変革(3)
連盟特使との会談翌日。JJは今後の行動について考えながら城内を歩いていた。勇者連盟の出現はよくも悪くもこの国に影響を齎し、次の決断を急かす結果となった。今は思い悩んでいるレイジもその内答えを出すことだろう。そのレイジが出すであろう答えと、その答えごとの今後の対策についてJJは予め考えておかねばならない。それがレイジの決断を支援する事であると彼女は考えていたからだ。
何もかもを予測すると言うと大仰に聞こえるが、実際の所このチームが取れる選択肢は限られている。レイジの性格を考慮すればそれほど難しい事ではないだろう。
そうして一人で歩くJJの進行上、壁にもたれかかって立つ遠藤の姿があった。中庭に面した通路の影に佇み、男は一人で物思いに耽っている様子だ。JJは暫し思案した後、遠藤に向かって歩き始めた。
「……意外だったわ。あんたがこの城に残るだなんて」
急な一言に視線を向ける遠藤。二人は光と影の境目の影側に立ち、降り注ぐ太陽の光を弾いて瑞々しく輝く緑を背景に語り合う。
「勇者連盟の誘いにレイジがどんな答えを出したとしても、あんただけはついていくと思っていたから。思えばあんたにはフェーズ1の段階から、私達とは違う目的があったみたいだしね」
「流石にお見通しだったか。確かに僕の目的を達成する為には勇者連盟に所属するのが手っ取り早いね。実際僕も昨日の段階で彼らについていこうかとも考えていた」
「ならどうしてついていかなかったの?」
「真顔でそんな事訊かれるとおじさんも流石にさびしいなあ。これまで一緒にやってきた仲間じゃないか。そんな仲間を置いて出て行くなんておじさんには出来ないよ」
「……白々しい嘘ね。私、嘘吐きの大人は嫌いだわ」
「こりゃ手厳しい。流石はジョイス一族のご令嬢は嘘を見抜くのがお得意と見える」
驚きに目を丸くするJJ。当然の事だ。彼女は一度だってリアルの事なんて口にした事はなかった。だから遠藤がその事実を知る由は――否、ある。そこでJJは直ぐに可能性を洗い出し、冷や汗を浮かべながらも気持ちを立て直した。
「調べたのね……私の制服から」
「流石はお嬢様学校の明瞭学園だ。それなりに大変だったよ。君が有名人で助かった」
露骨に舌打ちするJJ。確かに彼女はあの学園ではそれなりに名の知れた学生だが、彼女と同等の金持ちも山ほど通学している。それは同時に明瞭学園の警備の厳重さを示し、そして遠藤がそれを潜ってJJの素性を調べられるだけの人物である事を意味していた。
「それで? 何が目的?」
「別に目的はないさ。確かに僕は金持ちから金をせびり取るような輩ではあるよ。そういう仕事だからね。ただね、僕は可愛い女の子からはお金を取らない主義なんだ」
「嘘吐きのフェミニスト気取りなんて冗談にしちゃ下の下ね」
「僕のダンディズムさ。冗談はさておき、僕は本当に君に危害を加えるつもりはないよ」
「ただ、余計な勘ぐりはするなって?」
肩を竦める遠藤。強がってはいるがJJはまだ子供だ。全てが発展途上であり、経験不足である。こういう状況で感情を完全に抑制する事は出来ないし、緊迫した状況で正常に思考を回すのにも慣れていない。遠藤には顔色だけで彼女が何を考えているのか丸分かりだった。
「JJの言う通り、僕にはゲームクリアとは別の目的がある。ただ、それは君が思っているような危険な事ではないんだ。僕はただ、この世界のどこかに居る女の子を捜しているだけでね」
「……人探し? なるほど、だったら確かに連盟に所属した方が懸命ね」
思い返してみれば遠藤は常に行動範囲の拡大、そして拡大された行動範囲内の偵察に労力を割いていた。それが人探しという目的を達成する為の行動だったのなら確かに納得ではある。
「どうしてそれをレイジ達に言おうとしないの? 皆で協力した方が早いでしょうに」
