邂逅(3)
「はぁ~、こいつはまた派手にぶっ壊したもんだなあ」
正直なところ、俺はかなり忙しい。というのも、この餅巾着の精霊……ミミスケが物凄く便利なせいだ。アムネア渓谷の出入り口に砦を作るという計画を進めるのにとにかくこのミミスケが役に立った。
俺達がこの世界に戻ってくるまでの半年間、姫様達はそれこそ愚直に砦を作成していた。つまり、資材を切り出し村に運び、そこで加工を施してからアムネア渓谷まで運び。そこで組み立て作業を行なっていたわけだ。しかしミミスケならこの工程をかなり加速させる事が出来る。
木を切り出したり鉱石を掘ったりするのはそれ専門の人に任せ、村まで運ぶのは俺の仕事。ミミスケに全部丸呑みさせてここまで持ってくるのだ。で、村で伐採した木材を加工したりレンガを作ったりする人がそれ専門で居て、またこれを全部ミミスケに飲ませてアムネア渓谷まで走る。道中魔物が出ても俺なら切り抜けられるし、移動速度も馬と同等とまでは行かないが速い。組み立てに関しても村で安全に進められるところまで進めて、現地では本当に最終的な作業だけすれば良い。そうすれば魔物に邪魔されるリスクも減らす事が出来る。
このやり方を考えたのはJJだが、実際に死ぬ程走り回るのは俺なわけだ。ログインしたら三時間走りっぱなしという日が何日も続いているので、こうして村で一息つく間すらなかった。
その僅かな時間に足を運んだのはズール爺さんの鍛冶屋だ。俺が使っている武器はすべてこのズール爺さんが作ってくれている。魔物との戦闘になる度ほぼ確実に圧し折られるので、ズール爺さんは俺がいない間にも只管武器を作ってたくわえを増やしてくれているのだが、それでも生産と消耗のバランスは釣りあっていなかった。
「自分で言うのもアレだが、これでも名剣と呼ばれる類の出来なんだぜ? 魔物にはナマクラじゃ文字通り歯が立たねぇからな。ハンパな出来のもんを勇者様に渡すわけにもいかねぇし……こいつはもうちょっと俺も頑張らねぇと間に合わんなあ」
ぼろぼろに刃毀れした剣ならまだ打ち直せば住むが、圧し折られたりしてしまうと一から作り直した方が速いらしい。この村に鍛冶師はズール爺さんしかいないので、俺は戦闘の度に溜め込んだ剣の残骸をこうして申し訳なく纏めて持ってくるしかないのだ。
「すいません……でもおかげさまで俺でも何とか魔物と戦えてます。ズールさんの言う通り、俺達が全力で振るうとハンパな剣じゃ直ぐ駄目になっちゃうんですよ。ズールさんの剣はかなり持ってる方です……って言ってもフォローにはなってないでしょうけど……」
「はっはっは! いやいや、いいんだよ。俺ぁ鉄をぶっ叩くのが仕事だからな。俺の作った剣が人を救ってるんだ、これ以上鍛冶師にとって嬉しい事はねぇさ」
「本当すいません……村の人たちの分の武器も作らないといけないでしょうに……」
「ああ。まあ、そうだなあ。鍛冶師って種類の人間は元々少なかったんだよ。魔物以外にこの剣を向ける存在はいなかったしな。数人しかいなかった鍛冶師も、王都が魔物に襲われた時に散り散りになっちまってなあ……。連中が生きてりゃあ、力になるんだろうけどよ」
蓄えた顎鬚をいじりながらしみじみと語る爺さん。それから俺を見て言った。
「しかしよぅ、勇者様。あんたはその、精霊の剣ってのを使えるんじゃなかったのかい?」
「ああ……そうなんですけどね。なんていうか、俺にはまだ使いこなせなくて……」
確かに俺は美咲の刀――つまりヤタローの力を持っている。黒き雷を操る大刀。ゲームっぽく名前をつけるとしたら……えーと、“八咫の太刀”かな。あの双頭の竜の首を落とす程の威力を持った必殺剣なのだが、今の俺では少し振るっただけで直ぐにMP切れを起こし、意識が混濁……最悪気絶してしまうのだ。双頭の竜と戦った時のように……。
「出して手に取るだけでも滅茶苦茶疲れるんです。使いこなす為に特訓しているんですけど……まだ当分はズールさんの武器に頼る必要がありそうです」
