第32話 お嬢様の困惑子育て③
お嬢様視点!?
「──様」
「──う様」
誰かが私を呼んでるような気がする。深いまどろみの中から少しずつ意識が覚醒してきた。
「お嬢様」
「ん?んふぅ?」
「ようやく起きましたか。こんなところで寝てると風邪ひきますよ?」
目を開けると見慣れた真貴の顔があった。
「ふぁ……真貴、何時?」
「もう夕方五時です」
かなり寝てたみたい。体が変に凝ってるわ。
目を擦ってベビーベットを見ると赤ん坊は相変わらず眠っていた。寝る子は育つ、のかしらね。
「あ、そうだ。お嬢様が赤ん坊見てくれていたんですね。てか、よく面倒見れましたね?」
「なにげに私のこと馬鹿にしてるでしょ?赤ん坊世話くらいわけないわ」
立ち上がって背伸びをしてみる。体の凝りがだんだんとほぐれていった。
「その赤ん坊の母親が見つかりましたよ」
「え?そうなの?」
「はい。いろいろ手を尽くして探したんです。生活が苦しくなってやむを得ずってやつでしたよ。金持ちの家に拾われた方が赤ん坊にとって幸せかもしれない、だそうです」
「ふぅん」
ほら、言ったじゃない。自分の子供の不幸を願う親なんてそうそういないのよ。
「その母親シングルマザーで、子供と生活するために生活保護を受けるということになりました。明日迎えに来るそうです」
「そう、よかったわね。これで私も荷が降りるわ…………でも」
「どうしました?」
なんかあれ、こう後ろ髪を引かれるって言うの?ううん、やっぱり親と一緒がいいのよね。
「いいえ、たまにはこういうのもいいかもしれないって思っただけよ」
「そうですか」
その翌日、母親が赤ん坊を迎えに来た。母親は何度も頭を下げて謝ってきた。そんなに下げられるとこっちがやりにくい。
隣にいる真貴と一緒に頭を上げるよう促した。
「はぁい、あなたのお母さんですよぉ」
羽川が赤ん坊を抱いて屋敷から出てきた。もう会えないだろうし、一言くらい声掛けてもいいでしょ。
赤ん坊に近づいて頭を撫でてやる。
「あまりお母さんに手間かけさせちゃ駄目よ?」
「あむぅ」
返事かどうかは不明だけど、一応返事として受け取っとくわ。
赤ん坊を受け取った母親がもう一度頭を下げてから帰っていく。
赤ん坊……かぁ。
「ねぇ、真貴」
「なんでしょうか」
「私将来は絶対に赤ん坊を産むわ」
「…………えっと、そう、ですか。いいんじゃないんですかね?あの子で影響受けましたか?」
「そうね、影響受けたわ」
だって本当のことなんだから、そう思うことは恥ずかしいことなんかじゃない。真貴には言ってあげてもいいと思うし。
「産まれたらぜひあなたにも見せてあげる。この私の子よ?超絶可愛くなるはずなんだから!」
「それは楽しみです」
真貴は笑った。その隣にいれることがなんとなく心地いい気がする。
「だからさ……真貴、その……ね?」
「はい?」
「ええっと……」
私が言っていいのか、言わざるべきなのか。まぁいいわね。
「あ、あなたの子供もきっと見せなさいよね。盛大にお祝いしてあげるから」
「ふ……ははっ」
「なによ。私なんか変なこと言った?」
「いえ、そうですね」
真貴は小指を出してきた。
「約束しましょうか」
「うん!」
真貴と初めて指切り。遠い未来になるかもしれない約束だけど、きっと私達はそれ果たし合うの。私がそう思いたいから。
「うふふ、青春ですねぇ」
ああ、羽川がいることを忘れてたわ。
『第一部完』




