月と太陽(4)
大学病院での検査は四時間に及んだ。あまりにあれこれやられるものだから、全てが終わった頃にはレイジはもうぐったりした様子になっていた。
「よう、おつかれさん」
「シロウとJJ……? あれ? 待っててくれたの?」
「待ってたって程のモンでもないけどな。お前とミユキが一番時間かかってるみたいだったからよ」
「ここで少し話しながら待ってたってだけよ」
異世界に囚われている時間が長かったレイジとミユキがそれに比例して検査項目も多く、念入りにメンテナンスされてしまった。
それに引き替えれば他の勇者たちにメディカルチェックはさほど時間もかかっていない。先に済ませたシロウとJJは病院のエントランスで立ち話にふけっていたのだ。
シロウから投げ渡された缶ジュースを手にレイジは二人と一緒に病院の外に出た。入り口手前には花壇のある広場が見えたが、とうに日も暮れ人気はなかった。
「それで、その様子じゃどこか悪いところでもあったの?」
「いや違う違う。健康だけどなんか色々注射されたり変な機械にかけられたりして疲れただけ」
「だと思ったけど。あとはミユキだけね。あいつ、物凄く長い時間異世界に居たから、検査時間もそれ相応でしょうね」
同情するように笑うJJにレイジも苦笑を合わせる。ジュースの中身はスポーツドリンクで、今の気分にはちょうどよかった。
「あんたたち、決戦までの予定はもう立ててるの? シロウは……両親いないからいいにしたって、レイジは一回故郷に帰ったら? 家族とか、友達とか……恋人はいなさそうだけど、話したい人もいるでしょ?」
「余計なお世話だよ……。まあでも、そうだね。両親には電話でもしておこうかなと思ってる。直接会うとうるさいし」
「あんないい母親がいるのに贅沢なやつねぇ……。お父さんもあんまり喋らないけど、あんたのことちゃんと考えてるいい人だったわよ」
「なんでいつの間にかJJが我が家公認の存在になってんの!?」
腕を組み笑うJJ。それからレイジはふと思い出したように言った。
「そういえば、こうやって“JJ”って呼ぶのも最後なのかな」
「あー。まあ、俺らはほぼ本名そのまんまだからいいが、JJってのはあんま普通言わないよなあ」
「なんかそう思うと寂しいね。俺達にとって、JJはJJだったから」
ウンウン頷くシロウ。JJは咳払いを一つ。
「人のハンドルネームを連呼すんな。それに別に終わってからもJJでいいって。今更ジュリアちゃんとか言われても困るわ」
「そうなの、ジュリア?」
「おい! 人の話を聞いてなかったのか!? 恥ずいからやめろ!」
「うーん、でもなんかこう、そのへんのメリハリはちゃんとした方がいいような気もするし……」
そんなくだらない雑談を幾つかした頃、パタリと会話は途切れてしまった。
話すことがなくなったわけではない。ただ、なんとなく途切れたのだ。居心地の悪い沈黙ではなかった。むしろ長年連れ添った友人同士のように、そこには気安さが漂う。
「私達、まだ出会って一年も経ってないのよね」
「だな。だけどよ、色々なことがあったからよ。コレまで全部命がけの戦いだったんだもんな」
「そうだね……。うまくいえないけど、友達とかって感覚じゃないよね。実際には住んでいる場所も違って、年齢も素性も違ってさ。だけど、ずっと離れていても、つながっているんだなって感じる」
「あんたホントそういう恥ずかしいこと億劫もなく言うわよね」
「本当の事じゃないか。JJは違うの?」
「いや……ち、違わないけど……」
「俺ぁ本物の家族なんかいねーから思うんだけどよ。まあ、本物偽物って考えがもうナンセンスなんだが。自分が家族だと思うから家族だし、仲間だと思うから仲間なんだよ」
二人の間に立ったシロウは、その両方の肩をポンと叩く。
「俺にとっちゃ、どんだけ歳が離れていようが距離が離れていようが、家族は家族だ。こう言っちゃなんだが、もうお前らも俺にとっては家族みたいなもんだしな」
