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第31話 お嬢様の困惑子育て②



「それではお嬢様、この子の面倒お願いしますねぇ」


にこにこしながら私に言ってきたのは、我が家のメイド長だった。

普段から話を聞いてないと言われる私は、例に漏れることなく馬の耳になんとかだったからもう一度聞き返すことにしたの。


「も、もう一度言ってくれる?」


「ですからぁ、今日はメイド一同お休みなのでぇ、この子のお世話をお嬢様がするのですぅ」


そう言って羽川が指差した先には例の赤ん坊がベビーベッドで眠っている。

これって確か私が小さい頃使ってたっていうベビーベッドよね?よく覚えてないけど。

ううん、違う違う!私が疑問に思うべきはそこじゃないのよ。羽川の口から、私が世話をするとかなんとかって言葉が出ていた部分なのよ。


「えっと……お世話って私が、この子の?」


「はい〜」


「真貴は?」


「今日はぁ、お友達と御予定があるようですぅ」


「なっ!?」


あんのぉ役立たず〜!

だいたいこの赤ん坊は真貴が勝手に拾って来たんじゃない!なんで私が手間を取らなきゃならないの!?


「あの駄召し使い……。真貴の仕事でしょう!」


「まぁまぁそう言わずにぃ、この子一人じゃ何もできないんですからぁ、ちゃあんと面倒を見てあげなきゃ駄目ですよぉ?」


なんかこれ幼稚園の先生に似たようなことがあるわ。お姉ちゃんなんだから年下の子の面倒はしっかり見ましょうねぇ、ってやつ。

年下の子にも好かれなかった私にどれだけ精神的痛手を負わせたか知ってんの?

高校生になってまで苦しめられるなんて、もはや一種の呪いの言葉ね。


「あのね、私はその子には関わらないってあらかじめ真貴に言ってあるの。だから却下よ」


「お嬢様ってぇ、そんなに心のせま〜い方だったんですかぁ?」


「狭っ……ええ、別に狭くても」


「お友達が離れてっちゃいますよぉ?」


「ぐはっ!」


ちょ、ちょっとグサってきちゃった。真に受けるってわけじゃないんだけど、ズルズルと気になっちゃう元ぼっちの性がぁ!

これも全部真貴のせいよ!友達ができたからこんなハラハラして……まぁそのことに対しては感謝してないこともないんだけど…。ホントにちょっとだけなんだからぁ!


「今度絶対真貴に文句言ってやる!」


「それでは赤ちゃんのことお願いしますねぇ♪」


「あっ、ちょっ、待って!待ちなさいってば!」


行っちゃった。

前々からひしひしと感じてはいたことだけど、私の言葉ってあまり威厳が無いわよねぇ。お嬢様なのにメイド一人止まらないもの。

うちの人達ってちゃんと私のことを主として見ているか怪しいところよね。真貴に至ってはなんかもう雑としか言いようがないし。外では友達としていなさいとか言ってる私が言うのもあれなんだけど……。


あーもう!今はそんなことはどうでもいいのよ。

問題はこれよ!人の気も知らないで熟睡してるこの小さいの!世話をしろって何も解らないじゃない。

…………ええっと、本当に解らないんだけど?赤ん坊が寝てる時って何をすればいいの?

しばらく私は考えた。その結果ひとつの答えにたどりついた。


「寝てるなら……何もしなくていいでしょ?」


そう、これでいいの。無理に起こすのもなんかこの子に悪いし、起きてもどうせ私が面倒見なきゃならないわけだし。お願いだから今日一日ずっと寝ていてちょうだい。何事も楽に越したことはないのよ。

届け、この願い!


「……う〜…あぶ…?」


現実はなかなかに厳しいものね。願った途端に目を覚ますなんて。

それで起きたら何をしたらいいのよ?すごいこっちを見てるんだけど。ガン見なんだけど。あなたは何を求めてるの?


「は、はぁい、私が今日のお世話係よ〜?」


私は何をしてるのかしら?

赤ん坊にそんなこと言ったって言葉が解るわけないでしょうに。

とりあえずまた寝てくれないかな?赤ん坊を寝かし付けるには……子守唄?それしかないわよね。

でも、子守唄とか言ってもレパートリーが一つしかないんだけどねぇ。それもかなりうろ覚えの。

いいわ。唄ってやろうじゃないの。私の歌声ですぐに夢心地にしてやるわ。


「ね、ねんねん〜ころりよ〜おころりぃよ……」


「うぅ〜あぅ〜♪」


ぺち!ぺち!ぺち!


