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XANADU  作者: 神宮寺飛鳥
【愛にすべてを】
114/123

愛にすべてを(2)

「……くそっ! まるで“座”に近づけねぇ!」


 棺桶から出現した勇者による防衛ラインに生身のイオが近づけばどうなるかは明白だ。

 そして座の側にはあのケイオスがズボンに両手を突っ込んだまま待機している。今はどういうわけか大人しくしているが、彼は現存する唯一の正式な勇者。その力はイオとは比べ物にならないだろう。


「せっかくここまで来たのに……また何も出来ないのか、あたしは……!」


 悔しさに拳を握り締める。ミユキはオリヴィアの剣を突きつけられ、万事休すの状況にある。それを救い出す力もイオにはないのだ。

 世界に祈れば、その願いが届けば力を取り戻せる。実際にミユキは成し遂げているのだから嘘という事もないだろう。が、イオにはわからなかった。


「あたしの願い……願いって……そりゃ……あるけどさ……」


 オリヴィア・ハイデルトークがこの異世界の救済を願い、あらゆる絆を断ち切ろうと決め込んだ覚悟。

 そしてその覚悟を正面から迎え撃とうとする篠原深雪の覚悟。そのどちらも生半可なものではなく、背負った重さは計り知れない。

 イオにはそんな願いはなかった。確かにこうなってほしいという願望はある。だがそれはささやかで、世界なんてものの中心で叫ぶ程の事には思えない。

 自らの願いに全てを投げ打てる程、今のイオには自信も覚悟も足りていないのだ。心に強さを抱く者がせめぎ合うこの場で、イオの存在はあまりに幼すぎた。


「都合よく自分なんか信じらんねーよ……信じらんねーけど……!」


 ミユキは今、オリヴィアに倒されようとしている。それはわかる。きっとこのまま放っておけば、オリヴィアの剣はまたミユキを切り裂くだろう。

 思考を放棄して地を蹴った。迷っても考えても結論は出ないし、どうしても覚悟は決まらない。ならば幼さゆえの無謀さで突き進むしかない。


「ミユキーーーーーッ!!」

「イオ……駄目です、こちらに来ては!」


 倒れたまま叫ぶミユキの声を無視して走る。流れる汗も乱れる呼吸も知ったことではない。今はまずミユキを助ける事が先決――!

 自分に何が出来るとも思えないが、背中から突っ込んで体当たりでもすれば。せめてミユキが起き上がるまでの時間さえ稼げれば……しかし、その見通しは甘すぎた。

 振り返ったオリヴィアは何の感慨もなく、氷のように冷たい眼差しを向けてくる。背筋がぞくりと震えたのは確実な死を予感したから。ギリギリで踏み止まり、刃を辛うじてかわせたのはこの世界での戦闘経験が長かったから。

