番外編だぁ!足りなかった成分を補充せよ! 後半
スマホに変えた途端、保存しておいたものが全て文字化けしていた恐怖を、私は忘れない。
「さぁスマホにも変えたし投稿しますかね。───あれ?あれあれあれあれ?えっと、なにこれどうなってんのよ?これは、まさか──文字……化け……してる…だと!?」
といったパニックに陥りました。結局後半すべて書き直す羽目になりました。という言い訳です!
とにかく、投稿できたのでこれで番外編も幕引きでございます!
「はい、じゃあ番外編後半いってみようか」
佐原はそう言ってくじを差し出してきた。相変わらずの用意の良さに感心しながら、最後に二本残ったうちの一本を引く。引いたそれの先は赤く色が付いていた。
どうやら色が付いているのと付いていないので分けられているようだ。各々がそれを確認し てチーム分けを行う。その結果はこうなった。
泉堂・三坂・羽川
佐原・高瀬・木下
見事に男子二人が片方に固まる形になった。
「あのぉ~」
自分のチームの構成を見ながら控え目に羽川さんが手をあげた。
「少しぃ、チームに片寄りがあるような気がするのですよねぇ」
さすが羽川さんだ。これは多少力の差がありすぎるからなぁ。ここは力量がなるべく平等になるようにするべきだろう。
「それじゃあ泉堂と三坂はこっちに」
「えぇ!?真貴くん、それでは私が一人になってしまいすぅ」
ん?何か俺の編成はおかしいところがあったか?限りなく完璧なチーム分けをしてみせたつもりなんだが。むしろまだこれじゃあ心許ない。
「だったらせめて私がそっちに入るよ」
「ありがとうございますぅ佐原さん。あなたならとても心強いですぅ」
「「「「っ!?」」」」
思わぬ佐原の移籍に俺達は青ざめた。
おかしいぞ。戦力の均衡を図ったはずなのに最強チームが出来上がってしまった。
「待て佐原!」
止めようと声を上げると、佐原はこっちに顔を向けた。ニヤニヤとしながら。その時、奴の心の声が聞こえたような気がした。いや、実際にその顔が語っていた。
『木下君、これが番外編だってことを忘れちゃ駄目だよ。私は面白くなりそうならいくらだって予定外のことをしてみせるよ。きちがいと言われてもいっこうに構わない。面白さを追求するってそういうことだと、私は思うから』
なんてこった。奴は面白さのためならどんな犠牲もいとわないつもりだ。そう、まるで極限まで飢えた肉食動物のように。
だがな佐原、番外編だなんだと言ってはいるが、大して面白さを読者に与えられていないぞ。どちらかと言えばドン引きされているという意見もある。俺としては“やるんじゃなかった”の後悔の念で押し潰されそうなんだ。本当になんでこんな企画をやっちまったんだよ作者。傷口が開いていくだけだっての に!
全てを否定したい気持ちに苛まれる。だが、それでもお構い無しに話が進んでいってしまうのがこの作品の特徴である。もちろん悪い意味で。
「使うボールはこれにしようか」
佐原が選んだのは空気を入れて膨らませるタイプのビニール製のボールだ。あれなら当たっても大したことにはならないだろう。が、それは極普通の人間がやるという前提のもとに成り立つ推測であって、あの二人にも当てはまるかは、不明だ。
「ち、ちょっと真貴、大丈夫なのこれ?」
危機感を感じ取ったのか、泉堂が不安げに聞いてきた。
「なんとか……なるだろ。いくら佐原の運動神経がよくても、羽川さんみたいなパワーは……」
「あなた知らないの!?体育の時とかの佐原さんは並みじゃないのよ!」
「マジでか」
「それだけじゃないよ」
高瀬がいつもは見せることのない深刻な表情で話に入ってきた。
「中学の時のあいつを知ってるから言えることだけど、遊びが絡んだ事に対して佐原は眠った潜在能力を呼び覚ましたみたいにいろんな能力が格段に向上するんだ。甘く見るなよ?」
能力が格段に向上するってどういうことだよ!?スーパーサ○ヤ人か?なるほど、だから佐原の髪は金色なんだな。んなわけあるか!
「だが僕は戦場に立つぞ!このカメラに女の子達のあられもない姿をおさめるんだ!」
「高瀬……」
「僕の力を信じてくれた同士達(クラスの男ども)が期待を胸に待ってるんだ」
「まったく、お前って奴は……」
いや、お前っていうか、お前らはどこまで欲望に忠実なんだ。
「仕方ねえ、協力してやるよ」
「木下、お前は分かってくれるのかい?」
「当たり前だろ?カメラ、壊されるなよ?」
「ああ、もちろんさ!」
俺達は互い腕を当てて男同士の友情を確かめ合った。そしてお互いに目で誓い合う。そう、俺達の理想郷を後々にまで残すために、命を賭けると。
「というわけだそうですよ泉堂さん。男どもが私達の盾に立候補するそうです」
「あらそう?なら精々頑張ってもらいたいわね」
おお!?背後から身震いするような悪寒を感じた。
だが、今はそれよりも高瀬のサポートに集中しなきゃならないからな。気にしちゃいられない。お宝写真を……じゃなくて、夏休みの輝かしい思い出を手にするために!