なんで手拍子してんのよこの子?

眠るどころかリズムに乗り始めちゃったじゃない。そんなにテンション上げられても困るわ。


あ〜これもう完全に目が冴えちゃったわね。子守唄ってもしかしたら逆効果なんじゃないの?

子守唄は赤ん坊のための歌みたいなもんだし。自分のための歌ならそりゃテンションも上がるわ。眠れなんかしないわよ。

はぁ……もう寝かし付けるのは、どう見ても諦めるしかないようね。

とにかく泣かれるのだけは回避しなきゃ。そうなったら間違いなくオロオロするだけの人になる。

遊ばせるものが何か、そう言えば松本がガラガラを持ってきてたわね。ああ、そうこれこれ。これでも鳴らして一人で遊んでなさい。


「はい、持って」


「あぶっ!」


ぶん!ゴンッ!?


「ぎゃっ!!」


おもちゃが勢い良く額に飛んできた。


「いったぁい!?投げるんじゃなくて振るのよ!振って音を鳴らすの!こう!」


ガラガラガラガラ!


「あ〜う〜♪」


喜んでないで自分で振りなさいよ。なんでもかんでも人にやってもらうようだと、将来一人じゃ何もできない人間になるわよ!私はどんな時も一人でもやってこれた子供時代を過ごしてきたんだからね。そこんとこはちゃーんと分かってるんだから、本当にもう、独りで……あははっ。

ぬぁぁ、自分の言葉で心の傷口が開いていくぅぅ!


「うぅ〜?」


ハッ!?また過去の自分を引きずって悶えてた。

辛い記憶って人間は忘れるようにできてるとか言うらしいけど、その期間が長いと忘れるものも忘れられないものよねぇ。

…………さあ、ひとまずはこれで一息つけるわ。そのおもちゃで思う存分遊んでさっさと疲れて寝ちゃいなさいよ。私もなんかこの短時間で疲れたわ。


「ふぁ〜」


「ん゛〜む〜」


「なによ、いきなり機嫌悪そうな声出しちゃって。私が欠伸するのが気にくわないっての?」


「む〜む〜」


「この屋敷で私が何をしようと自由なの。私が主なんだから。分かってる?文句は受け付けないわ」


「あぶぅ〜ばぁ〜」


なんか知らないけど落ち着きが無いわね。なんでこんなに足を動かしてんの?

赤ん坊の謎の行動について考えを巡らせていると、ベビーベットの隣に置かれている一つの袋が目に入ってしまった。その表面には上半身裸の赤ん坊がハイハイしている写真がプリントされている。その赤ん坊が腰に付けてる白い物。うん、オムツよ。

……いや、まさかとは思いますけどね。ナイですよこれは。だってアレだもの。お嬢様としてなんやかんや総合するとナイわ!絶対にそんなことは世間一般的な解釈から言っても私がだなんてあり得ないわ!!


「ぶぅ〜っ!!!」


だーかーらー!そんなホントに……ああぁぁぁ!?

私はオムツの入った袋を掴み取った。


──開封後。


「ほほぉ、なるほど〜。男のってこうなって……」


私まじまじと見ちゃってるけど、これはいろんな意味でセーフよ。初めて見たけど乙女としての何かが傷付くようなことじゃないわ。だって今はかなーり特殊なケースだもん。それに赤ん坊のだもの。小さいもの。男とか女とかの概念なんかか微塵もここに介入してないもの。

そしてこれは赤ん坊の世話をするにあたって決して避けられない必須事項!見ないでやるなんて無理にもほどがあるの!とか、いろいろ言い訳を頭の中で作ってるわけだけども、やっぱり顔も熱くなるし、もう止めといた方がいいわね。

思春期特有の好奇心もほどほどにしといた方がいいって、羽川だって前に言ってたしね。

それにしても……。


「あむ〜♪」


「あなたきっと将来大物になるわ。天下の泉堂財閥社長の一人娘にこんなことさせてんだもん。覚えてなくても敬意くらいは感じなさいよ」


そんなことを口にしながら案外簡単にオムツを取り替えてしまった。解りやすい説明が袋に書いてあって助かったわ。

でもあなた下が緩すぎるんじゃない?吸収性が高いオムツだったから良かったものの大洪水よ。

えっと……とりあえず先のオムツはビニールに入れてあるけど、ゴミ箱にダストシュートしてもいいんだったっけ?燃えるごみ?濡れてるけど燃えるこれ?

