笹坂美咲(3)
美咲の母が経営しているというスナックは、飲み屋の犇く歓楽街の裏通りにあった。小さな看板が出ているのを見逃せば誰も気付かないような静かな通りに並んだ店の中の一つで、俺やシロウはともかく、深雪には随分と似合わない雰囲気の場所だった。
「こりゃ俺らがついてきて正解だったな。酔っ払いに絡まれたりナンパでもされたら面倒な事になってたろーぜ」
「だね。シロウが居れば安心だけど」
あの強さはゲームの中だけだとはわかっているが、恐らくシロウは現実でも何かしらの格闘技を学んでいる。そうとしか思えない動きだし、こと戦闘に関して言えば本当に天才的なのだ。あの勘の鋭さやセンスは俺にはゲームの中でも真似出来そうもない。
さて、いよいよ後は店に入るだけという状態なのだが、深雪は先ほどから扉の前に立ち尽くしたままで動く気配がなかった。今日一日彼女についていて与えられた印象はとにかくてきぱきとしたものだったが、今の彼女は弱弱しく、歳相応の少女のように小さな背中を丸めていた。
「深雪……どうしたの?」
「……なんでもありません。少し心の準備をしていただけです」
「実の母親なんだろ? 何をビビる事があんだよ。堂々としてりゃいいんだ、堂々とな」
「わかったような事を言わないでください……」
「ああ、わかんねーな。俺には親なんかいなかったしよ。親子関係って奴は俺にとっちゃとんと縁のねぇ物だった。だけど血のつながりが深いって事くらいは知ってる。話して聞かせて、ちゃんと触れられるんだ。ならどうであれ十分じゃねぇか」
さらっとシロウは自分の過去のさわりを聞かせてくれた。その内容はそれなりに衝撃的だったが、本人はまるで気にしている様子はなかった。これまでの人生ですっかり割り切っているのだろう。笑顔を浮かべたまま、深雪の肩を優しく叩いた。
「……勝手な人ですね」
そう愚痴りながらも深雪は扉を開いた。俺たちも彼女に続いて店の中に入る。外観はもろに昭和のスナックという感じだったが、内装はシックで落ち着いた雰囲気だった。客の数は決して多くない。お喋りをしている客もひとりもいない。それぞれ一人で足を運んで酒を飲んでいるだけという雰囲気で、隠れ家という言葉を思い起こさせた。
「いらっしゃい……って、あんた……深雪?」
「……お久しぶりです」
笹坂姉妹の母親はショートカットの美人だった。店の雰囲気に合わせているのか、タイトなスーツを着込んでいる。親子は店の入り口で対面し、それから俺達へと目を向けた。
「どういう風の吹き回しかしら? それに後ろの二人はお友達?」
「あ、はい。織原礼司と言います。こっちは淀川清四郎です。えっと、厳密には深雪さんの友達というわけではなくて……美咲さんの知り合いです。彼女の事についてお話を聞きたくて来ました。お店の事は深雪さんに聞いて案内してもらったんです」
説明しながらちらりと横目に深雪を確認する。これまで饒舌にはきはきと話していた深雪だが、先の“お久しぶりです”という他人行儀な挨拶を最後に固く口を閉ざしてしまっていた。このままでは埒があかないと思い、僭越ながら説明を代行させてもらったわけだ。
「美咲の、ね……」
彼女は露骨に俺達を訝しむような目を向けてくるが、怯むわけにはいかない。
「美咲さんは二ヶ月も音信不通になっています。何か手がかりをご存じないでしょうか?」
「さあ……。あの子は自由奔放な子だったし、私には何もわからないわ」
まるで興味もなさそうに目を逸らし呟く。何もわからないって……母親なんじゃないのか? 確かに美咲は一人暮らしをしていたようだから一緒に生活していたわけではないのだろうが……この反応は少しおかしい気がする。
「失礼ですが、美咲さんの失踪についてご存知なかったのですか?」
「知ってたわよ。だけど私にはどうしようもない事だわ」
「どうしようもないって……そんな」
「それより、見ての通り営業中なの。子供の相手をしている場合じゃないのよ。悪いんだけど、もう帰ってくれるかしら?」
思わずカチンと来て言い返しそうになったその瞬間、背後からシロウが俺の肩を叩いた。それからけろりとした様子で店内を眺めて笑う。
