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XANADU  作者: 神宮寺飛鳥
【王都奪還】
21/123

共闘(1)

「ふーん、別のチームねぇ……いいんじゃねえの、別に」


 翌日、再ログインした俺達は新たに仲間に加えた三名と顔合わせをするためにダリア村の屋敷に集まっていた。一通りの自己紹介が済ませた後今後の行動について話し合う予定だった。今日は遠藤さんがログインしていないが、それ以外は全員揃っているようだ。遠藤さんについては……この後メールで報告だけしておけばいいだろう。


「それでは最初に僕から。僕の名前はクラガノ。そしてこれが、僕の“精霊器”です」


 そう言って彼は掌の中に光を収束させる。取り出したのは鞘に収められた短剣で、クラガノさんはそれが全員に見えるように机の上に置くのであった。


「……っと、そういえば皆さんはこの武器の事をなんと呼んでいますか? 僕達のチームでは精霊器と呼んでいたのですが……」


 そう言えば武器化した精霊については決まった呼び名がなかった気がする。精霊はそのまま精霊で、武器化した精霊は精霊器と呼ぶ……うん、それでいいんじゃないかな。


「ついでですし精霊器で統一しましょう。それでいいだろ、JJ?」


 JJは無言で頷いた。まあ名称なんてわかりやすければどうでもいい。


「名前は“パナケア”と言います。精霊形態はありません。能力は刀身から治療薬を発生させるというもので、単純な治癒だけでなく……例えば毒や麻痺と言った状態異常を回復させる事も出来ます。但し、回復効果を切り替える場合は一度鞘に納めなければならないという制約があります」


 つらつらと自分の能力について語るクラガノさん。自己紹介と言えば自分の能力の事も語るのが筋だ。こういう展開になるのはJJの予想通り。見ず知らずの俺達に真っ先に能力を明かしてくれたのは、クラガノさんの俺達への信頼の証と言えるだろう。


「治療系の能力か……アンヘルと少し似てるな」


 腕を組みながらパナケアを凝視するシロウ。丁度話題に上がったタイミングに済ませてしまおうと考えたのか、アンヘルも精霊器を取り出して前に出た。

 アンヘルの精霊器はロッドだ。白銀の光沢を持つ荘厳な杖で、先端部分には翼をモチーフにした装飾が施されている。見るからに儀礼用といった雰囲気で、殴るのには向いていない。


「わたくしの精霊器はこの“リピーダ”です。能力は対象の傷を癒す事ですが、多少距離が離れていても発動できる代わりに効果は軽微な物です。過信は出来ません。もう一つの能力は障壁を展開する能力……どちらかというとこちらの方がわたくしの得意分野です」


 アンヘルの能力は回復支援系。ただどちらもあまり強力ではなく、JJ曰く俺達のパーティーでは最も能力値が低いプレイヤーなのだという。特に精霊の能力が脆弱で、殴るには向いていない形状の杖なのに、普通に殴るのが一番活躍出来る有様だったりする。


「んじゃ次俺。俺の精霊はこの“フルブレイズ”だ。名前は今決めた。能力は……あー、炎を出したり炎を防いだり……まあとにかく炎をどうにかする能力だ。かなり鍛えてるんで能力派性がありすぎて説明するのがめんどくせーが、得意なのは殴り合いだな」


 腕に精霊器を纏って語るシロウ。性格的な問題なのか性質の問題なのか、シロウの精霊器は必ず腕に纏う形で出現してしまう。本人曰く、取り外したりするイメージが上手く出来ないとの事で、だいたい常時具現化しているので身につけているのに慣れてしまったのだろう。

 そしてとんとん拍子で自己紹介が進んだのはそこまでであった。次に名乗り出す者がいなかったので俺が行こうかと思っていた時、俺の言葉を遮るようにしてJJが口を開いた。


「こっちが二人明かしたんだから次はそっちの番じゃない?」


 新参三人に対するJJの態度は一貫してこんな様子であった。一体何が気に入らないのかわからないが、ずーっと眉間に皺を寄せた険しい表情である。


「あ、えっと……じゃあ次は私が……。えっと、マトイ……です。精霊は、えっと、もう出てます。このマントがそうで……名前は“カーミラ”と言います。精霊形態があって……」


