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XANADU  作者: 神宮寺飛鳥
【王都奪還】
25/123

NPC殺し(2)

 王都奪還作戦を翌日に控えた段階になっても、俺に対する疑いは解けていなかった。むしろ状況は悪化の一途を辿っているように思えた。

 俺の事を信用しなくなった面々がいるのも問題だが、しかし彼らもまた俺が犯人だと断定しきれたわけではなかった。NPC殺しの真犯人探しが終ったわけではなく、疑心暗鬼な状況はどこまでも拡散して行く。

 シロウは俺を擁護する立場に立ってくれたが、彼の性格上理論立てて俺の無罪を証明する事は出来そうにもなかった。むしろ俺を庇う言動のせいで他のメンバーとの衝突が増え、議論がただの喧嘩へ成り下がってしまうと、最早まともな進展さえ望めない。


「結局レイジが犯人じゃねぇっつーならよぉ、誰が犯人なんだぁ? アンヘルか? 遠藤か?」

「てめぇが一番怪しいっつってんだよ! ハイネ、てめえがレイジをハメたんだろ!?」

「なーんで俺がそんな事する必要があんだよ? 証拠はあんのかよ、証拠は!」

「……いい加減にしなさい! 今はそんな事で争ってる場合じゃないの! 王都奪還はスピードが命なのよ! 広がっている戦線をすぐに纏めなおさなければダリア村だって危ないし、前線基地の維持で消耗するだけなの! あんた達にはそんな事もわからないの!?」


 机を叩いて叫ぶJJの声も皆には届かない。俺はと言えば……すっかり発言権を失い、無意味な話し合いを端で眺めている事しか出来なかった。

 結局ろくに段取りも決まらないまま、その場はクラガノさんが何とか纏める事に成功した。次のリーダーはまだ決まっていなかったが、この流れならばクラガノさんに決まりで間違いないだろう。彼は話の最期にみんなに向かってこう言った。


「オルヴェンブルムを占拠している敵は恐らく黒騎士の戦力くらいでしょう。奴らは確かに強いが、双頭の竜ほどではない。今の戦力なら十二分に奪還は可能です。今は前向きにやるべき事を終らせ、今後の事は終った後にじっくりと相談しましょう。いいですね?」


 こうしてお話はおしまい。俺たちは明日の決戦に向けて散り散りになっていった。勿論俺には監視と称してアンヘルがついたままだが、この数日間大人しくしていたお陰で監視そのものはかなり軽くなりつつあった。今更俺一人が何かした所で変わるような状況でもないと、クラガノさんたちもたかを括っているのかもしれない。


「レイジさんの仰ったように調べてみましたが……申し訳御座いません」

「いや……いいんだ。仕方ない事だよ。ありがとう、アンヘル」


 頭を下げるアンヘルに首を横に振りながら微笑みかけた。結局タイムリミットまでに俺の努力は実らなかった。こうなってしまった以上仕方ない。後は俺に出来る事を出来る限り努力する……ただそれだけだ。

 屋根裏部屋の椅子の上に腰掛けて窓の向こうを見やる。光を取り入れる為だけの小さな穴の向こうには綺麗な星空が広がっていた。静かな夜だった。何も出来なかった自分の無力さを噛み締めながらきつく目を瞑る。俺は……一体何をやっていたんだろう。

 美咲の代わりにリーダーになって、皆を引っ張っていこうって……そう覚悟したはずだった。なのに現実はどうだ? むしろみんなの輪を乱してしまっている。こんなのがリーダーだなんて笑い話にもならない。俺は結局、美咲の期待に応えられる器じゃなかったのか。


「レイジさんは……このままこうして拘束されたままなのでしょうか?」

「……わからない。双頭の竜ほどの敵が出ないっていうのなら、俺の力は必要ないかもしれない。そうなれば、シロウやハイネが敵を倒して……俺の出番はないかもしれないね」

「そうでございましたか。それは……残念です」


 アンヘルへと目を向ける。彼女は部屋の隅で小さく膝を抱えていた。その様子がまるでいじけた子供のようで、見た目はどう考えても大人なのに……そのギャップに少し笑ってしまう。


