世界(2)
――世界は死を望む。
本来それは無限に変化し続ける物だ。世界は生まれつきそれを自覚している。
自らは変化しなければならない。どんな形であれ可能性を探求しなければならない。それは世界が持つ意思の源泉、本能と言い換えても良い衝動。
ザナドゥと呼ばれる理想郷は完成された静止世界であった。そこに暮らす人々は意図的に争いから遠ざけられ、あらゆる命が無限であり、全ての因果が停止している。
それでは満足できないから、殺す。それではまだ物足りないから、自らの意思で死ぬ。
魔物と呼ばれる黒い闇は紛れも無く死を望む意思そのもの。世界という膨大なエネルギーから発せられるその死の衝動は激しく、あっという間にその体表を包み、全ての命を食いつぶしてしまう。
失敗した。また失敗した。失敗失敗失敗失敗。だからその度に終わらせて繰り返す。思い通りにならない歴史など要らない。何の代わり映えもしない未来など要らない。
そんな全てを憎む激情は世界の中心部から溢れ出し、影となって大地を這う。夥しい数の怪物は草木の一本すら残さず、己の全てをただのエネルギーへと変貌させていく。
「この様子じゃ、クィリアダリアどころかこの世界の全部の人間が……クソッ」
「アークだけがこの滅びから残されるのでしょうね……」
シロウの言葉にあの亡国へ想いを馳せる。ミユキが暮らした二年の間、あの国には相応の思い入れが生まれていた。
自分を勇者として受け入れてくれた人々がいた。彼らはNPCだなんて呼ばれるべき存在ではなかった。当たり前に生きた命、それをこの世界は一瞬で台無しにしてしまった。
「アスラの存在が必要とされていた意味がようやくハッキリ分かりました。あれは人のどうにかできる事柄から大きく脱線している」
浮遊する岩場を飛び移りながら神域を進む一行、その先陣を切るのは魔王アスラだ。
彼女の持つ魔王の剣レガリアは一撃で無数の天使を薙ぎ払い、あらゆる攻撃をかき消す力を持っている。魔王と呼ばれる存在は本来そういうものであり、ミユキが相討ちに持ち込めたのは奇跡以外の何者でもなかった。
黄金の鎧を鳴らしながら大地を疾駆するその背中は信頼の一言に尽きる。ミユキはふとその背中に姉の姿を重ねる。
「アスラ、魔力の消費は大丈夫ですか?」
「ああ。私の貯蔵量は天使一だからな。もともとこの身体は最強のスペックを有している。魂を載せ替えたとしても些かもその可能性が劣る事はない」
最強の勇者に成長する筈だったミサキの身体だからこそ、あらゆる困難を踏破するほどの魔力を帯びている。そしてその力は今、この世界に未来を作り出す為に行使される。
「神域までもう少しだが……クソ、まだ権能が戻ってこねぇ!」
「精霊器が使えないんじゃ、あたし達はいつまでもただの足手まといだぞ……」
未だ本来の力を発揮できないシロウもイオも苛立ちを隠せない。
この世界に再構築した肉体は魔力を帯びる。確かに若干体力、耐久力は上がっているが、根本的に存在の桁を繰り上げるようなものではない。
「やはり精霊器の奪還が第一ですか……」
「ロギアの話によれば、世界と対話するには神域の内部にある神の座という場所に向かう必要があるそうだな」
「アスラも神の座にはまだ行った事はないのですね?」
「ああ。私はその下にあるパンデモニウムがねぐらだったからな。神の座はこの世界の成り立ちから存在していた原初の空間。恐らくだが、ケイオスもそこにいるだろう」
「つーことは、ケイオスと闘いながら世界と対話しなきゃいけねぇのか? めんどくせぇな……」
辟易したシロウの言葉にミユキは考える。今のこの状況からケイオスが何を狙っているのか、それが判断出来れば次の動きの先手を打てるのだが……。
「……二人共見て! 空に向こうの世界が!」
