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XANADU  作者: 神宮寺飛鳥
【王都奪還】
24/123

NPC殺し(1)

「……話は大体分かったわ」


 オルヴェンブルムの最寄にある街、リーベリア。そこでは既に王都奪還戦の為の準備が進められていた。それも七割方完了し、後は取り戻しに行くだけという状況だというのに場の空気は芳しくなかった。

 住人の居なくなった民家の一つを間借りして設置された会議室の中、プレイヤー全員が揃い踏みで視線を交えていた。各々顔色は悪く、ぴりぴりした空気に反応してか同席する姫様も縮こまった様子だった。話が一つの段落を迎えると、JJは溜息混じりに話を続ける。


「NPCの失踪、白騎士、それから砦のNPCの死亡……いいえ、“殺害”と言うべきね。この三つの事件に関連性があるかどうかはわからないけれど……」

「このまま作戦を遂行する前に、一度相談するに値する議題だと言えるでしょうね」


 頷き返すクラガノさん。しかし話はまたそこでストップしてしまった。その理由はわかっている。皆の視線がなんとなく俺に集中しているのがわかった。彼らは待っているのだ。俺が……考えている事を語る……つまり……弁明を図るのを。


「NPC殺しに使われた剣は……間違いなく俺が使っていた剣だ。だけど殺したのは俺じゃない。あの剣はズール爺さんに預けたままだった。あの時俺は持ってなかったんだよ」


 しかし誰も反応はなかった。シロウは……困った様子で頭を抱えている。アンヘルは……俺から目を逸らしている。遠藤さんは考え中……JJは……なにやら神妙な面持ちで俺を見つめていた。それがまるで疑われているような気がして強烈な居心地の悪さを感じた。


「JJ……違う、俺じゃない。俺じゃないんだよ」

「そう信じてやりたいのは山々なんだけどね……」

「現状、僕達には情報が不足しすぎています。状況証拠ばかりで、レイジ君が犯人であると断定するような証拠は一つもありません。しかし……それは同時に、レイジ君が犯人ではないと、そう証明する事も出来ないという事を意味しています」


 クラガノさんの言う通りだ。誰がやったのか証拠はない。あの剣だって別に俺以外の人間が使っちゃいけないなんてルールはない。誰かがズール爺さんの所からこっそり持ち出す事だって可能だ。決定的な証拠には成り得ないんだ。


「くくくっ、なぁに甘い事言ってんだよクラガノォ。こいつだろ? このレイジって奴がNPCを殺した犯人なんだろ?」

「ハイネ……まだそう決まったわけではないだろう」

「だけどよぉ、本当はお前ら全員そう思ってんだろ? 思ってんだよなぁ? だったら正直にそう言ってやんなきゃよぉ、レイジがかわいそうじゃねえか。嘘はよくないぜぇ、なあ?」


 ハイネはニヤニヤと笑みを浮かべながら俺に近づいてくる。そこから視線を逸らすと、男は徐に俺の胸倉を掴み上げてきた。


「正直になっちまえよ……テメェがやったんだろ?」

「俺は……やってない。正直に……話をしているつもりだ」

「…………本当に、そうなのかな? レイジ君……君は何も隠し事はしていないのですか?」


 問いかけたのはクラガノさんだった。ハイネの手を引かせると、立ち代り彼は俺の前に立つ。そうして眼鏡の向こうから冷めた眼差しを向けてきた。


「隠し事……? どういう意味です? 俺は何も隠してなんか……」

「本当ですか? 本当に何も隠していないと? ではお訊きしたいのですが……君はどうやってフェーズ1のボスである双頭の竜を倒したのですか?」


 ぎくりとした。それは想定していなかった質問だったからだ。今この状況に置いて関係のない事だと思っていたからだ。確かに俺は嘘を吐いていた。隠し事をしていた。だけどどうしてそれを……そう思ったところで彼は首を横に振る。


「やはり……でしたか。もしかしたらと思ったのですが……本当にそうだったのですね」


 思わず目を丸くしてしまった。となりでJJが小さく“バカ”と呟いたのを耳にして、初めて鎌をかけられたのだと気付いた。


「正直にお話していただけますね? 君が持っている本当の力について」

「それは……今は……関係のない事です」

「本当に関係のない事ならば確かめるだけで済むでしょう? むしろそれで君は身の潔白を証明する事が出来る。僕も本当はこんな事を……仲間を疑うような事はしたくないのです……」