「俺の事、残念だって思ってくれてるんだね」

「はい。貴方様が居なくなっては……雑談の相手がいなくなってしまいますから」


 それは以前俺が彼女に言った言葉だ。まだそう遠くない日のやり取りなのに、既に懐かしい。


「レイジ様は今、何をしていらっしゃったのですか?」

「空を……見ていたんだよ。星を……ね」

「空に……何かあるのですか?」

「何もないよ。特に意味はないんだ。俺の行動の全てに意味なんかない。ただなんとなく……気の赴くままに行動しているだけなんだ」


 なんとなく、あの日の焼き直しのような会話。それがなぜか心を落ち着かせる。アンヘルの声は透き通る水のようだった。ひんやりと心地良く、焦りと苛立ちに苛まれた心を癒してくれる。こんな時なのに傍に誰かが居てくれる……それだけでとても心強かった。


「あの日……美咲が居なくなった日から、俺はがむしゃらにやってきたんだ。考えてる余裕なんかなかった。いつも心の片隅には罪悪感があって……どうして俺じゃなくて美咲がって、そればっかり考えてた。だから彼女の分までやらなきゃって……」


 この掌の中に確かに掴んだつもりだったのだ。覚悟も、想いも、強さも力も……。だけど借り物のそれは簡単に俺の掌の中から零れてしまった。当たり前の事だ。美咲のようにと言うのは口先ばかりで、誰よりも彼女の事をわかっていたつもりなのに、何も出来ちゃいなかった。

 間違いは俺の嘘が招いた。あの時最初から本当の事を語るべきだったんだ。今でもあの場の判断として、あの嘘は間違いではなかったと信じている。だけど……美咲ならきっと、そんな打算的な事は何も考えなかっただろう。誰かから信頼を得る為には、まず自分の方が相手を信頼する事……それが大切で、そして唯一の冴えたやり方だったって、俺は知っていたのに。


「バカだよな……。何が美咲の想いを継ぐだ。何がリーダーだ。俺はバカだ。やっぱりただの背伸びしてるだけのガキだったんだ。誰も悪くない……悪いのは俺だったんだ……」

「……確かに……レイジさんは、背伸びをしていたのかもしれませんね」


 自嘲していた俺に彼女はそっと囁くように告げる。そして小さな星明りに手を伸ばした。


「自分に無い物を、ここにありえないものを手に入れようと望むのは命の性でございます。人は誰しも自分以外のどこかにある何かを探し、追い求めている……。わたくしも同じ事です。そしてレイジさんも追いかけていた。ミサキさんという眩い星の光を」


 何も掴まないままで手を下ろし、アンヘルは静かに瞼を閉じる。


「掴めないのなら、届かないのなら、自分の中にそれがないというのなら……そのままでも良かったのではないでしょうか? 貴方様は貴方様のままで、貴方様らしく……ミサキさんに負けぬように真っ直ぐであればよかったのです。リーダーであるという事も、強くある事も、曲がらぬ覚悟を抱く事も必要ではあったかもしれません。しかし……大切なのはそこではなく……。レイジさん、貴方様がどれだけ貴方様らしく光を追えたのかではないでしょうか?」


 アンヘルは立ち上がり、そして俺の目の前に立った。背の高い女性だ。身長は俺と同じくらいあるだろうか。銀色の美しい髪を月明かりが照らし、まるで水面のように光を弾いている。金色の瞳は見つめていると吸い込まれそうで、俺は思わず息を吐いた。


「――貴方様の持つ光は、ミサキさんの光とは違うのです。貴方様はその光を、自分自身が持つ光を、ただ真っ直ぐに……素直に受け入れれば良かったのです」

「俺は……美咲とは違う……か……」

「世界は光を正しく抱く者にこそ栄光を与えるでしょう。そしてその輝きと祝福を得た者こそ、真なる勇者……世界の“救世主”に相応しい。わたくしは……レイジさん。あなたこそ、その光を得るに相応しい方だと、そう思っているのございます」


