撃し、全く話し合いが成立しないというのは俺も戦って理解しています。彼らは何故か勇者をひどく憎んでいるようでしたから……」
「そこまで分かっているのに和平を口にするからには、レイジ君には何か案があるんでしょ?」
ケイオスの言葉に頷く。そうしてレイジは隣に座ったオリヴィアへと目を向けた。
「まず、会談の席に着かせる為に俺達が接触を試みます。だけど彼らを説得するのは俺ではありません。俺たちクィリアダリアの王、オリヴィアがその役割を担います」
「NPCにNPCの説得をさせるって事? なるほどねぇ……考えたじゃない。だけど連中が話を聞くかしら? 連中のNPCに対する知識量はかなりのものよ。彼らはNPCと勇者がどのような関係にあるのか、NPCがどんな習性を持つのか、理解した上で戦略的に攻撃を仕掛けて来る。王という役割を持つオリヴィアを前線に出せば、奴らは間違いなくオリヴィアを捕らえようとしてくるわよ?」
そもそも革命軍はこれまで幾つかの町や村でNPCの拉致と住居の破壊を行っている。これは恐らく軍勢を増やす為、他国のNPCを捕えて周っているのではないかと推測されている。これは最近始まった行動ではなく、恐らくは以前のフェーズから続けられてきた彼らの戦略の一つで、家を焼くという行為も“帰るべき場所を失ったNPCは自然と放浪し新しい住処を探す”という性質を理解した上での行動だと思われる。
「自由革命軍にとってNPCは貴重な戦力よ。国民に対して絶対命令権を持つオリヴィアはそれこそ喉から手が出るほどほしいでしょうね。オリヴィア一人捕まえてしまえば、クィリアダリアという王国を丸ごと奪う事が出来るのだから」
「その危険性は承知の上です。だからこそオリヴィアの命を奪うような真似はしないでしょうし、何よりオリヴィアは万が一捕まったとしても他のNPCや勇者の言い成りにはなりません。彼女は他のNPCより圧倒的に優れた自我が備わっていますから」
その事実はクピドも確認済みだ。確かにオリヴィアが捕まったとしても、それを奪還するための策を打ち出す猶予は幾らでもあるだろう。最悪捕まりそうなオリヴィアを殺してしまうというのも手だ。NPCの犠牲を考慮しなければ、それほどハイリスクな提案ではない。
「相手が話し合いに乗ってないようでしたら、俺達はその時点で和平を諦め全面的に連盟に協力し、共に革命軍を討つとお約束します。だからその前に一度だけチャンスをくれませんか? 誰も傷付かずに被害を最小限に抑えて自体を解決するチャンスを」
真っ直ぐな眼差しで語りかけるレイジ。連盟側にしてみれば和平交渉が成功すれば対魔王戦に備えたこの大切な時期に無用な争いを避け、戦力を温存しつつ体勢を整える事が出来るし、和平が成立しなくともクィリアダリアの支援を受ける事が出来る。どちらに転んでも決して悪い結果にはならない。
「どうする? ボス」
「悪くねぇ話だな。しかしなレイジ。和平交渉をするっつっても、そこには様々な危険が伴う。まあ俺らは強いから自分の身くらいは自分で守れるがな。そこの女王様まで守ってやれるとは限らねえ。そして女王様が敵の手に落ちるような事になれば状況は悪化する可能性が高い。連中の中にはNPCを覚醒させる、或いは操る類の能力を持つ勇者がいるはずだからな」
その可能性にはレイジも行き着いていた。先日交戦した自由騎士ブロンとツァーリ。この二名は明らかに自我を、そして強い感情を持ち合わせていた。時間をかけてゆっくりと覚醒を重ねてきたオリヴィアと同等の知性を備えている可能性が高い。
ブロンとツァーリ以外の兵士も軒並み覚醒済みで、しかもあれだけ無駄のない統率された動きとくれば、大人数を同時にかつ安定して覚醒させる能力を持つか、NPCを操れる能力を持つ勇者がついていると考えるのが妥当だ。
「そもそもNPCでNPCを説得するとは言うが、連中のバックに操る系の勇者がついていた場合、そいつはNPC同士の相談ではなくNPCとNPCを操る外道勇者の話し合いだ。そんなもんで和平が成立すると思えるか? 思えねえよな?」
「その通りです。しかしそうではないかもしれません。やってみなければわからない事に怯えるよりも、やって事実を確認する方が早い……私はそう思うのです」
レイジに代わって答えたのはオリヴィアであった微笑を湛えたまま、しかし毅然とした口調でカイゼルの真正面から言葉を投げかけて行く。
「良い結果を招くのか、悪い結果を招くのか。どちらにせよ私はその結果を見届け、責任を背負う覚悟があります。もしも私の存在が皆さんにとって害となるのであれば……その時は遠慮なく命を刈り取って頂いても構いません」
「ほう……? 操られそうになったら殺せってか?」
驚いた様子のレイジを片手で制しながら頷くオリヴィア。カイゼルは険しい表情でレイジに目を向ける。
「お前んとこの女王はこう言ってるが……レイジ、お前にその覚悟はあるのか? 仮に女王を殺すとすれば、そいつはお前の役割だ。自分のケツを拭く覚悟はあんのか?」
「俺は……」
遠藤に、マトイに、そしてオリヴィアに目を向けるレイジ。それから首を横に振り、カイゼルの気迫に負けぬようにと拳を握り締めて答えた。
「俺には……オリヴィアを殺す覚悟なんてありません」