「そうかい。まあ俺の武器を使わなくなっちまったらそれはそれで寂しいがね。だがまあ、剣士には腕相応の得物が必要なもんさ。剣だけが強くてもいけねぇし、剣士だけが強くてもいけねぇ。力と技術が拮抗してこそ、武器ってもんは真価を発揮するのさ」
しきりに頷きながらそう語るズール爺さんは、田舎村の鍛冶師というよりはどこか偉い工房の巨匠のようであった。そうして幾つか雑談を交わし、武器を預けて鍛冶屋を後にした。
外に出ると思い出したようにあの刀をイメージしてみる。しかしそれを手にしようという気にはならなかった。双頭の竜の時は無我夢中だったのだが、今思うとどうやってあの刀を使っていたのかすらよくわからない。
「シロウと一緒に魔物と戦ったりして、“レベル”は上がってきてると思うんだけどなあ……」
今日の分の輸送は終了しているので久々に時間が余ってしまった。輸送速度の方が速くて作業が追いつかないのだから恐ろしい効率だ。しかしいざ時間を持て余すと特にする事がない。いや、ありすぎて何から手をつければいいのかわからないというのが正しいか。
シロウは砦周辺の魔物の殲滅中で、遠藤さんは伐採班の護衛。JJは屋敷で周辺の地図作りとクィリアダリアという国の歴史書を漁っているとか言っていたか。
「前は結構あったんだけどな……こうして一人になる時間も」
まだこのチームにまとまりという言葉が欠如していた頃。一人でぼんやりしている俺の所に美咲が声をかけにきてくれた。二人で皆を一つにしようとしてあくせくしていた日々……。まだ一ヶ月も経っていないのに、随分昔の事のように思えた。
懐かしみながら歩き出した足は自然とあの場所に向かっていた。よく美咲と待ち合わせをした村はずれの水車小屋だ。裏山の鉱山が開放され人の出入りが増えたとは言え、ここは今日も静かだ。川沿いに立った木の傍に向かい川の流れを眺める。しかし今日はそこに先客の姿があった。
「……アンヘル?」
呼びかける声は飲み込んでしまった。足を止め、その姿に見入ってしまう。
木漏れ日の下、アンヘルは素足を川の流れに晒し、風に髪を揺らしながら青空を見上げていた。その姿はなぜか酷く幻想的で、アンヘルという人間はそこにはいなくて、まるで存在そのものが自然に溶け込んでいるかのようだった。空の青と川の青、その境界線で揺れるアンヘルの髪は雲のようで、光が濃く差せば溶けて消えてしまいそうな……そんな儚さがあった。
「…………レイジさん?」
沈黙を破ったのは彼女の方だった。俺の存在に気付いたのかこちらに目を向ける。俺は軽く会釈を返して彼女の居る木漏れ日の中にお邪魔した。
「アンヘルは……確か鉱山に行ってたんだよね?」
「はい。本日分の採掘作業は終了したので、村人達と共に戻ってきたのでございます。しかし本日は普段より早く上がってしまった為、こうして時間をもてあましていたのです」
「そっか。じゃあ俺と一緒だね。俺も急に時間が出来ちゃって……いや、やらなきゃいけない事は山ほどあるんだけどさ。何から手を出したらいいのか考えちゃって」
「そんな時は……あえて何もしないというのも手段の一つでございます。目的に向かって身体を動かす事は大切です。しかし身体が動かない時に無理に目的を作ろうとする事は時に逆効果に成り得ます。身体が動こうとしないのであれば足を止め、考える事も必要でしょう」
木に背を預けて腕を組む。現実の世界と違ってここに吹く風はとても爽やかだ。流れる水の音はとても涼やかで、空の青はどこまでも清清しい。流れる雲を目で追いかけていると、ゆっくりと流れている時間の足音を感じる気がした。
そういえばアンヘルとこうして二人で話をするのは初めてかもしれない。みんなで話をする時、アンヘルはいつも一歩下がった場所で俺達を見ている。二人きりになってもそれは何か仕事があるからで、その事以外で雑談する事はなかった。
「そういえばさ、この間リアルで皆でした話、遠藤さんかJJあたりから聞いた?」
「はい。JJから聞いているのでございます」
「そっか……ならいいんだけど」
