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XANADU  作者: 神宮寺飛鳥
【三軍会議】
38/123

砂の城(2)

「はふぅ……今日は疲れました」

「お疲れ様でございます。しかし、少しずつモノになってきているのではないでしょうか」

「だったらいいんですけどね……。ありがとう、アンヘル」


 王都オルヴェンブルムの中央に聳える城、リア・テイル。その廊下をマトイとアンヘルは肩を並べて歩いていた。天気の良い午後。現実の町と違ってここでは涼しげな風が心地良く吹き抜けて行く。身体を動かし汗ばんだ肌に何とも清清しく、髪を梳く風の感触に笑みを浮かべながらマトイは柔らかな太陽の日差しに目を向けた。

 世界はフェーズ3へ移行した。それにより何が変わったかというと……それは様々なのだが、正直な所マトイにはその変化をはっきりと感じ取る事は出来なかった。

 フェーズ2からフェーズ3の間に流れた年月はなんと二年。1から2までの間に経過した時間が半年程度であった事を考えると長大な時間だと言える。

 その結果は目に付く形でも現れていた。オルヴェンブルムの崩れた外壁は補強され、現在は魔物の進攻による被害の爪痕は殆どわからなくなっている。城下町は活気に溢れ、人口も爆発的に増大した。それもそのはずで、今はこのクィリアダリアという国でまともに機能している安全な町とはこのオルヴェンブルムしかなく、この王都近辺に国の総人口がほぼ結集しているというかなり特殊な状況になっていた。

 中庭に面した回廊を歩き、二人が向かったのは城内にある資料室であった。このクィリアダリアという国の歴史、これまで世界に起きた事を記録した様々な文献が集められた場所で、専らJJはこの部屋を新たな根城として使っていた。フェーズ3の世界はこれまでの世界と比べ状況が安定している事もあり、フェーズ1の頃に逆戻りしたかのようにJJは引き篭もっている。とはいえただ篭っているだけではなく、今はこの王国の細々とした舵取りは彼女に一任されており、実質的な指導者としての地位を確かな物にしつつあった。


「誰かと思ったら……あんた達か」


 部屋に入ると直ぐに大きな机とその上に山積みになった本が目に付く。本は机の上だけでなく、容赦なく氾濫を起こして部屋の彼方此方を侵食していた。JJはその真ん中にある僅かな空白に椅子を置き、その上にちょこんと腰掛けている。文字通りの本の山に囲まれたその姿は普段よりもさらに小柄に見えた。


「さっきまで特訓してたんだけど、アンヘルも私も能力の使いすぎて……」

「魔力切れでございます」

「ふーん……そう」


 さして興味もなさそうに本に目を向けたまま語るJJ。マトイは部屋を閉め切っているカーテンに近づき、それをそっと開いた。窓を解き放つと爽やかな風が吹き込んできた。


「ちょっと……ページが捲れて鬱陶しいでしょ。勝手に開けないでくれる?」

「ご、ごめんなさい……。でも、せっかくこんなにいい天気だし……と思って……」

「窓を開けなくてもここは日本に比べればそーとー快適よ」


 苦笑を浮かべるマトイ。それから思い出したように手を打った。


「そういえばJJ、レイジ君達と一緒に行かなかったんだね?」

「ええ。今日はちょっと……野暮用があってね」


 この質問自体が既に地雷であった。JJは深く溜息を吐き、不機嫌そうに眉間を右手で揉んだ。なぜJJがそんな調子なのかわからないので、マトイは冷や汗を流しつつ苦笑する。


「みんなは一度会った事があるんだよね? その……オフ会的な」

「そうね。フェーズ2が開始した直後だから、もう一ヵ月半くらい前かしら」

「いいなぁ……関東近辺の人達は集まるのも簡単で羨ましい」

「東北に住んでるんだっけ? 自分の町、あんまり好きじゃないの?」

「……そうかもね。好きになりたいなってずっと思ってるんだけど……あんまりいい思い出がなくて。逃げ出したいなって考えて育ったから、嫌いというか……苦手なのかも」


 小さな窓の向こうに広がる城下町を見下ろしながらマトイは呟く。そんな彼女の過去についてJJは言及しなかった。した所でどうなるわけでもないし、そもそも大して興味もなかった。