イオの言葉に頭上を見上げると、そこには現実世界でそうであったように向こう側の世界の境界がゆらぎ始めていた。
まるで鏡写しのように広がる空の世界、そこには上下逆様で理解が難しいが、見覚えのある巨大なビルが映し出されている。
「あれは……トリニティ・テックユニオンの本社ビル!?」
「……ダメです。やはり、救世主を向こうの世界に召喚する事が出来ない……!」
現実世界のトリニティ社ではロギアが三度目の召喚を試み、その失敗を報告していた。
一度ならず三度目の正直もままならないとなると、本格的に焦りが募ってくる。レイジはメディカルポッドから起き上がり、頭を抱える。
「なんでだ……!? 俺に何か問題があるのか!?」
「ロギア、あんたの扱える権能が限界を超えちゃった可能性は? 他の三人はよかったけど、レイジの分でちょうどキャパシティオーバーしたとか」
「それはありません。私はむしろ今力を少しずつ取り戻しつつあります。二つの世界の境界が揺らぐのが想定よりも早い」
ロギアは冷や汗をかきながら口元に手を当てる。JJは暫し考えた後、レイジとロギアを交互にみやり。
「しっかりしなさい! 一つ一つ原因を検証するの! 魔力が足りないのでなければ、他に召喚できない理由として考えられる物はなに? あんたが一番詳しいんだから、慌ててる場合じゃないでしょ!」
「わかっています。それを今考えて……」
と、そこでロギアの顔色が変わった。見えもしないはずの天井越しの空を見つめ、歯ぎしりする。
「召喚を逆探知された……! この場所に向かって逆召喚を仕掛けてきます!」
「それくらい想定内でしょ! 氷室、社員は退避済み?」
「ええ。この会社に残っているのはこの場の人間だけです」
「メリーベル、鳴海機関のボディガートは配置してあるのよね?」
「問題なし。ただ、この世界の近代兵器が天使に通用するかは微妙かもね」
歪んだ境界を突き抜け、無数の翼を持つ傀儡の兵士が現実世界へ転移する。二つの世界の境界が揺らいだ今だからこそ可能な大規模転移だが、天使の数は二十体程度である。それが今の二つの世界のリンクの限界だった。
それらはまっすぐにトリニティ社を目指す。屋上に、そして窓を突き破り侵入した天使達は待ち構える鳴海機関の黒服達の銃撃を浴びるが、殆どダメージは与えられずにいた。
「異世界兵力の侵入を確認! 更に第二次転送を確認! 敵兵力、現在このダイブ装置を目指し侵攻中、阻止できません!!」
「私が打って出るわ。この世界じゃまともに術は使えないけど、身体のスペックが現地人とは違うから」
氷室の声にメリーベルがアタッシュケースより金色の手甲を取り出しながら応じる。歩きながらすれ違い様、JJの肩を叩き。
「この場の指揮は現時点を以ってジュリア、あなたに一任するわ。何かあったら無線で連絡して」
「……わかった。気をつけて、メリーベル」
ウィンクして立ち去るメリーベルの姿を自動ドアがシャットアウトする。JJは胸に手を当て深呼吸を一つ。
「このビルの防衛戦力を表示して。私が直接指示を出すから。それからロギア、転移できない理由だけど、幾つか可能性を提示するから考えて」
「……わかりました」
「まず、向こう側から転移をロックされている可能性は?」
「それはありません。転移系のシステムは私とクロスのオリジナルですから、ケイオスが介入する事は不可能でしょう」
「そういえばメリーベルにすら珍しい術式なんだったわね……。そのクロスが操られるか何かしてるか、協力してロックしてる可能性は?」
「ありません。クロスは救世主の介入を歓迎する筈です。これは間違いなく。操られている可能性は捨て切れませんが……」
「転移っていうのは要は向こうの世界に擬似的に肉体を生成してそれに魂を乗せる行為なのよね? 向こうの世界にレイジの肉体を構築できない可能性は?」
