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第30話 お嬢様の困惑子育て①

やぁ久しぶりの更新になっちゃいましたねぇ。

それでも趣味感覚でやってるんもんなんで許していただきたいです!

それは学校から帰り屋敷の敷地に足を踏み入れようとした時だった。

どこからともなく何かの鳴き声が聴こえてきたのだ。

一瞬カラスが飛んでいるのかと空を見上げて見たところ、カラスではなくスズメが数羽上空を通り過ぎていった。

まだ聴こえる鳴き声はどう聞いてもスズメじゃない。どちらかと言えば、ジャングルの奥地にいそうな名も分からないような鳥の鳴き声だ。

この近くにペットを捨てた奴でもいるのだろうか?

今日は確か庭師の人達は休みの日。まだ誰も見つけていないんだろうなぁ。

さて、どうするか……。俺が見つけて保護するしかないのか。何の動物かはわからないが、場合によっては保健所に連絡する必要もあるな。でけぇトカゲとかだったらさすがに近づく気にはならないし。

トカゲが鳴くのかは不明なところだが。


鳴き声のする方へと足を進めていく。念のため足音を立てないよう最新の注意を払う。

だんだん鳴き声が大きくなってきた。あと少し、数メートル範囲にいるのかもしれない。

耳をすませてみる。鳴き続ける獣の……獣かこれ?何というか何度か聞いたことがあるというか、鳴く、というより泣く姿が具体的に脳内へ映し出されるというか……。


急いで声のする方を特定し歩み寄る。この植木の向こう側にその声の主がいるようだ。

体勢を低くしてここでも音を立てないように動く。ゆっくりと体を伸ばして、植木の向こう側を覗いてみると。


「おぎゃあ!おぎゃあ!」


赤ん坊が箱に入っていた。


いや、ちょっと待て。赤ん坊ってなんだ?

これは俺が手を出していい事案となるのか?

普通に考えてみよう。たかが高校生がまだ生後一年も経ってなさそうな赤ん坊を拾いました。連れて帰りました。捨て子として大事になります。警察沙汰になります。よって羽川さんに怒られる可能性。

うん、まぁ怒られはしないだろうが迷惑を掛けることは明白だ。どうしたものだろう。


「おぎゃあぁぁぁ!!」


泣き続ける赤ん坊。さっきよらなお酷い。腹でも空いているのだろうか?

腰を折って屈み手を伸ばしてその頭に触れる。小さな頭はとても肌触りが良く、いつまでも撫でていたくなる。

なるほど。まだ赤ん坊を可愛いと思えるような人間性を俺は備えてないが、親が赤ん坊を構いたくなる気持ちはなんとなく解るような気がする。


「あぅ……うぅ……」


撫でているうちに赤ん坊が泣き止んでいった。

このままってわけには、いかないよなぁ……。

その赤ん坊を抱き抱えたのだった。



「がっかりですぅ。木下君はとても性根が腐った人だったんですねぇ」


とりあえず羽川さんに見せてみたらそう言われた。

見せた途端に驚きの表情を覗かせて、一旦落ち着きを取り戻した羽川さん。

そして柔らかな手つきで赤ん坊を抱き抱える。その後、訝しげな視線を向けられた。


「いったいどこで種まきしてきたんですぅ?」


いや、それ違いますから。あなたが考えてるようなことは一切ありませんから。


「この赤ん坊俺のじゃないですから」


「そんなこと言ってぇ、責任逃れできるようなことではないんですよぅ?」


「責任てなんすか?だから違うんですよ!」


「いけませんねぇ?パパが無責任に責任逃れしようとしてまちゅよ〜」


「やめてくれません!?マジでホントに!」


「だったらなぜ拾って来たんですかぁ?」


「犬や猫ならともかく赤ん坊をスルーは人として無いでしょう!?」


門の近くで箱に入れられていたことを説明したところ、困ったような顔であやしはじめた。赤ん坊も特に機嫌を悪くすることなく抵抗は無いようだ。むしろご機嫌はもれなく上昇中か?

