第23話 学校のかいだん③
羽川
「読者の皆様、泉堂家に仕えております羽川と申しますぅ。この度はついにお気に入り件数が100を越えましたぁ。これも皆様の支えがあってのことですぅ。私、羽川としましてはさらなる件数を目指していきたいと考えているのですぅ。私達一同それなりに頑張っていきまーすぅ。ですのでぇ、もし件数が減ったりしたらぁ──分かってんなお前ら?」
木下
「脅しをかけるのは止めてください。冗談じゃなく減ります」
羽川
「ふふふ、大丈夫ですよぉ。例え減ったとしても作者の骨が一本ずつ折れていくだけですからぁ。そういえばぁ、人の骨って何本でしたっけ〜?」
木下
(………笑えない)
第一の難所であった生物室から出てから次々と教室に入っては札を手にしていった。
その枚数は現在五枚。はじめの生物室を含めて五つの教室を制覇したこととなる。
佐原は偉いもので各教室全てに罠を仕掛けていやがった。物理室では何かが机の下で爆発したり、被服室ではスーパーにあるような人形が大量に倒れて来たり、その隣の被服準備室ではぬいぐるみが飛んで来たりと、どんな仕組みで作動してんのかと疑問ばかりが増えていく。
挙げ句には何も罠が無いと安心していた調理室では札が蓋をされた鍋の中に隠されており、さらにその鍋がいくつもあるもんだから一つ一つ調べるという面倒を課せられてしまった。
それだけならまだよかったのだが、凝ったことに鍋の中にも仕掛けがあった。いくつもの鍋の内の三つほどを空けたところ顔にベトベトしたスライムが中から飛んできたのだ。ちなみに俺が1ヒットで三坂が2ヒットである。
お嬢様達が先にここを通っているはずだから罠を仕掛け直している奴がいるようだ。おそらくは佐原。そしてたぶん協力者がいるかもしれない。一人でここまで出来るとは思えないしな。確実にいるだろう。
それから三坂だ。教室内で何かの仕掛けが動くたびに大絶叫をいただかせてもらっている。すでに二十は越えただろうか。四つ目の被服準備室では完全に泣き出していた。
男子としてはその姿が可愛いと思ってしまったのは否定できないが、同時にもうやめたげてみたいな感じで可哀想に思えた。再度ギブアップを勧めたところ俺のメンタルがエンジンフルスロットルの毒舌にズタズタにされただけで続行を決める。俺の精神的ライフポイントは画面にしたら真っ赤になってことだろう。
そんなわけで俺達は目下この階最後の教室である音楽室へと向かっていた。音楽室は建物の構造上、今出てきた教室から少し歩かなければならない場所だ。
さすがに面倒だとは思わないが、別の要因で面倒だと思わざるをえないことになっている。今回の肝試しの相棒である三坂だ。
被服準備室を出た辺りから俺の制服の裾を両手でがっしりと掴んで引っ付いている。離してくれない。歩きにくいとしか言えないぞこれ。
はじめこそは「なんかすげぇ俺得だな。美少女にお近づきだ!これってリア充じゃないか!?」とか内心では思っていたさ。けど現実は優しくなかった。
こんな数十センチも離れてないところから、さっさと歩け鈍足野郎だのなんだの言われたら雰囲気も何もあったもんじゃない。リア充ってのはこんなにも心を引き裂かれるものかな。俺のリア充に対する知識が甘かったのか?と思わずにはいられなくなった。これだったらお嬢様が願うまでもなくリア充爆発するかもしれない。
音楽室の前まで来ると三坂がぴたっと足を止めた。それもそのはず。中からいくつものカチッ、カチッ、カチッ、という謎の音が聴こえてきたからだ。
三坂の手が強ばり力が入っていく。それと平行して俺の制服が俺自身を締め付けてくる。苦しいんだが。
「な、なななんか、き、聴こえます!」
声が震えている三坂に構うことなく教室の扉に手を掛ける。正体が不明で怖さが増すならその正体を確めてしまえばいいんだ。
「あっ!ち、ちょっとまだ心の準備が…っ」
開けてしまった後でそんなことを言われてもな。もう遅い。
鳴り響く音はより鮮明なものとなった。静まり返る教室内でただその音だけが無数に鳴っている。これはなかなか不気味だ。学園モノのホラー映画でもこの演出は推奨できる、とまでは思わないが。