それで会話が終了してしまうのだからどうしようもない。シロウや遠藤さん、JJについてはなんとなーくキャラがつかめてきたというか、付き合い方を心得てきたように思う。けれどアンヘルだけは今でも全く距離感が縮まっていない気がする。
別にアンヘルは全く喋らないというわけではない。ただ不必要な場面では口を開かないというだけだ。質問すればちゃんと答えてくれるし、俺達の言葉に相槌も打ってくれる。そのぼんやりとした金色の瞳に何が映っているのか知りたくなったのは、多分時間が余っていたからだ。
「アンヘルはここで何をしていたの?」
「何を…………………………」
小首をかしげ、それから彼女はぼんやりと空を見上げた。
「特に何も……していませんでした。強いて言うのならば……そうですね。空を見ていました」
「空……に、何かあるの?」
「何もありません。特に意味はないのです。しかしレイジさん、あなたの行動もまた、何もかもが意味を宿しているというわけではないでしょう? 例えば……そうですね。貴方様がそこで木を背にして居る事も、腕を組んで居る事も、特に深い理由はないはずです」
なるほど、仰る通りで。いらん事訊くなと、そういうわけですねわかります。
「私は……何もかもそうです。意味があるからしているのではありません。レイジさん、人はなぜ生まれてくるのだと思いますか? そして人はなぜ死んでいくのでしょうか?」
「えっ? い、いや……そんな哲学的な事、ちゃんと考えた事はないけど……」
「私はこう思うのです。人が生まれてくる事にも、死んでいく事にも特に意味はないのだと。私たちはただ生まれたから生き、生きているから死ぬしかない……ただそれだけの事なのだと」
……確かにそうかもしれない。俺だって別に、生まれたいと強く願って世界に生を受けたわけじゃない。両親が子供を欲していたかどうかというのもあるけど、この場合は無関係だろう。
生まれた時にはただ意味もなく生まれたんだ。生まれた事の意味というものは、生まれてから考えるしかない。ならば死ぬ事の価値も、生きながら考えるしかないのかもしれない。
「……なんか深いようなよくわかんないような……そんな事いつも考えてるの?」
「それは違います。私は何も考えていないのでございます。ただあるがままに生を受け入れ、ただあるがままに……風の如く、水の如く。意味もなく生き、やがて意味もなく死ぬのです」
「意味、か……。俺も確かに生きる意味はわからないけどさ。でも、意味もなく死ぬって事はないと思うよ。いや、そう思いたい。死んだ自分の価値は、今からでも作れると信じたいんだ」
初めて俺の言葉に興味を持ったかのように彼女がこちらに目を向けてくれた。これをチャンスと見て、自分でも何を口走っているのかわからないままアンヘルの隣に腰を下ろす。
「アンヘルはさ、美咲が死んだ時、残念だって言ってくれたよね」
「はい。ミサキさんの死は、非常に残念だったのでございます」
「それは、美咲の死が無意味だと思ったからなの?」
俺の問いかけから視線を外しアンヘルは考えていた。水面に光る雫に目を細める。
「あの時は確かにそう思っていました。しかし今は違います。ミサキさんの力は……レイジさん、貴方様に受け継がれました。そしてミサキさんの死が今、私達を一つにつなげようとしています。彼女は死して尚、この世界に“意味”と“価値”を残している……」
アンヘルの横顔から表情を汲み取る事はとても難しい。だけどさっきからじっと見ていたからか、今は少しだけわかる気がした。どこか懐かしむような、寂しがるような……羨むような瞳。憂いを帯びた横顔で彼女は言った。
「今はそんな彼女の事を……少しだけ、羨ましく思うのでありんす」
なんでそこでありんすになっちゃうのか小一時間程問い質したかったが……元々アンヘルの口調ってわけわかんないけど、たまに致命的になるよな……。