 マトイの身体を包み込んでいた黒いマントが光を帯びて変化して行く。すると見る見るうちにマントは縮み、マトイの頭の上には小さな蝙蝠がちょこんと舞い降りた。


「これがそうです。能力は……えっと、少し複雑で……。簡単に言うと、誰にも気付かれなくなる能力と、攻撃を防ぐ能力です……あんまり役に立ちませんけど……ごめんなさい」


 慌てて頭を下げるマトイ。その頭の上でカーミラが振り回されていた。

 残りは俺とJJ、それからハイネという男なんだけど……ハイネはさっきから会話に参加してくる気配がない。ちらりと目配せしてみると、思い切り睨み返してきた。


「あぁ? んだテメェ……何見てやがんだぁ?」

「あー、ごめん。ハイネだっけ? あんたの能力は?」

「んで俺がテメェらに能力教えてやんなきゃなんねーんだよ。言っとくけどなぁ、俺は別にテメェらと仲良しごっこするつもりはないぜ。ただテメェらを利用しに来ただけなんだからな」

「利用って……どういう意味?」

「うるせえなあ……いちいちくだらねぇ事聞いてんじゃねえよ。うぜぇな」


 おお。これは全く以ってコミュニケーションが取れないタイプだぞ。シロウよりずっと頭が悪そうな感じだ。というか……以前の俺だったらビビってただろうけど、シロウと親しくなってからはこの類の人に変におびえたりする事がなくなったような気がする。シロウ様様だな。


「おいコラてめぇ調子くれてんじゃねえぞコラァ! 人のダチにナメた口利きやがって! 何が仲良しごっこだ……てめぇ一人だけ空気ぶっ壊してるだけじゃねえか!」


 シロウが行った。しかも言ってる事が割とその通りで少し笑ってしまった。二人はズボンのポケットに両手を突っ込んだままのしのし近づいてゆき、額と額をぶつけ合うと至近距離で睨み合う。要するに、メンチ切ってます状態だ。


「ぐちぐちぐちぐちうるせぇな……ぶっ殺すぞ! なんだテメェその頭! 赤すぎんだろ!」

「派手でカッコイイだろうがコラァ! なんだテメェコラ……表出ろやコラァ!」


 アンヘルは無表情、マトイはあたふた。JJは溜息を吐き、俺とクラガノさんはお互いの問題児の背後に歩み寄り、首根っこを掴んで引っ張り戻すのであった。


「いい加減にしろハイネ。彼らに協力を求めているのは僕らの方なんだぞ」

「シロウも落ち着きなよ……あのくらいの事でカッカしてたらキリないよ」


 苦笑を浮かべるとシロウは結構直ぐに大人しくなってくれた。向こうも同じ様な様子で、ハイネという男もクラガノさんに対しては従順な様子だった。やはりリーダーだったんだろうな。


「すみません。ハイネの能力はかなり攻撃的だという事だけはわかっているんですが、実は僕にもはっきりとした事はわからないんです。ただ、大きな鎌の形をした精霊でしたね」


 舌打ちしそっぽを向くハイネ。大鎌の精霊器か……攻撃的な能力っていうのはやっぱり性格が由来してるんだろうな。マトイが防御の能力なのも同じ理由なのだろう。


「……次は私ね。私の名前はJJ。精霊はこのカード達で、名前は“エンゲージ”。カード一枚一枚がすべて私の精霊器で、こいつらは自分の意思を持っているかのように動く事もあるから、ある意味精霊であり、精霊器でもあるってわけ。そして私の能力は――自分以外のプレイヤーを含む、“他者の能力”を分析する力よ」


 この言葉にはクラガノさん、マトイ、ハイネ三人共驚いた様子だった。他人の能力を透視する能力……かなり特殊な能力だし、驚くのも無理はないか。クラガノさんは特に興味を持った様子で、前のめりになって食いついている。


「それはすごいですね。それじゃあ第一のボスの能力についても把握出来たんですか?」

「……そうよ。だから私達はこれだけの生存率を誇っているの」


 そこでJJは説明を止めてしまった。俺が首を傾げてもJJはこちらを見ようともしない。

 JJの能力に関しては先ほど彼女が言った通りで概ね間違いはないのだが、他人の能力を暴くという彼女の能力には様々な制限がある。その制限についてきちんと伝えておかないと誤解を生むような気がするのだが……何か考えがあるのだろうか。