「んー……まあ、個人的な目的だしね。それにその子が本当にこのゲームの中にいるのかどうかもわからないんだ。何もかも不確定すぎて、人に話すには少々躊躇われるだろう?」
「ならどうして私には話したの?」
「JJ、君は僕を警戒しすぎだよ。僕はご覧の通り小心者のただのおっさんさ。君の素性を調べたのも、もしかしたら探し人が君かもしれないと思っての事さ。違う可能性は承知だったけど、僕は今藁にも縋る想いでね。一応、包み隠さず話したのは誠意だと受け取ってもらえると嬉しいんだけどな」
「……誠意? どの面下げてそんなふざけた事言ってるの?」
JJの遠藤を見る目は以前から厳しい物であった。概ね他のメンバーを仲間と認め始めている中で、少女はこの男だけはまだ信用しきれずに居た。遠藤の言動が怪しいからというのもある。別の目的を有しているからというのもある。だが彼を訝しむ最大の理由は、“勘”であった。
ジュリア・ジョイスという少女はコミュニケーション能力が欠如している。その最大の理由は、他人の嘘に非常に敏感であったからだ。世界を股にかける豪商ジョイス一族の娘として生まれた彼女は、幼い頃から各地の社交の場に引っ張りだこであった。そんな彼女が幼心に見たのは、嘘を吐く大人達の引き攣った笑顔の羅列であった。
誰もが本音を隠し、利用し利用されるのがビジネスの世界というものだ。金と利害だけがお互いの絆であり、それは平然と逆転する。それは掌を返すよりも容易い事だ。
強くなければ生き残れないし、強かでなければ痛い目を見る。英才教育を受けて育ったジュリアは繰り返しその事を覚えこまされた。自然と彼女の心は窮屈な物の考えに染まり、嘘を見抜く力が鍛えられていく。だがその途中で彼女はそんな自分を否定してしまった。
歪な社会で生きる為に必死でその邪悪さに寄り添い、自らを歪な形にしなければ安寧を手に入れる事が出来ないというのなら、そんな穏やかさなんて要らない――少女はそう言って、いつしか誰かと真っ直ぐに付き合う事を辞めてしまった。
だからこそわかる。この遠藤という男はこれまでの人生をすべて嘘で埋め尽くしてきたような物だと。彼から感じる性質は、善と悪で言えば悪である。表面上はどんなに優しい言葉を繕っても、おどけて見せても、その本質である闇の部分を塗りつぶす事は決して出来ない。
「これはまた随分と……。同じ事をレイジ君が言えば信頼されるだろうにねぇ」
「あんたとレイジは違うわ。レイジは……バカだもの。どうしようもないくらいバカで、ガキで……真っ直ぐで。あんたは違う。あんたは賢くてずるい、利己的な大人の典型よ」
「……うーん。こんな小さな女の子にそこまで言われてしまうとは……悲しいなぁ。世知辛い世の中だなぁ……うん。だけどまあ、否定も出来ないんだけどね」
少し寂しげに笑いながら前髪をかきあげる遠藤。そうしてJJと向き合い目を細めた。
「君の見立て通り、僕はひょっこり連盟側に亡命するかもしれない。だけど今はまだその時じゃないと思っている。本当さ。もしそうでなかったら、僕は昨日の段階でここにはいないよ」
「……でしょうね。ならここに残っている理由はなんなの?」
「個人的な目標の達成の為と、まあ気分的なとっかかりと……ちょっとした感傷、かな?」
軽く手を振り遠藤は少女に背を向けた。小さくなって城の中に消える男の背中を見送り、JJは深々と息を吐いた。いつの間にかじっとりと嫌な汗をかいていた。両手が小刻みに震えているのが分かる。原因は明白だった。少し“昔の事”を思い出しすぎたのだ。
「……ああ、情けない……っ」
揺れ動く影のような大人達の笑顔。自分を取り囲む無邪気な子供達の悪意。きつく目を瞑って呼吸を整える。誰かと言葉を交わす事は恐ろしい。誰かと想いを交わす事は、もっと。