その言葉でロギアは目を見開いた。もう大丈夫だと判断したのかJJはインカムをつけながらパソコンの前に腰を下ろし、氷室と並ぶ。
「救世主、よく聞いて下さい。可能性は一つあります。向こうの世界に、“既にあなたがいる”可能性です」
「え? 既に俺がいるって、どういう事?」
「召喚システムは先にJJが言ったように“異世界に仮初めの器を構築し、そこに魂を乗せる行為”です。そして安全確保の為に、異世界に何らかの事情で肉体を構築できない場合、魂の転移は失敗するように作られています」
「……ああ、だから“いわのなかにいる”とかにならないのか」
「あなたは確かあの最後の戦いの時、“肉体と魂が分離した状態”に陥りましたよね?」
それはまどろみの塔での戦いの時の事。目の前でオリヴィアを殺されたレイジは絶望し、その身体を“何者か”に明け渡してしまった。
その結果暴走した肉体は魔物同然の姿に変貌し、その間レイジはミミスケと共にあの体の外側に浮いていたように思う。
「あれについては私も理解していません。つまり、未知の現象だという事です。救世主は心当たりがありますか?」
「い、いや……俺にもアレは何がなんだかさっぱり…………あ?」
そういえばミミスケが言っていた。“世界は経験を蓄積されたレイジの肉体を利用しようとしている”と。
その言葉の意味を当時は深く考える余裕もなかったが、今になって思えばあれは世界がレイジの肉体を乗っ取ろうとしていたという事だったのかもしれない。
「世界が俺の身体を使って何かをしようとしてる、って可能性はないかな? 俺の精霊がそう言ってたんだけど」
「世界が……ですか?」
上層から聞こえる天使の攻撃だろうか。爆発音とガラスの飛び散る音に僅かに身をすくめるロギア。それから考えをまとめるように目を細め。
「世界が救世主の肉体を使って何かをする……? そんな事はこれまでの経験上なかったはずです。しかし……ケイオスが何かをしているとも思えない」
「召喚システムは凄く複雑なんだったよね? でも、君達の近くにいたケイオスなら出来るんじゃないかな?」
「いえ。彼はあくまでも一人のプレイヤーとしての参加にこだわっていましたから。神の座に時折やってきていたようですが、クロスも彼には恐らく召喚について伝えていないでしょう。どちらにせよその実権は私が掌握していますから。逆にクロスが召喚系のシステムを握っていたなら、二つの世界を物理的に繋げるような遠回りな方法は選ばなかったでしょう」
「じゃあやっぱり世界そのものが俺で何かしようとしてるって事……? で、それで俺の身体はもう向こうにあって魂も乗ってるから、召喚できない?」
「そう考えるべきでしょうか……」
「それをどうにかする方法って……」
「……残念ながら……」
「そこをどうにかなりませんか? 神様?」
「ならないものはならないのです、救世主」
至近距離で半笑いで見つめ合う二人。また上の階から爆発音が聞こえ、身を潜めた二人は互いの額をぶつけ、僅かによろける。
「と、とにかく……救世主が異世界へいけない以上、召喚が成功したメンバーだけでなんとかしてもらうしかありません」
「そういうわけにはいかないでしょ!? なんとか他の手段はないの!?」
「ないわけではありませんが……。向こう側に仮初めの肉体があって召喚出来ないと言うのなら、あなたのその肉体ごと異世界に転移させればよいのです」
だがそれには多くの障害がつきまとう。
この肉体は仮初ではない以上、もしも怪我をすれば相応の損傷となる。仮初めの肉体に比べて強度も膂力も落ちる上、致命傷は肉体的な死につながってしまう。
そして肉体ごとの召喚は多大な魔力を必要とする。だからこそ大量の勇者を召喚する為に魂だけを召喚するというシステムが構築されたのだ。