 それでも横一線の斬撃にイオの脇腹が切り裂かれる。流れる地に染まるシャツ、鋭い痛みは機械の鎧越しではない、リアルな恐怖を伝えてくる。


「レイジとミユキ以外の勇者に“世界”をどうにかするなんて不可能なのに……死に急いで……!」


 全く言う通りだと思った。そう、世界はレイジとミユキにだけ興味を持っている。それ以外の勇者など取るに足らない存在、そう感じているに違いない。


「イオ! ……このっ!」


 ミユキは倒れた状態から大地に手を着きオリヴィアに蹴りを放つが、オリヴィアはそれを右腕でガード。左手に魔力を収束させ爆発を起こした。

 逆さまの状態で腕を十字に構え防いだミユキだが、衝撃で大きく吹き飛ばされる。至近距離の直撃に意識が飛び、頭を地べたにぶつけ転がるように倒れこんだ。


「ミユキ……!」


 そちらに目を向けた刹那、イオの眼前にオリヴィアの剣が迫る。停止する心拍、顔にその刃が吸い込まれる様に目を見開くイオ、だが刃は届かない。

 真上から突如飛来した剣がオリヴィアの剣を弾き、そのまま大地へ突き刺さったのだ。咄嗟にイオはその剣を抜き、オリヴィアの第二撃と打ち合う。

 何とか合わせられたが今のオリヴィア後からは人間離れしている。白い魔力が光ると同時に三撃目で剣が砕かれ、衝撃でイオの両手が裂け血が流れた。


「下がってろ、イオ!」

「この声……!?」

「レイジ……?」


 螺旋階段を降りずに中央の吹き抜けを高速で落下するレイジは空中で無数の剣を取り出しそれをオリヴィアへ投擲する。

 オリヴィアが防御に回っている間にイオの目の前に落下すると、その両手に新たに剣を取り出しオリヴィアの追撃を防御する。


「まさかと思ったけど……オリヴィアなのか!?」

「救世主レイジ……」


 視線を交える二人。次の瞬間互いの攻撃が互いを後方へ弾く。ついでにイオを抱えて背後へ跳んだレイジはそのままイオの手を強く握りしめた。


「これから魔力をそっちに少し分ける! 俺も消耗してるから大した量は与えられないけど、ミユキのフォローを頼む!」


 繋いだ手からは温かい光が流れこんでくる。ついでに掌の切れた傷も治癒したらしい。そのデタラメさに驚きながらも、しかしイオは強くうなずきを返す。


「……わかった。座はあそこだ。ケイオスもいる。ミユキはあたしが起こしてくるから!」


 レイジは掌に光を集め、大鎌を形成。接近する勇者達を衝撃波で薙ぎ払う。イオはその背後を駆け、ミユキへと近づいていく。

 走りながら右手に力を集中させる。全身を覆う鎧は作らず、右腕だけを鎧で包むと道中を阻む勇者を殴り飛ばした。倒れたミユキに駆け寄ると、その右手にビームライフルを作り出し接近する勇者達を牽制する。


「ミユキ、しっかりしろ! レイジが来てくれたぞ!」

「う……レイジ……さん……?」


 額から血を流すミユキに頷くイオ。やはりくさっても救世主、レイジが現れただけで安心感が段違いだ。

 だがそれにかまけてぼけっとしているわけにはいかない。まだ意識がふらついているミユキを立ち上がらせるとライフルを連射しながら後退する。


「座の前にはオリヴィアとケイオス……突破は簡単じゃないよな」


 近づく勇者を物ともせず次々に切り裂くレイジにオリヴィアは目を細める。

 やはり強い。間違いなくレイジは最強の勇者、世界を救い変革し得る者として覚醒した。まだ神の座に到達せず世界から完全な供給を受けず、無理矢理意思の力だけで力を引き出してこれだ。もう生半可な戦力でどうにかなる相手ではない。