「今は無価値な自分でもさ……死んだ後、居なくなった時に誰かが思い出したりしてくれたらさ。それがもしも誰かの力や絆になるんだったらいいなって、今は本気で思ってる。もしかしたら明日にもこの世界から居なくなるかもしれない俺達だけど、その時姫様が……ああ、レイジ様が居てくれてよかったって、そう言ってくれるようにしたいんだ」
……って、親しくもないアンヘル相手に俺は何を熱く語っているんだろう。なんだか美咲の悪い癖が移っってしまったらしい。
「だからアンヘルもさ、意味もなく死ぬとか言うなよ。少なくとも俺はアンヘルが急に居なくなったら困るし、今アンヘルが居てくれて良かったと思ってるよ」
「……と仰いますと、例えばどんな?」
「そうだな。暇な時にこうして雑談の相手になってくれたりするし」
俺の言葉に彼女はきょとんと目を丸くした後、口元に手を当てて目を細めた。
「左様で御座いましたか」
多分笑っていたのだと思う。ただその笑顔は水面から照り返す光のせいでいまいちよく見えなかった。アンヘルは年上だと思うのだが……何と無く話しているとそんな気がしないな。
そうして二人で雑談をしていた時だ。こちらに向かって姫様が走ってきているのが見えた。
「レイジ様ー! こんな所にいらしたのですね……はうぐっ!?」
あ、転んだ……。そのまま滑り込むようにして俺達の傍にまでやってくると、目尻に涙を浮かべながら立ち上がり言った。
「JJ様がお呼びです! 至急屋敷にまで駆けつけるようにと!」
「何かあったの? あと大丈夫?」
「私は大丈夫です! とにかくお急ぎ下さい、急がないとJJ様にいじめられます……」
がたがたと震える姫様。JJ……唯一年下のキャラだからって……。
こうして俺は姫様を抱き抱え、アンヘルと共に精霊の力を使ってダッシュした。屋敷まではものの数分で到達する事が出来た。身体能力のブーストを切って会議室に駆け込むと、その瞬間にJJが俺達を呼んだ理由がなんとなくわかってしまった。
そこにはJJとじいや、そして三人の見知らぬ男女が立っていた。一人は緑色のローブを纏った男性。年齢は二十代くらいか。眼鏡をかけ、温厚そうな顔立ちをしている。二人目はなんと言うか、派手な軽装の男。シロウよりもファンキーな感じの出で立ちで、金色に染めた髪の毛を後ろに向かって立たせている。目つきが悪く、姿勢も悪い。三人目は黒いマントで身体を覆い、俗に言う三角帽子を被った少女だ。こちらも眼鏡をかけている。歳の頃は……十代後半くらいか。多分俺と同い年くらいだろう。少しおどおどした感じで、二人の後ろに隠れている。
「早かったわねレイジ。アンヘルも一緒だったの?」
「たまたまね。それで、彼らは?」
「初めまして。僕たちは北ダリアにあるスズナ村からやって来た者達です。君たちと同じ、“プレイヤー”であると言えばわかりやすいでしょうか」
俺の質問に対しJJに代わって答えたのは眼鏡の男性だ。三人組の中では最年長らしく、笑顔で語りかけてくる佇まいからも落ち着きが感じられる。
「プレイヤー……? それじゃあ、俺達以外の……?」
「そうよ。この三人は私達とは別の“チーム”所属の人間らしいわ」
腕を組み、本棚の傍に置いた椅子に腰掛けるJJ。俺はそれを踏まえ改めて三人を見た。俺達以外のプレイヤー……その存在はあっても決して不思議ではない。要するにただザナドゥがMMORPGだったと、それだけの話である。俺達はダリア村周辺の狭い範囲でしか活動していなかったのだから、他の地域で同時期の別のチームが動いていたとしても不自然ではない。
「僕はクラガノ。彼はハイネ、そして彼女がマトイと言います。先にJJさんと話をさせてもらったので軽く情報は共有しているのですが……っと、その前に君は……?」
「あ、すいません……名乗りが遅れて。俺はレイジ、こっちがアンヘルです。JJから聞いたかもしれませんが、他に仲間が二人います。それで五人のチームです」
「五人の? それは素晴らしい。フェーズ1の試練を一人も欠かす事無く乗り切ったんですか」
笑顔で賞賛の言葉を向けてくるクラガノさん。だけど俺は首を横に振る。
「いえ、俺達のチームは六人でした。一人がボス戦でリタイヤに……」