「変われたと……思ったのにな……」
その場に崩れ落ち、影の中から光を見上げる。まだ誰かと共にいる事が恐ろしい。まだ誰かを信じる事が恐ろしい。猜疑心は臆病さの裏返しだ。少女の思考の速さは活路を切り開く為にあったものではない。ただ逃げ道を模索するためだけに鍛えられたものだから。
強くなりたかった。切実に強くなりたかった。本当は誰かと繋がりたいと、そう心の底から願っていた。変われた気がしたのだ。ミサキと触れ合った時に、レイジと触れ合った時に、仲間達と共に苦難を乗り越えた時に、確かに手が届いた気がしたのに。
悔しい気持ちを奥歯で噛み締め少女は俯く。光の中に飛び込むのはまだ恐ろしく、影は相変わらず居心地が良い。嘘を嫌いながらも嘘に依存する自分。そんな自分をどうしようもなく嫌悪した――。
物思いに耽るレイジが向かった先は城の裏手にある丘、集合墓地であった。二年の歳月で墓地はフェーズ2の時よりも整備が進み、花を手向けにやって来る人も、手向けられるべき死者の数も増えていた。そんな景色を眺めながら草の上に寝転がり青空を見上げる。
傾斜のある草むらには大きな雲が影を落としている。この墓地はレイジの新たな憩いの場所であった。全く景色は違う筈なのに、こうして寝転がっているとダリア村の水車小屋を思い出すのだ。爽やかな空気を吸い込んで深く息を吐くと、状況に反して瞼は重くなってくる。考えなければいけない事はわかっているのだか、思考はどうにもまとまりそうになかった。
「こんにちは、レイジ様」
そんなレイジの顔を覗き込むオリヴィア。レイジは上体を起こそうとするが、オリヴィアはそれを片手で制した。少女はレイジの隣に腰を下ろすと、彼を真似てか草の上に寝転がる。
「うーん、いいお天気で気持ち良いですねー!」
「だね。墓地でこんなにのんびりしてるなんて、俺の世界じゃ考えられないけど……」
「俺の世界、ですか。神様の国には元々墓所があったのですよね?」
「うん。だけど俺の国で墓地っていうと、こう……幽霊が出そうっていうか、ちょっと怖いイメージだったんだよな」
「ゆーれい……? こわい? なぜですか?」
不思議そうに訪ねるオリヴィアにレイジは苦笑を浮かべる。彼女が理解出来ないのも当然だ。この世界に幽霊は愚か、魂だのなんだといった概念も存在していない。
「なんでだろうね。人が死者を恐れるのは、冷静に考えてみると変な話なんだよな」
この世界の墓地にそうした薄気味悪さを一切感じないのは、きっと死者さえも純粋無垢であると信じられるからだろう。勿論、死者に対する恐怖よりそれを弔いたいと願う気持ちのほうが強いというのも理由の一つだ。だがレイジにはこの世界の死者が、例えば生者を恨んで化けて出てくるような事は、どうにも想像出来なかった。
「またレイジ様にもわからない事ですか。世界にはまだ不思議な事が満ち満ちていますね」
「まったくだ。俺たちは身の回りにある当たり前の物に対して鈍感すぎるのかもしれない。その物の成り立ちを紐解けば、もっと本質を理解すれば……違った真実が見えるかもしれないね」
霊を邪悪な存在だというのなら、それは人の邪悪さが成すものでしかない。真に恐れるべきは人間であり、恐怖の矛先をずらして平然としている自分自身なのかもしれない。そんな事を考えていると、いつの間にか身体を起こしたオリヴィアが自分を見ている事に気付いた。
「オリヴィア、今日は暇なの?」
「暇というわけでもありませんが……私の仕事と言えば、この城に常に待機して偉そうにしている事くらいですから。以前のように村の中を走り回って村人のお手伝いをする事も、一緒に農作業をする事も出来ません。仕事と言っても、王様の仕事なんて大したことないんです」
