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XANADU  作者: 神宮寺飛鳥
【三軍会議】
41/123

変革(2)

「……ふうっ。なんだかXANADUにログインするのも久しぶりな気がする」


 ホームポイントであるリア・テイルの一階に降り立ったレイジは軽く身体を伸ばして感覚を確かめる。実際はたった一日だけこの世界を離れていただけなのだが、自分の目の届かぬ場所でこの世界が動いているという事実は常に彼の胸に不安を巣くわせていた。JJや他のメンバーから報告を受け取っていても、“もしも”を思えば気を置いてしまうのだ。


「レイジ」


 背後から声をかけられ振り返ると続々と仲間達がログインしてくる。声をかけたのはJJで、レイジの背中を軽く押して移動を促した。


「大体状況は把握してるんでしょうね?」

「うん。他の勇者のクラン……だっけ? 興味深いね」

「全ての勇者がクラガノやハイネと同じ様な輩だとは言わないけど、危険性を孕んでる事は承知しておきなさい。尤も、彼らからは自分を隠そうとする意志は感じられなかったけど」

「JJが“拒絶”を感じないなら少しはマシかもね。俺もわかってる。自分が責任のある立場だって事は承知してるさ。だから……きちんと話をしてから判断を下したいんだ」


 歩きながら語るレイジの横顔は以前よりも頼もしく見えた。JJは目を瞑りながら微笑む。二人はそうして会議室へと向かい、閉ざされていた扉へと手を伸ばした。

 会議は直ぐに始められた。勇者連盟側の三名、そしてレイジ側も六名が全員出席していた。円卓にそれぞれが腰掛け、最後に遅れて唯一であるNPCの参加者が姿を見せた。


「お待たせしました……というよりは、私の方が皆さんを待っていたんですけどね。それでは全員揃ったようですし、会議を始めましょうか」


 オリヴィア・ハイデルトーク。この国の女王、即ち全権を握る少女である。二年の月日は彼女の身体も大きく成長させたが、未だその風貌は王というよりは姫という言葉が似合う。白いドレス姿のオリヴィアが空いていた席に腰掛けると、いよいよ会談が幕を開けた。


「大まかな話は伝わっていると思うけど……改めて自己紹介させてもらうわね。私達は“勇者連盟”の特使で、私がクピド、そっちのでかい女がタカネ、こっちのぽっちゃりがワタヌキよ」

「俺がこの国を守っている勇者のリーダーで、名前はレイジと言います。宜しくお願いします」

「あら、礼儀正しくていい子そうじゃなーい! 俄然ヤル気出てきちゃったわ♪」


 両手を合わせながらくねくねと身を捩らせるクピド。その言動はコミカルなのだが、どこか鋭さを忘れない強かさがあった。男は笑顔を作り話を進める。


「私達勇者連盟は十二チーム、計四十二名からなる大規模な勇者の一団で、私達はこれを“クラン”と呼んでいるわ。システム上この世界にクランは存在しないけど、オンラインゲームではありがちな括り方よね」

「十二チーム……そんなに他にもチームがあったんですね……」

「私達の活動エリアは東大陸と南大陸が主で、中央に手を伸ばし始めたのがフェーズ3から。西と北の大陸には殆ど手を出していない状態でこれだから、プレイヤーの総数はこの何倍もあったんじゃないかしら? まあ、フェーズ3までに落ちたチームもあるでしょうけどね」


 苦笑を浮かべつつクピドは説明を続ける。

 勇者連盟は、既にフェーズ1の時点でその原型を形成していた。東の大陸でスタートしたフェーズ1にて、第一の試練が訪れるよりも早く結託したチームがあったのだ。協力関係を結んだその二つのチームは最小限の犠牲で第一の試練を乗り切った実績から、フェーズ2に入った直後から仲間を増やす事を最優先とし行動を起こした。

 結果、東大陸における勇者のリタイア率は非常に低く、ほぼ完全な状態で全ての試練を乗り切る事に成功する。無論リタイア者はゼロとは行かなかったが、試練として出現した七体の大型魔物をすべて完全撃破するという目覚しい成果を上げている。

 早い段階でフェーズ2の試練を終えた一行は南大陸へと進出。この南大陸の勇者の生存率は非常に低く、どのチームもてんでバラバラの状態にあった。更に第一、第二フェーズともに取り残してしまった“試練”が闊歩する危険な状態が続いており、勇者連盟の戦力はこの“後始末”に少なくない犠牲を強いられてしまった。南大陸の生き残りを加えても差し引きとしてはマイナスで、低下してしまった戦力の補充と更なる世界の探求を求め、中央大陸に足を伸ばし始めたのがフェーズ3に入ってから。そしてこのクィリアダリア王国にも足を踏み入れる事になった。