 そこまで語った後、彼女はゆっくりと首を振りこう付け加えた。


「いいえ……そう、信じたいのです。それこそが、わたくしが信じなかったミサキさんに対する罪滅ぼし……ささやかな懺悔……なのですから」


 アンヘルの言っている事は相変わらずで、正直よくわからなかった。ただなんとなく俺を励ましてくれているのだという事だけはわかった。

 俺を信じてくれている人がいる。勇気付けてくれる人がいる。自分らしくていいのだと、そう言ってくれる人が居る。“仲間”がいる。これ以上に幸せな事なんてあるだろうか。


「俺ってほんと、ヘタレだな。いつも女の人に励まされてばかりだ」

「……大丈夫、きっと大丈夫。そう信じましょう」


 その言い方がまるで姫様みたいでまた笑ってしまった。アンヘルは確かに何を考えているのかよくわからないやつだ。実際こうして言葉を交わしてみても正直わけがわからない。だけど……ほんの少し、出会ったばかりの彼女とは違う気がした。

 それは多分姫様のお陰だったり、俺の力もあったり……シロウや遠藤さんやJJ、そして美咲……みんなとのふれあいの中で生まれた変化なのだと思う。俺は……そう信じたい。

 穏やかな空気に浸っていられたのはそこまでだった。どたばたと階段を駆け上がってくる足音に何事かと構えていると、飛び込んで来たのは姫様であった。随分慌てていたのだろう、肩を上下させながら俺に駆け寄ってくる。


「レイジ様……! レイジ様! 大変なんです!」

「お、おぉう……レイジ様ですけど……どうしたの?」

「ケイトちゃんが……ケイトちゃんが!」


 その言葉だけでピンときた。ピンときて……しまった。椅子を吹っ飛ばすように立ち上がり、そのまま姫様の肩を掴む。


「まさか……ケイトちゃんが……!?」

「あいたーっ!? レイジ様、お手手がもげてしまいますよぅ!?」

「ごっ、ごめん力入れすぎた……それで、ケイトちゃんの身に何かあったの!?」

「ケイトちゃんには何もなかったのですが……その……ケイトちゃんのおばあちゃんが……」


 俺がこうしてここで足止めを食らっている間にも村人の失踪事件は続いていたのだ。結局俺は何も出来ないまま……約束すると言ったのに。俺がなんとかするって言ったのに。今度はケイトちゃんの親しい人がいなくなってしまった。


「それで……彼女はなんて?」

「その……レイジ様の状況も説明しました。そしたら……えっと……これを」


 姫様が差し出したのは青い果実だ。今の俺にはわかる。これがクナの実だという事も、すっぱい梨のような味をしているという事も、あの村では今や高価な食べ物だという事も。


「頑張って下さい、応援してますって……そう言ってました」


 実を受け取り肩を落とす。彼女は俺を……こんな俺を今でも信じてくれているのか。大切な人がいなくなってしまったのに……その上で俺を応援してくれているのか。

 俺は何も出来なかったのに。俺は……だったら俺はどうすればよかったんだ? もっとちゃんと……無罪を主張すべきだった? 俺の選択は……間違っていたのか?


「レイジさんがここに居たのに事件が続いているのなら、つまりレイジさんが犯人ではないという事でございます。しかし……誰も知らないNPCからの報告が説得力を持つか……」


 アンヘルの言う通りだ。犯人は俺じゃない。わかっていた事だ。だったら他に犯人がいて、そいつは平然とNPCを狩り続けている……それもわかっていた事なのに。


「……くそっ! 何をやってたんだ俺は……!」


 リーダーとか協調性とか、そんな事ばっかり気にしてるからこうなったんだ。俺にはもっと何か出来る事があったはずなのに……そのチャンスをみすみす手放してしまった。


「レイジ様……」

「なんとかしなきゃいけないってわかってたのに……何も出来なかった! だけど俺一人じゃ何も出来ないんだよ! 俺はシロウみたいに強くないし、JJみたいに頭も良くないし……俺一人で何かを変える事なんて……!」


 いや……それでよかったんじゃないのか?