「そうかな? いつでも責任を取れる人間が全体を把握しているのは大事な事だと思うよ。君にしてみれば、じいやや国の人たちがちょいちょい報告に来る事を聞いたり書き留めたりするだけで、面白味はないかもしれないけどね」
「色々なお話を聞けるのは楽しいですよ。でも……やっぱり、私は皆と一緒にお洗濯をしたり、お料理をしたり……そういうのが性にあってるみたいです」
にっこりと微笑むオリヴィア。目を閉じて風を感じるその横顔をレイジは見つめた。
彼女と出会って言葉を交わすようになってからまだ数ヶ月。だがそれはレイジの体感時間での事である。実際のオリヴィアは既に三年近い月日をレイジ達と共に過ごしてきた事になる。オリヴィアは当初と比べれば背も伸び、横顔も随分と大人びた。それがレイジにはなんだか感慨深く、嬉しいような寂しいような……複雑な気持ちであった。
「この国は変わったね。ずっと逞しくなった。君も随分成長して、今にJJも追い抜きそうだ」
「そうですね。私達は変わりました。貴方様が……皆様が変えてくれたからです。その事はいくら感謝してもし足りません。皆さんのご活躍は、きっと永遠に語り継いで見せます!」
「いや、そこまで気合入れなくていいけど……」
「気合は十分ですっ! だから……レイジ様。レイジ様は、私達の事を気にせずに自由に動いて構わないのですよ? 私は……レイジ様の足手纏いになるのだけは……嫌なのです」
悲しげに微笑むオリヴィアにレイジが身体を起こす。少女はレイジを一瞥し、それから広大に広がる街に目を向けた。
「この国は変わりました。ここ一年ほどは魔物の動きも沈静化し、十分に私達だけでもオルヴェンブルムを守れています。周辺都市との連携も整い始め、万全な防衛体制まであと一歩と言った所です。それを実現できたのは、JJ様や遠藤様の指示のお陰なのですが……」
「だけど、いつ何が起こるのかわからないだろ? また双頭の竜みたいな強力な魔物が現れたら、君たちだけじゃひとたまりもないじゃないか」
「確かにそうかもしれません。でも、もう強い魔物は現れないかもしれません。いつ、何が起こるのか……それは誰にもわかりません。それはレイジ様にも同じ事が言えるのではありませんか?」
驚いて俯くレイジ。オリヴィアは身を寄せその手を両手で包み込む。
「レイジ様はこの墓地にミサキ様のお墓を作りませんでしたね。それはレイジ様が、まだこの世界のどこかにミサキ様が生きているとお考えだからではありませんか?」
「それは……」
確かにそうだ。レイジはミサキの墓を作らなかった。理由は……当然、彼女はまだ死んだとは思っていないから。そして今、レイジはミサキの手がかりをこのゲームの中でも探し始めようとしている。オリヴィアの言葉はある意味的を射ていた。
「私は皆さんと出会い、理解しました。永遠の平穏は在り得ないのだと。世界が常に変化していくものならば、絶対の安全などありえません。レイジ様の仰るように、私達は理不尽な脅威により命を落とすかもしれません。しかしだからこそ、死を悲しむ事が出来るからこそ、恐れを抱く事が出来るからこそ、今生きている自分を実感出来るのではないでしょうか」
その言葉は、まるで本当の人間のようで。レイジは何度も少女の言葉を頭の中で噛み締める。
「そしてそれはレイジ様にも同じ事が言えるのではないでしょうか。神にも絶対がないというのなら、レイジ様もまた唐突に命を落とすかもしれません。そうなる前に、せめて今出来る事を……今本当にやりたい事をやっておくべきではありませんか?」
「……俺が……本当にやりたい事……」
俯き考えるレイジ。その手を暖かく包み込んだまま少女は無邪気に笑う。
