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第24話 学校のかいだん④

佐原

「みんな肝試し楽しんでるかい!私は全然出番が無くて全然楽しくないんだけどどうしてくれる!?」


木下

「知らん」

特別棟の教室は全て踏破した。手元の札は教室に入った分だけある。もう肝試しの山は越えたと言ってもいいだろう。

残るは一般棟の四階に上がって階段から見て最奥にある教室を目指すだけだ。それだけでなんとなく気が楽になる。三坂が悲鳴を上げる度に揺れる鼓膜はそろそろ限界が近い。難聴に追い込まれる前にさっさとこのお遊びは終わらせたいものだ。

今歩いているのは一般棟と特別棟を結んでいる三階の渡り廊下。そこの窓から差し込む月明かりが懐中電灯の明かりを微弱に打ち消す。

その月明かりに誘われて目をやると黄に輝く月があった。そうか、今日は満月だったのか。天気が良くて悪いことはこれっぽっちもないんだが、肝試し的には多少気象が荒れていた方が盛り上がるもんだ。中学時の野外学習で執り行ったことのある肝試しはそれはそれは雰囲気があった。

台風直撃もかえりみず屋外で肝試しを決行した引率の教師達には敬礼するべきだったかもしれない。びしょ濡れでも思いの外楽しめ生徒は喜んでいた。が、その後の風邪発生率は前例がないほど高かったらしい。

ピシッ!


「でた──!?」


……何が?

気圧の関係から発生する建物の音に悲鳴を上げている相変わらずの三坂小鳥。こいつは気象とか関係なしに肝試しのカモとなっていいた。


「も、もう正直に言いましょう。じ、実は私は、極度の怖がりです」


「うん、知ってる」


「論理派であるためか、常識で計れない存在への耐性が、とことん低いのです」


「なるほど」


「お化けとかホントありえません。ですが、ありえないからこそ奴らには論理自体が通用しない」


「どうでもいいけどよく喋るなお前」


「こ、こうでもして会話をしてなきゃ怖くてやってられないんです!あぁ、すいません。男は普段存在が空気のせいで空気が読めないんでしたね」


この女すげぇ…あれだけ取り乱しても男子への毒舌は怠らねぇ。

男子を貶して冷静になったたのか多少三坂の足取りが軽くなった。俺の少し前を進んでいく。


「そうです…お化けなんていないんです。そんな非科学的なもの…」


なんか自分に言い聞かせている。


「俗に言うUMAなんかと同じようなもぉぉぉぉ!!?」


視界から三坂が消えた。と思ったら床に転がっていた。


「いたた…なぜか滑りました。足下に何か…っ!?」


尻餅をついたまま三坂が手にして拾い上げたそれは……バナナの皮。暗闇で分からなかったが、よく見るとバナナの皮が大量に落ちていた。これも罠か?罠だろうな。


「き、木下、残念な話があります。疑惑が今確信になりました。これは心霊現象です!」


「バナナで?」


「だっておかしいでしょ!夜の学校にたくさんのバナナが落ちてる原因が他に分かりません!」


俺も佐原が原因であることしか分かんねぇ。これ奴が主催の肝試しだし。


「こうまでして貶めてくるとはなかなかここのお化けはデキルようです。危険です」


決意に満ちた瞳を向けてきた。なんで?


「佐原さんと泉堂さんのためにも倒すしかありませんよこれは!」


「お前、頭は大丈夫か?」


転んで打ってないだろうな?


「デクの棒のあたなでも戦力的にいないよりはマシです。協力して奴を殺りましょう!」


なるほど…こいつはもう限界だったんだ。幽霊と戦うとか言ってる時点でまともじゃない。ちなみに幽霊はすでに死んでいる。


「落ち着けよ三坂。これは肝試しだ、遊びなんだよ」


「でもバナナが!」


どんだけバナナにこだわってんだよ。


「まぁ…そのバナナも全部佐原が仕掛けたやつだ。幽霊とかお化けとかそんなんじゃない」


そう、これは全て人為的で原因明快なことだ。だから怖がる必要なんてない。肝試しでこれを言ってたらおしまいだが。


「だからさ、なんて言うか、その…もっと気楽にやれよ、な?」


「そ、そうですね。不覚にも木下の言う通りです。ポジティブにならなければ奴の思うツボ!」


俺のコミュニケーションがおかしいのか……それとも今の三坂に何を言っても駄目なのか。会話が成り立ってそうでまったく成り立っていない。

若干、頭を抱えたくなった。噛み合わないやり取りをこれ以上してても無駄。さっさとゴールしてしまおう。もう一般棟の階段を上がって真っ直ぐ歩けば目的地の教室だ。


「もう行こうぜ。高瀬達もゴールしてるぞ、たぶん」


「奴を倒さない限り学校に平穏は訪れません」


どこから幽霊やらがいるという話になったんだ?そうか、バナナの皮の件だ。


ガタッ!