「六人のチーム……そうでしたか。これは失礼、僕達のチームは最初から五人だったもので……。こちらも先の戦闘で二人仲間を失いました。お互い、これまで色々あった事でしょうね」
そう、俺達が双頭の竜と戦っていたように、彼らもまた何らかの試練に直面していた筈だ。こうして無事にフェーズ2を迎えているからには、問題は解決したのだろうが……。
「ここダリア村でNPCが終結し、クィリアダリアを奪還しようとしているという噂は僕達の村にまで聞こえていました。これは他のチームが関与しているのだろうと思い、ここまで足を運ばせてもらったわけです」
相変わらず喋っているのはクラガノさん一人だけだ。ハイネと呼ばれた青年はまったく俺達と話をする気がないらしく、マトイという少女はおどおどしてしまっていてやはり話をする気がないらしい。どうもこの三人の中で、リーダーはクラガノさんのようだ。
「率直に申し上げます。今回のフェーズ2……僕達と手を組んでクリアを目指しませんか?」
即ち協力の申請……これは願ったり叶ったりだ。どちらにせよ人手は足りなかったところなわけで。攻略範囲が増えればそれだけ攻防のバランスを取るのが難しくなるが、三人もプレイヤーが増えれば戦力としては申し分ないだろう。
「勿論喜んで……って、それでいいよね? JJ」
一応JJに目配せしてみる。JJはYESともNOとも取れないような無感情な眼差しで三人を見ていた。そりゃまあ、初対面の人間を疑うなという方が難しいと思うが……今回の場合は話が違う。彼らは元々俺達と場所は違えど同じ目的の為に戦っていたプレイヤーなのだ。協力を惜しむ理由がない。
「ま、いいんじゃないかしら? リーダーはあんたなんだし、あんたの好きにしなさい」
「そ、そうですか。じゃあ……改めて宜しくお願いします、クラガノさん」
「こちらこそ宜しくお願いするよ、レイジ君」
差し出した手をクラガノさんは笑顔で握り返してくれた。少し話をしただけだけれど、クラガノさんの人の良さが伝わってくる。この人とならうまくやっていけそうだ。えーと……後ろの二人はどうだかわからないけれど……。
「手を組むのはいいけど、その前に幾つか決め事を作って置くわよ」
握手をする僕らの間を引き裂くように飛び込んで来たJJがつっけんどんに告げる。それから俺を背にし、クラガノさんの顔をびしりと指差した。
「まず、フェーズ2の計画はこちらの指示に従ってもらうわ。逆らいたければ勝手にやって頂戴。今回の作戦のリーダーはうちのレイジだから、そこんところをきちんと弁えるように」
「JJ……別にそんな事あえて言わなくてもいいじゃないか」
「あんたはどこまでお人好しなの? 組織を大きくする上でこういう決め事はきちんとやっておかないと後で火種になるのよ」
まあ確かにJJの言葉にも一理ある。しかし俺がリーダーって……多分クラガノさんのほうがリーダー向きなんだろうけどな。自分で言い出した事だ、曲げるわけにもいかない。
「次に、あんた達が知っている情報は洗いざらい吐く事。少しでも嘘を織り交ぜたりしたらこの村からは出て行ってもらうし、最悪は一戦交える事になると覚悟しなさい」
おいおい……。俺がお人好しなのはいいとしても、お前は好戦的すぎるだろ……。
「わかっていますよ。僕達の目的もオルヴェンブルムの解放ですからね。情報はすべて共有して行きましょう。お互いの知らざる事を知れば、よい手が生まれるかもしれませんからね」
JJの横暴に対しクラガノさんは冷静かつ穏やかであった。よかった、チビっ子の売り口上にマジレスするタイプの大人じゃなくて……いや、ある意味マジレスかこれ。
結局JJは終始不機嫌な様子でそっぽを向いていたのだが、これはただの人見知りと取る事も出来る。だから俺はそんなJJの態度をあまり深く考えようとはしなかった。
それが後々あんな事件を引き起こす事になろうとは、当然思いもしなかったわけで。
こうして俺達とクラガノさんのチーム。二チームによる王都奪還作戦が開始されるのであった――。