俺が抱いてると時はぐずってたんだけどなぁ。

やはり野郎より女の人の方が本能的に安心出来るのかもしれないな。

そしてさすがは女性である羽川さんだ。なんというか、年齢詐欺的な見た目は少々あれだが、赤ん坊を抱きかかえる姿が妙に様になっている。

小柄で童顔だから端から見て十代そこそに見えてしまう容姿でも、その実はこれくらいの子供がいても何ら違和感の無い大人の女性なんだよなぁ。

あやしているうちに自分も楽しくなってきたのか、その表情はいつもの含みある笑みではなく純粋な笑顔になっていた。だから、つい口にしてしまったのは仕方無いことだったと言えるだろう。


「羽川さん、なんか母親みたいですね」


その瞬間、ハッとしたような表情になった羽川さんは、湯気が出そうなほど頬を赤く染めた。それから少し下を向いて取り繕うようにもじもじとしだす。まるで純粋な乙女が恥ずかしがるような仕草だ。

うん、いいんじゃないですか?可愛いですから、今度からいつもそれでお願いします!


「と、とにかくぅ!この子は親を見つけるか事態が収束するまでここで預かることにしますぅ」


拗ねたように言う羽川さんはかなりストライクで、年齢とかもうこの際関係無いし気にしないでいいですよ、とか言いそうになった。

マジで言ったら拳の一つでも飛んできかねないなぁ、と理性が抑えてくれなければ、この場で気絶する俺がいたかもしれない。


「ただいま〜」


そこへお嬢様が御帰宅してきた。

いつもは制服を着たまま菓子を漁りにこのリビングに来るんだが……いったいどんな反応をするのだろう?


「羽川ぁ〜、なんかプリン的なものとか……え?」


リビングへ入ってくるなり硬直してしまった。


「お帰りなさいませぇお嬢様〜」


構わずいつも通りの返事をする羽川さん。

間違い探しをしてみよう。さて、何が違うか解るか?正解は小さなオプションを抱えている所だぜ。


「あ……え?うん、えっと、なんで?あれ?」


この状況に戸惑いを隠せないお嬢様は赤ん坊を凝視して、あれ?あれ?と疑問符を浮かべっぱなしだ。

普通そうだよなぁ。いきなり自分家に赤ん坊がいたら、そりゃ驚いて理解が追いつかなくなるよ。


「それって……まさか」


何か見当を付けたようだ。


「まさか、羽川の!?」


「はい、真貴君との愛の結晶ですぅ」


違うから。何を言ってんですかこの人は?


「な…っ!?ま、真貴!ついにうちのメイドに手を出したわね!!」


真に受けるお嬢様もお嬢様といったところか。


「常識的によく考えてください。そんな可能性が一ミリたりともあるわけないじゃないですか」


「わぁぁん!真貴君が酷いですぅ!あんなにいろいろしたくせにぃ!」


いや、ホントマジでやめてください羽川さん。ほら、お嬢様がまるで虫けらを見るような目で俺を見ちゃってるじゃないですか。


「お嬢様?分かってると思いますけど、羽川さんは演技してますからね?」


「私これでも人を見る目には自信があるの」


「無罪の人を有罪にしたそうなその目が!?」


もう本当に、言葉じゃ上手く言い表せないが、非常に背筋が氷結まっしぐらの視線を飛ばされている。

これは真面目に事情を説明して誤解を解かなきゃならんみたいだ。このままだと薄情で最低な男の見本というレッテルを張り附けられてしまう。

やばいぞ、なんかどす黒いオーラ的なものを噴出しながらお嬢様が歩み寄ってくる。その手には花柄が描かれた固そうな花瓶が。

殺られる、と俺の第六感が囁いた。


「ま、待ってください!」


「どうしたのよ?言いたいことがあるならさっさと言いなさい。口が利けなくなる前に」


「言うからその手に持った花瓶を置いてください!何に使うつもりですか!?」


「消える人間に言う必要性が見つからない」


イヤァァァァァァ!!!