「あはは。でも確かにそうかもね。俺もシロウの事は兄貴みたいに思ってる所あるし」
「私は思ってないけどね! そういえばあんたの連れの未来って子、あれもあんたの妹なの?」
「おう。未来は俺と違っていい子だからな。一人でなんでもできるし、しっかりもしてらぁ。まあ、料理に関しちゃまだ俺の方が上だけどな」
「シロウ料理出来るんだ……」
「一人暮らし長いからな!」
「あの子あんたの事好きなんじゃないの? 兄としてじゃなくて男として」
「はあ?」
全くそんな事考えたこともありませんでしたと言わんばかりのシロウのアホ面にJJは深々と溜息を零す。
「まあいいわ……自分の趣味の悪さを呪いなさい、未来……」
「そういうJJはレイジの事が好きなんだろ?」
「はああッ!? なんでそうなるのよ!?」
「そうなの? ジュリア?」
次の瞬間レイジの爪先にJJのヒールがぐさりと突き刺さった。悶えるレイジを無視し、JJはそっぽを向く。
「次ジュリアって言ったら殺すわよ」
「すいませんでした……うう、ネタなのに……」
「レイジ、これあれだ。俺知ってるわ。ツンデレってやつだろ?」
思い切り拳を繰り出すJJだが、シロウは目も向けず笑顔のまま上半身だけを僅かに動かして回避する。何度か連続して繰り返してみたが、全て同様の結果となった。
「ハアハア……この……こいつ身体能力がおかしい……」
「ははは。今更だなあ、JJ。シロウはずーっとおかしいよ」
それからまたぱたりと話題が途切れた頃だ。病院から出てくるミユキの姿を見つけ、シロウが大きく手を振る。
「お、出てきたな。おーい、ミユキ!」
「清四郎さん? それにお二人も。まさか待っていてくれたんですか?」
「いや、雑談してただけ……って、ありゃ。なんも買ってなかった。飲みかけで良ければ飲む?」
手に持っていたスポーツドリンクを差し出すレイジ。ミユキは無言でそれを受け取り一気に飲み干した。
「飲むんだ……しかも全部」
「え? 何かいいましたか、JJ?」
「いえいえなんにも。それでミユキの方はどうだったの?」
「特に異常は見当たりませんでした。父が病院勤めなので出入りにはなれているつもりでしたが、長時間拘束されると流石に疲れます」
軽く溜息を吐いたミユキ。その間にレイジはそそくさ走ってゴミ箱に空き缶を捨てに行く。
「ミユキはどうするの? 作戦決行までの三日間。あんたとレイジは軽くリハビリも必要だろうけど」
「身体は鈍っていますね。まあ、結局魂だけの召喚ですから、さほど重要ではないかもしれませんが」
「身体の感覚と研ぎ澄まして置くのは大事だぜ? 現場で咄嗟に動けないんじゃ困るからな。“自分は動ける状態だ”って認識を叩き込んでおけ」
「……清四郎さんに言われると、なんかこう、聞き流せませんね」
てくてく戻ってきたレイジ。JJが「ミユキなんともなかったってさ」と告げると、安堵したように笑う。
「ミユキは出発までの時間、どうするの? 両親に挨拶は?」
「父親との別れは済ませてきました。母親の方は……」
考えこむようなミユキの仕草にレイジも言葉を失う。だがミユキは首を振り。
「いえ、そうではないんです。母親の事はまだ許せませんが、今はそういう事ではなく……。その、いきなりなんて説明したものかと」
「……そっか。一応、話をするつもりはあるんだね」
「ありますが、結局今話しても心配をかけるだけだと思いますから。全てが終わってから、話をしに行こうと思います」
そう語るミユキの表情はどこか晴れやかだ。自らの言葉を反芻し飲み込むように胸に手を当て顔を上げると、そこには嬉しそうに笑うレイジの姿があった。
その笑顔があんまりにも幸せそうだったから、あっけに取られてしまう。今のレイジは、この現実のレイジは、本当のところ、どうなってしまっているのだろう?