「結構いい雰囲気の店じゃねーか。俺はとりあえずウイスキーロックで頼む。こいつらにはソフトドリンクと適当にツマミでも出してやってくれ」
同時に振り返る俺と深雪。シロウはまるで遠藤さんみたいにウインクして笑った。
「俺は二十一歳、ちゃんと酒が飲める歳だぜ? 客が注文してるんだ、門前払いはねーだろ」
肩を竦める美咲の母。シロウのお陰で無事何事もなく俺達は来店を許可された。だがそれは親子としてでも娘の友人としての対応でもなく、あくまでも客として、であったが。
奥のテーブル席について一息つく。もしあそこで無闇に言い返して相手を刺激していたら速攻で追い出されていたかもしれない。シロウが機転を利かせてくれて助かった。
「ありがとうシロウ……ごめん、また熱くなるところだった」
「気にすんなよ。お前が美咲大好きっ子なのは知ってらぁ。あんな言い方されりゃムカっ腹立つのは当然だ。むしろ俺はダチの為に怒れる奴は好きだぜ?」
サムズアップして笑うシロウに苦笑を返す。やっぱりなんだかんだ言って俺はまだまだ子供だ。シロウは二十一歳……俺より四つも年上なのか。そりゃ、大人だよな。悔しいけど……。
程なくして注文通りウイスキーとソフトドリンク……烏龍茶が二つ出てきた。本日何杯目の烏龍茶だろうか……なんて事を考えつつミックスナッツに手を伸ばす。深雪は……すっかり俯いて元気をなくしてしまった様子だった。つい先ほどまであんなに気丈そうに振舞っていたのに、今はまるで……そう、シロウの言う通り、子犬のようになってしまっている。
「深雪……その、大丈夫?」
「……ええ。別に気にしてなんかいませんよ。あの人がああいう人だっていうのは知っていましたから……最初から期待なんてしていませんでした」
それは……嘘だ。もしも最初から何も期待していなかったならそんな顔はしない。店に入るのを躊躇ったりしない。母親を目の前にして何も言えなくなったりしない。
「でも改めて確認出来て良かったです。私達姉妹の事なんか、あの人は何も考えていないんだって……。姉さんが失踪したのにあんな態度で……本当、正気を疑いますよ……。あんな女の血が私の中にも流れていると思うと……悔しくて……」
胸の痛みを抑えるように自らの胸元を強く掴む深雪。汗ばんだシャツに食い込んだ爪先が痛々しく見えた。俺はかけるべき言葉を見失い、シロウは小さく息を吐いた。
「で、どうすんだ? もう一回くらいアタックしてみっか? 何か話すかもしれねーぞ」
「無駄ですよ……どうせ何を言っても……。私の事が嫌いなんですから、知ってたって情報なんか話すわけがありません。姉さんのことだって、どうせ居なくなってせいせいしたと思っているんですから……」
「それは……ちょっと言いすぎじゃないか?」
「あなたに……何がわかるんですか……っ」
きつく目を瞑り俯く深雪。消え入りそうな掠れた声はどうにも物悲しい。どんな言葉をかければ彼女の胸に届くのだろう? 今の俺には……わからなかった。
それから沈黙の時間が続いたが、結局深雪はもう母に顔を向けようとはしなかった。何も手がかりを得られないまま立ち去る俺達を母親は事務的に対応した。あくまで客として、である。
少しずつ夜が更けて行く。歓楽街を出て駅へ向かう間も深雪は終始無言を貫いた。明らかに落ち込んだ彼女の背中にかけるべき言葉はなく、俺達もまたその沈黙を守る事に手を貸した。駅につくと深雪は一度だけ振り返り、爛々と煌く町を切なげな瞳で見つめていた。
「……そういえば、頼子さんは? メールの返信はあった?」
「あ……忘れていました。えっと……来ていますね。ちょっと電話してきます」
離れて行く深雪を見送りながら俺は自分の無力さを噛み締めていた。勿論、笹坂一家の問題に口出しするのはお門違いだと分かっている。だけど美咲は実際にいなくて、彼女がいない事を悲しんでいる人達が沢山いて、それなのに母親は眉一つ動かさないなんて……そんな事があるのか? 遥々娘が会いに来たっていうのに挨拶一つなく、笑顔一つ向けずに追い返すなんて……そんな事が許されるのか?