考えるのが面倒臭くなって適当にゴミ箱へと放り込んでおいた。まぁ、真貴が帰ってきたらなんとかしてくれるでしょ、たぶん。


一仕事し終えた気分で背伸びをする。なんか今のでもうドッと疲れたわ。子育てって毎回こんなことするのよねぇ。私もいつかする時が来るのかしらね?

なんか自分でそんなこと考えてて少し笑えた。


「ま〜」


「えー?今度はなに?」


何を要求してるのか分からない。ま〜って何?マジでダリ〜の略?


「まぁ〜…まぁん〜…」


ああ、なるほどねぇ。違うわ、違うから。


「悪いけどね、私あなたのママじゃないから」


ドラマかなんかでしか聞いたことないセリフを口にしていた。

思うけど、これって言われたら想像以上にキツイかもしれない。言葉が解らないからってつい言っちゃったけど……。


「ま、まぁ、今日一日だけなら別に……」


とかなんとか言っちゃったりしてもぅ〜!何言ってんのよ私は!?いいわけないでしょうが!少し落ち着け泉堂姫香。


「ま〜んまぁ。ま〜」


ま〜しか言わない。だから何を求めてんのよ?まー、まー、まー……。

マーマレード?いや、私はアホか。なんでそこに辿り着くの。赤ん坊がジャムなんか欲しがるわけがないじゃない。口にしたことがあるなら別だけど……。

でも、この、ま〜ってのが何なのか分かんないなぁ。

たぶん母親を間違えるなんてことはないし……。

そう言えば羽川が何か言ってたような気がする。なんて言ってたっけ?うーん、思い出せない。こういう時、普段から人の話をちゃんと聞かない自分が恨めしく思うなぁ。

ううん、諦めちゃダメ。記憶を捻り出すのよ!


『お嬢様は相変わらずお寝坊さんですねぇ。この子はもう起きてますのにぃ』


これは朝起きた時ね。赤ん坊と比較される私って何?


『お嬢様ぁ、ちゃんと宿題はやらなきゃダメなんですよぉ?真貴君をあてにしてばかりいたら力がつきませんよぉ』


これは毎日言われてることよね。耳にタコだもの。


『時間がきたらミルクをあげてくださいねぇ』


これよ。たしか母親が赤ん坊に「まんま」って言ってご飯をあげると聞いたことがあるわ。ほら、時間だってそろそろじゃない。

それで……あれ?もしかして、ミルクも私が作らなきゃならないパターン?

自分の朝ごはんですら数回の失敗を繰り返してるってのに。人のを作るとか未知の領域よ、ミルクだけと言っても。以前に作って黒炭になったのがいい例よ。

それでも作らなきゃダメですか?


やるしかないのよねぇ。文句言っても居るのが赤ん坊だけなんだもん。

それにこれってあれよ。自分よりも弱いものに対する慈愛って言うの?できることをしてあげるってね。たぶん羽川達と同じような母性本能じゃない、とは思うんだけど。

とにかく私が作る!ということで粉ミルクと哺乳瓶を出してみましたぁ。ちなみにキッチンに入ったのは今回で二度目です。

はい、えぇっとね、まずは────お湯を沸かすんだったっけ?なんかさっきから私こればっか……。

お湯って、鍋で?それともポットでもいいの?説明にはお湯を沸かすしか書いてないじゃない。もうお互い平成生まれだからポットでいいわ。使いやすい方を選ぶのが現代っ子なの。

説明を見ながら湯が沸騰するのを待つ。その間、何度も赤ん坊が気になって行ったり来たりを繰り返す。

つ、疲れる…。こんなに気を遣わなきゃならないなんて聞いてないわ。赤ん坊がどうしてるか気がきじゃないもん。ここまで世話をする気が私にはまったく無いってのにぃ!

ガラガラで遊んでるのを確認して再び戻ると丁度沸騰していた。


哺乳瓶に適量を入れて、お湯を目盛まで注ぐ!っと。ここまでは順調ね。あとは適温まで冷まします、か。それで適温って何度?何を基準にしてんのよこれ?もうちょっと詳しく書きなさいよ!初見殺しにもほどがあるわ!