「貴方達のチームは無事に試練をクリアしているようね。そうでなかったらこんな穏やかな状態であるはずがないわ」

「試練……つまりボスは、各チーム毎に一体ずつ存在していたんですか?」

「そんな事はないわよ? ボスの脅威度には個体差があったし、一チーム一体という縛りもないわ。これまで倒したボスの中には“群体”だった奴も居るし、“つがい”の奴もいたわね。一チームでは到底倒しようがないバケモノもいれば、いい勝負が出来るバランスの奴もいたわ。ただこいつらは倒さない限りずっとそのエリアに残り、NPCを虐殺し続けるの。ロクに対処できていなかった南大陸のNPCなんか、ほぼ全滅って感じだったわ」


 神妙な面持ちで話を聞くレイジ。もしもあのフェーズ1にて双頭の竜を倒し損ねていたら……あんなバケモノが今でもこの国を闊歩していたとしたら。想像するだけでも恐ろしい。


「貴方達も六人居るって事は、複数のチームが集まって出来てるんでしょ? だったらわかるはずよ。一チームの戦力だけではどうしようもない状況も起こり得るって事がね。ところでまず確認しておきたいんだけど……貴方達はゲームクリアを目指しているチームなのかしら?」


 当たり前のような事を当たり前に訊かれ、レイジは少々困惑した。だがそれは確かに必要な確認事項だと今は実感している。例えばクラガノのように――ゲームクリアよりも別の“目的”を持っているプレイヤーもいるのだ。それどころか何の目的も持たない輩もいるだろう。ゲームという“遊戯”の場で全員が同じ方向性を持つ為にはどうしても同じ目標が必要になる。この場合、ゲームクリアをきちんと目指しているのかどうかと言う事が仲間にするか、仲間にしていいのかという問題において重要視されるわけだ。


「俺達はクリアを目指しています。そしてその質問をするという事は……」

「私達もゲームクリア、即ち魔王の打倒を目指しているわ。つまり同志って事ね♪」


 このゲームのグランドクエストは魔王討伐である。この目標を目指している限り、全てのプレイヤーがある種の協力関係にあると言えるだろう。例えばこの魔王を倒した一人のみがゲームをクリア出来るというのであれば、魔王討伐はプレイヤー同士の壮絶なレース模様を迎える事になるだろう。しかし今の所ロギアの話を聞く限り、このグランドクエストは“誰かが達成すれば全員がクリア”というニュアンスに思える。ならば我先にと魔王を倒す必要もなければ、その為に他プレイヤーを出し抜く必要もない。誰かが倒せばいいのだから、仮に手を組まずに全員がバラバラに魔王討伐を目指したとしても、遠回りな協力関係にあると言えるだろう。


「私達はこの世界についての調査も行っているし、貴方達とは持っている情報量も違っていると思うわ。私達と手を組むのであれば全ての情報は開示するし、戦力を結集させる事はゲーム攻略に多大なメリットを齎すでしょう。決して悪い話じゃないと思うけど、どうかしら?」

「確かに……断る理由が見つからないくらいですね」


 腕を組んだまま考え込むレイジ。しかし首を横に振り、クピドを真っ直ぐに見つめ返す。


「……その結論を出す前に幾つか質問しても構いませんか?」

「どうぞどうぞ。時間はまだたっぷりあるし♪」

「では遠慮なく。まず、勇者連盟という組織の構成についてです。四十人超えのチームで“クラン”を名乗るからには、必要に応じた統率が成されていると思います。つまり間違いなくリーダーはいる。まだるっこしい言い方をしないでずばり言えば、俺が知りたいのは俺達が勇者連盟の傘下に加わった場合、俺達から奪われる権利についてです」


 まさか大人数のチームで、所属員全員に全体の行動を決定するような権利はないはずだ。クランという言葉からはリーダーが決定権を握り、メンバーはそれにある程度従わなければならないというイメージをレイジは持っていた。クピドはその質問は尤もだと頷き、笑顔で答える。


「単刀直入に言うと、もし貴方達が連盟に参加した場合、与えられる物と奪われる物の二種類があると言えるわ。貴方の危惧通り、連盟の傘下に加わる以上ある程度行動は制限されるし、場合によっては貴方達にとって不本意な行動を強要される場合があるわ。これを自由や決定権を奪われたと言えばその通りだけど、集団で一つの目標を達成する為に統率はどうしても必要になるわ。こればっかりは勘弁してもらいたいという所ね」