 生唾を飲み込んだ。まずい。これは……あまりにもまずい。

 嘘をついた事が、黙っていた事が、最悪のタイミングで暴露されつつある。これは……最早言い逃れできるような雰囲気ではない。黙って押し通す事も出来なくはないだろう。だが非協力的な姿勢を見せた時点で、後ろめたい気持ちがあると宣言しているようなものだ。

 ちらりとJJを見やるが、彼女はこっちを向いていなかった。誰も助け舟を出してはくれない。当たり前か……これは自分で蒔いた種なんだ。シロウとアンヘルにいたっては彼らと同じく俺の能力の詳細を知らない。仲間を信じなかった結果が……これなのか。


「……わかりました。正直にお話します」


 今の俺に出来る事は、ただ誠心誠意真実を話す事だけだ。意を決し、俺は餅を取り出した。そして改めて餅に対しイメージを付与する。黒き翼と雷の刃――美咲の力。眩い光が収まると俺の手の中には漆黒の太刀が握り締められていた。


「これが俺のもう一つの能力です。この能力は……俺達のチームに元々居た、美咲という人物の能力です。彼女は第一の試練で双頭の竜と戦い、ゲームオーバーになりました」

「……ではどうして君がその能力を…………まさか……!?」

「……はい。俺のもう一つの能力……それは、ゲームオーバーになったプレイヤーから精霊の能力を奪う事……です」


 その瞬間、戦慄が走った。皆の俺に向ける目線が露骨に変わった気がした。シロウですら驚きを隠せない様子で、腕を組んで何かを必死に考えているようだ。


「それってよぉ、つまり他のプレイヤーを殺せば殺すだけ強くなる力って事だよなぁ?」

「PKには何のメリットもない……そう言われていましたけど……」

「そうだよ、そうなんだよ! マトイの言う通りそいつだけは意味があるんだ! つーか他のプレイヤー殺さないとロクに戦えねーって事じゃねーか! おい、もう決まりだろ!」


 俯くマトイ。ハイネは楽しげに笑いながら周囲を煽っている。だけど俺は……何も言い返せない。嘘を吐いていたのもそういう能力なのも事実なのだから。


「レイジ君……まさか君がそんな……信じたくはないのだが……」

「待って下さい……本当に違うんです! 俺は誰も殺してないんです!」

「つかよぉ、そのミサキって奴も本当はお前が殺したんじゃねぇの? それで能力を奪い取って英雄気取りってわけだ。こいつはご機嫌だよなぁ、レイジィ」


 ハンマーで殴られたような強烈な衝撃だった。美咲を殺したのが……俺? そんなわけない。俺が彼女を殺すはずがないんだ。だけど……俺が何も出来なかったから美咲が死んだのは事実だ。だったら……俺が殺したようなもの……なのか……?


「おいおい、どうしちまったんだぁ? 何ガックリ来ちまってんだよ。やっぱそうだったのか? もしかして図星でしたかぁ!?」

「……いい加減にしろクソ野郎が! レイジはなぁ、ミサキ大好きっ子なんだよ! こいつはミサキを殺すわけがねぇだろ! バカにすんのも大概にしやがれクソが!」


 吼えたのはシロウだ。そして俺の隣に駆け寄ると力強く肩を掴んだ。


「レイジ、俺はお前を信じるぜ。誰がなんと言おうとだ。俺には……俺には正直何がなんだかさっぱりわかんねぇ! だからこういう時は自分の信じたい方を信じるって決めてんだ!」

「シ、シロウ……」

「レイジはNPCを助ける事に拘りを持ってんだ。真面目で一生懸命な奴なんだよ! こいつはいい奴だ。殺しなんかやるわけねぇ! こいつは全部何かの間違いなんだよ!」


 それから振り返り遠藤さんやJJ、アンヘルに目を向ける。シロウは舌打ちし叫んだ。


「おっさん、何とか言ってくれよ! JJ、お前頭いいんだから考えろよ! レイジの身の潔白を証明すんだよ! こんな時の為の仲間じゃねえのか!」

「いや……いいんだ。ありがとう、シロウ……」


 駄目なんだ。誰にも俺の無罪は証明出来ない。俺がやったという証拠もないが……嘘が暴露されるタイミングが余りにも悪すぎた。もう彼らは俺を信じないだろう。信じられるわけがない。そして最も疑わしき者にこそ、汚名は着せられて然るべきなのだ。