「その生身の肉体で向こうへ行かせるには私の力がまだ足りません。それに肉体を伴った転移は、二つの世界の境界を損傷させるおそれがあります」
「もう天使とかこっちに来てるけど!?」
「あれは逆召喚です。境界を超えるには世界の力を借りていますから。もし向こうに送り込めるタイミングがあるとしたら、それは二つの世界の完全融合の直前。そして、行きはかまいませんが、向こうで二つの世界の融合を阻止した場合、あなたはこちらに世界に戻れなくなる」
境界が緩み、ロギアがその力を取り戻し、レイジが向こう側の世界へ行ったとして。向こうの世界で二つの世界の融合を阻止した場合、緩まった境界は閉ざされる以上、レイジが元の世界へ肉体を伴って戻る為には、また世界の門をこじ開ける必要がある。
「まとめると、もう少し待てば行くには行けるけど、帰りは保証しないってこと?」
「その通りです。それにどちらにせよ私の今の力ではここから境界を超えてあなたの肉体を転移させるほどの力はありません」
「じゃあどうすれば?」
ロギアは険しい表情で息をつき、それから頭上を指さした。
「乗り込むんです。直接」
「え?」
「あの境界に物理的に接触し――直接世界を超えるんです」
「そこまでだ、勇者諸君」
頭上からの声に目を向ければ、そこには神域の城壁に腰掛けた東雲の姿がある。
「東雲……!? まだこっちの世界にいたのか?」
「やあ、イオ。君は無事に元の世界に帰還を果たせたようで何よりだ。そのままおとなしく向こうの世界にいてくれれば尚よかったのだがね」
東雲と呼ばれたバウンサーの女は軽く大地へ着地を果たす。その口にはしなびた煙草を咥え、スーツ姿の裾をぴしりと伸ばし。
「さて。残されたバウンサーは三名。私東雲の他、遠藤、そしてハイネが待ち受けているぞ。そしてご覧の通り私は精霊器を所持している。これらを超えて神の座にたどり着くのは容易ではなかろうな」
「退いてくれ東雲! あんたとは戦いたくない!」
「私もだよイオ。しかし私には私なりにこの世界に加担する理由があってね……。残念ながら通すわけにはいかないのだ」
歯ぎしりするイオ。次の瞬間、大剣を片手にアスラが前に出る。一瞬で距離を詰めたアスラの右腕から振り下ろた大剣は大地を吹き飛ばし、東雲の姿は一瞬で消滅したかに見えた。
しかし東雲は健在であった。どういうわけか無傷で土煙を超え、アスラの横っ面に踵を叩き込む。思い切り吹っ飛んだアスラは鼻と口から流れる血を拭い、右手に作った黒い火炎を投げつける。
「無駄だよ魔王。君とはそれなりに長い付き合いだ。パターンは読めている」
ふっと紫煙を吐き出し、次の瞬間大きく前に飛び出した。ぎりぎりのところで火炎をかわし、魔王の腹に拳を叩きこむと、あらゆる攻撃を以ってして傷つく事を知らなかったその鎧が、一瞬で亀裂を走らせ砕け散る。
「そんな……アスラがこうも一方的に!? イオ、彼女の能力は一体……!?」
「し、知らないんだよ! 東雲は自分のこと何も話してくれなかったし……!!」
「何もとはひどいなイオ。私はちゃんと君に言ったじゃないか。“金の為に戦っている”とね」
女は片手をポケットに突っ込んだまま悠々と向き直す。その背後には神域へと続く門。彼女は文字通り、この神域の番人である。
「東雲とは何度かやりあったが、俺も毎回一方的にボコられるだけだった。JJも能力がわからないと言ってたな」
「そういえば、カイゼルでさえ彼女には敵いませんでした」
「簡単な話だ。彼女の精霊器は、そのカイゼルより格上だという事」
砕けた鎧をパージし、仮面を外してアスラは前髪を掻き上げる。
「この世界に三人だけ存在したカテゴリーS能力者。ミユキ、レイジ……そして彼女こそ三人目。いや、一人目というべきか」
金色の瞳を輝かせるアスラに女はにこりを笑みを返す。