ネットを張り砂浜に線を引いてからそれぞれのコートに別れる。あちらのコートには準備運動をする佐原と羽川さんのタッグ。人数的に勝っているはずなのにまったく優位性を感じないぞ?
一通り身体を動かしてから、佐原はボールをフワッと投げ渡してきた。
「準備できたね!そっちからのサーブでいいよ」
それを受け取ってしまった俺がサーブをすることになるんだろう。狙うとしたら佐原と羽川さんどっちにすべきだろうか?まぁ考えるまでもなく、ほぼ佐原にレシーブさせた方がまだゲームになるな。
バレーボールの攻撃行程がレシーブ・トス・アタックの順である。羽川さんにアタックをさせるよりも佐原にしてもらった方が被写体としてなかなかいいものに……ではなく、こちらの守備的に何割かマシになるというあれです。いや、羽川さんもなかなか捨てがた……なんでもない。
さて、始めるかといったところで、首からカメラをぶら下げた高瀬が声を掛けてきた。
「木下、分かってるな?」
任せておけよ。お前の考えていることくらい同じ男だから分かるさ。
頷く仕草でそれを示す。高瀬も親指を立てて返してきた。こうした時の俺達に言葉はいらない。今ならしめし合わせも無しに互いの考えていることを言い当てられる可能性もある。
「いくぞ!」
俺はそう声を上げてボールを放った。狙うは金髪美少女佐原!さぁ、今こそお前の言う色気を、サービスシーンを、お前自身で体現してみせろ!
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
十分に溜めを作り、身体のバネを活かしてジャンピングサーブ。腕を入魂の気合いのひと振りでボールに手のひらをぶち当てる。軌道はぴったり佐原の方へ。今更ながらこんな気合いはいらないな、と微かながら思った。
よし、高瀬もベストポジションでカメラをかまえてるな。完璧だ。これなら良い絵が撮れる。もうビーチバレーとか勝負とかどうでもいい。
「…………ふっ、甘いね」
佐原が口元を微かにニヤつかせた。次の瞬間、ボールを受けると同時に佐原の足元の砂が爆散し、瞬きの間も無くネットの前に現れた。そして高くジャンプして宙を舞うボールに追いついていた羽川さんからの有り得ないクイックトス。それがすでに振り上げられていた佐原の右手へと吸い込まれていき、弾丸となって────高瀬を襲った。
「げぼりゅうぅぅぅぅぅぅぅ!!?」
「高瀬ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
嵐のような風。衝撃で巻き上げられる砂。吹き飛ぶ高瀬。そして、飛び散るカメラの破片。たったひとつのアタックによって絶望を刻み込む破壊がそこにもたらされた。ていうか、あれってビニール製のボールだよな?大砲の玉かと思ったが。
そもそもあの二人は何なんだ!?並外れた動きといい、パワーといい。羽川さんはまだわかる。あの人はすでに俺が人外認定をしているからな。公表すると残念なことになりそうだから内密にしているわけだけど。
砂が風によって流れ、視界が鮮明になると変わり果てた高瀬の姿とぶっ壊れたカメラの残骸があった。
「高瀬ぇ!!」
「…………」
返事がない、ただの屍のようだ。いや、こういう定型文と化した台詞はいいから。
向こうのコート内見ると非佐原と羽川さんが非常に満足気な表情でいた。間違いなく狙ってやったことがありありと見てとれる。カメラか?カメラがいけなかったってのか!?番外編なんだからいいじゃないか!少しくらい。
とにかく高瀬とカメラがお亡くなりになってしまった以上、夏の思い出を残せなくなってしまった。無益すぎる。あーもう、どうしようもないくらい帰りたくなってきた。
そこへ泉堂が声を掛けてきた。
「ほら真貴、頑張りなさいよ」
「頑張れたってあんなん……あの、なんでお二人はコートの外で座ってんすかね?」
泉堂と三坂はコート外に立てたパラソルの下で優雅に座っていた。よくテレビで観るような外国のリゾート地の浜辺に出てくる水着女性みたいに。
「なんでって、あの二人相手に私達がいてどうにかなるもんじゃないでしょ?」
「こうなることは分かっていたので、安全性を重視した戦略的撤退です」
「俺達にも教えてくれてもいいんじゃないか?」