ぎゅっと拳を握り締める。そんな俺の隣でシロウが小さく溜息を吐いた。
「……レイジ。お前が何をどう考えようとそりゃお前の勝手だ。俺は止めやしねぇ。だがな、一個だけ忠告させてくれ」
シロウは相変わらずなんでもないような顔で、ポケットから煙草を取り出す。
「お前はいい奴だ。皆に優しくしようとする。皆の痛みを受け止めようとする。だけどなレイジ、この世の中には俺達にはどうにもできねぇ悲劇が掃いて捨てる程あるんだ。うんざりしちまうけどな……。それを全部抱え込むのはよせ。お前自身が潰されちまうぞ」
「……シロウは……親がいないんだっけ?」
「あー。まあ最初からいなかったわけじゃねえけどな。途中から居なくなった。だから昔から深雪みてーな目をした奴を何人も見てきた。そう言う奴らは決まって誰かを恨み、世間を恨み、大人を恨み……そして何よりも自分を恨んでる。乗り越えるためには誰かの力が必要な時もあるが、確定的に自分を変える瞬間は、自分自身で手繰り寄せるしかねーんだ」
「俺には美咲を……深雪を救えないって言いたいんだね」
「お前の性格はわかってるつもりだ。止めても無駄だっていうのは承知の上。だが時々でいい、思い出してくれ。何もかもを救おうとする事が、時に誰かを傷つける事もあると」
そう語ったシロウの横顔は、いつだったか見た美咲の横顔に似ていた。過去の後悔を俺に打ち明けてくれた時、美咲は丁度こんな顔をしていた。どこか遠くを懐かしむような、苦い記憶を咀嚼するような……切なくて、自嘲的で、そして優しい笑顔だった。
「へっ、俺みてーなクズが何言ったって説得力なんかねーけどな。悪いな、うぜー事言ってよ」
「いや……ありがとう。俺の事考えてくれてる証拠だもんね。嬉しいよ」
紫煙を吐き出しながらシロウは笑った。いつも通り、ちょっとアホそうな笑顔だ。だけど何と無く今は……彼の背負っている物の片鱗に触れた気がして、いつもと違う風に見えた。
「頼子さんと連絡が取れました。これから会ってくれるそうです。自宅で待っているそうなので、急いで向かいましょう」
もう深雪は元通りだった。痛みを噛み潰したような表情はしていない。この僅かな時間で気持ちを立て直せたという事が、俺にはむしろ気になって仕方がなかった。
多分、彼女は慣れているのだ。だから直ぐにスイッチを切り替えるように自分の心を諌める事が出来る。それは凄い事だと思う。だけどなんだか……。
「……悲しいよ……」
美咲もそうだったのだろうか。苦しみや哀しみを隠して、笑顔でいてくれたのだろうか。
改めて思った。俺は皆の事を何もわかっていないのだと。上澄みばかりを見て、わかった気になっていただけだ。そんな彼らの事を全部理解したいと、もしも苦痛を抱えているのなら少しでも楽にしてあげたいと思う自分がいる。そんな自分に先ほどシロウが言った言葉が何度も響き、繰り返し繰り返し俺の頭の中でその言葉の重さがこだまし続けていた。
もやもやした気持ちのまま向かったのはまた別の町。頼子さんなる人物を頼って足を運んだのは俗に言う一等地の高級マンションというやつであった。とにかくでかい。三人して何度も深雪のスマホとマンションを交互に眺め、顔を見合わせた。
「ホントにここであってんのかよ……」
「ええ、まあ……住所はここで間違いないはずですが……」
「とりあえず……行ってみる?」
マンションの入り口はロックがかかっていて、まず部屋に入る事すら出来なかった。仕方なく部屋番号を押し、呼びかけて待つ事数秒。明るい声がスピーカーから聞こえて来た。
『はいはーい、どちら様ですかぁー?』
どこのなまりかわからないが、ともあれ全く訛りを隠す気配のない応答。深雪が声をかけると、漸く入り口を閉ざしていた扉が開いてくれた。
『おぉー、サキやんの妹たんねぇー。きーとるきーとる! そんじゃま、ずずいっとあがってきんしゃーい。お部屋で待ってるよーん』
ちょっと聞いた事のない感じの喋り方で、三人して戸惑う。ともあれ会って話してみないことにはどうにも進展しない。俺達は覚悟を決めてマンションに乗り込んだ。
「ミサキのアパートとは大違いだなオイ……」
「すんげぇ金持ちなんだろうね……羨ましいよ……」
そんな感想をぽつぽつ語りつつエレベーターで四階へ。言われたとおりの部屋に向かいチャイムを鳴らすと、待っていましたと言わんばかりに勢い良く扉が開いた。
「ウェルカ~ム! サキやんの妹たーん! ……おっ!? 男連れとは聞いてなかったでー、しかも二人……」