「……なるほど。それで、与えられる物というのは?」

「“投票権”よ。私達勇者連盟は、有体に言えば民主主義により行動を決定しているの」


 勇者連盟にはトップであるクランマスターの他に、元々各チームを率いていたリーダーの中から選出された、サブマスターという役職が存在している。全体の行動は一人のマスターと四人のサブマスターが協議して案を出すが、この提出された案に同意するか否か、その決定はコモンメンバーを含む全員の投票により下される。これはつまり、役職持ちが暴走し私利私欲の為に組織全体を巻き込むことを防止するシステムである。逆にコモンメンバーからも行動案を出す事は可能で、こちらは一度サブマスターによる協議を経て全体の採決を取るに値すると判断された場合、投票により最終決定を下すというルールになっている。


「……つまり、コモンメンバーの意見でも全体が有意義であると判断すれば通るってわけね。でもサブマスターがグルになって蹴落としたらどうするの?」

「サブマスター自体がコモンメンバーの中から投票で選出されているから、彼らは能力的にも人格的にも人望を集める逸材よ。もしサブマスターに不満がある場合は同じくコモンメンバーによる投票で人材の入れ替えも可能だから、まあ信用してもらうしかないわね」


 JJの質問につらつらと答えるクピド。JJはそのまま次々に質問を投げかける。


「その投票権は所属直後から与えられるものなの?」

「ええ。所属した時点で投票は可能よ」

「つまり、所属した時点で私達の中の誰かがサブマスターに名乗りを上げる事も可能?」

「そうね。ただ、他のメンバーからも信頼されるような人間でなければ投票結果は散々になるでしょうね。そういう意味では共に時間を過ごしていない貴方達は不利だと言えるわ」

「投票時方法と投票期間は?」

「期間はまちまちだけど、開催すると決めたら即開催する事が多いわね。で、その日のログアウトまでに投票から開票まで済ませる為、考える時間はあまり多くないわね。これは細々した決定をする時のやり方で、フェーズごとの全体の動きなどは何日か猶予を持って開催する事もあるわ」

「無効票や投票棄権の扱いは?」

「無効票の場合は、まあ大体は本人に確認を取って出し直させるわ。別にそこまでお堅いもんじゃないしね。棄権の場合は票数に入らないだけ。基本は多数決だから、棄権票に関しては深く考えないわ。その時ログインしてないやつもいるだろうしね」

「つまりログインしていない人間は投票に参加出来ない場合もあると?」

「重要決定の場合は可能な限り全員に事前に連絡を飛ばすわ。だからリアルでも連絡を取れるよう、連絡網に参加する事をオススメしているわね。ログインするかどうかは自己判断かつ自己責任だし、リアルに口を挟む事にもなるから難しい問題だけど」


 口元に手を当て考えるJJ。質問にはすべてクピドが即答したので、矢継ぎ早なやり取りにはついていけない者が続出した。シロウは最早机に頬杖を突いて考える事を放棄していたし、アンヘルは聞いているのか聞いていないのかわからない。マトイはメモを取りながらおろおろしており、タカネは大あくび。ワタヌキは……どこからどのようにして出現させたのか、カツ丼のようなものを食べていた。


「一応私達も色々考えてるから、可能な限り揉め事の起きにくい決定方法を採用していると自負しているわ。自由の権利も失われると言っても、基本的に重要な用件がある時以外は自由行動は許可されているから、そんなに口煩い集団ではないと思ってくれて構わないわ」

「そうみたいですね。確かに悪い話ではない……むしろ良い話だと思います。だから連盟に参加する事は、俺は前向きに考えたいと思っています」


 リーダーであるレイジの発言に注目が集まった。真剣な眼差しで語るレイジにいちいち何か言うような者はおらず、仲間達はレイジの決定に従うような素振りであった。


「ただ一つ条件があります。連盟に参加した場合、このオルヴェンブルムを守る為の防衛戦力を残したいんです。皆さんはNPCの町の扱いについてどう考えているのでしょうか?」