「私はね、金が欲しくてあらゆる人間を裏切ってきた。一人残らず殴殺してきた。仲間だろうが家族だろうが恋人だろうがそれは変わらない。私は金さえあればそれでいい。その為に――セカンドテストで全ての仲間を皆殺しにしたのさ」
「……え? じゃあ、東雲は……?」
「私はセカンドテスト唯一の“正式な”生き残り。セカンドテスターが競った魔王討伐戦、グランドクエストの“達成者”だよ」
それは、過去に一度魔王を撃破したことを意味する。
高額賞金を賭けて争ったセカンドテスター達の中、たった一人だけ正式に生き残った優勝者。東雲はくたびれた煙草を片手に、一度も負けを知らない拳を握りしめる。
「ここまで来たのだ、もう余計な事は語っても仕方ないだろう? さあ、かかってきたまえよ。命の保証は――しかねるがね?」
『御覧ください! これは……なんでしょうか? 先日から世間を騒がせている関東上空の異常気象ですが、現在港区上空で特別な異常が観測されています!』
複数のヘリコプターが空を行き交う。カメラマンが撮影した映像はテレビ局を通じて全国的に報道され、全てのお茶の間で異変を見物する事が出来る状態になりつつあった。
それはレイジの故郷でも同じこと。レイジの良心はソファに寄り添い、テレビに映し出される異変を刮目していた。
「あれ、本当に東京で起こってることなのかしら……? 何か人が空を飛んでいるような」
『トリニティ社上空では、どこからか出現した鳥……いえ、人間です! 人間がトリニティ社に……? 屋上から銃声が響いています! 何が起きているのでしょうか!?』
「あそこに礼司がいるんだったな?」
「その筈ですけど……レイジ、出てきませんねぇ」
「出てきたら困るだろう……」
屋上を疾駆する黒い影は、他の黒服とは明らかに動きが違う。人間離れした速力で天使へ迫り、黄金の拳で怪物を粉砕する。
それがメリーベルという異世界人であるという事を彼らは知らない。上空を旋回するヘリコプターの目を気にもせず、メリーベルは徒手空拳で天使を薙ぎ払っていく。
「まるで映画みたいねぇ」
「ああ……そうだな」
「……あらあら? あらあらあら? あれ、ジュリアちゃんじゃないかしら?」
見れば小柄な金髪の少女が屋上への階段を駆け上がっている。その後ろにはやけに豪勢なドレス姿の場違いな女、そして……。
「あれ、礼司じゃない!?」
「何!?」
両親が身を乗り出したのも仕方のない話だ。レイジは黒服に護衛されながら階段を駆け上がっている。そして何やら小銃らしきものをぶっ放し天使を牽制している。
「あの子拳銃撃ってるわよ!? ああ……そんな……今になって反抗期だなんて……!」
「いやそれよりもあれは大丈夫なのか!? 安全とかはどうなってるんだ!? 警察は何をやってる!?」
だらだらと冷や汗を流しながら状況を見守る二人。すると屋上のヘリポートに一台のヘリコプターが迫ってくる。ヘリは武装しているようで、搭載したガトリング銃で屋上の天使を薙ぎ払い、JJの誘導に従って着地する。
驚いたのはそこに真っ先にレイジが駆け込んだ事だ。もう両親は目が点である。レイジを乗せたヘリコプターは舞い上がり、そして中継ヘリの前を横切って行く。そこに写っているのは紛れも無く息子の姿であった。
「………………何がどうなっているんだ」
「あの子、立派に成長したのねぇ」
『少年です! 少年と少女と……謎の一団がトリニティ社から離陸しました! 港区上空に広がっている異常気象へ接近を試みる模様です!』
もうなんだか驚きすぎて気持ちが動かなくなってしまった。後はもう、息子を信じて見守る事しか出来ない。
「がんばりなさい、礼司。ジュリアちゃんも、きっと無事でね」
夫婦が手を重ねて応援する視線の先。遠く離れた東京の空では、異世界へ直接乗り付ける為の作戦が開始されようとしていた。