哺乳瓶はまだ表面も熱いし、間違いなく今じゃないってのは分かるんだけど。

どこかで聞いたことがあるけど、人肌の温度が良いとかだったかしら。

……人肌って……わかんなくない?体温計とかで計れっての?それダメでしょ。もうわけわかんないわぁ。

極端に冷ましすぎるとあまり美味しそうじゃなさそうだし。頬に当てて温かいって思えるくらいまででいいかしらね。

哺乳瓶を持って元の部屋に戻ると、赤ん坊は落ち着きなく腕を振っていた。私の持ってる哺乳瓶を見つけると少し興奮気味に声を出し始める。


「まっ!まっ!まっ!」


残念だけどまだあなたに飲ませられる温度じゃないのよねぇ。そんなにねだっても無駄よ。少しは我慢も覚えなさい。

なんか私もずっと昔から言われてる気がするわこれ。


ピロリピロリ♪


哺乳瓶に向けて手を伸ばす赤ん坊を見ながら冷めるのを待っていると、携帯が鳴り出した。慌てて取るとディスプレイには羽川の名が表示されていた。


「もしもし」


『お嬢様?そろそろ赤ちゃんのご飯の時間ですぅ』


「もうミルク作ったわよ」


携帯あったのよねぇ。今までのこれで全部聞けばよかった。


「ところでミルクの適温ってどのくらい?」


『人肌ですぅ』


「その温度がよくわかんないの。口に含んでぬるい感じでいいの?」


『絶対に駄目ですよぉ飲んではぁ。誰かが口にしたものは赤ちゃんにとって健康に良くないんですぅ。口移しで病気とかあったりしますからぁ』


なにげに人を病原菌みたいに言ってない?言いたいことは解るけど。


『えっとぉ、哺乳瓶を持ってぇ温かいなぁって思える温度になったらぁ十分なんですよぉ』


「そうなの?」


羽川、まだ結婚もしてないのによく知ってるわね。


『なんかぁ失礼なこととか考えてませんかぁ?』


「別に考えてないわよ」


『そうですかぁ。あっ、でもですねぇ、赤ちゃんによっては熱いの嫌いな子がいるのでぇ、やっぱり様子を見ながら気をつけてミルク飲ませてくださいねぇ。その子は大丈夫だとは思うのですけどぉ』


「はいはい。ちなみにだけど私の昼ごはんは?」


『適当に済ませてくださぁいなぁ』


「ナメてんの?」


『冗談ですよぉ。冷蔵庫に入ってるのでぇチンしてくださぁい』


「わかったわ」


『あとぉ』


「まだ何かあるの?」


『ミルクを飲ませたあとなんですけどぉ、赤ちゃんの背中を優しく叩いてあげてゲップをさせちゃってくださいねぇ』


「え!?なにそれ?初耳なんだけど」


『ミルクがぁのどに引っ掛かったりしてますとぉ、うまく呼吸ができなくなっちゃうのですぅ。お嬢様も将来のために覚えておきましょうねぇ』


将来って……まぁ可能性は無くもないけどさぁ。そういうこと言われるとなんか恥ずかしいわ。


『それではぁ、夕方にまた私も行きますのでぇ、しっかり面倒を見てあげてくださいねぇ』


「真貴はいつ帰ってくるか知ってる?」


『さぁ〜?いつなんでしょうねぇ』


電話を終えて携帯をテーブル置いてから哺乳瓶を手に取ってみる。少しゆるくなりすぎたみたいね。それでも熱すぎよりはマシでしょうよ。


さぁ飲ませますか…………飲ませるって寝かせたままじゃマズイかな?私の経験上気道に入ってむせたことが何度かあるわけだし。仕方無いかぁ。哺乳瓶をテーブルに置く。

私史上初の試み。赤ん坊を抱き上げる。ええっと、頭が下がらないように背中を支えて……ちょ、ちょいこら動くなぁ!?お?お?おわっとぅあ!!


ドサッ!


う、後ろにソファがあってよかったわ。動くし案外重いのね赤ん坊って。


「あぶー!」


「はいはい、ミルクあげるから動かないで大人しくしててよぉ」


しっかり抱き直して赤ん坊を膝に座らせる。テーブルからミルクを手に取ろうとしたら──。


「ひゃっ!?んん!」


胸にむずがゆい違和感が襲ってきた。


「あぶぁ!ばぁ!」


「んく、ちょっと……好き勝手に触っちゃってくれてるけどあなた」


視線を移すと赤ん坊が哺乳瓶を見たからか興奮した様子で服を掴んでいる。

──可愛い、かも。


「ふぅ……まぁいいわ。ちゃんと飲みなさいよ」


その後、なんとかミルクを飲ませることができた。

赤ん坊って食事取らせるのも一苦労ね。飲みやすいように気を遣わなきゃならないし、そのあとも背中を叩いてゲップが出るのを待たなきゃならないし。ずっと付きっきりよこれ。

それはそうとミルクも飲んだしそろそろ寝てくれるかしら?

