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番外編だぁ!足りなかった成分を補充せよ! 前半

「やらかしたな」


作者

「とある衝動に負けた。後悔はしてないっす」


「続かせるのか?」


作者

「まだ未定にございやす」


「ついに来た、この時が」


そう呟いたのは大きめのパーカーを着た佐原。

裸足で熱い砂浜に立ち、潮風に金色の髪を遊ばせながら眼前に広がる海原を見渡している。その瞳は抑えきれない高揚を訴えるかのような輝いていた。いや、もしかしたら照りつける太陽のせいでそう見えるのかもしれない。


「俺としては来たというより、強制参加させられたとしか」


「まぁまぁそう言わずに。せっかくの番外編だよ?みんなで楽しまなきゃ損だと思わない?」


「俺、遊びで損得とか考えないんで」


そう、俺はこのふざけた番外編という催しにかこつけた海水浴に駆り出されてしまったのだ。まったくもって迷惑である。


「つーかなんで海だよ。これ書いてる時点で時期的に真冬じゃないか」


「それはもう御都合主義ってやつだよ。現実は寒い冬だからこそ、せめて夢想では暑い夏を感じたい。そんな自由はこういうとこでしか実現できないんだよ」


「実現しなくていい。そもそも作品内で俺は海に行ってない」


「シャラップ!番外編だからいいのです。海、行ってないけどそういう話があってもいいじゃん!ていう軽い感じで」


「軽くねえよ。ここまで来るのにどんだけ労力を費やしたと思ってんだ」


「とまぁ、そういうわけなんで、今回はOVA的な感じでね、作品で足りなかったモノをね、取り入れていこうということですよ」


抗議を無視された。まぁいいんだけども。

さて、佐原の言っている足りなかったモノとなんだろうか?だいたい足りてたモノはあったのだろうか?足りないものだらけだっただろうよ。主に技量とか内容の深みとかそんなん。


「それで具体的に何を取り入れるって?」


「んなの決まってるでしょうよこのお馬鹿さんめが。足りてないもの、それは、い・ろ・け♪」


しなを作ってポーズを取るのはいいが、パーカーがだぼだぼで体の曲線がいっさい分からない。


「だってさぁなんかそれらしいの無かったじゃん?あえて言うなら、赤ちゃんの姫ちゃんパイ揉みがあっただけ。それで読者が満足するのか!否っ!」


「お前だんだん作者に似てきたな」


あとR指定しなきゃならんようなことを言わないでほしい。てか、俺の知らないうちにそんなことがあったのかい?