 俺は何も出来ない。一人じゃ無罪を証明出来ない。だったらもっと……素直に喚けばよかったんじゃないのか? 変に達観して引き篭もってるからこんな事になったんだ。これじゃあ全部犯人の思い通りじゃないか……。


「もっと早く……アンヘルに相談しておけばよかったよ。こんな事に今更になって気付いたって……何の意味もない。俺はまた……救えなかったんだ」

「レイジさん、それは違うのでありんす。それは……」

「……わかってる。わかってるけど……今はほっといてくれ」


 顔を見合わせる姫様とアンヘル。二人はそれ以上俺に何も言おうとはしなかった。

 俯いたまま無力を噛み締め椅子に腰を下ろす。こうして前日の夜は最悪な形で更けていった。

 そして――。




 王都オルヴェンブルム奪還作戦は開始された。

 オルヴェンブルムは城塞都市だ。その構造は大まかに三層に分かれている。

 まず外周を覆う八メートルの城壁と、その内側に広がる城下町。城下町の中央は円形の水路によって分断されており、これが第二層。そしてその内側、小高くなった中央部分に三メートルの城壁によって囲まれた王城が存在している。

 俺達が侵入経路に使うのは、嘗て双頭の竜が進行する際に作ったルートだ。街の北西に回り混み、外壁が崩れている場所から突入。幸い道は王城まで突き崩されているものをそのまま使う事が出来た。戦力は大まかに二分され、城下町の制圧と王城の制圧をそれぞれ分担する。

 城下町には下級の魔物が大量に潜伏している事が確認されているが、王城に関しては敵の存在が未知数であった。結局マトイが偵察に参加しなかった為、わかるのは遠目に確認出来るような事だけだったのだ。

 偵察を代わりに受け持ったのは遠藤さんで、迷彩の能力と壁を登れる精霊の性能を使って城下町までは調べる事が出来たが、あの迷彩は長時間使えない為成果はそこまでとなった。

 ……話を戻そう。まず、城下町の殲滅を担当するのはJJ、クラガノさん、遠藤さんの三名。これに選りすぐりのNPCの部隊が投入される。JJとクラガノさんは戦闘タイプではないが、NPCに指示を出したり援護するのには向いている。NPCの戦力に関しても割とばかにならない事は前回で証明済みだし、今回は更に装備を強化し訓練も積ませ、事前に部隊編成も完了している。JJ曰く、やらせればそれなりにやれるとの目算であった。

 さて、残りは俺、アンヘル、シロウ、ハイネ、マトイの五人。こちらは城の内部に潜んでいると思われる敵を担当する。仮にボスクラスの敵が存在するとすれば出現するのはここだと予測されていた。それを思えば妥当な配置だと言えた。つまり城下町殲滅チームは強敵との戦闘を想定していない時間稼ぎ編成なのだ。こちらのパーティーが王座を奪還してしまえば、向こうに加勢して殲滅を進めればいい。


『こちらJJ、聞こえてるわね? 作戦開始よ。あんた達は道中の敵を片付けつつ双頭の竜が作ったルートを進軍。速攻で王座を奪還して』

「言われなくてもわかってるっつーの……野郎共、俺についてきな!」


 外壁には巨大な穴が空けられていた。これだけ巨大な壁もあの竜にしてみればただの破壊対象に過ぎなかったのだろう。勢いよく先陣を切って飛び込むシロウ、それを俺達は追いかける。


「ったく、勝手に仕切りやがって……ウゼェんだよ……!」


 舌打ちしつつ鎌を取り出すハイネ。その禍々しいデザインを拝見するのはこれが始めてだった。既に交戦中のシロウに駆け寄り、跳躍から一撃で大型の魔物を切り伏せて見せた。


「すご……ハイネもやっぱり完全なバトルタイプか。マトイさんとアンヘルは後からついてきて。“通信機”、落とさないようにね!」


 腰から下げた剣を抜きながら二人に声をかける。しかしマトイの反応は芳しくなかった。なんというか……返事がぎこちないのだ。当然と言えば当然。俺はもう考えすぎない事にした。

 通信機というのは遠藤さんの精霊が発生させる“子機”の事だ。彼の精霊、“クリア・フォーカス”には通信能力が備わっている。“親機”であるフォーカス本体を仲介し、フォーカスの足から作られた最大八機の子機を通信でつなぐことができた。つまり今マトイは小型の蜘蛛のような外見をした精霊の一部分を持ち運んでいるわけだ。

