第17話.勉強しやがれお嬢様①
やっと五月を抜け出して夏に到りましたよこの物語!実際じゃ夏が終わろうとしてるのに…。
一学期も終わろうとする暑いこの頃。俺達学生は夏休み前の試練を受けることになる。楽あれば苦もあると言うようにその試練は避けては通れないものだ。その試練の名は、定期試験と言う。
重々しく言ってはみたが、とりあえずは一学期の学習の集大成だ。明後日のこの試験の結果によっては夏休み最初のテンションが全然違う。快適な夏休みを手にするためにはそれなりの結果を残す必要があると言える。でなければ補習という拷問を受けなければならない。
それを回避……ではなく、平均並みには学力を保つために俺も今現在勉強をしているというわけだ。
数学の問題を睨みつつ式と数字をノートに書き込んでいく。ん…?あれ?なんでまた同じ式に戻ってんだこれ?
なんだよ、意味わかんねえよ。これだから数学は嫌いなんだよ。
世の中には数学は正解がただひとつある美しい学問だとか言う輩がいるが、そのたったひとつのゴールに辿り着けない俺のような迷える子羊はどうしろと?
整った道が皆にとって美しいなんて思うな。ちったぁ逃げ道を作っても誰も文句言わねえよ。特に生粋の文系には泣いて喜ばれるぞ。
数学を止めて暗記系の学習に切り替えようか、そんなことを考えていると部屋の扉がノックされた。
「どうぞ」と言って入室を許可する。誰か知らないが話が終わったら世界史をやろうと決めた。
「失礼しますぅ、真貴君」
メイド姿の可愛らしいアラサー。この人かい。
「今露骨に嫌な顔をしませんでしたかぁ?」
「まさか。羽川さんに対してそんなことあるわけないですよ」
シャーペンを動かしながら応対する。失礼かもしれないがもうすぐテストだ。できるだけ知識を頭に叩き込むこと、それが最優先。決して俺はできる方じゃないんだよ。やらないならやらなかったで点数が下がっていっちまう。
「今はお暇ですかぁ?」
「今は学生の本分をまっとう中です」
「ならグッドなタイミングですぅ。実は困っていることがありましてぇ」
そう言って近寄って来た。なんですかその見上げてすがるような仕草は?あんたがそういう態度を取る時はだいたい嫌な予感しかしないんですが。
ちょっ、手を握ろうとするのはやめてくださいよ。そうやって男心をくすぐろうったってそうはいかない。今はテストのことで頭が占められてるんです。
「お願いを聞いていただけませんかぁ?」
「テストが近いんでそれが終わったら聞きます」
「それでは手遅れなので今お願いしたいのですよぉ」
それからお願いとやらの話を聞いた。なんでもお嬢様のテスト勉強を見てほしいとのこと。どうもお嬢様は勉強に対する志が低いらしい。
まぁ分かってはいたんだけどさ。いつかこうなる日が来ることが。日頃の授業では睡眠学習を実践しているんだ。教室じゃ後ろに彼女が座っているんだからすぐに気付く。あ、寝てる、みたいな感じで。
その睡眠学習の成果が出るかと言えば出ないだろう。出るなら俺だって実践するよ。誰か成功した奴がいたら連絡してほしい。なるべく早くな。
「というわけでしてぇ、お願いしたいのですよぉ。お嬢様の勉強を見てください、いえ、勉強をさせてくださいなぁ」
「気持ちは分かりますけど、勉強ってのは日頃の積み重ねなんですよ。急にやったからってどうかなるわけじゃ…」
俺自身に自分の言葉がグサグサと刺さる。どの口が言ってんだい?とさ。
「別に得点を望んでいるわけじゃないのですよぉ。少しでも勉学に対する姿勢が身に付けば……。とにかくうちのお嬢様はお馬鹿さんなのでぇ」
「まぁそれは否定しませんけどね」
「それに真貴君も勉強を教えることによってぇ真貴君自身の力にもなると思うのですよねぇ」
教師とかがよく使う言葉を用いてきた。それが効果的なのは小学生までですよ羽川さん。人はいつか気付くんです。助けるのではなく蹴落とすことも必要だと言うことにね。
別にお嬢様を蹴落としても俺に得はない。だが、なんでもかんでも手助けしてそれがお嬢様のためになるとは思わん。よって今回は断ることにする。
いや、別にめんどくさいとかじゃねえのよ?一人でどうにかできる力を身に付けるための厳しさだ。つまりは友人としての愛。
世の中で一番大切なのは愛です!