「それじゃあ最後に俺ですね。俺の名前はレイジ……精霊はこの餅のような生き物で、名前はミミスケと言います。かなりめんどくさい奴で、俺の命令にもしょっちゅう逆らってきます」

「うわぁ、か、かわいい……っ」


 机の上に落とした餅に目を輝かせるマトイ。うーん……俺にしてみればこんなのただ憎たらしいだけの未確認生命体に過ぎないのだが、女子にはかわいく見えるのだろうか。美咲もかわいいと言っていたが……理解出来ない。


「能力は、生き物以外の全ての物を丸呑みにする事。サイズの限界はまだ試した事がないけど、巨大な岩とかも丸呑みに出来る。それで好きな時に好きな場所で吐き出せるんだ。しょうもない能力だけど、使い方次第で色々な事が出来る……かな?」

「むっきゅきゅい!」


 耳のような部分をぱたぱたさせながら机の上で跳ねる餅。それを一瞥し、俺は言った。


「そいつの能力は――それだけだ」

「きゅ?」


 おいおい、もっと大事な事があるだろう? と言わんばかりの餅の鳴き声も、恐らく真意を理解したのは俺だけであった。だが奴の指摘は正しい。俺は意図して能力を明かさなかった。つまり……三人に対して嘘を吐いたのだ。

 そもそもこの能力について正しく把握しているのは俺以外ではJJと遠藤さんのみ。シロウやアンヘルはなんか美咲の力を継承したんだなーくらいにしか考えていないだろう。その理屈について突っ込んで来るようなタイプではない。とりあえずこの場は問題なく切り抜けられる。


「成程……確かに戦闘向きではありませんが、応用が利く能力かもしれないね」

「ええ。物資の輸送とかには凄く適しているんですよ。実際こいつがいなかったらアムネアの砦は完成までかなり時間を要したでしょうし……」


 説明をしながらふとJJに目を向ける。JJは無言でこちらを見て、それから直ぐに目を逸らした。表情には一切の変化がない。全く大したポーカーフェイスだ。

 本音を言うと、俺は自分の能力について嘘を吐きたくはなかった。だが今の段階ではまだ伏せておいた方がいいと、昨日ログアウト直後にJJから連絡があったのだ。


「あんたの能力はただ物を出し入れ出来る……それだけにしておきなさい。他のプレイヤーの能力を奪う事が出来るだなんて知られたら、どういう事になるか想像出来るでしょ?」


 そのJJの言葉に対し、俺はただ全面的な同意をせざるを得なかった。

 俺の能力はJJ以上に特殊だ。恐らくこのゲームの中でもかなりの特別製に違いない。この手のゲームで特別な能力を持っているという事は必ずしも良い結果を招くとは限らなかったし、何よりその内容がまずすぎた。他人から能力を奪える能力者なんて、信用しろという方が無理な相談だろう。何せ俺は誰かから能力を奪わない限り、ただ物を出し入れする能力しか持たない。俺は考えないが、この能力を手に入れた人間が好戦的で自分の都合を優先するような奴だったなら、積極的に他のプレイヤーを狩って能力を奪い出す……なんて事もあるかもしれない。

 シロウやアンヘルは理解してくれるだろうが、俺の事を何も知らないこの三人の場合は話が別だ。俺にそんな能力があるとわかった時点で強い警戒心を抱いてしまうだろう。そうなれば、俺をリーダーから降ろすという話にもなりかねない。いや……俺なら間違いなくそうする。

 幸い俺はこの能力をもう二度と使わないくらいの気持ちだった。美咲の力は当分使いこなせないだろうし、出来れば頼らない方が良いものだろう。いつまでも美咲におんぶ抱っこでは格好がつかない。それにこれ以上俺は仲間を死なせるつもりはない。だからこの能力はあってもなくても同じ事だ。隠し通すのはそう難しくないだろうし、彼らと信頼関係を築けた暁には包み隠さず明かせばいい。それだけの事……だと思う。