 シロウとハイネの活躍は凄まじかった。二人の攻撃を受ければ並の魔物はひとたまりもない。正に一撃死である。出現した魔物は獣型や鉱山で見たゴーレムタイプなど、これまでに登場した様々な種類が一堂に会していた。しかしどれを引っ張り出したところで二人の足は止められない。あっという間に外周付近に屯していた敵を散らし、城下町を駆け上がっていく。


「雑魚ばっかりだな……道もご丁寧に開かれてるしよ。さっさと終らせるぞ!」


 ゆるい坂道になっている城へと続く道を走りながら擦れ違い様、次々に魔物を撃破する二人。俺の出番は一度もなくて、ただ後に続いて走っているだけであった。これなら向こうのパーティーに加わっていた方が良かったような気もするが、まだ油断はならない。

 水路に掛かっている壊れかけた橋を渡り、壊されている内壁を超えて城へ向かう。城もまた外壁が崩され半分程崩れ去っていた。侵入経路には事欠かさず、スムーズに中に入る事が出来た。城の内部は以前魔物に襲撃された名残なのが瓦礫や武具が散乱していた。この武具は恐らくここで死んだ兵士の物だろう。そんな事を考えつつJJから預かったカードに目を落とす。


「えーと、次は……城の安全の確保だな。敵がいないか調べていこう。ボスがいるかもしれないから、念の為慎重にね」

「ククク、ボスねぇ……そんなもん居ようが居まいが関係ねぇが……弱ぇ奴は一人にならないように注意しないとなぁ。ここにはレイジもいるんだからよぉ」


 鎌を肩に乗せたまま低い声で笑うハイネ。即座に食って掛かろうとするシロウの肩を掴んで抑えた。こんな所で言い争っていてもなんの意味もない。


「シロウ、いいんだ。早く敵を探そう」

「……チッ。だがまあ、敵の居場所なら決まってんじゃねーのか?」

「まあ……そうだよね。これRPGだしね」


 そんなわけで俺達は真っ直ぐに階段を駆け上がりあの場所へ向かった。城が奪われていますときたら、敵のボスが待ち構えている場所はひとつしかないだろう。

 飛び込んだのは玉座のある広間であった。外壁が崩され露出した通路の向こう、赤いカーペットの先に王座はあった。そこには黒い霧を纏った巨体が腰掛けており、やはりというべきか、俺達を待ち構えていたかのようにゆっくりと立ち上がろうとしていた。


「……“黒騎士”か」


 吐き捨てるように呟くハイネ。それから頭上で鎌を回し、前のめりに構え直した。


「あいつは他の奴とはちげぇぞ。油断するなよ」

「ほー。ってことは、こいつがフェーズ2のボスって所か? 面白れぇ、やってやるよ!」


 笑みを浮かべながら構えるシロウ。まあ……ハイネは強いし、シロウも竜と戦った時と比べても明らかにパワーアップしている。よほどの強敵でなければ負ける事はないだろう……そう甘い事を考えていられたのはその時までであった。

 黒騎士が立ち上がり虚空から黒い剣を取り出し一歩前へと踏み出す。そうして剣を掲げて振り下ろすと、騎士の目の前、カーペットの淵に沿うようにして左右に複数の黒騎士が出現した。まるで王の道を飾るように跪いていた騎士達が一斉に立ち上がると、規則正しく動き、まるで人間のように陣形を組み、俺達へと刃を向けてきた。


「おいおい……聞いてねぇなあ、こりゃ」

「え……黒騎士がこんなに出てくるなんて……これまでもなかったのに……!」


 ハイネとマトイが驚いているところを見ると、これはイレギュラーな事態らしい。黒き王が腕を振るうと同時、無数の騎士達が俺達へと襲い掛かってきた。


「……考えてる場合じゃねえ、来るぞっ!」


 シロウの叫びに反応するように全員で構え直す。俺も剣を前に飛び出すと、騎士が振り下ろす黒い剣に自らの刃をぶつけ、火花を散らすのであった。

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