「ふと思ったのでございますが……今日は女性だけしか集まっていませんね」

「あ、本当だ。なんだか珍しいですね……女子会という奴なんでしょうか」

「ハッ、女子会ねぇ……」

「うぅ……どうしてJJはそうやって邪悪な笑い方をするんですか……」

「女子会だの女子力だの、そういう単語には反吐が出るのよ。群れなければ生きていけない雑魚共が好き好みそうな言葉だわ。自意識を持たない社会構造の底辺共が……」


 肩を竦めながら失笑するJJ。まといはがっくりと俯きながら首を横にふった。


「もう……すぐそうやって穿った見方するんだから……」

「JJは集団行動が致命的に苦手でございますから、止むを得ない事でございます」

「アンヘルさんも言いすぎです……。そういえば……えっと、フェーズ1にはミサキさんって方がいらっしゃったんですよね? アンヘルさんから聞きましたけど……。レイジ君達はそのミサキさんの妹さんと会ってるんですよね。どんな方なんでしょうか……」

「そっか、マトイはミサキと会った事がなかったのね」


 本を閉じ考え込むJJ。それから悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「ふぅん。マトイ、そのミサキの妹って奴が気になるのね。レイジが大好きだったミサキの妹だもの、気になるのはわからないでもないわ」

「え? ど、どういう意味かな?」

「あんた、レイジの事が好きで私達にくっついてきたんじゃないの?」

「ちっ、違います! あ……違わないですけど、そうじゃないですっ!」


 身を乗り出して全力否定するも、それが少々失礼であると思いなおして微妙な中間地点を取ったマトイ。その様子にJJは口元を抑えて笑みを浮かべる。


「惚れっぽそうだものね、マトイは。見るからに処女ですって感じだし」

「しょっ……JJ……前々から思っていたんだけど……ちょっとJJは口が悪すぎないかな? 私もあの時は朦朧としてたけど、クラガノさんを罵った声なんか聞いてるこっちが卒倒しそうなくらいだったよ。とても女子中学生が言うセリフじゃないような……」


 一応そういう自覚はJJにもあった。しかしあんまり訂正する気はなかったので、ぽけーっと本に目を向けたまま欠伸をしたりしていた。

 JJは昔からインターネットが心の友であった。ネット上には素性がわからないのをいい事に過激な言葉が常に飛び交っている。そう言う物を見て育ったものだから、上品なのは外面だけで、素の喋り方はわりと凄惨な状態であった。


「色々な口が悪い女の子を見てきたけど、JJほど過激なのは見たことがないよ」

「それはマトイが世間知らずなだけでしょ? このくらい普通よ、普通」

「そうかなぁ……絶対そんな事ないと思うけどなぁ……」


 引き攣った笑みのまま振り返るマトイ。視線の先ではアンヘルがいつも通りの無表情で二人を見ていた。もしかして会話の内容に引いているのかと危惧したが、こくりと首を僅かに擡げたその様子からは一切の邪気を感じられなかった。要するに、別に何も考えていない“いつものアンヘル”であった。


「そういえば、我らが女王様はどうしたのかしら?」

「確か、お昼寝の最中だったかと」


 思い出したように呟くJJにアンヘルが答える。彼女らの言う女王と言えば、このクィリアダリア王国の女王、オリヴィア・ハイデルトーク様の事である。がしかし、オリヴィアは二年が経過した現在でものほほんとした性格のままで、何故かこの二年の経過により“よく寝る子”というわけのわからない設定が追加されており、暇さえあればその辺に転がって眠っていたりした。そういう威厳を破滅させかねない行いを封じるため、最近では定期的な昼寝を推奨している。今は丁度一日に二度ある昼寝の時間だった。