「俺は……本当にやってない。嘘は吐いていたけど、それもいつかは話すつもりだったんだ……。皆と……もっと信頼関係を築いて……それから……」


 誰も俺の話を聞こうとはしていなかった。一緒に行動していたマトイですら、今はまるで俺を軽蔑するようにクラガノさんの影からこちらを見ている。

 深く重苦しい沈黙が場を支配していた。最早俺は弁解を諦めつつあった。やっていないのは事実だ。だがやっていない証拠を見つけない限り誰の信頼も取り戻せないだろう。けれど今の俺達には時間がないし、徹底的に調べようにも死体そのものすらない。八方塞だった。


「……わかった。俺は……リーダーを降りる。それでどうかな?」


 皆の反応を見るのが怖くて俯いたまま語りかけた。これから大事な戦いだっていう時にこんな奴がリーダーじゃ皆気持ちが落ち着かないだろう。だったらむしろ……俺を疑う事で何とかチームを保たせればいい。俺が全員の……“敵”に回ればいいだけだ。


「……仕方ないわね。それで行きましょう。レイジ……あんたはリーダーを解任。それから行動には常に監視をつけさせてもらうわ。単独行動は厳禁、ログインしないっていうのもナシね」


 好きな場所に好きな時間にログインできるのだから、ログインしているのかしていないのかわからない状態が一番厄介だ。とにかく人目につくように行動する、それが最低条件だろう。


「……わかった。言う通りにするよ」

「おいクソチビ、レイジを犯人だって決めつけんのかよ!?」

「もうそういう話をしている段階じゃないのよ。犯人が誰かなんて事は二の次なの」


 JJの言う通りだ。議題は既にNPC殺しの事より俺の処遇をどうするかに切り替わりつつあった。もしかしたらJJなら俺を信じてくれるかもしれない、この状況を覆してくれるかもしれないと淡い期待を寄せてみたが、彼女が俺に向ける眼差しはとても冷たいものだった。


「クラガノ、今後について話し合うわよ。流れ的にリーダーは私かあんたのどっちかが勤める事になるでしょうから。それと……レイジには常に二人以上プレイヤーが監視について。そしてシロウ、あんたはレイジと一緒に行動しちゃ駄目よ」

「なんでだよ!? こんな時こそ俺が一緒にいるべきだろ!?」

「バカ。あんたはレイジの味方をするって宣言してるのよ? 戦闘力が最強のあんたをレイジとセットにしておいて万が一裏切りでもしたらどうするつもりなのよ。間違いなくその場に居たもう一人は殺されるわ。この中でレイジとシロウ、二人を同時に相手に出来る奴はいない」


 何も言い返せずにぐっと歯を食いしばるシロウ。それから傍にあった椅子を蹴っ飛ばした。八つ当たりされた椅子はバラバラに吹っ飛び、飛び散る破片に姫様が背筋を震わせた。




 俺は会議室に使っている家の屋根裏に移動した。そこで手足を両手で縛り、椅子の上で大人しくしている事になったのだ。まさかゲーム中で拘束されるような状況が訪れるとは思ってもみなかったのだが……それがしかも仲間の手による物なのだから、何とも言えない心境だった。


「縄はきつくありませんか?」

「いや、きつくないと意味がないからね。ありがとうアンヘル」


 俺を縛った後、アンヘルは部屋の隅に腰を下ろした。その近くには訝しげな眼差しをこちらに向けているマトイの姿があった。とりあえず今後の方針を決定するまでの間、比較的会議に参加しないこの二人が見張りに選ばれたらしい。人質として奪われた餅を抱えたまま、マトイはじっと俺を見つめている。