 このレイジの質問には流暢だったクピドの舌も止まってしまった。驚いた様子でタカネに目配せすると、女は同じく困ったように肩を竦めるのであった。


「えーっと、確認なんだけど……レイジ君はもしかしてこのゲームをクリアするまでずっとこの町に残っているつもりなのかしら?」

「あ、いや……そういうつもりではありませんけど……」

「一応、私達のNPCの町に対する扱いだけど……。その時々、最前線とする街は勿論拠点として利用する為に守るけど、それ以外の町に関してはそこまで積極的な防衛はしていないし、いちいち勇者を防衛戦力として残す事もしていないわ。理由はわかるわよね?」


 当然の事だ。そんなのはあまりにも非効率的過ぎる。

 勇者という図抜けた戦力は、すべて“クリア”のために向けられるべきなのだ。そうでなければ突破出来ないバランスなのがXANADUというゲームだ。実際レイジ達とて同じ事だ。これまで通過してきた全ての街を守るだけの戦力は有していない。片っ端から守ろうとすればそれだけ戦力は分散され、肝心のオルヴェンブルムを守れなくなるし、ここを足掛かりにこの世界を探索する事も不可能になる。

 クピドの言っている事はレイジのやっている事と何も変わらない。違いがあるとすればその規模だけだ。勇者連盟は東を起点としているが、現在は中央大陸の南にある街を拠点としている。発足した時拠点としていた東の町は、言い方は悪いが既に“遺棄”していた。南大陸のNPCの都市はほぼ全滅状態で守る程の価値もなく。実りのなくなった街をいちいち再興するような真似もしてこなかった。当然の事だ。あまりにも非効率的すぎる。


「このオルヴェンブルムは、西大陸と北大陸を探索するのに丁度良い足掛かりになるから、暫くの間は活動拠点として使う事になるでしょう。そうなればこの町には防衛戦力が常備されると思うけど……永遠というわけではないわ。西や北に別の拠点を据えれば、この町は放置する事になるでしょうね。そこまでして守り抜くほど価値があるとは思えないわ」

「そう……ですか……」


 クピドは真摯だった。裏表なく、何も隠そうとせずに真っ直ぐに語りかけてくれた。レイジを子ども扱いなんてしていないし、決して格下だとは考えていない。可能な限りレイジの意見も汲むという意志がある……それはレイジにもわかった。わかったからこそ思う。恐らくクピドは、オルヴェンブルムを守り続けると言う事を良しとはしないだろうと。


「不躾な質問になってしまうけれど……レイジ君はこの国に強い愛着があるのかしら?」

「それは……あります。愛着と言うか……その、責任みたいなものを感じています。俺達が居なかったらきっとこの国はここまで持ち直して居なかったでしょう」

「その成果を放棄してしまうのが口惜しい?」

「いいえ。成果じゃないんです。俺は……俺が変えてしまった物に、俺が作ってしまった物に、なんていえばいいのかわかりませんけど……その、正直でなければいけないと思うんです。ここまでしておいてほうっておくなんて、そんな無責任な事、俺には……」

「――無責任ではありませんよ、レイジ様」


 顔を上げるレイジ。視線の先にはこれまで黙っていたオリヴィアの姿があった。少女はいつも通り、何も変わらぬ笑顔でレイジに優しく語りかけている。


「レイジ様は決して無責任な方ではありません。皆さんは私に、私達に、この国に……この世界に、誠実に向き合って下さいました。レイジ様が居たからこそ、この城を取り戻す事が出来たのです。それに感謝こそすれど、何を間違えればお恨み出来ましょうか」

「……オリヴィア……」

「大丈夫、きっと大丈夫です! 私達は自分で自分の身を守る事が出来ます。出来るようになってみせます。皆さんがくれたこの平和を、きっと努力で守り続けてみせます。だから……レイジ様にはもっと大きな物を守っていただきたいのです。勇者様が守るべきはこの街ではなく、この国ですらなく、この世界……なのではありませんか?」


 何も言い返せずに俯くレイジ。一方クピドは非常に興味深そうにオリヴィアの横顔を眺めていた。そこにいるのは確かNPCだったはず。確かにNPCの中に、自意識に目覚める特別な者が居るという情報は連盟も掴んでいた。だがこのNPCは、クピドがこれまで見てきたどのNPCよりもずば抜けている。まるで本物の人間のように語るその姿が、彼の目には少々不気味にさえ見えた。


「クピドさん……ごめんなさい! 今すぐはちょっと決められそうにもありません。ただ多分、俺はこの誘いを……断ると思います。クピドさんの言ってる事はすごく正しいんだって頭ではわかってます。だけど俺には……」