姿を見せたのはジャージ姿の女性だった。当然のようにノーメイクで髪はぼさぼさ、なんでそれをあえて身につけたのか問い質したくなるほどいかにもな黒縁メガネをかけている。この人が頼子さんか……と考えていると、彼女は俺とシロウを指差して真顔で言った。
「……ジブンらホモなん?」
「「 違うわっ! 」」
「うはっ、声そろっとるー! かわええ! やっぱホモなんやないのー!」
「「 だから、違うって言ってんだろ!? 」」
二人して必死に否定するが頼子さんはニヤニヤしていて全然聞いてくれない。埒が空かないと判断したのか、深雪が大げさに咳払いをして見せた。
「二人がホモかどうかは別にどうでも構いませんが、二人とも協力者です。出来れば一緒にお話を聞かせていただきたいのですが、無理なら外につまみ出して頂いて結構です」
俺達はやり場のない感情を発露するかのようにその場でじたばたした。何もしていないのに、こんな理不尽な扱いがあって良いのだろうか。
「あー、かまんかまん! レッツカマーン! 三名様、ごらいてーん!」
このテンションについていける気が全くしない。頼子さんは眞鍋さんの言っていた通り、かなりわけのわからない感じの人であった……。
部屋はマンションの外観通り広々としていて内装も小奇麗であった。しかし一歩足を踏み入れればそこはもう完全にオタクの部屋であり、あっちこっちにポスターが貼られ、フィギュアやなんだかよくわからない玩具が散乱しており、とにかくゴミなんだかゴミじゃないんだかわからないものだらけで足の踏み場もない。困惑する俺達を他所に頼子さんは器用にジャングルを横断し、冷蔵庫から冷えたコーラを三本振舞ってくれた。
「ささ、駆けつけ一杯ってな! いやーしかいサキやんの妹たんかわえぇな~! ガチJKやん、ピッチピチやで! ちょっとぺろぺろしても構わんか?」
「いや……えっと……やめてください……」
「冗談や冗談! ミサやんはぺろぺろさしてくれたけどな!」
……頼子さんに“ぺろぺろ”される三咲……。少し、想像してしまった。
「わははー! そんでなんやっけ? ザナドゥの事やっけ?」
「はい。何かご存知ないでしょうか?」
「ご存知やでー、なにせサキやんを誘ったのがウチやからな。ナベちんとサキやん、そんでウチと。まあ三人で応募したんや。そしたらサキやんだけが当選してなー。悔しくてその日は涙ちょちょぎれるところやったわー」
……頼子さんの話は何度も横道にそれ、その度しっちゃかめっちゃかになったので、とりあえず要点を纏めてみる事にした。
まずザナドゥのテスターには美咲、頼子さん、眞鍋さんの友達三人で応募したという事。その中で当選したのは美咲だけであったという事。それから興味深い話も聞く事が出来た。
ザナドゥをプレイしてみたくて仕方がなかったらしい頼子さんは、一度美咲のHMDを借りてプレイしようとした事があったらしい。しかしその時は結局ダイブ装置が起動せず、ゲームをプレイする事は出来なかったという。
ゲームを諦めた頼子さんの興味は直ぐに別のゲームに移っていったらしいが、その後もちょいちょいザナドゥに関する情報は収集していたらしい。その結果……。
「ほい。これ知り合いから譲ってもらったんやー」
ガラクタの山から取り出したのはあのHMD一式であった。中身を確認してみたが恐らく本物だろう。ただどうやらインストールはまだ行っていないらしかった。
「なんかサキやんの話聞いたらログイン地点が最初ランダムやったってゆーから、こら途中参加してもサキやんと合流すんの大変やなー、しんどいなー……って思っとったら、同人誌作るので忙しくなってしもて。正に“つんどく”状態やったな!」
「このHMD、誰から譲ってもらったんですか?」
「んっ? ネットの知り合いやけど……まー色々と恩着せたり金掴ましたりしてな」
ただ、古くから交友関係のある同人仲間だというので、一応信用は出来るらしい。そんな話を聞きながらHMDを調べていると、俺達が持っている物とは違う点が幾つか散見された。HDM自体のデザインも少し違うが、何より同封されていた説明書きが違う。
「これ……セカンドテスター向けのHMDだ」
XANADUというゲームは、これまでに二回既にテストが行われている。俺の記憶が正しければ、一次、二次のテストがそれぞれ俺たちがログインする前に行われているはずだ。だから俺達はサードテスター。このHMDは二次のテスター、つまりセカンドテスター向けである。