もしもあの異世界から切り離されても彼の心の中にまだ美咲がいるのだとしたら……或いはこんな風に笑うのだろうか。
「生憎友人らしい友人も居ませんから。既にやることはなくなってしまいました」
「シロウは?」
「俺は未来と一緒に一回説明して周ってくっかなあ。葵は警察の取り調べとかもあるから、瑞樹と一緒にもうちょい拘束らしい」
「ねえミユキ、そういえばあんたにべったりだったアスラはどうしたの?」
「アスラは……町中を歩かせるのが少し危ないかなと思って……色々な意味で。なので、ホテルにおいてきました。でも折角だから東京観光もとい、異世界観光をさせてあげたいですね。それで、レイジさんは?」
「俺? 俺は関係者皆に挨拶かな。故郷には電話でいいや。まあ、全部合わせて三日もかからないだろうから、合間にリハビリって感じかな。JJは?」
「私は大体済んでるわよ。この間のパンデモニウムの決戦に合わせてね。まあ、一度両親には話をしに行くわ」
何となくお互い今後の予定を把握すると、四人の間にまた沈黙が広がる。
嫌な沈黙ではない。けれどどこか寂しく、どこか時を惜しむような。もうこんなふうに仲間同士で集まって会話する事もなくなるかもしれない。そういう戦いに挑もうとしている。
「……ね。これで最後ってわけじゃないけど……きっと勝利しましょうね」
「勝利か。そりゃいいが、俺達は何に勝つのかねぇ?」
「わかりません。向こうに行ってみなければ、なにも。だからこそ行くのですが」
「そうだね。必ず勝って終わりにしよう。これまでの俺達の戦いを、無駄にしないために」
いつまでも病院前で屯しているわけにもいかない。シロウは自前のバイクで、JJはタクシーを捕まえ家に帰る。レイジとミユキはトリニティ社近くのホテルに部屋をとってもらっているので、そこまで戻る事になった。
「んじゃまたな、レイジ! 適当に済ませたらホテルまで訪ねるわ!」
「うん! シロウも気をつけて! このタイミングで事故んなよ!」
「レイジ、ちゃんとミユキをホテルまでエスコートしなさいよ。それじゃあね」
「流石に一人でもホテルまでなら帰れますよ。また会いましょう、JJ」
二人が去っていくのを見送り、レイジは空を見上げる。今日は天気も良く、月が綺麗にみえた。
「……さてと。それじゃあ俺達も帰ろうか」
まずは電車で最寄り駅まで移動する。そこからは徒歩で、合わせても三十分はかからない予定だ。
帰宅ラッシュからは少し外れた、けれどもまだ混みあう電車に揺られ、二人は黒い窓に移った自分達の姿を見つめていた。
流れていく町並み。現実の景色。ここには夥しい程の人間が行き交う。あの異世界の質素な暮らしとは比べるべくもない、高度な文明が息づいている。
当たり前に生きてきた日々が。当たり前に帰ってきた日々がここにある。ミユキはふと、隣の吊り革を掴むレイジの横顔に目を向けた。
少年はまるで懐かしむように、惜しむように窓の向こうを見つめていた。少女は目を反らし、そしてただ時の流れと揺れる世界の音に身を委ねた。
「ミユキ。ちょっと寄り道していかない? まだ寝るには早いでしょ」
電車移動を終え、後は歩くだけという所。レイジは駅ビルに入ったファミレスにミユキを誘った。
そこは以前レイジの地元で会った二人が入ったチェーン店だ。何となく懐かしい気持ちになり、二人で窓際の席に座った。
「意外と空いてますね」
「そりゃもう23時になるからね」
「寝るには早いと言いましたが、普通の人間はそろそろ眠くなるのではないでしょうか?」
「あ……眠かった?」
「いえ……深夜0時スタートのゲームに毎日のように参加していたので、わりとなんともないですが」
とは言え二人とも検査疲れでさほど食欲はなかった。ドリンクバーと軽食だけ注文し、周囲の静かなざわめきに耳を傾ける。