「……マトイさんも……俺が犯人だと思ってるんだよね?」

「……それは……その……」

「いや、いいんだ。仕方ない事だよ。NPCを殺したのは俺の剣で、俺にはアリバイがなくて……しかも嘘吐きで。人殺しで強くなる能力者だったんだから……疑うのが当然だ」


 余計な質問をしてしまったと自分でもわかっている。だけど誰かから優しい声を聞きたかったのだ。信じていると言ってくれたのはシロウだけで、一緒にやって来たみんなですら俺を庇ってはくれなかった。裏切られた……なんて言い方をされるのは彼らも心外だろうけど。俺は……随分と気持ちが沈んでいた。


「あのぅ……レイジ様にお会いしたいのですが、宜しいでしょうか?」


 階段を上がってきたのは姫様だった。手にはランチバスケットを持っている。マトイは少し考えた様子だったが、アンヘルが頷き返すと渋々承諾してくれた。


「オリヴィア……ごめん、こんな事になって……。ケイトちゃんになんて謝ればいいのか……」

「レイジ様……その……きっと大丈夫ですよ! 大丈夫、大丈夫です!」


 バカみたいに同じ言葉を繰り返す姫様。思わず少し笑ってしまった。何が大丈夫なのかさっぱりわからなかったし、恐らく姫様にもわからないのだろう。ただ俺を勇気付ける為に一生懸命だったのだ。それがストレートに伝わってきて、急に切なくなった。


「あのっ、これ食べてください! ダリア村のパンとミルクです! 村の皆が一生懸命作ってくれた、とってもおいしいパンなんですよ! おなかが空いているとなんだか悲しい事ばかり考えてしまいますからね。これで元気を出してください!」

「もむご……ありふぁほふ……」


 徐にパンを取り出し俺の口に詰め込む姫様。出来ればもう少し小さくして欲しかったです。


「私、信じてます。レイジ様はきっと大丈夫だって。私には……難しい事はわかりません。さっきの皆さんのお話も、正直ちんぷんかんぷんでした。だけど知ってるんです。レイジ様がどんなお人なのか……私は知っているんです」


 俺の前にちょこんと座ったまま、姫様は真っ直ぐに見つめてくる。その曇り一つない純粋な瞳には、情けない顔の俺が映りこんでいた。


「レイジ様は本当に素晴らしいお方です。私達の為に必死になってくれます。悲しい事も辛い事も乗り越えて、頑張っている素敵な方なんです。知ってます。私、ずっとずっと知ってました。だから……何も心配は要りません。きっとみんなわかってくれます!」

「ありがとう……姫様。全然根拠のない励ましだけど……今はありがたいよ」


 にっこりと笑顔を浮かべる姫様。俺もまた釣られて笑ってしまった。なんだかそうやってこっちの気分お構いなしに笑わせてくる所が……少し美咲みたいだなって、そんな風に思った。


「……そうだ。ついでに聞かせてもらいたいんだけどさ。姫様、NPC……じゃなくて、砦の作業員が殺された事については聞いてるよね?」

「はい。レイジ様の剣がその場に残されていたと聞きました。ですが、それが何だと言うのでしょう? レイジ様の剣が落ちている事がそんなに不思議なのでしょうか?」

「えっ? だから……俺の剣が落ちてたんだから、そう言うことでしょ?」

「どういうことですか?」


 くりくりっとした目を真ん丸くしている姫様。俺は冷や汗を流しつつ。


「つまり……死んだ人の傍に俺の剣が落ちてたんだから、俺が殺したかもしれないって事だよ」

「――ありえませんっ!」


 即答だった。それはもう、本当に心底ありえないと……そんな可能性微塵もあるわけがないという様子だった。そこまで信頼されていたのかと少し感動しそうになったのも束の間、俺の中に小さな違和感が芽生え始めていた。


「……待て。どうしてありえないんだ?」

「逆にどうしてありえると思ったのでしょう? 人間を殺すのは魔物だけのはずです」


 暫し思案する。それから俺は質問を改めた。


「ねえ姫様。この世界で過去に……人間が人間を殺した事件はなかったの?」

「そんな! 考えるだけでも恐ろしいです! 一体なんの意味があるのですか、それは!?」


 なるほど。つまりこの世界において人間同士の殺し合いは存在しなかったんだ。そりゃ、俺が殺したかどうかっていう話をしていてもちんぷんかんぷんになっちまうわけだ……。

 今も話の要領がつかめていないのか、頭上にクエスチョンマークを大量に並べている。しかしそうなると……余計に俺が犯人だと思われやすくなったな。同じタイプの剣を持っていたはずの他のNPC達にも“人殺し”の概念が存在しないのだとすると……厄介だ。