「寝る子は育つというけど……オリヴィアちゃん、二年でかなり大きくなったよね。ひょっとしたらJJと同じくらい……いや、もしかしたらそれ以上かも?」

「元々育ち盛りと言う事もあったんでしょうけどね……あとまだ身長は抜かれてないわよ」

「JJはオリヴィアと一生懸命背比べしていましたからね」

「余計な事言うな!」


 アンヘルの一声にJJが吼えた。そこで会話は小休止。JJは改めて口を開いた。


「……まあ、あんなのが女王でも誰も謀反を企てない安全な国だから仕方ないといえば仕方ないんだけどね。ある意味、この状況は国家の腐敗そのものだと思うけど……」

「そういえば、この国は今JJが細かく動かしているんだったよね?」

「……そうだとも言えるし、そうではないとも言えるわ。そもそもこの国自体、動かす必要性があるのかというと疑問だし……それが正しいのかと言うもう一つの問題もあるわ」


 首をかしげるマトイ。JJは軽く腕を回し、それから溜息混じりに席を立った。そのまま椅子を引き摺って窓辺に移動すると、そこにあらためてちょこんと腰掛けた。


「キリもいい所だったし、たまにはこの世界の話でもしてやるか……。思えばマトイは途中参加という事もあって、あんまり国についての話は知らなかったわね」

「あ、うん。でもこの世界の話って……?」


 マトイはフェーズ1ではクラガノのチームで活動していた。クラガノはその時この世界の成り立ちについて、調べはせどもマトイに語り聞かせるような事はしなかった。フェーズ2は世界についての理解を深めるような状況ではなかったので、結局のところマトイの知識はフェーズ1のままであると言って良い。そんな彼女にとって、分らない事の方が多いくらいなのだ。


「えっと……じゃあ、質問してもいいかな?」

「いいわよ。その代わり肩を揉みなさい」

「肩を……? JJ、若いのに……」

「うっさい、いいから黙って揉みなさいよ。リフレッシュしたいんだから。アンヘルはなんかお茶とか甘い物とか持ってきて。あんたらの好きな女子会ってやつよ」


 くくくと笑って靴を脱ぎ、JJは椅子の上で胡坐をかいた。お世辞にもお行儀の良い姿勢とは言えなかったが、言った所でどうせ聞いてもらえないのでマトイは指摘を諦めた。


「うわっ、JJの肩……固いね……」

「厳密にはそこは肩凝りではなく首凝りなんだけどね……んっ。それで、なんだっけ?」

「うん。まず、この国って今JJが動かしてるんだよね?」

「あー、それね。うーん……まあその考え方で大体あってるけど……その説明をするためにはまずこの国の社会構造について説明する必要があるわね」


 そう言ってJJは精霊を召喚した。一枚のカードに即座にイラストを念写する。


「まず、私達勇者が存在しない場合の社会構造は非常に簡素なもので、オリヴィアという王が一人存在し、それ以外の国民は全てただの国民に過ぎないという感じなの。もっと極端な事を言うと、この国にはドーンと一番上に女王が居て、そのほか国の運営に関わる役職は一つもなく、行き成り王以外の全ての人間は農民だとか、そういう感じになっているわ」

「えっ!? そ、そんなに大雑把なんですか……? でも、じいやさんとかはどうなんです?」

「じいやは確かに農民ではないけど、王の下の人間であり、権限はノーマルの村人Aとか村人Bと変わらないわ。仕事内容が少し違うだけね。他にも確かに鍛冶師のズール爺さんとか、兵士Aとか役職が違う人間はいるけど、全員が王直下の部下という扱いなのよ」


 つまり、この国のヒエラルキーは驚くべき事に王とそれ以外という二段しか存在していない事になる。勇者が加わった所で基本的にはこの二段に変化が起こるわけではなく、王の上に神の使徒である勇者という階がドカっと乗っかるだけの三段構造に過ぎない。


「つまりこういう事。勇者は王を含めたあらゆるNPCに命令出来る。王は王以外のNPC全てに命令出来ると。そしてこれは絶対的に不可逆であり、例えば国民が一揆を企てて王を打倒しようだなんて考える事は在り得ないし、王がNPCを倒して自分が神の使徒にとって代わろうなんて考えを抱く事はないの。今の所は、ね」