「……流石ですね、レイジ様。私も少しは強くなったつもりでしたが……あなたには適いません」

「オリヴィア……」


 どんな言葉をかければよいのかわからなかった。レイジは結局彼女にどんな未来も示してやることはできなかったし、それどころか彼女を一度死なせてしまっている。

 あの時、まどろみの塔で命を落としたオリヴィアはアンヘルの力で復活を果たした。アンヘルのその生命と引き換えに、彼女は生きながらえたのだ。

 ならばこの状況は何なのだろう。レイジが救えなかったオリヴィアが。アンヘルが全てを託したオリヴィアが事を起こしたというのなら、そんなものは全て自分の罪じゃないか。


「君は、ザナドゥの力を使って俺達の世界を侵略しようとしているんだね?」

「その通りです。私はまだ、この世界を諦めたくない」

「……それは、ケイオスに唆されたのではなくて……」

「――はい。これが私の答え。オリヴィア・ハイデルトークの結末です」


 そうかと小さくこぼして目を瞑る。レイジは静かに息をつき、それから真っ直ぐに伝えた。


「なら、もう戦う必要はない。オリヴィア・ハイレルトーク……俺には君の結末を書き換える代案がある」


 その場にいる誰もが驚きを隠せなかった。何故ならばそんなプラン、あるはずもないからだ。

 このザナドゥと呼ばれる世界はもう詰んでいる。レイジ達の現実世界への進行は世界そのものの意思だ。それを変える事は……まあ、レイジならば可能かもしれない。

 だがその後、ザナドゥが再び自らの上に人の生を願う事は難しいだろう。この結末は結局どこかの誰かが滅んで、どこかの誰かが泣かねば綴れない物だ。その代案など。


「事実だ。俺には誰一人悲しむ事無く、二つの世界を両立させる秘策がある」

「そん、な……ことが……?」

「俺は嘘はつかないよ、オリヴィア。俺は君を救える。だからこんなやり方はもうやめよう。焦る必要なんかないんだ。俺が必ずなんとかしてみせるから」


 武器を捨て優しく差し伸べる右手に決意が音を立てて崩れていくのを感じていた。

 そう、レイジは嘘はつかない。彼は常に正直で誠実だった。そんな彼がその場しのぎでそんなことを言うとは思えなかった。

 そもそも、レイジならばきっとその気になればオリヴィアでも一刀両断にしてしまうだろう。そうしないで手をとれという言葉には、堪らない魅力があった。

 思わず息も止まってしまいそうだ。それどころか心臓の鼓動させも。膨大な時の流れの中で繰り返した絶望と後悔に塗り固められた覚悟を投げ捨ててしまいたくなる。


「本当……なのですか? 本当に……“なんとか”なるのですか?」

「勿論だ。何とかしてみせる。約束するよ」

「本当に……こんな……こんな虚しい戦いを……終わりにしても……良いのですか?」


 力強くレイジは頷く。傷だらけの右手。沢山の物を取りこぼし、沢山の人を守った右手が目の前にある。

 オリヴィアは自らの手を見つめ、思わず苦笑を浮かべる。まだまだ覚悟も、傷も足りない小さな手。目の前の少年は一体どれ程の馬鹿げた痛みを抱え込んでいるのだろうか。


「……レイジ様。私の方がもう、レイジ様より大人になってしまいましたね」


 ふっと笑う先、レイジはまだ少年のままだ。オリヴィアはもうそろそろ成人しようという頃だろう。最初は遠かった二人の年齢差は、いつの間にか逆転してしまった。

 時は流れた。恐ろしく無慈悲に、どこまでも冷淡に……。オリヴィアは目を瞑り、掌を握り締める。


「――ならば聞かせて下さい。今、ここで。本当にそれが誰もを救う結末ならば」


 真っ直ぐに見つめる視線にレイジはオリヴィアに近づこうとした。それをオリヴィアは切っ先で制す。


「私にだけではなく、この場にいる全ての人にです。外にいるレイジ様のお仲間にも中継しましょうか。それとも、向こうの世界の皆さんにも?」


 信じていないわけではない。むしろその逆。信じているからこそ、レイジがこの状況をひっくり返すと断言するからこそ、それを疑っている。


「誰も泣かない手段なんて、そんな図々しいものがあるのなら。それを示して下さい。誰にも隠さず……全てに対し、晒してください」

「……わかった」


 オリヴィアは剣を天に掲げる。すると神の座が輝き、その光がこの世界に満ちていく。

 自分の言葉が世界全てに伝わっていく。それを感じ取りながら少年はゆっくりと語り出した。


「外で暴れているあの巨大な怪物。あいつの正体は俺がこちらの世界で使っていた仮初めの肉体だ。俺をコアとして作った魔物って事だ。そうだろ?」


 だからレイジの精霊であるミミスケだけがあの怪物の内側から出現した。そして力の中継地点でもあるあの肉体が現実世界に近づいていたからこそ、レイジは精霊器を引き出す事が出来たのだ。

 織原礼司という願望の怪物から世界は様々な感情や衝動を学んだ。そしてそれをどのようにして形にすべきなのか、行動に移すべきなのかも。


「まずはあのデカブツの中にいる俺を殺して世界の意識の矛先を“こっち”の俺に向けさせる。後は根比べだ。世界の願望は俺が受け止め、世界は俺が説き伏せる。今殆どそう言う状態になってるんだから、それを理性的にやるだけの事だ。不可能じゃない」