「ふぁっ!?」


突然近くにあった掲示板が独りでに落ちた。まぁ固定されていて独りでに落ちるわけがないんだからこれも仕掛けなんだが、うちの三坂さんはというと…。


「お、おのれ、お化けのくせに姿を見せないとは…隠れるなんて卑怯です!」


と、俺の背後に隠れてパニックを起こしていた。

幽霊なんだから目に見えなくて当たり前だろ!などと言える状況じゃない。つーか、幽霊なんてもんはいないし、いたとしてもこんな所には出ない。

元論理派だった三坂なら常識的に解っていてもいいと思うが、どうやら幽霊肯定派に移ってしまった三坂には常識的に物事を考えることが難しいようだ。

諦めて落ちた掲示板も無視する形で渡り廊下を通り抜けた。後ろから三坂が何か言っているみたいだが気にしない。気にしたらまた面倒になる。何事も必要だと感じること以外には手を出さないのが自分の平穏を守る最善の方法なんだよ。 俺的最善の方法を取って階段を上がる。三坂は1人になるのは嫌なのか一応黙って着いてきているようでなかなかいいペースだ。 懐中電灯の明かりで足下を確認しながら一段一段上っていく。そして一段階段が多いことに気付くが華麗にスルー。今乗った台を降りる。


「か、階段が増えて──あだっ!」


三坂が見事に転倒。台を踏み外したらしい。


「き、木下!階段が!」


「よく見ろ。台が置いてあるんだよ」


「お、おぉ…なるほど。こういうことでしたか」


「佐原も五つの怪談を知ってたんだ。校内で起きる怪談に即した仕掛けをしてるんだよ」


「さすが佐原さんですね。的確に人の心理を突いてきます」


「お前は突かれ過ぎなんだよ」


「やかましいです木下。それはそうと残念なお話があります」


「なんだ?」


「足に抗い難い痛みが…」


「は?」


未だに立とうとしない三坂は右足首を手で押さえていた。顔を歪め相当痛みがあるようだ。ここは俺の男気を見せるところかもしれない。


「おぶってやるよ」


「ふざけんなです。男子に身体を触られるなど蕁麻疹(じんましん)が出ます」


俺の男気玉砕。とことん男子を嫌ってんなこいつ。あまり毛嫌いしてるとこれから苦労するぞ。

怒るよりも呆れと心配が先行した。現代社会を生きていく上で同姓ばかりと関わってはいけないんだ。多少なりとも異性との関わりが絡んでくる。治せるなら男嫌いを治した方がいい、と俺は思う。

ともあれ置いていくわけにも行かずどうするか辺りを見回した。おっ、いいのがあるじゃないか。


「三坂、少し待ってろ」


廊下の端にあるロッカーの隣に置いてあったものをガララッと引いてくる。


「なんですかそれは?」


「見ての通り台車」


「それでどうするんです?」


「どうって…」



ガラララララ…。


「なるほど」


「何がなるほど?」


「つまりあたなはこう言いたいわけですね?私がお荷物であると」


「そんなことはないさ」


「ならなぜ私は今台車で運ばれているんですか!」


「こうした方が少ない労力で運べるからな」


軽快に廊下を進んでいく台車。ほんとに便利だ。三坂はやや不服のようだが、足を痛めた上に俺の勇気ある男気も拒否したんだから我慢してもらいたい。

女子に対して背負ってやろうかと口にするのがどれだけ度胸のいることか。表には出さないが俺はさっきかなり傷付きました。


「文句言わずに怪我人は大人しくしてろ」


「だったらさっさと運んでください。ですが、これはこれで楽でいいですね。男子をこき使っている感じがさらにグッドです」


「はいはい、そうかい…」


箱詰めにして本当に荷物として運んでやろうか。三坂くらい小さければ大きめの箱になら十分詰めておける。

長い廊下でひたすら台車を押していき、ついに最奥の教室、つまりゴールへと迫った。ようやく終わるのかと息を吐き、これで肝試し終了だと教室の入口に台車押した。


「ひぃっ!!」


「──っ!?」


三坂の小さな悲鳴。それもそうだろう。俺達は想像もしていなかった光景をそこに見たからだ。

窓際に立ち尽くしているお嬢様。そしてその目線の先に地に伏して倒れている高瀬の姿が。いったい、何が起きたんだ…。

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