「私、レイジ様の事が大好きです。レイジ様にはずっとこの国に居てほしい……そう思っています。だけどそれは私のわがままです。神の威光を独り占めしたいだなんて、幾らなんでも通りません。寂しいけど……残念だけど……それは、叶わない夢なのです」
そう語りながら少女はそっと手を離す。柔らかな感触と共に逃げて行く温もりにレイジは思わず顔を上げた。女王は立ち上がり、風を受けながら彼方へと目を向ける。
「私、もう救われる事を当たり前だなんて思いません。誰かが助けてくれるのが常識だなんて思いません。皆で手を取り合って努力して、考えて……そうやって生きていけます。だからレイジ様、自分自身を偽らないで。私達の事よりも、優先すべき願いがあるはずです」
「それは……違うよ。俺は……心配なんだ。オリヴィアの事も、この国の事も……。守るって約束したし、それに……」
「――それは、誰との約束だったのでしょう?」
その言葉にはっとさせられ、レイジは空を見上げた。誰との約束? そんなものは決まっている。ミサキだ。彼女が守ろうとしたものを、今でも頑なに守り続けているだけだ。
「それは本当に、貴方様の願いですか?」
目を瞑り拳を握り締める。自分の願いだと、それが自分の決断だと、数分前までなら胸を張って言えただろう。だが今は迷いが生じている。オリヴィアの言葉は純粋だ。どこまでも透明に胸に染みこんでくる。彼女の悪意のない想いはレイジの胸中に容易く波紋を起こした。少年は目を逸らし続けていたのかもしれない。自分自身の中にある弱さから。
「俺は……」
気付いていた。NPCを助けるのも守るのも、最初にミサキがそう言ったから。その願いを叶える為に、叶えられなくなってしまった彼女の代わりに努めてきた。だがそれは本当の意味でレイジの意志とは呼べない。結局他人の言葉に乗っかったまま、彼女と言葉を交わした時から時間は停止したまま。世界はどんどん変わって行くのに、レイジの心はまだ清算出来ていない。だから今でも罪滅ぼしのように、遺言を守り続けている。
「俺の……本当にしたい事は……」
――ゲームをクリアしたいのか。それともクリア“したくない”のか。
JJの言葉は的を射ている。レイジは自嘲的な笑みを浮かべ、ガックリと肩を落とした。
「俺……変われたと思ったんだ。自分は変わったんだって思ってここまでがむしゃらにやってきたけど……なんて事はない。結局俺、他人の言葉に従ってただけなんだ。美咲の代わりになんて偉そうな事言って建前作って……自分の意志と向き合う事から逃げてたんだ。だけど……だけどっ、しょうがないんだよ! だって美咲がいないんだ! 俺は彼女を守れなかったんだ! 好きな女の子に何もしてやれなかった……! 俺の時間は一歩も前に進んじゃいないし、進めるわけがないんだ! 俺の結論は、自分ひとりじゃ出せないんだから……!」
「だからミサキ様を探しに行くのでしょう? 止まった時間を動かす為に……変革する為に」
俯いているレイジの背後に立ち、オリヴィアは後ろから少年を抱き締めた。頬擦りをしながら何度もレイジの頭を撫でる。そうして耳元で優しく囁くのだ。
「大丈夫……きっと大丈夫です。答えを捜し求める事を諦めなければ、必ず光は見えます。変化を恐れずに、立ち向かっていいんです。レイジ様には出来ます。きっと出来ます! だってレイジ様は、かっこよくて勇気のある、素敵な方ではありませんか」
涙を堪えてレイジは頷いた。オリヴィアの言葉は相変わらず無責任なくらいに前向きだ。しかしその言葉からは心からの信頼を感じる。自分で自分を疑ってしまいそうになる時、そんな誰かの言葉が強く背中を押してくれる事もある。理由も意味も根拠も要らない。ただ傍で誰かが見てくれている、それだけで頑張れる事もある。
「ありがとう、オリヴィア……。俺……ちゃんと考えて答え出すからさ。君の信頼に負けないような、俺なりの立派な答えってやつを。だから……頭撫でるのはそろそろ勘弁して……」