「……いいのいいの! ぜーんぜん気にしないで! クリアを目指しているという意味では私達は味方同士だし、付き合い方は連盟に取り込むことだけじゃないわ。本音を言うと少し残念だけどね。君みたいな真っ直ぐな子、嫌いじゃないから♪」


 笑いながら立ち上がるクピド。それに続いてワタヌキとタカネも席を立つ。二人とも交渉が成立しなかった事は承知しているが、話を聞いてある種の納得を得た様子であった。


「ま、敵同士になるようなことはなさそうだしねえ。いいじゃないかい?」

「皆さんがここで魔物と戦うという事も、巡り巡れば連盟の行動を助けている事になるわけッスからね」

「ただ、まだ気が変わる事はあるかもしれないし、連盟に参加しないにしてもこの街を拠点として使わせてもらう交渉なんかをしたいから、また日を改めて相談に来ても良いかしら?」

「はい。また是非……わざわざ来てもらったのにすみませんでした」


 笑顔で握手を交わし立ち去るクピド。こうして勇者連盟との会談は終了した。会議室にもだらけた空気が広がる中、レイジは仲間達に向き合って頭を下げた。


「ごめん……また勝手に決めて……」

「あ? 今更何言ってんだ。俺は最初っからお前の判断に任せるつもりだったぜ?」

「わたくしも、レイジさんの決定に従うだけでございます」


 サムズアップするシロウ。アンヘルもそれを真似て無表情に親指を立てた。


「私、少し安心しました。レイジ君ならきっとそういう決断をしてくれるって信じてたけど……このオルヴェンブルムの人たちを見捨てるなんて出来ないもんね」


 嬉しそうに頷くマトイ……と、ここまでの反応は上々であった。しかしJJと遠藤は各々困惑したような、苦々しい表情を浮かべている。


「レイジ……私は今の決断、ちょっとどうかと思うわ」

「僕もJJに賛成だねぇ。これから僕達がどのように動いて行くのか、そもそもそこから決定していないわけだけど……ただ、僕達も連盟に所属するのがゲームクリアへの近道だと思う。おじさんはクピドって彼の言い分に実に賛成だったかな」


 厳しい言葉に肩を落とすレイジ。JJは溜息を一つ、席を立つ。


「もう一度よく考えてみなさい。幸い向こうはまだ話を聞いてくれるだろうしね。ただ……レイジ、あんたはこのゲームにおいて何を目的とするのか、それをきちんと考えた方がいいわ」

「何を目的とするのかって……?」

「あんたはこのゲームをクリアしたいの? それとも……クリアしたくないの?」


 怪訝なJJの眼差しはレイジの胸に鋭く突き刺さった。その問いかけはレイジが頭の片隅に追いやっていた考えを現実へと引き戻した気がした。


「そもそも、今のあんたにはもう一つ、この世界の謎を解き明かすという目的があるはずよ。ミサキのこと、忘れたわけじゃないんでしょう? このままこの城に居て世界の謎を解き明かす事が出来ると、そう本気で思ってるの?」


 ぐうの音も出なかった。ただただ黙って俯くレイジにJJはわざとらしく溜息を吐く。


「ま、冷静になって考えて見なさい。どうしても一人じゃ答えが出ないなら……その……まあ、暇な時になら相談に乗ってやってもいいわ。だけどまずは自分一人で考えなさい。最初から誰かの意見をアテにしちゃダメよ。わかった?」

「……うん。ありがとう、JJ。もう少し考えてみるよ」


 頷き返し手を叩くJJ。レイジを一人にしてやれという意味なのだと仲間達はすぐに気付いた。ぞろぞろと会議室を去って行く面々を見送り、レイジは一人で椅子に腰掛ける。


「はあっ、またやっちまった……。どうしようもないな、俺は……」


 額に手を当て溜息を零すレイジ。思い悩む彼の背中をオリヴィアは遠巻きに見つめる。


「レイジ様……」


 少女は胸に手を当て目を伏せた。今の彼女は以前のままの彼女ではない。少女は成長した。だから理解出来てしまった。今彼を苦しめているのは、他ならぬ自分たちなのだと。

 一人で思い悩むレイジの背中はとても小さく見えた。今のオリヴィアにはそんな彼にかける言葉はなかった。ただ距離を置き、この場を立ち去る事でしか彼の力になれない事を少女は恥じた。こんなにも恩を感じている人に何も出来ない己の無力さを、どうしようもなく恨めしく思った。

 そっと音を立てずに扉を閉める。戸を背に少女は憂鬱な瞳を潤ませ、静かに廊下を歩き出した。

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