「私と作者はソウルメイトなのです」


「それよりもこういうのやめないか?作者だ読者だ言ってる時点で世界観とかすでに崩壊してるから」


俺がそう提案すると佐原はあらかさまにため息をついて首を振った。まったく何ほざいてるんだろうねこのボーイは?と言いたげに。


「木下君や、これは番外編なんだ。本編でもないスピンオフでもないの。今までのあらゆるしがらみから解放された自由がここにはあるんだよ!」


佐原は拳を突き上げた。


「その自由そしてエロを混ぜ合わせるにはどうしたらいいか、私は昨日の小一時間を使って考えました!」


おもむろにパーカーのチャックを解き、その端をしっかりと掴んだ。


「夏!そして海!と来たら次は当然、水着だぁぁ!!」


脱ぎ捨てられるパーカー。その下から露になる健康的な白い肌。大胆にもビキニ姿を披露する佐原は実に楽しそうでなにより。


「見えてるかいオスども!ぴっちぴちな女の子の柔肌だよーん!」


「見えないから、全部文字だから」


「夏と言ったらこれだよ。むしろ夏は女子の水着か浴衣しか浮かばないよね。そう思うだろ諸君!」


びっと指を突き出した。


「どこに向かって指を向けてるんだ?」


「液晶の向こぉうっ!!」


さいですか。もう世界観とかホントいいらしい。気にしたら負けのようだ。

液晶の向こうのみんな。そういうことだから気にしないでやってくれ。


「でも何て言うかこれって男性票は取れるけど女性票が取れないよね」


「そうだな」


「木下君、もう少し重く受け止めたら?他人事じゃないんだよ?私達の問題なんだよ?女性ファンが楽しめないんだよ?」


なぜか佐原に呆れられてしまった。

重く受け取るも何もさっき、軽い感じで、とか言ってたのはどなた様だっただろうか。そもそもあれだ。


「ファンなんていねえよ」


「いないの!?」


「なんで素で驚けるんだお前は」


「いやほらだって、お気に入り登録とかそれなりにしてもらってるし?感想も書いてるもらえてたし?」


「読者は息抜きで読んでんだよ。ファンってのはこんな小さな作品に付くもんじゃない。もっと壮大な作品に付くもんなんだよ」


「君にいったい読者の何が解るって言うんだい!?根拠を出してもらおう!」


「俺だったらそうする」


「みんながみんな、木下君みたいに廃れた思考をお持ちな人間なんかじゃないんだんだよぉ!」


俺に指を突きつけて佐原は叫んだ。どうやら俺は廃れた思考の持ち主らしい。


「…………でもでもぉ、私もそうするかもしれないってのが拭いきれない本音なんだよねぇ」


どっちなんだ。


「ぶっちゃけそんな話はいいんですよ」


そうなんだ。


「てか会話の比率が。このままだと例の『黙りやがれプロジュクト』みたいなグダグダになっちゃいます!なわけで、あっちを御覧ください!」


持ち前のスキル『切り換えの早さ』を発動させた佐原は海の方へと指を向けた。いや、海じゃなくその手前の浜辺にだった。

そこには俺達の連れ……というより、どう考えても俺の方が連れてこられた感があるが、泉堂達がいる。


「卑猥な目で泉堂さんを見るんじゃねーですよ、この変態がぁ!!」


「失せろロリ体型!僕には姫香ちゃんの水着姿を写真に残す使命があるだよ!凹凸派のみんなが待ち望んでるんだぁ!!!」


「黙りやがれです!って、ロリとか言うな!?男の思考はホントにどこまでも穢らわしい!」


「僕はなんと言われようと本懐を成し遂げるのさ!!」


「いい加減にしなさいよね高瀬!肖像権の侵害!料金を取るわよ!」


高瀬、お嬢様、三坂の三人が何やらぎゃあぎゃあと騒がしく揉めている。肖像権とか言ってるけど何をやっているんだろうか?


「うむ、実に楽しそうだ。やっぱり海は心を開放的にするよね」


そうか?俺には争っているようにしか見えない。あ、高瀬が三坂に蹴られた。


「よぉし!それじゃあ私達も青春を海でときめかそうじゃないか!」


跳ねるようにして浜辺を走っていく佐原。揺れる金色の髪が太陽の光を反射してより輝いていた。水着の金髪美少女か……。ここから見る限り、お嬢様も佐原も三坂も眼福なことこの上ないんだが。

女の子達を見ているだけならそこの木陰でいつまでも見ていられるんだよ。余計なのもいるけど。ダメなのかなぁ、見てるだけじゃ。ダメなんだろうなぁ、佐原は、私“達”も、とか言ってたからなぁ。