「これを持っとった奴はヘタレでなぁ。おふざけで応募したまではよかったんやけど、実物が届いてそらまあビビったらしいで。そんで結局一度も箱も開けずにって感じやな。つーか、このゲームがどうしたん? 美咲の失踪となんか関係あるんか?」
「関係あるかどうかは……まだわからないんですが……」
胡坐をかいたまま不思議そうに首を擡げる頼子さん。結局の所手がかりらしい手がかりもなかった。ここで捜査は行き詰まりか……と、そんな事を考えていた時である。
「――頼子さん。このゲーム機、私に譲ってくれませんか?」
しれっと深雪がそんな事を言いながらHDMに手を伸ばした。俺は慌ててそれを引っ手繰り、深雪の手の届かないようにと頭上に担ぎ上げた。
「駄目だって! 自分が何言ってるのかわかってるのか!?」
「たかがゲームじゃないですか。礼司さんや清四郎さんもやっているんでしょう?」
「やってるけど、危険なゲームかもしれないんだよ!? 何が起こるかわからないんだ!」
「しかし、実際にプレイしてみなければ姉さんの足跡を辿る事は最早不可能です。ゲームがこの一件に関わっているだとすれば、自分の目で確かめてみなければ……」
「駄目ったら駄目だってば! とにかく駄目! 俺は絶対反対だからな!」
不満そうに俺を見つめる深雪。だけどこれだけは譲れない。もし深雪まで巻き込んで、それでまた取り返しのつかないことになったら……俺は自分で自分を許せなくなる。
「なんや、随分ガチな感じやな。もうちょい詳しく説明してくれるか?」
ここに来てようやく俺達の心境を察したのか、頼子さんが少しだけ真面目な様子で聞いてきた。俺はしっかりとHMDが深雪の手に届くことがないように抱えたまま、頼子さんにこれまでの経緯を説明するのであった。
~とびこめ! XANADU劇場~
ミ「第二回目でーす! 笹坂美咲です! メインヒロインです!」
姫「えっと……本編はすごくシリアスな流れで、ご家族とか登場しているようですが……」
ミ「それでも私がヒロインさ! そんなわけで、今回はゲストとしてマッチ棒ことシロウ君を呼んでございます!」
シロウ(以下シ)「誰がマッチ棒だ……意味わかんねーぞ」
ミ「まあまあ。ところでシロウ君ってなんか女の子にトラウマでもあるの?」
シ「いきなりだなオイ」
ミ「だって私にも全然興味なさそうだったし……JJや姫様にも反応しないからロリコンでもないし。あんなに可愛い深雪ちゃんにも無反応だし。もしかしてホモなの?」
シ「ホモじゃねえから! なんでお前ら事ある毎に俺をホモ扱いしたがるんだ!?」
ミ「だってレイジ君とか遠藤さんと仲いいじゃない」
シ「男同士なんだからある程度仲が深まるのは当然だろがクソが」
ミ「レイジ君とは特に仲良しみたいだし」
シ「何度か修羅場も潜ってるからだボケが」
姫「あのう……ホモってなんですか?」
ミ「……」
シ「……」
ミ「ホモっていうのはね……」
シ「やめろ!!」
*小休止*
ミ「祝! 三十万文字突破ー!」
姫「すごい更新ペースですよね。ちょっと頭おかしいんじゃないかって疑ってしまいますよね」
シ「何気にすげえ事言ったな今……」
ミ「三十万文字といえば、ディアノイアの三分の一にも満たないんだけどね!」
シ「確か予定では全六章だったよな。そろそろ折り返し地点に入るわけだが、ちゃんと話纏まるのか?」
ミ「それは書いてみないとわかんないよー。現時点で大筋はともかく、細かい部分は何度も変更入ってるからね」
姫「これからもこつこつ頑張っていきましょう! 頑張る限りはきっと大丈夫です!」
ミ「出たー、無根拠かつ無垢な笑顔!」
シ「そういや本編でお前ん家しっちゃかめっちゃかだけどよ、なんかコメントねえのか?」
ミ「特にないです」
姫「え!?」
ミ「その内本編でやるだろうからねー。なーんにも言えないわけですよ」
姫「それもそうですね……」
ミ「なんか色々面白そうな計画があがってるけど、それについてもなーんにも言えないわけですよ」
シ「あ? 何か隠してることがあるのか?」
ミ「ありますけどー、まだ秘密です! とりあえず今は本編を進めないとね! それでは今回はこの辺りで終了でーす!」
姫「それではまた次回ー!」
姫「それで、ホモってなんなのでしょうか?」
ミ「それはね……」
シ「やめろっつってんだろ!?」