 それでも胸のどこかに小さなしこりとして嘘は残る。これが混乱を招かない最善の方法だというのは頭では理解しているのだが……やはりいい気分はしなかった。


「……さて。それじゃあ今後の事について話をしましょうか。大まかなプランは既に構築済みだから、あんた達は自分に与えられた役割と全体の流れについて頭に入れておいてくれればそれでいいわ」


 憂鬱な俺の心境を察してか、JJは咳払いを一つしてから話題を次に進めてくれた。気を取り直し、机の上に広げられたダリア平原の地図へと目を落とした。


「状況は全員知っての通り。これから私達は北ダリアにある王都オルヴェンブルムへと進軍するわ。進軍開始地点はアムネア渓谷にて完成間近の北側砦。ここから只管北上し、オルヴェンブルムまで直行。基本的には短期決戦で王都奪還を目指すわ」

「道中にある村や町はどうするんですか? 北ダリアには魔物に制圧された人里が幾つも存在していますが」

「基本は無視よ。今小さな町や村を取り戻した所で、そこを守るだけの戦力を捻出出来ないのよ。奪い返した所でまた魔物に襲われて奪い返されるようじゃ意味ないでしょ」


 最近判明した事だが、魔物には大まかに分けて二つの行動パターンが存在している。

 一つは、POP型……あちこちにランダムで出現し人間を襲うタイプ。そしてもう一つが出現後ある一定範囲に留まり続けるタイプ。この停留型の魔物によって人がいなくなった村は制圧されている事が多い。これらを取り除けば村は人の手に取り返す事が出来るが、結局はランダム出現の魔物によってまた襲われる事となり、それが停留型となって村に陣取る。

 魔物の出現頻度というものはある程度限定されているようだが、幾ら倒しつくしたと思っても一定時間の経過でまた復活し始める。これはシロウが散々検証しているので確かだ。

 俺達が片っ端から村を開放して行った場合、そこに防衛戦力を置かなければまた魔物に取り返される事になる。だが全ての村をフォロー出来るほどこちらの戦力は整っていない。ダリア村を維持できているのは一点に総力が集中しているからで、戦力を外に出すような事になればダリア村の防衛にも支障を来たす可能性がある。


「オルヴェンブルムはクィリアダリア王国の中では最大規模の城塞都市よ。ここを奪い返す事が出来れば、最悪ダリア村は捨ててこちらに拠点を移す事が出来る。辺境の南ダリアからいちいち北ダリアに派兵するよりは、国の中心であるオルヴェンブルムを押えてからのほうが遥かに効率的なはずよ」

「成程……。しかし、未だ抵抗を続けている村についてはどうするんですか? まさか彼らを見殺しにするわけではないのでしょう?」

「魔物から生き残った人々に関しては貴重な戦力、労働力なんだから見殺しには出来ないわ。まあ要するに、私達がやる事は大まかに言えば二つ。オルヴェンブルムの占拠、そして難民の保護と受け入れ……ただそれだけの事ね」


 俺達プレイヤーは具体的な場所のイメージさえ出来ればそこに即座にログインする事が出来る。簡単なイメージの方法は実際に現地に行って見る事で、一度行った事のある場所ならログイン地点に指定できると考えれば話が早い。

 オルヴェンブルム攻略の足がかりとして、まずは直前にあるリーベリアという街を攻略する事になった。そこを前線拠点とし、状況を見てオルヴェンブルムへと攻め込むわけだ。


「ダリア村の守りに関してはボスクラスが来ない限りは基本的にほっといても大丈夫だと考えていいと思う。一応、私はダリア村に残って全体の指揮をとるから……そうね。とりあえずチームを幾つかの班、パーティーに分けましょうか」

「難民を保護するパーティーと、リーベリアを攻略するパーティーって事?」


 俺の質問にJJは頷く。成程、確かにこれだけ人数がいるのだからその方が効率的だろう。問題は班の分け方だが……これに関してもJJに考えがあるようだった。


「まずリーベリア攻略隊だけど……これは戦闘力と機動力に優れた者が適任よ。だからシロウと……それからハイネ。あんた達に任せるわ」

「前線は望むところだが……こいつとかよ」


 不満げにハイネを一瞥するシロウ。そりゃあついさっきあんなやり取りをした直後なんだから当たり前である。俺もJJに目配せするが、彼女は決定を覆そうとはしなかった。


「ぶっちゃけた話、町一つ攻略するだけならシロウ一人でも問題ないくらいよ。ハイネが役に立とうが立つまいがどちらでもいいって感じでしょ」


 これが冗談でも過大評価でもないのだから困る。シロウの戦闘力は本当に人間離れしているのだ。並の魔物が何十体襲いかかろうが恐らく相手にもならないだろう。今思うと双頭の竜とは本当に相性が悪かっただけなんだなという気がする。