「ん? いや……待てよ。オリヴィアは今、ありえませんって言ったよな」

「はい、言いましたけど……」


 それはつまり……そうか、そういう事か。いや、だから何ってわけでもないな。元々可能性だけなら幾らでもあったんだ。ただ……考えの方向性は見えてきたぞ。


「アンヘル、マトイさん、ちょっと訊いてもいいかな?」

「……なんですか?」

「あの時、死体が見つかった時に二人が誰と一緒にいたのか教えて欲しいんだけど」


 以前目撃したアレスという兵士の死から推測するに、NPCが事切れてから消失してしまうまでの時間はものの数分だ。俺が死体を発見した時は既に大方消えそうになっていたところから逆算すると、あのNPCが殺されたのは数分以内という事になる。


「確かアンヘルはシロウと一緒に居たよね? 最初に死体を発見したのはどっち?」

「わたくしです。何が起きているのか考えている間に全てが手遅れになっていましたが……ほぼ同時にシロウ様が現れ、わたくしと同じ様に困惑した様子でした。それから少し遅れてレイジさんが現れたのでございます」

「マトイさんが来たのはその後だったよね? クラガノさんと一緒に」

「……はい。私はその直前までクラガノさんと偵察任務について話し合っていました。だけど騒ぎにクラガノさんが気付いて、二人で見にいって……」


 JJは馬に乗って前線に移動していたはずだ。単独行動だったとは思うが、多くのNPCと行動を共にしていただろう。裏を取る気になれば幾らでも確認出来る。残るは……。


「ハイネは? あいつはあの時どこにいたんだ? 誰か知らないか?」


 マトイもアンヘルも首を横に振る。姫様はあの時直前まで俺と一緒に居たのだから知る由もないか。ではハイネもアリバイなしと。それから……そうだ、遠藤さん。彼も単独行動を取っていた筈だ。直前まで砦で何をしていたんだ?

 俺とハイネと遠藤さん……犯人と思しきはこの三人くらいか? シロウとアンヘルは……まあ、多分NPCを殺すようなことはしないだろう。その発想自体ないはずだ。遠藤さんは……信用出来る……と、思う。だけどさっきの会話で全く発言しようとしなかったのは気になる。そしてハイネだ。あからさまに俺を犯人と断定したがっているように見えた。どう考えたって一番怪しいのはあいつなのだが……残念ながら証拠はない。


「くそっ、駄目か……やっぱり手がかりが少なすぎる……」


 いや、そもそも今更NPC殺しの犯人を見つけたところでなんだっていうんだ。俺に対する疑心を取り払う事が出来るだろうか?

 ……待てよ? もし犯人が別にいるとしたら……というか俺はやっていないので別にいるのは間違いないのだが……犯人はどうして俺の剣を残したんだ? 理由は決まってる。俺を犯人に仕立て上げるためだ。だけど俺に疑いの目を向けさせて何がしたかったんだ?

 さっきは能力についての嘘が同時にバレてしまったからああいう流れになったが、あの話がなければ結局決め手にかけて俺を疑う事すらままならなかったはずだ。全部ただの偶然なのか? それともあそこまで見越した上での計画……? だとしたら、犯人は何を……?


「……アンヘル。少し頼みたい事があるんだけど……」


 首をかしげるアンヘル。俺は椅子に深く背を預けながら息を吐いた。


「話を聞かせて欲しいんだ。王都攻略をする前にね」


 もう他人の力に頼っている場合じゃない。ここで打ちのめされてヘコんでいる場合でもない。

 考えるんだ、真犯人の意図を。俺を犯人に仕立て上げた意味……それが分かれば、自ずと自体は解決に向かって行くはずだ。時間がない。今は急がなくては。

 王都奪還戦は予定通りに開始されるだろう。作戦開始まで、残り時間は三日を切っていた。

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