 最後に一言付け加えた言葉こそ彼女の判断を困らせる要員であったが、今はさて置く。


「私は今、王以外の全てに命令する権利を持つオリヴィアの相談役として振る舞い、時に指示を出しているわ。王を操っているわけだからそういう意味においては私が国を動かしているのも同然ね。だけど国民から見れば王であるオリヴィアが命令を出していると、そういう風に見えているはずよ。で、どんな事を指示しているかと言うと……大雑把に分けて三つ」


 デッキからカードを三枚引き、背後で肩を揉むマトイにも見えるように翳す。


「まず一つ目が“把握”よ。この国には国民や国土の状況を把握し記録するという風習が存在していないの。だからこの町に何人くらい人間がいるのかとか、町にどれくらいの数NPCの店が出ているのかとか、国の実体を把握するための指示が必要だった」

「でも、この書庫のように国の記録は時々残ってるよね?」

「この資料室にある文献は、すべて先王ペルサーシュが直筆で残した物よ。そしてあくまでもペルサーシュの主観により記録された物だから……要するに資料というよりは日記みたいなものね。今すべてと言ったけど、そうとも言い切れない部分もあって……まあこのへんはキリがないからまた後で話すわ」


 ともかく、と一息吐き。


「これから魔物と戦って行くにせよ国を守って行くにせよ、NPCが何をしていて何が出来るのかという事は理解しておかなければならない。だから色々調査したりしなければいけないんだけど、そういう役職が存在していない。だから次に出した指示は“選定”ってわけ」


 国を運営して行く上で必要そうな人間、王の特務を請け負うに値する性能を持ったNPCを選定し、このリア・テイル城に抱え込む事。そうしなければ新しく何かを始める事は出来ない。


「本当は“内閣”みたいな組織を作りたいんだけど、今の段階でそれを実行に移す事はまだ難しいというか、出来ないわけじゃないけどやるべきかどうかは議論の余地がある。だからとりあえず使えそうな人間を選別して、特務隊という職業を作ったわけ」

「でも、言われて見るとどうして国を司る機関が存在しないんだろう? どんなに古い王国だって、ゲームの中のファンタジーの国にだって、国家機関は存在しているよね?」

「そうね。まあさっきの話にも少し戻るんだけど、そもそも国家機関が必要ないといえばないのよ。この国は王が一人いて、ただそれだけでほぼ永遠の平和が約束されているから」


 そもそも、なぜ人間が組織を必要とするのか? それは極端な話、人間が人間だからという答えになる。もう少し細かく言えば、人間が意志を持つ生き物だから……である。


「そもそも国家機関ってなんだと思う?」

「え? それは、えーと……政治を司る為の……えっと……偉い人の集まり……?」

「政治を司る為かどうかはわからないけど、少なくとも偉い人の集まりである事は確かね。ここからはちょっと私の私的な感想も混じった話になるから、ネタだと思って聞いてほしいんだけど……そもそも人間が社会を形成するのは、その方が色々と得だからなのよ」


 肩をもまれながら目を瞑るJJ。そうしてつらつらと少女は語りだした。

 社会とは、人間が生活して行く上で必要として形成するコミュニティである。だが本当に生活して行くだけを求めるのならば、例えばその日一日暮らす分の水や食料があり、寝床があればそれだけでも事足りる。しかし人間はそれだけでは満足出来ない。なぜならば人間には様々な欲が存在するからだ。社会とは言い換えれば孤独では満たされない人間の欲を満たす為に人々が競い合うためのステージでもある。


「人間には三大欲求という物があって。食欲、睡眠欲、性欲と……まあ大雑把に言えばこれが生命維持の為にある必要最低限の欲だと言えるわね。人間は食べないと死ぬし、寝ないと死ぬし、セックスをしなければ子孫を残す事が出来ないから、種全体で考えればやっぱり死ぬ。だからこの三つはどーしても満たさなければいけないもので、ここから更に人間は様々な欲を発揮して行く。それは考え方にもよるけど、要は生きる上で必要最低限ではない欲……即ち罪の元であると言える。七つの大罪なんてメジャーな所よね」