仕方無い、行くか。俺はようやく重い腰を上げて向かうことにした。



「第一回!ビーチバレーデスマッチ!決まれ、殺戮のサクリファイスアタックパート3!を今から開催いたします!!」


佐原がボールを片手に宣言する。もはやツッコミ所が多すぎて役を全うする気にもならない。

でもとりあえず──。


「なにゆえバレー?」


「海で楽しむったら何かって、心も女子の胸も弾むビーチバレーじゃん?」


「定番だな」


「定番が何?だったらいつやるの?今でしょ!」


「いやホント毎度のことながらそういうネタはマジでやめろ。消える」


「消されたら勝ちです。本編は終わってるし」


もういいっす。


「というわけでね、ビーチバレーをやるよーん。ほら高瀬、何を死にそうな顔でねっころがってんのさ?今から死ぬほど遊ぶのに」


「カ、カメラは、守り切った、ぜ…」


すでに一人瀕死である。高瀬カメラマンは殉職寸前な御様子。もし良いものが撮れていたら息があるうちに焼き増しをいくつか注文しておこう。


「胸が、はず……弾む…」


三坂が背後でぶつぶつ言ってる。

安心しろ。お前はお前のままでいいんだ。需要はあるはずだ。とか余計なこと言ったら噛まれそうだからやめておこう。

それよりも……。


「…っ!?な、なに?」


水着姿で頬を赤らめる超絶美少女か。そのフォルムはスレンダーながらも育つべき所がしっかり育っている夢の膨らみ。だからと言ってバランスにまったく違和感を感じさせない、まさに黄金比のボディー。

泉堂、悪いな。俺が召し使いをやっていて得だと思うのはこういう機会に巡り合う可能性が高いってことなんだ。男子だから。神が決めた性別だから!

もし夏休みの思い出とかいう作文の課題があったとしたら、お嬢様の水着姿はとても良い目の保養になりました!と一行書いて完成させてしまいそうだ。

この一行に思い出の全てが詰め込まれていると教師をを説得だってしてみせる。嘘だけど。

だが、ひとつだけ問題があるな。


「泉堂、なんでその手にアミを持ってるんだ?」


「え?さ、魚捕れるかなって思って……」


「これだけはツッコミさせてくれ。小学生か!」


「だってわき上がる冒険心が抑えきれなかったの」


「だからって高校生にもなってアミって」


なんというか、残念だ!美少女の水着姿にアミが付属されてるのは、なんか残念でしょうがない。明らかに蛇足なんだよなぁそれ。

できればもう少し大人っぽさを……いや、言うまい。本人がアミを持って魚を捕りたいと言うなら、好きにさせた方がいいんだ。間違いなく不漁だが。アミで捕るの本当に難しいんだよ、魚って。経験者は語る。


「はい!そこ、イチャつかない!」


「〜〜っ!?」

「してねえから」


「まったく最近の若者は人目もはばからず『ピー』だからイカンよ」


今のピー音はなんだ?お前はいったい何て言葉をその口から発したんだ?番外編でも消される放送禁止用語の類いか。


「あれ?泉堂どうした?顔が赤いけど」


「な、なんでもない!」


そうか。なんでもないと言うなら追求はしないさ。


「佐原さん」


「どうした三坂隊員?」


「ビーチバレーをするのはいいのですが、奇数の三人なのでチーム分けに難があります」


綺麗に男子を除外している辺り三坂である。今日も男嫌いは全快ですね。


「そこは問題ないよ。今日は保護者担当として羽川さんも一緒だから」


「はい、よろしくおねがいしますねぇ」


いつの間にか羽川さんが忍の如く参上していた。気配もなく、音もさせず、そしてスク水姿で。

羽川さん、あなたはいくつですか?年齢的にスク水って大丈夫なんですかね?

ちなみに俺は真実を知らなければ全然アリです。

紺色の水着が陶磁器のように白くきめ細かい肌を強調させて眩しい。それに小柄な割りにプロポーションがいいとことか男心をくすぐられます。羽川さんは意外と着痩せするタイプだったんですね。


「……」


「真貴君、どうかしましたかぁ?」


「いえ、なんでも」


「ふおぉぉぉ!!羽川さん、全然アリです!スク水姿も可憐ですよ!」


隣で高瀬が復活も間もなく歓喜の雄叫びを高々と上げていた。うるさいが、右に同じ。


「ふふっ、ありがとうございますぅ高瀬さん」


「一枚いいっすか?」


「料金をぉ、発生させちゃいますよぉ?」


「払う!払うっす!夢を買わせてください!」


高瀬は本当に真っ直ぐな奴だなぁ。お前に向けられる泉堂達の冷たい視線も真っ直ぐだぞ。尖ってそうで痛そうだ。


「じゃあチーム分けといこうか!例の如くくじ引きがあります!」


いつか見たなそれ。


「はい、引いて!……とその前に、後半に続く!」


「言う必要があるのかそれって?」


「日曜夕方にも採用されている伝統的な繋ぎだよ!」


とのことで、後半に続くようです。

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