駅ビル内とはいえ、オフィス街のレストランだ。若者の数はほどんどないし、騒ぐような客は見当たらない。ナイフとフォークが食器を擦る音を除けば、後は殆どキッチンからの音だ。
「アスラに何かおみやげを買って行ってあげないといけませんね。お腹をすかせていそうです」
「あ、そうだね。どうせなら連れてきてあげればよかったかな」
そんな事を語るレイジは子供っぽく……歳相応、分相応に見える。しかしミユキは知っていた。その無邪気さの裏には、途方もなく思い覚悟が居座っている事を。
「最後の戦いを前に……レイジさん、あなたに一つ確認しておきたい事があります」
「うん? 改まってなにさ?」
「この戦いは異世界の侵略を止める為の戦いです。しかしそれが終わった後、レイジさんはどうするつもりなのですか?」
「どうするって……」
「“全てをチャラにする”……それがレイジさんの願い、でしたよね?」
JJは言った“元々それがレイジの願いだった”と。
これからレイジ達は異世界ヘ向かい、そこでケイオスから権能を奪い返そうとしている。それは要するに、レイジを神にしようという事だ。
レイジが神になってケイオスを止める。そんな無茶苦茶が前提条件に入る事をJJが許したのは、きっとレイジの願いを尊重したからだ。
「レイジさんは、まだ全てを取り戻せると信じているのですか?」
ミサキに関してはまだわかる。中身は別物だが器は残っているから。
しかし他の死者に関しては肉体が今どこでどうなっているのかすらわからないのだ。消滅している可能性もある。精神がミミスケの中にあったとしても、戻る身体がない。
「その辺は一回ロギアに相談してみるよ。だけど俺の気持ちとしては、やっぱり誰もが幸せになれるようにしたいかな」
「誰もが幸せに、ですか……。しかしレイジさん、あなたはいつも自分の幸せが勘定に入っていない。だから不安になるんです。あなたが神の力を手にする事が」
「俺が力を悪用するかもしれないって事?」
「そうではありませんが……」
今、この時しかないと、何故かミユキは強く感じてた。
レイジの無茶を、彼が神になってからでは止められないのだ。これから起こるかもしれない悲劇を回避出来るとしたら、このタイミングしかない。そう思える。
「約束……してくれませんか? 必ずこの戦いが終わっても、その力を独り善がりに使わないと」
それはまるで祈るような言葉だった。
どうか彼も幸せの中にあるようにと、そう強く願う。それが無駄だとわかっていても、言葉にせずには居られない。
レイジは強固な決意と覚悟の鎧で身を守り、それを時に刃に変えて前に突き進む。弱い少年が平静を保ち、過酷さの中を生き延びる為にはそうするしかなかったから。
だがその鎧は時に仲間の言葉や思いでさえ遠ざけ、誰かの願いさえも切り裂いてしまう。だからきっと今しかないのだ。ただありのままの、普通の少年に戻った今、この現実の時間でだけ、彼の心に訴えかける事が出来る。その僅かな可能性に少女は賭けた。
「約束してくれませんか? 必ずこの世界に帰ってくると」
「ミユキ……? 心配しなくても、俺はちゃんと……」
「私、レイジさんの事が……好きです。友達としてではなく、異性としてですよ。念のため」
突然の告白に目を白黒させるレイジ。視線を右に、左に、それから上に。腕を組み考え、さほど間をおかず。
「ごめん」
と言った。
「あ、いや……ミユキの事が嫌いって事じゃなくて……なんだろう? そういう風に考えられない」
「…………はあ。やはりですか、“姉さん”」
額に手をやり思い切り溜息をついた。それはレイジの気持ちを確かめ、そして今レイジがどうなっているのかを確かめる為でもあった。
レイジは自分でも心底不思議そうにしている。恐らく今彼の気持ちは微動だにしていないのだろう。そんなもの、元々のレイジだったら考えられない。