 即ち、“傲慢”、“嫉妬”、“憤怒”、“怠惰”、“強欲”、“暴食”、“色欲”。これらは本来人間が持っている基礎的な欲求を派生させ、更に追求したものだと言えるのではないか。


「人間はただ生きているだけでは満足出来ないから、色々な欲を持ち罪を成す。これらは本来人間一人一人が制御すべき事だけど、人間はどうにも自制を利かせられない生き物なのよ。なぜか? それは人間が高い知能……“知性”を持っているからよ」


 欲とは想像性、高度な思考から去来するものだ。もし人間が何も余計な思考をする事がない生き物だとしたら、これらの欲望も生まれ出でる事は永遠になかっただろう。


「人間は賢いからこそ罪を抱く。そして賢いからこそそれを制御しようと考える事も出来る。実際に高い知性を持っている事は悪い事ばかりではないわ。欲を持つからこそ人は進化してきた。世界を発展させてきた。犠牲にした物や間違いも星の数だけど、失った分くらいは何かを得てきたはずよ」

「え、っと……ちょっとまって? これ、何の話だったっけ?」

「せっかちね。つまり人間は高い知性を持つからこそ社会を必要とするって事よ」


 人が“よりよく”という言葉を忘れてしまえば、高度な社会形成は不要となる。それこそ家族単位で暮らし、本能的に群れを成す程度で済むだろう。この話が“なぜこのゲームには国家組織が存在しないのか”という疑問の答えでもある。


「つまり国家組織が存在しないのは、存在する必要がないからよ」


 この世界に生きるNPCは人間のように見えて人間ではない。それはゲームとリアルという差異だけに留まる言葉ではない。

 彼らは本当に基本的な欲求しか持って居ないのだ。即ち罪を抱かぬ命。彼らは毎日とりあえず食べていけるだけの食料と暖かく寝られるだけの場所があれば大満足だし、仮にその両方が与えられなかったとしても何も考えずただ死ぬだけだ。


「この国は、国なんて大仰な名乗りを上げておきながら、蓋を上げてみれば超巨大な自給自足生活を続けている個人がなぜか密集しているだけの不思議な地帯に過ぎないのよ」

「えーと……でも……それって凄く不便だよね……?」

「彼らにはそもそも世界の現状を不便だとかどーだとか考える頭がないのよ。何故王に絶対服従なのかと言えば、“そういう設定になってるから”としか言いようがないし、何故王がいるのかと言えば“そういう設定になってるから”なの。だから王の下が全員自給自足生活民みたいなわけのわからない状態で普通に成立しちゃうのよ」

「でも、町には色々なお店がありますし……全員自給自足ってわけではないよね?」

「自給自足というのは言葉のあやで……要するに彼らは自分の欲を全部自分自身で賄えてしまうし、それ以上を求めようと考えない。他人から奪おうとしないから一切の殺人が存在せず、より与えられたいと願う事すらないから魔物に襲われようが文句一つ言わずに死ぬ。身近な人間を失っても悲しむことすらない。そういうわけよ」

「な、なんだかわかったようなわからないような……でも、しっちゃかめっちゃかですね」

「しっちゃかめっちゃかだって事だけわかれば上等よ。この国は国とは名ばかりの玩具みたいな世界なのよ。中二病を患った学生が一昼夜で作り上げたペラペラのライトノベルの設定みたいにね。気持ち悪いったらありゃしない」

「でも、ゲームだから当然なんじゃ……」

「そうね。ゲームだから当然かもね。だけどそうとも言い切れないのが厄介なのよね……」


 溜息を漏らすJJ。そこにタイミングよくアンヘルが顔を出した。手にしたトレイの上にはティーカップとスポンジケーキのようなもの、それからビスケットのようなものが並んでいる。両方淡白な味わいなのだが、一緒に持って来たジャムをつけて食べると上等な菓子になった。


「お待たせしたのでございます」

「待ってました。ふう……少し一気に話して疲れちゃった。続きはお茶と一緒にしましょう」


 JJの提案に頷くマトイ。アンヘルと協力し机の上を片付けた少女は、JJが座ったままの椅子をずりずりと引き摺って机に向かうのであった。

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