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第2話 とっとと歩きやがれお嬢様

「学校ってなんで行かなきゃならないの?」


こんな小学生染みた質問を投げ掛けてくるのは俺が仕える泉堂家の御令嬢、泉堂姫香お嬢様、私立桜乃丘高等学校の一年生。


黒が基調のセーラー服に赤いスカーフといった学校指定の出で立ち。


その彼女が肩まである艶やかな黒髪を風になびかせながら歩道を歩く。

その歩道は、つい先月までは満開であったと思われる桜並木。

今じゃ緑の葉で覆われている。

もう夏も間近で、その前に梅雨があることを思い出して肩を落とすのは毎年のことだ。

今年何か違うとすればこのお嬢様の一歩後ろを歩きながらそんなことを考えている、という辺りだ。

これから三年間そんなのは勘弁してもらいたい。

俺は静かに歩いていたいんだよ。くだらない質問に答える気なんてまったくないんだよ。

なのでさっさと俺をクビにしてくれ。お前を無視してる俺をクビにしてくれ。


「はぁ…なんで私、徒歩で学校行ってんのかしら?」


また新たなくだらない質問をなさりやがりますね。

ていうか、無視されてることはいいの?お前、端から見たら一人で喋ってる可笑しな子だよ?


「私って一応金持ちのお嬢様よね?そういう場合、リムジンでの送り迎えとかがあってもいいじゃない?」


漫画の読みすぎだ。


「私は金持ちの令嬢。全ての女の子の理想のはずなのに…」


お嬢様がぐちぐちと面倒臭そうなことを何か言い始めた。


「理想と現実は違うということですね…」


あまり一人で喋らせとくと爽やかな朝の空気も悪くなりそうだ。だから少し会話してやっただけさ。他意は無い。


「あ〜学校まで歩くのしんどいわ〜。部屋でネトゲしてたい〜」


ぐだぐだ行ってないで足を動かしやがれダメ人間。

どーして容姿は完全無欠のくせに中身が欠陥だらけなんだろうか?

もうアレだな。神は二物を与えないってやつだ。

こいつは容姿だけ良くしてもらいすぎて後はそこら辺のガラクタでも詰め込まれて出来てるんだろう。

ところで神様、俺には何を与えたの?借金生活?


「あーそーだ。私ねぇ、学校行っちゃいけない病なのよ」


「地球の医学書にはそんな病名はございません」


「駅前のラーメン食べに行きたいなぁ」


「朝食を食べたばかりでしょう。太りますよ?」


「大丈夫大丈夫。私なんか最近痩せてきたから」


「それは幻想です」


「………。んんっ、確かに体重は増えたけど、それは胸がおっきくなったからでね」


「それは幻覚です」


「お前とことん失礼な?」


お嬢様はむーっと膨れた。無駄に可愛いからやめろ。変に男子の前でやると勘違いが発生するぞ。

それはそうとだいたい世の中のことに興味が無いような、もとい間違った悟りを開いたような顔をしてるお嬢様からは初めて見る表情だ。仕えてまだ二日目ですけどね。敬語とかもう適当の極みだしね。


ふむ、この姫香お嬢様。

言動からもはっきり分かるくらい学校嫌いだ。と言うより、外に出ること自体嫌がってんのか。

初めて会った昨日は休日だったがずっと自宅警備員してたし。常に見てんのはパソコンかテレビだけど。

このくらいの女子っていうのは休日に友達と街にくり出すもんじゃないのか?俺の偏見?妄想?

休日家に籠る理由を聞いてみようとも思うのだが、それを聞くと「いちいち外を自分で歩くのが嫌」とか「人ごみとかありえないし」とかお嬢様発言という地雷を踏みかねん。答えが見えてる質問をするほど馬鹿馬鹿しいものはないしな。

だから別のことを聞いてみた。


「あの、お嬢様は何故そんなに学校に行きたくないのですか?」


「友達がいないから」


重…っ。

地雷どころか核弾頭を踏んじまった。


「私達の学校って理事長が私のお父さんなのよねぇ。それでかは知らないけど皆よそよそしくて」


まあ…そういうもんなのかね?


「んでさ、学校の教室って孤独感がパネェのよ。自分の部屋でも学校でも孤独って同じなんじゃって思うかもしれないけど、あの…大勢いる中で?うん、自分だけ孤立してるっていう孤独感は部屋に閉じ籠ってる時とかと比べ物にならんのですよねぇ。ここに居てゴメンサイみたいな?」


なんか遠い目をして悲しいこと言い出した。

こいつってぼっちなの?可哀想でこっちが泣けてくるんですけど。


「まぁ、今日からは俺がいますし、孤立するなんてこと絶対にさせませんよ」


俺なりの優しさだ。俺はそれなりに誰にでも優しいんだ。

べ、別にこいつが心配だからというわけじゃないし!


「そんなこと言って…」


「えっ?」


お嬢様がギロリと睨み付けてきた。


「そんなこと言ってすぐに他の人と仲良くなって私は放置でしょ?他の奴等みたいに!」


寒気がした。それはとてつもなく冷たい目だった。本当に何も信じていない、虚無感に満ちた孤高の美しい目。

その目に俺というものは映ってないのかもしれない。彼女が見る人間はみんな同じ。自分を同種と見なさい奴等。信じることのできない奴等。

ふんっ、清々しいほどにくだらない。


「そんなことはないさ」


お嬢様は睨みながらも首を傾げた。

こんな目に怯んでる場合じゃない。残念ながら俺は泉堂姫香の召し使いだ。


「泉堂を一人にはしない。お前が周りと上手くやれないってんなら俺が隣にいてやるよ。召し使いとして。周りと上手くやれるようになるまでな」


「………」


「………」


なにこの沈黙?怖いんだけど。

つーか俺すげぇ恥ずかしいこと言ったんじゃねえか?隣にいてやるよって何様だよオイ。


「……ああ、それいいわね」


脳内で自分自身を責め立てていると突然そんなことを言い出した。

先ほどとうって変わり、その表情は緩み微笑みさえ浮かべている。

だからそういうのやめろって。非モテ男子は色んな意味でアホなんだからな!


「けど、召し使いとしてってのが気に入らない。私が欲しいのはリア友なの。だから学校では友達としていなさい。わかった?」


別に断る理由もない。


「お嬢様の仰せのままに」


「ダメダメ!そういうの絶対に無しよ。学校じゃ敬語とか禁止。もちろん私のことはお嬢様じゃなく泉堂。……もしくは、姫香…でもいいや」


急に元気になった。もしかしなくとも寂しがり屋というやつだ。ウサギ並み。


「いい?わかったわね?」


「あいよ、泉堂」


勘違いが起きそうでホントはやめてほしいが、実の所、俺はその笑顔を見れてかなり役得である。その得がなければ捨ててた。うん、自分の利益のために動くのは人間として当たり前だからな。男は可愛い女の子の笑顔が大好きさ。お嬢様がどうとか関係無いから。いや、ホントにマジ。ホントに関係無いんだって!


「そ、それはそうとの話。そろそろ足を動かしてくれないか?」


お前の家マジで広すぎて未だに敷地から出てすらねぇんだよ。

そこら辺にいるのは他の召し使いか庭師だからな。

一般人がいねえ。


「学校面倒だしマック行かない?」


「とっとと歩きやがれ!!」


「おふっ!?し、尻がぁ…」


俺は今日人生で初めて女子の尻を鞄で思いっきりぶっ叩きました。

みんな、暴力はダメだぞ?俺?俺のは躾です。

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