「ミユキの事は凄く大事に思ってるし、好きだけど……うん? なんだろう? 女の子として全く見られない……えぇ? 俺、どうしちゃったんだ?」
「……はあ。いやまあ、そーだろーと思ってましたけど……なんだか全く腑に落ちないフられ方ですね」
「えぇ? あ、うん……ホントごめん? あれ? なんだろう、なんか気持ち悪くなってきた……」
青ざめた表情で口元を抑えるレイジ。突然席を立ちトイレに駆け込むレイジの背中を見送り、ミユキは愕然としていた。
思っていたよりも、レイジはおかしくなっているのかもしれない。“その事について考える事”そのものが彼の中から欠落している。
こんな状況が続けば、何もしなくても間違いなくレイジはおかしくなってしまうだろう。全く恋が実らない事はさておき、それはいくらなんでもまずすぎる。
幾らかスッキリした様子で戻ってきたレイジだが、そこから軽食をつまむ気力は残っていなかった。烏龍茶を飲みながらこめかみを押さえている。
「それで、えっと……ごめん、ミユキは今なんて?」
「ですから、異性として好きだと……いえ、もういいです」
「いやあんまり良くない事だと思うんだけど、なんかそれについて考えようとすると、頭の中で考えが物凄く矛盾して、なんかすごい気分になるんだ。あ、後でいい? 返事あとでいい?」
「後でいいですから落ち着いて下さい……」
しばらくレイジの手を取り時を置く。ようやく少し落ち着いたらしい頃合いを見計らい、ミユキはもう一度訪ねる。
「それで……レイジさん。姉さんの事は、好きですよね?」
その質問にレイジは本当に絶望的な顔をしていた。それが答えの変わりだった。
レイジは今、美咲の事でさえ好きではなくなっていたのだ。そういうふうには考えられない。“自分自身に恋をする事が出来ない”ように、そんなものは思慮の外だった。
「やっぱりそうですか。ええ、なんだか少し救われた気がします」
「ああ……俺、自分では全然平気だと思ってたんだけど……まずいな。これはちょっと重症だ」
「えっ? レ、レイジさん……泣いてるんですか?」
見ればレイジの両目からは涙が溢れていた。本人にも自覚はなかったようで、呆けた様子でミユキを見つめ返している。
「どうしたんですか、急に……。大丈夫ですよ。大丈夫」
「ミユキの事とか、ミサキの事とか、これまでにあった事を思い出そうとしてみたけど……全然思い出せないんだ。全然……」
「え……?」
「俺、ミサキがどんな顔をしてたのか……思い出せないんだよ……」
震える声で、俯きながら少年は呟く。ミユキの手を強く握り返しながら、取りこぼしてしまった感情を思い出そうとするように、何度も何度も頭を抱え振る。
少女は理解した。少年に残されている時間はもう僅かなのだと。この戦いが終わった時、何かしらの答えが見えていなければ、どちらにせよ彼は助からないのだと。
「――大丈夫だよ。今は思い出せなくても、きっと思い出せるから」
言い聞かせるような優しい声に顔を上げると、ミユキは穏やかに笑みを作り、レイジに手を握り返してくれる。
「大丈夫、きっと大丈夫だから。私がついてるから。あなたを絶対に一人にはしないから」
「ミユキ……」
「何があってもあなたを守ってみせる。だから大丈夫……ね?」
ずっとずっと、少年は仲間たちを導いてきた。
ミサキという太陽が失われた後、少年は希望として輝き、命を削り、常に誰よりも前に立ち続けた。
その光は多くの人達を変えてきた。心を動かしてきた。そうやって繰り返された小さな変化の積み重ねが、今もこうして続いている。
ミユキもそうやって変わった一人だからこそ思う。彼を想うからこそ、思うのだ。
きっともう、彼が傷つかないようにしてみせると。きっともう、誰もが悲しまない結末にしてみせると。
“大丈夫だ”と笑った姉のように。“きっと大丈夫”と笑った友のように。
何もかもがきちんと彼の掌に戻るよう。強く強く祈っていた。