抱き上げ、ベビーベットに連れていって横にする。すると赤ん坊は小さな欠伸をもらした。

私は眠るまでそこで見ていることにした。特にすることもないから。

ベビーベットへ上半身をもたれかかかるように、両腕を枕にして頭を乗せる。


「んむ〜」


赤ん坊は眠そうにしながらも時折遊んでるかのように手を動かしている。ふいにその小さなこっちに伸びてきて、私が手を差し出すと、ぎゅっと指を握った。悪い気はしないわね、こういうのって。


「まったく、あなたの世話って大変よ」


「あむ」


「そうね。あなたの方が大変よね。こんな小さいのに捨てられるなんて」


せっかくお腹を痛めて産んだのに置いてけぼりにするってどうなのかしらね。


「お母さんに会いたい?」


「う〜」


「ふふ、今のどっちの返事なの?やっぱ会いたい?私だったら……会いたいわ。親子って、一緒にいるのが一番だと思うもの」


「あぶ?」


なんでかわからないんだけど、赤ん坊に話していたくなった。


「私はね、ずっと一人だったわ。たぶんあなたと同じくらいの時もよ?親といた記憶があまりないの」


「あむぅ」


「会いたいって思ってもお父さんは忙しいし、お母さんには会えないの。どんなに望んでもね」


私の指を握る小さな手をそっと擦る。それに合わせて赤ん坊は握る手を動かしてこそばゆい。


「私のお母さん、私を産んで死んじゃったの。元々身体は弱かったんだって。私を産むのも無理があったらしいの」


それでも……。


「でもね、ちゃーんと私を産んでくれたわ。自分の命と引き換えにして。強い人よね」


一生懸命私を産んでくれたこと、すごく感謝してる。でも、やっぱりお母さんがいないってことがすごく寂しかった。


「まだね、幼い頃はよかったけど。小学校に入っていろいろ分かってくると、お母さんに会えない、お父さんにもすぐに会えないって、なんか孤独になって。家も普通じゃなくて、周りに壁が出来てきて。今になるまで友達もいなかった」


だから家族って大切。父親と母親が近くにいるって、これ以上ないくらい安心できることだと思うの。孤独だって感じない。


「もちろんお父さんが私を大事にしてくれてることは知ってるわ。八つ当たりに恨んだこともあったけど、私のために頑張ってるって今は知ってるから」


それに今の友達がいる私があるのも、根本にはお父さんがいるわけだからね。真貴にも会えたのだって。


「……」


「だから、家族って大切。あんまり恨んだりしちゃダメなの。本当に子供を愛さない親なんてそうはいないんだから」


つまり、私が何を言いたいのかというと。


「あなたのお母さん、早く見つかるといいわね、って寝てんじゃない」


いつの間にか赤ん坊は小さく寝息を立てていた。手は私の指を握り締めたまま離してくれそうもなかった。

私もなんだか眠くなってきたわ。面倒を見て、いろいろ考えて、今日は疲れたからかも。

腕を枕にして私もしばらく休むことにした。目を瞑ると頭の中に何かが思い返されてくる。

小さかった頃のこと、お母さんがいない事実にショックを受けたこと、お父さんに会えなくて寂しい思いをしたこと、小学校のこと、中学のこと、ずっと独りだったこと。そして、今年の連休明けに真貴がうちに来たこと。

私は、たぶんあいつに会えて良かったと思ってる。友達第一号で、なんやかんやでいろいろ助けてもらってたり、友達の繋がりも教えてもらったし。それに、あいつが来てから、寂しさを感じなくなった。

同じ家にいて、ずっと近くに居てくれる。頼りにしたいと思える。そんな人がいることが、私にとってかけがえのない……。

あれ……?これって、何の感情なの?感謝って言うにはなんか違うような、そんなんじゃない気がする。

もっと別の、ふわふわしたような感覚の、あいつに会う前までは感じたことがない気持ちが。どう言い表したらいいのかよく分からないなぁ。

真貴……真貴……真貴……真貴……真貴…好き…?この感覚ってそういうこと?もしかして私って本当に真貴のこと……。

あははっ、なぁんて、たぶん眠くて思考がうまく働いてないんだわ。こんなこと考えるなんて私らしくないもの。それに、そういうことはすぐに結論を出すもんじゃないだろうし……。

でも、真貴は……私を…どう思ってる…の…かな…。


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