何が音源となっているのか、懐中電灯を点けて中を照らす。そしたらなんということだろうか。無数のメトロノームがそこら中で針を揺らしていた。
確かにメトロノームは音楽室には常備されている備品で音楽のテンポを合わせる時などによく使われるものだ。決して今回のように恐怖を煽るための道具じゃない。佐原め、これがバレたらまた生活指導室送りになるぞ。あっ…その時は俺達も同罪ってわけか。しょうもないほど理不尽だな。 何はともあれ札を探さなければならない。メトロノームの音をBGMに捜索へと移る。と、思ったのだが制服をひかれる。三坂がいたのを忘れていた。
「いくぞ?」
「で、でも音がなんか…なんかぁ…」
まだメトロノームの音に怯えていた。俺より心に余裕があったんじゃないのかよ。
「そ…そうです!」
何かを思い付いたようで三坂は俺を指差す。
「私は外で待ってますのであなたが一人で札を見つけてきてください。これは…そう、修行です!」
「修行って言われてもな」
たかが肝試しだから。
「あれ!?男子というのは修行と言えば何でもやるバカな生き物のはずじゃ…!」
「どんだけ男子をバカにしてんだよ」
いくら男子でも修行とほざいて何でもするのは中学までだ。主に中二病患者が修行を好む。
「まぁ怖いならここで待っててもらっても構わないけど」
「こ…こわっ!?怖くなんかありません!体力の消費を抑えたかっただけです。いいでしょう、私も行きますから…」
ようやく教室内へと入ってきた。俺は気付かれない程度に溜め息をついては再び辺りを懐中電灯で照らした。
数々のメトロノームは生徒用の机一つ一つに置かれ、統一性が微塵もなく針をを揺らしている。他にも奥の合唱用の壇や周りのロッカーにも置かれていた。
こんなにこの学校にあったのだろうか?音楽室なんて授業が無ければ入ることもないし、授業中でさえ詳しく観察しようとは思わない。だいたい寝てる。
俺のしか無かった明かりがもう一つ増えた。三坂の懐中電灯だ。
「木下はこんな話を知ってますか?」
いきなり三坂は話を切り出した。
「この学校には五つの怪談があるそうです」
「初耳だな」
とりわけ噂好きの女子の間で流行ってんだろ。
「一つは、誰もいないはずの体育館でボールをつく音がするというものです」
「天井に挟まっていたボールが落ちたんだな」
「二つ目は、十二段であるはずの階段が十三段になっているとか」
「階段の上に台座かなんかがあったんだろ」
「三つ目は校庭に生える無数の手!」
「霧で見間違えたんだよ」
「あなたはことごとく否定していきますね」
「非理論的なことは信じないんでね。お前だったら怪奇現象の原因くらい掴めるだろ」
「も、もちろんです。お化けが怖くて学年トップは務まりません!」
「いや、そういうわけじゃなくて……やっぱ霊とか信じてんのか」
鋭い視線で睨まれたからもう言わないことにした。
「と、とにかく、その怪談の四つ目がこの音楽室にあるんです」
「へぇ…それって?」
「壁に飾られている偉人音楽家達の肖像画の目が不気味に光るんでふおぅう!!?光ったァァァァァ!!!」
例の肖像画に自分で懐中電灯を当てて勝手に叫んでいた。すかさず俺の背後に隠れる。さすが三坂さん、男子は壁らしい。マジでぱねぇっす。
先ほど三坂が照らした辺りに懐中電灯を向ける。確かに目が光っていた。瞳の部分が明かりに合わせてギラギラと。
肖像画に近づいて瞳へと手を伸ばして取る。それを三坂にも見えるよう目の前に持っていく。
「ほら三坂、光る瞳の正体はこれだ」
「………画鋲…ですね」
「学校の怪談なんてのはこんなもんだ。誰かの悪戯や勘違いが噂になってできるんだよ」
そして今回こんなことしてんのは佐原である。三坂が怪談を知ってての所業だろう。あーあー、穴なんか空けて、もう怒られてしまえ。
「こういう仕掛けだってわかってましたし!」
強がる三坂。あっそう、とだけ言って札を探しに入る。カチッカチッと音が響いている中で辺りを照らした。三坂は後を着いてくるだけでおそらく探してはいないだろう。それならそれで構わないんですがね…。
札を見つけたのはそれから五分も経たない頃。メトロノームが置かれていない席が端っこに一つだけあり、その上にポツンと置いてあった。