「チッ、言ってくれるじゃねぇか。上等だぜ。どちらが足手纏いか戦場で証明してやる」


 シロウを睨みながらもとりあえずハイネも了承してくれたようだ。となると、リーベリア攻略が二人で賄えてしまうとすると、残りは全員難民の救助なのだろうか。


「残りは更に二組に分かれて東西へ向かい、村を巡って生き残りの救助ね。東側はそうね……クラガノとアンヘル、それから遠藤の三人。西側はレイジ、あんたとマトイよ」


 その班分けは少し以外だった。やはりというべきか、マトイが不安げに手をあげる。


「あの……私とクラガノさんは一緒のパーティーには出来ないでしょうか……?」


 まあそりゃそうだろう。初めて会うメンバーよりは元々組んでいた者同士で組んだ方が気心も知れているし楽なはずだ。特にこのマトイという少女は人見知りっぽいし。


「あっ、その……レイジさんが嫌というわけではないんですけど……」

「だったら言う通りにしなさい。そもそも攻撃能力を分散させるにはそういう風にしか出来ないのよ。クラガノは戦闘系の能力がないんでしょ?」

「ええ。僕の能力は攻撃には全く向いていませんね。レイジ君の能力もそうだったような気がするのですが……二人で大丈夫ですか?」

「レイジは創意工夫でそれなりに戦えるから大丈夫よ。私が色々アドバイスすれば、まあこの二人の組み合わせならうまくやれるでしょ」


 やはりこれに関してもJJは決定を覆すつもりはないようだった。俺達には何も説明しなかったが、恐らくJJには彼女なりの考えと言うものがあるのだろう。以前ならばいざ知らず、今はそんなJJの判断を信頼している。ここは大人しく従う事にした。


「えっと……それじゃあ宜しくお願いするよ、マトイさん」

「あ、えっと……はい。こちらこそ、不束者ですが……宜しくお願いします」


 二人して深々と頭を下げあう俺達。マトイは恥ずかしそうに顔を赤らめずっと俺から目を逸らしていたが、そう悪い印象は持たない。打ち解けていけば少しずつ変わって行くだろう。


「今日は残り時間も微妙な所だし、とりあえずは班ごとのトレーニングと連携の打ち合わせに時間を費やすといいわ。カードに連携案を記載しておいたから参考にして」


 てきぱきと俺達にカードを配るJJ。そこにはびっちりとトレーニングメニューが記されていた。何枚かのカードを見比べ、俺はマトイと一緒にその内容を覗き込む。


「これは……なるほど、こんな能力の使い方があるんですね……」

「やってみないとわからないけどね。んー、確かに俺とマトイさんは相性いいのかも」


 シロウとハイネを除く全員がJJのカードに感嘆の声を漏らしていた。しかしそれも束の間、手を叩いて合図するJJに視線を集中させる。


「それじゃあそれぞれやるべきことをやって解散。明日のログインはアムネア砦で。オリヴィア、私はその後村に戻るから、アムネアに馬を用意させておいてね」


 こうしてあれこれ素早く仕切っているJJを見ていると、やっぱり彼女を信頼してよかったと思う。しかしだからこそ、彼女にどんな意図があるのか気になって仕方がないのだが……これはあとで確認しておくべきだろうか。

 とりあえず今はマトイの事だ。暫くパートナーとなるのだから、お互いの能力や内面についてもう少し理解しておくべきだろう。意を決し、俺はカードをポケットに入れて振り返った。


「それじゃあ……そうだな。村の外れに丁度いい場所があるんだ。そこで特訓しようか」

「えっと……わかりました。よろしく……お願いします」


 ぺこりと頭を下げるマトイに苦笑を浮かべる。こうして俺は彼女を連れてあの場所に……川辺にある水車小屋へと向かうのであった。

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