心の内だけじゃなく口でも叫びたくなった。

それを防ぐためにも全力を持ってこれを説明する。はじめは淀みきっていたお嬢様の目も、誠意の籠った俺の説明が進むにつれて澄み渡っていった。

その間、羽川さんが何をしていたかというと、ソファーに座って赤ん坊と戯れ続けていた。助けてくれてもいいだろうに。

あれ?いつの間にか秋山さんと松本さんも交じって、キャイキャイウフフと楽しんでいる……。

お宅のお嬢さんが鈍器で無実の人間を殺害しようしてますよ?

自分達が仕えている主が間違いを起こそうという瀬戸際に、まったくなんて人達だよ。その主の顔が見てみたい!あ、こいつだった。


「それでどうするのよ?」


お嬢様が赤ん坊の方をチラッチラッと見ながら聞いてきた。


「親が見つかるまで面倒見ることになりました」


「ふーん……」


気にしている素振りを見せるが、他の女性陣と違いすぐ赤ん坊を触りたいといった衝動は起きないようだ。


「温かいミルク作ってきたよー!」


秋山さんが哺乳瓶を持ってきた。


「ガラガラありましたよ」


松本さんも何か音の鳴る玩具を持ってきた。


「以前倉庫を掃除してたら見つけたんでぇ、ちょうどいいですねぇ」


そう言いながら羽川さんも赤ん坊が屋内でよく乗っている足を使えば移動できる椅子を持ってきた。

メイド三人が楽しそうに赤ん坊の世話をしている。うん、まぁこうなるんじゃないかという気は薄々していんだが。

可愛いー!とかいう黄色い声まで聞こえてきた。

俺としてはこの光景をこう評したい。

赤ん坊を愛でるメイドさん三人すげぇ可愛い!もう少し見ていよう。


「なんか楽しそうね」


「そうですね」


「あなたもね。鼻の下伸びてるわよ」


「憶測で言うのはやめてください」


俺に限ってそんなミスを犯すはずがない、たぶん。


「お嬢様も交ざりたいなら交ざって可愛がってくればいいじゃないですか」


「別に興味ないから」


「そうなんですか?」


「そうなの。それに私には可愛いものに向かって可愛いを連呼する私すごい可愛いアピールとかぜんぜん必要ないし」


「いや、それって……」


「ちなみにあの三人の約八割がその典型よ」


「お嬢様は約八割ほど心がねじ曲がってますね」


「曲がってて悪かったわ、ねっ!」


「いってぇ!?」


思いっきり足を踏まれてしまった。

これは怒ってもいいだろうと、痛む箇所を押さえながらお嬢様を見ると、少し拗ねたような顔をしている。

こういう顔をされるとどうも怒る気が失せてきてしまっていけない。

素でやってるのか狙ってやってるのか。もし狙ってやってるんだとしたら、お嬢様は将来悪女になる素養を秘めている。

そうならないよう、羽川さんにはよく道を外さないよう教育していただきたい。小悪魔系とかちょっとあれだからなぁ。

なぜかだと?まだ女の子に夢を見てぇからだよ!


「ちょっと!真貴ちゃんと聞いてんの!?」


すいません聞いてませんでした。お嬢様の将来を案じておりましたんで。


「なんですか?」


「だから、私はあの赤ん坊の世話とかしないからってこと。興味ないし関係ないから」


「子供嫌いなんですか?」


「嫌いじゃないけど好きでもないの。赤ん坊の面倒って大変って言うし、むやみに関わりたくないわ」


そう言って、そっちが勝手にやって、と言わんばかりに手をひらひらさせながら部屋へと去っていってしまった。

まぁ世話は羽川さん達がいるから丁寧にやってくれるだろうとは思うけど。早急に行動して、なるべく早く親を探し出さないと。

捨て子とか、いずれ世話以上に面倒なことが起きるかもしれないしな。それが泉堂家に迷惑が掛かるようになっちゃいけない。

えーと……とりあえずは保健所だっけか?いやいや、だから犬や猫じゃないんだって。赤ん坊だ。

どこに連絡すれば……人だから、警察か?

この時点でなんかホント面倒な拾い物をしてしまったと思う俺だった。

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