慌てて飛び退くオリヴィア。頭を撫でてもらうのは結構気持ちよかった上に安心も出来たのだが、流石に年下にやられるには恥ずかしすぎた。顔を赤くして苦笑するレイジにオリヴィアは何度も何度も頭を下げ、慌てて謝罪の言葉を並べ連ねるのであった。その時だ。
「オリヴィア様、大変ですじゃー!」
二人に向かって駆け寄る一人の老人。二人は顔を見合わせこちらからも走り出した。
「じいや、何事ですか?」
「ウィンクルムの町から早馬が……! ウィンクルムが、その……制圧されたそうで……!」
「制圧!? 魔物にやられたのか?」
「そ、それがその……襲ってきたのは……同じ人間であると……」
愕然とするレイジ。オリヴィアは落ち着き払った様子でじいやから手紙を受け取ると素早く内容に目を通す。そうして冷や汗を流しつつレイジに目を向けた。
「レイジ様、これは一体……」
「……ウィンクルムなら走って直ぐだ。俺が様子を見てくるから、オリヴィアは城に残ってJJや他の皆にこの事を伝えてくれ。俺は先にウィンクルムへ向かう」
「しかしレイジ様、お一人では危険です!」
レイジは首を横に振り、それから笑みを浮かべて自らの胸を軽く叩いて見せた。
「大丈夫、ダテにシロウと特訓してないよ。無理をするつもりもないしね。じいや、後の事はよろしく!」
虚空に手を翳し光を放ってミミスケを召喚するレイジ。すかさずその耳を鷲づかみにすると、身体に淡い光を帯びて猛然と駆け出した。あっという間に遠ざかるレイジの背中を見送り、オリヴィアは不安げに目を細めるのであった。
「ささ、女王様……こちらへ!」
「何か……胸騒ぎがします。とてもよくない事が起こっているような……胸騒ぎが……」
じいやに手を引かれ城へと戻るオリヴィア。その胸中にはこれまでとは比べ物にならない程の不安が渦巻いていた。これまでの魔物との戦いとは違う。何故かもっと残酷で悲しい戦いになるだろうと、彼女の中に目覚めつつある本能が囁いていた。
~とびこめ! XANADU劇場~
ミ「アンケート設置しました! 懐かしいねー!」
姫「懐かしいんですか?」
ミ「そうだよ。むかーしの小説には大体ついてたんだよね。あの頃は読者様のノリも良くてわけわかんない回答が乱打されたりして面白かったよ!」
姫「ちなみにこの結果は誰が得をするんですか?」
ミ「作者が得をするよ。なんとなーく今後の展開に影響を与えるかもしれないし、ヒロインの座が決定するかもしれないし」
姫「そ、そんなものなのですか……」
ミ「とりあえず第三部が完結した時点でイジろうと思ってるので、それまで気長に回答を待つのさー!」
姫「ところでこれ、何回でも投票していいんですか?」
ミ「うん。同IPからの投票を制限しますか? という設定を、あえて“いいえ”にしてるからね」
姫「不正推奨じゃないですか!?」
ミ「あえて不正する人もいないと思うし、元々投票数が少ないだろうから不正をすれば即効でわかるから、それはそれでネタになるでしょ?」
姫「な、なるほど……」
ミ「というわけで、連投組織投どんとこーい! 全部ミサキちゃんに投票するとよいでしょう!」
姫「よりよい小説作りの為に、ご協力をお願い致します」
ミ「レイジ君の人気と、遠藤さんの人気が個人的には気になるなあ」
姫「私は……クラガノさんの扱いかな?」
ミ「あのくらいの外道はこれまでいっぱいいたじゃない」
姫「いや……過去作品を網羅してる人は、今の読者層にはあまりいないと思いますよ……」
ミ「なるほど。まーだからこそ楽しみではあるんだけどね!」
姫「……ていうか、あのレベルの外道が平然と闊歩していたんですか……」
ミ「うん。東方連合とか、フェンリルとか」