眉間に皺を寄せるカイゼル。しかしレイジは言葉を続ける。
「ですが……彼女を守り抜く覚悟ならあります。俺は絶対に彼女を犠牲にせず、誰も犠牲にせずに戦い抜いて見せます。それが俺の決めた、俺自身の為の覚悟です」
「言う程簡単じゃねえぞ? 何かを守り通す覚悟ってのはよ」
「確かに俺はまだガキで、迷ってばかりいます。だけど……誰かを犠牲にする覚悟を決める暇があったら、誰も犠牲にしない覚悟を決めた方が遥かにマシです」
「なるほどな……。それがお前の心意気ってわけだ……」
腕を組んで目を瞑るカイゼル。その沈黙に緊張が走る。レイジがごくりと生唾を飲み込みオリヴィアが不安そうにレイジの横顔を見つめる中、カイゼルの肩が僅かに震えた。
「ふ……。むふふ……。わはははははっ!」
突然豪快に笑い出すカイゼル。きょとんとするレイジに男は机を叩いて立ち上がった。
「良く言ったな! 若いくせに中々見込みあるじゃねえか。俺はお前みたいなバカは嫌いじゃねえぞ。お前のその覚悟……買ってやろうじゃないの!」
「そ、それじゃあ……?」
「和平交渉に俺達も協力してやる。とはいえ下の連中から採決をとらにゃならんシステムでな。即決と言うわけにはいかねえが、俺は少なくともお前の決意を信じるぜ」
「あ……ありがとうございます!」
胸に手を当てて喜ぶマトイ。遠藤は肩を竦めて笑みを浮かべた。深々と頭を下げるレイジの隣でオリヴィアも真似をするように頭を下げた。その様子にまたカイゼルは大口を開けて笑う。
「わはは! まあ~、和平交渉の段取りなんかはお前らに任せるぜ? お手並み拝見ってわけだ。お前の言った誰も犠牲にしない覚悟ってやつが上っ面だけじゃないって所を俺達に見せてくれ。夢を語るのはガキなら誰でも出来る。男なら結果を出して見せな。そうだろ?」
連盟の同意が暫定的に得られたとしても、喜ぶにはまだ早すぎる。和平交渉の席に革命軍の代表を引っ張り出さなければならないのだ。その為にはまだ乗り越えるべきハードルが幾つも待ち構えていた。
一先ず会議が終了し解散になった後、レイジ達は酒場の一画にある机を借りて一息ついていた。相変わらず慌しい勇者連盟の邪魔をしないよう、小さく喜びを露にする。
「カイゼルさん、いい人で良かったね! レイジ君もオリヴィアちゃんも凄いなあ……あんな人たちの前で堂々と自分の意見を主張できて。尊敬しちゃうよ」
「レイジ君も随分と堂々としたもんだね。初めて会った頃はもっと頼り無い感じだったけど……流石にそれなりに修羅場を潜ってきただけの事はあるかな?」
マトイと遠藤の言葉に首を横に振るレイジ。彼が目を向けたのは隣で微笑むオリヴィアであった。
「俺は一人じゃ何も決められなかったし、多分考えを止めてしまっていたと思う。俺の背中を押してくれたのはオリヴィア……君なんだ。君が俺に希望を繋いでくれた。感謝してるんだ、すごく」
「えぇっ!? 私なんか別に何もしていませんよ……あわわわ!? そんな頭をあげてくださいレイジ様! レイジ様のようなお方が私なんかに頭を下げてはいけませんよー!?」
感謝を告げるレイジに慌てふためくオリヴィア。四人は和やかな雰囲気で笑い合う。これからの事はともかく、ここまでは上出来だ。少なくとも和平への道はまだ閉ざされていない。連盟が全体の行動を決定する為には投票が必須である。その採決が下されるまでまだ時間があった。具体的にどのようにして革命軍のトップと話をつけるのか、その相談をしようとしていたその時である。陣地内にけたたましく鐘の音が鳴り響いた。
「敵襲! 敵襲ー! 革命軍が攻めてきたぞー!」
NPCの男が警鐘を鳴らしながら走り回る声が聞こえレイジ達は慌てて席を立った。
「警鐘……!? 敵襲ってまさか……本陣を直接攻めてきたのか!?」
「穏やかじゃないね……。ここの戦力ならばすぐすぐやられるような事はないだろうけど……僕達はどうする? レイジ君」
「無論、連盟側を援護します! マトイはオリヴィアと一緒にここで待機して! 俺と遠藤さんは様子を見てくる!」
頷く遠藤とマトイだったが、オリヴィアは首を横に振った。
「お待ち下さいレイジ様。私も共に参ります! 自由騎士という方と直接お話してみたいのです。これは危険な賭けではありますが、彼らと言葉を交える最大の好機でもあります!」
「確かにオリヴィアの言う事も一理あるね。こちらから連中に話をつけに行く為にはどうしても敵陣に飛び込む必要があるが、この場は幸い勇者連盟側の陣地だ。話し合いになるかどうかはさておき、後々の事を考えればリスクは少ないよ」
遠藤とオリヴィアの言う通り、これは確かに好機であった。しかし危険である事には違いない。暫く悩んだ後、レイジは改めて指示を下した。
「……マトイはオリヴィアの護衛をお願い。俺たちの背後について、危険があれば能力を使って離脱してほしい。そうならないよう……俺と遠藤さんで最大限にカバーする」
頷いて見つめるオリヴィアの瞳。少女は真っ直ぐにレイジを見つめ返した。
「信じています、レイジ様」
頷き返すレイジを先頭に四人は酒場を飛び出した。陣地には既に革命軍の尖兵が侵入しており、乱戦状態に陥りつつあった。剣戟と怒号が響く戦場の中へ、レイジは剣を手にして飛び込んで行く……。