「そうですね。それで? ザナドゥを止めてどうするというのですか?」

「二つの世界を隔離する。ザナドゥの興味を内側へ向けさせるんだ」

「……それは不可能です。完全な意味で隔離は出来ない。それはあなた達の世界側の境界が甘くなっているせい。ザナドゥが心変わりすれば、また同じことになります」

「そうならないよう、ザナドゥを俺が説得する。もう一人の俺を倒せば俺が神になる事は難しくない。そうなったらこっちの世界の人間も再生させる」

「それで一度は全てが丸く収まったとしても、ザナドゥはあなたを忘れられませんよ。異世界という眩い光を思い出し、必ず郷愁に駆られる」

「ザナドゥはもう異世界へ興味を向ける事はない。そういう風にする」


 目を細めるオリヴィア。それから小さく肩を落とし。


「……やっぱり思った通りです。レイジ様の言っている事は、信用なりません」


 レイジもそれは自覚していた。幾らなんでも苦しい言い訳だったと。

 だが、本当の本当の事を語るわけには行かないのだ。オリヴィアだけにならばよい。だが――仲間にそれを今伝える事は出来ない。

 オリヴィアも気づいていた。だからこそこういった交渉を仕掛けたのだ。“仲間の前で語れない事”なんて、そんなものは相場が決まっている。

 レイジの事を信じていないのではない。信じているからこそ――彼の言う“犠牲のない結末”は信じられない。


「誰も悲しまない……そんなのは嘘なんでしょう?」


 レイジは答えなかった。ならば誰が悲しむ事になるのか? そんなものも決まっている。だからこそ、オリヴィアはレイジを否定する。


「あなたのそれは代案足り得ない。ただの現実を先送りにしているだけ。私のプランと大差ありませんよ」

「だとしても、必ず君を救ってみせる。俺達の世界も、これまでの全ての犠牲も、この世界の人類さえもね」

「私だけ救われるんじゃ意味がないから、結局誰かを犠牲にしなきゃいけないから、“こういう事”になってしまっているんですよ、レイジ様……っ」


 きっとレイジは本当に全てをひっくり返そうとしている。だがその結果何が起こるのか、オリヴィアには検討がついていた。

 何故ならばそれこそ最もオリヴィアが切望し、叶うならばどうかと祈った願いそのものなのだ。だがその願いはあまりにも横暴で、あまりにも業が深すぎる。


「だから私は、ひとりきりで良かったのに……」


 状況が理解出来ないイオは首を傾げる。そうしている間にミユキも気を取り直し、立ち上がる事が出来た。


「やはりあなたの代案は受け入れられない。あなたの代案は、全ての命を冒涜している!」

「……理解してくれないか。でも別に構わないよ。俺は俺のエゴで全てを救うだけだから」


 死神の鎌をくるりと回し、トンと軽く肩に乗せレイジは目を細める。その様子はとても正義の味方という面構えではない。

 自分の望む結末を手に入れる為ならばどんな犠牲も厭わない残酷なまでの覚悟の強さ。敵意ではない。むしろ善意から来る威圧感にオリヴィアは思わず息を呑む。


「その振り切れた心の強さ……救世主レイジ、あなたはそこまで……」

「邪魔をするのは君の勝手だ。勿論俺は君を殺さないで全てを成し遂げるけれど、手足の一本くらい切断されても文句は聞けないぞ?」


 レイジは本気だ。レイジは自分の願いを叶える為に他の全てを本気で叩きのめす事が出来る。オリヴィアにまだ固まっていない覚悟、それをこの少年はもうとっくに得ている。


「安心していいよ。俺の力なら、君の四肢が全て切断されたってくっつけてあげられるからね」


 カツンと、少年が一歩を踏み出す。その緩慢な挙動と対峙しただけでオリヴィアの全身から汗が吹き出した。

 これは本能的な恐怖だ。確かにこの少年はオリヴィアを殺さないだろう。殺さずに済ませる事なんて造作もないからだ。

 機械的で合理的な判断。説得はした。それが通じないから武力行使。けれど殺しはしないし後で回復する目処があるから、多少傷つけても構わないという流れるような冷徹さ。


「本当……あなたは最強です。最強の勇者にして、最強の救世主……だけど」


 両手でダモクレスの剣を構えるオリヴィア。深く酸素を肺に取り込み、戦いの覚悟を纏う。


「私の願いとあなたの願いは相容れない。勝負です、救世主……!」


 近づくレイジ、そこへオリヴィアの後方から火炎の弾が飛来する。レイジはそれを鎌で一閃するが、その間にオリヴィアの側にはケイオスが並んでいた。