「黙りやがれです。男子どもは動いて精々身を粉にして佐原さん達を楽しませ、かつその不様な姿を晒して私達を楽しませればいいのです」
女子って身勝手だなぁと、つい口に出してしまいそうだった。
男子はどうなんだかだって?男子はあれだ。仲間想いだから見捨てたりなんかしない。ただかなりの高確率で己の欲望が理性を凌駕して仲間が認識できなくなるだけなんだ。結果的に仲間を見捨てる形になるだけなんだ。男はほら、本能に正直な生き物だから。
まぁ、つまり要は泉堂と三坂は協力する気が更々ないということらしい。高瀬も星になってもう役に立たない。尊ぶべき殉死だ。奴の勇姿を俺は決して忘れないだろう。
だがさすがに……いいさ、いいんだ。よく考えれば美少女達の水着姿を男として独り占めできるわけだ。なんか優越感みたいなものもあるし男としてかなり嬉しい。このビーチバレーで佐原達の豊かな双丘の揺れも目に焼き付けることができるぜ。
例え一人でだって構わない。運動神経0の泉堂(木下証言)と色々0の三坂(体力及び運動において木下調べ)が非協力でもいい。そもそも戦力として数えるのが苦しい。どれだけ過大評価しても猫の手もしくはワラ程度だからな。それにカメラ(高瀬の)がなくてもいいじゃないか。心のフィルムにしっかり残せばいいんだから。そう思うと最後までここに立っていたい、そんな気持ちが湧いてきた。さっきは帰りたくなっていたのに可笑しな話だ。我ながら少し笑えちまう。
戦う決意を新たに高瀬をコート外へと引きずり出し、再びコート内へと戻る。
「なにやら真貴君は吹っ切れたような顔になっちゃってますねぇ」
羽川さんがニコニコしながら言ってきた。
「なぜか流れでこんな状況なってますからね。ただの悪足掻きだとでも思っててくださいよ」
「いいねいいね!あっつい展開も番外編の醍醐味だよ!」
ボールを持った佐原がはしゃぎながらサーブのポジションへとつく。
「どれだけ頑張ろうと、越えられない壁があるという真実を直視しないことがあなたにできる精々の抵抗ですよ」
三坂がパラソルの下で嫌味を放つ。言っておくが、お前は俺と同じチームだからな?
「まっ、怪我だけは気をつけなさいよ」
素っ気ない態度ながらも珍しく気遣いの言葉を掛けてくる泉堂。そう言ってくれるのはありがたいが、お前も本来コート内に立ってるべきなんだぜ?今更ながらだけど。
さっきのワンプレーで見たように佐原達はもう人を超越した力を宿している。普通の人間がどこまでやれるかなんてまったく分からない。
だが、凡人でも超人を打ち負かすことができる。それが俺の信じたい論であり、凡人全員の夢だ!────けどな、夢ってのは見るもんじゃねえ。
「自分で現実にするものだぁ!!うおぉぉぉぉぉ!!!」
────三十分後。
へ…へへ、どうやら俺は……寝ぼけていたよう…だ。二対一というビーチバレーじゃ勝負にならない現実を忘れていたみたいだ。あと圧倒的な実力差。
「ほらほらどうしたの木下君?次のサーブがいくよ?」
「ま、待て佐原。こっちのコートが爆撃を受けた後みてえになってる。続行は無理だ」
こっちの陣地だけ砂浜が穴だらけになっている。
「ついでに俺自身も限界だ 。そろそろビニールのボールにトラウマを覚えるから」
戦争に参加した人が爆撃と爆音によって精神障害を起こしてしまうことがあると耳にしたことがあるが、今の俺もかなりそれに近い状態だ。これ以上はもう無理。ホントいい加減やめたい。
つーか、これもう勝ち負けとか関係ねーよ。ただの一方的な暴力じゃないか。ビーチバレーボールってこんなに怖い競技だったんだなぁ、って感じでだいぶ勘違いしてしまう可能性もあるぞ。
「次いくよー!」
佐原がボールを高く上げる。
「ホントマジ無理だ!もうやめよう!おねがいします!」
「 だが断る!」
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁ───!!」
吹き飛ばされながら俺はこう思っていた。
今回の趣旨って色気成分の補充じゃなかったっけ?と。後半とかもうそんな要素どこにもなかったぞ。そして佐原の声が頭の中に聞こえてきたんだ。
『趣旨とかが勝手に変わるのもまた一興!番外編クオリティーだぜ♪』
もう絶対にやらない。やったとしても参加なんてするもんか!
薄れゆく意識の中でそれだけは忘れないよう固く誓った俺なのであった。