「相手がレイジ君じゃ流石に手出ししないわけにはね……。出来れば君一人の選択を見守りたかったけど、ま、これも世界の意思かな?」

「ケイオス……一応警告するよ。さっさとそこを退け」

「なかなか粗野な物言いだね。君のやろうとしている事はなんとなくわかるけれど、それを容認する事は出来そうもないな」


 肩をすくめて笑うケイオスにレイジはわずかに表情を曇らせる。が、別にどうだっていいことだ。障害が二つに増えた、ただそれだけ。

 ケイオスは自らの指に輝く精霊器に魔力を集中させていく。今彼は世界から最も力を分譲された勇者だ。そしてその実力は勇者達の中でも飛び抜けている。


「僕のリング・オブ・イノセンスはその本質からして神に近いものだ。“この世界が持つ力を借りる”という能力でね。世界が自然に備えているものは何でも操る事が出来るのさ」


 パチンと指を鳴らした直後、レイジの周囲に強烈な圧力が降り注いだ。下方向に向かって広範囲の加圧……すなわち重力がレイジの身体にのしかかる。

 紫色の光に覆われたレイジの足元に広がる白い大地に亀裂が走る。その直後、ミユキの放った凍結の矢が降り注いだ。

 ケイオス狙いの攻撃をオリヴィアはリヴァイヴの力で打ち消す。その間に重力から開放されたレイジの側に駆け寄り、ミユキは再び矢を放った。


「レイジさん、またどうせろくでもないことを考えているのでしょう?」

「ミユキ……」

「だとしても構いません。私が隣に居ますから。あなたがどんな決断を下しても、私がそれを見定めます」


 否定でも肯定でもなく、ただ力強い頷きにレイジは少し驚く。二人は一瞬視線を交え、それから互いに戦闘態勢を取る。


「座の方は俺とミユキでなんとかする! イオは戻ってシロウを援護してやってくれ! あっちを一人で持たせるのは無理だ!」

「……わかった。元々あたしの目的はそれだしな。こっちは任せるからな、救世主!」


 軽く片手を上げて笑うレイジはあどけない少年のようだ。調子が狂う……そんな事を考えながらイオはその背中に巨大なブースターを展開。吹き抜けを真上に飛翔していく。


「逃げられたか。でも流石に追撃する余裕はなさそうだね」

「ケイオス、ここが正念場です! なんとしても……彼の願いだけは阻止しなければ!」

「わかってるよ。そういうわけだ、レイジ君。君と戦うのは不本意だけど、もう少し付き合ってもらうよ」


 剣を手に前に出るオリヴィア。レイジはその攻撃に先んじて鎌から衝撃波を放つ。

 ケイオスは指輪の力でオリヴィアの前に風の障壁を作りこれを左右に受け流し、続けて頭上から雷撃を放つ。上から魔法、下からオリヴィアの斬撃。しかし次の瞬間、レイジの姿は二人の視界から消え去っていた。

 空振りした剣に姿勢を崩したオリヴィアの直ぐ隣からミユキの光の剣が繰り出される。かわしきれず切り裂かれた腕にオリヴィアは顔をしかめるが、凍結はリヴァイヴで解除し直ぐ様反撃に光の魔法をチャージする。

 一方レイジはケイオスの前に移動を果たしていた。移動したレイジ自身も何がどうなったのか理解していなかったが、そのままケイオスへ鎌を振り下ろす。


「ミユキの時間停止か……! 俺にも知覚出来ないから急だな……!」

「流石は最強の勇者達。即席の連携も悪くないね」


 ケイオスはレイジの鎌に空間を圧縮させ応じる。掌サイズに収束した周囲の空間が収縮、拡散する衝撃でレイジの攻撃を完全に相殺して見せた。


「世界そのものが武器……成程、強力な精霊器だ」

「お互い様だろう? さて、色々言いたいこともあるだろうし……もう少しゆっくり楽しもうじゃないか」

「悪いけどそんな時間はないからね。速攻でぶっ飛ばして終わりにさせてもらう」


 レイジとケイオス、二人は世界がそれぞれ選び出した二つの答えだ。その答えが今、勝敗を決めようとしている。


「聞かせて欲しいね。君の言うプランというやつを、僕にだけこっそり」

「敵にわざわざ教えてやるほど、ヒマじゃないんでね!」


 二人の精霊器がぶつかり合う。ここが最後の戦場、決戦の地。

 今まさに全ての答えがこの場所で定まろうとしていた。

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なつかしいやつです。
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