「ああ、そうそう。真貴君の御時間を削っちゃうことになりますからぁ、私から個人的に給料を上げちゃいますねぇ。家庭教師のアルバイトだと思ってお願いしますぅ」
失礼…訂正しよう。
「やりましょう!」
世の中で一番大切なのは金です!これこそ世の正解。お嬢様の勉強を手伝うことになった。
お嬢様の部屋の扉の前まで来た。毎朝お嬢様を起こしに来てるとは言え、ここに来る度に面倒だと思ってしまう。何故なら面倒事以外でここに用があった覚えが無いからだ。今更ながら金銭に釣られた自分が恨めしい。
しかし引き受けてしまったからにはやるしかない。
いきなり扉を開けるのもアレなため一応ノックしてみる。
「お嬢様、木下です」
「………」
返事が帰ってこない。もう一度ノックしてみる。それでも返事は帰ってこない。
はて?羽川さんの話ではお嬢様は勉強をしている最中のはずだが。イヤホンでもして勉強しているのだろうか?
了承を得ずに開けてもいいものだろうか。仮にも女の子の部屋だしな。むやみに開けて着替え中とかだったらヤバい。ここは紳士的に返事が来るまで待ってみるか───とでも言うと思うたか!
ハプニングとか上等!着替えが見れるなら見れるで信用失墜とかなんでもない。それが男の性。正直に生きるということ。
さあ!カモン着替え!
「だあぁぁぁぁ!!」
おもいっきり扉を開く。
そこにあったのは綺麗に装飾された広い部屋。以前俺がひっくり返したベッド。ソファーに薄型テレビ。一人で使うにはもったいないほどの立派な机。その机の上にあるのは開いただけの教科書とノート。そこらに散らばる漫画ども。そして床に落ちてるお嬢様。
目を閉じ規則正しい呼吸をしている。どうやら寝ているようだ。
なんだよがっかりだよ。こういうのってサービスシーン有りきじゃないのか?
愚痴りそうになりながらも冷静になる。とりあえずお嬢様を起こして勉強をさせなければならない。俺もしなきゃなんないのになぁ。
「すぅー…すぅー…」
近づいて寝息を立てるお嬢様の体を揺すろうと手を伸ばして一旦止める。そしてこう思う。
この寝顔を写メしたい。学園一の美少女の寝顔。なかなかの儲けになるのでは?………いやいや、やめておこう。以前のトランプゲームの時に反省したろうが。邪な想いを抱いて何かするとろくなことにならない。
おい、お前は学習能力0の高瀬か?違うだろ。お前は紳士的な木下真貴だ。
「お嬢様、そろそろ起きてください」
「んん…」
少し肩を揺らしてみるとすぐに身動ぎし目を擦った。深い眠りじゃなかったらしい。かなり助かる。毎朝のような起こし方はしたくないしな。
「んぁ…?う、うーん…真貴ぃ?ふぁ〜…珍しいわね、この時間に部屋に来るなんて──って、なに勝手に入ってきてんだバカ!?」
漫画を投げつけてきた。それらを軽く払い落としてから自分が持ってきた教科書や筆記用具を見せる。
お嬢様は察したらしく、面倒だと言わんばかりに右手で後頭部を掻いた。寝癖で跳ねた髪がゆらゆら揺れている。
「羽川さんから頼まれましてね」
「たくっ、羽川も余計なことを…」
悪態をつくお嬢様。それを横目に見ながらお嬢様の机に自分の荷物を置く。そしてそこに広がっている勉強道具達を眺める。
「ひょっとしてお嬢様はアレですか?ノートを開いて満足するタイプですか?」
「こ、これでも勉強はちゃんとやってたのよ?」
「ちゃんと…?」
漫画が散らかる周りを見てため息を吐いてやった。
「な、なによ…そりゃ休憩で漫画読んでたけど…」
「その休憩とやらはどれくらいとってたんですか?」
「十分…よ!……のつもりだったの初めは。それが二十分、三十分、一時間って感じで……どんどんどんどん、みたいな?」
いわゆる『あと五分現象』が起きたらしい。普段からあまり勉強をしない奴に発現する病的現象。これはなかなか治らないから厄介なのだ。
「じゃあもう充分休みましたね。俺もここで勉強するんでお嬢様もやってください」
「えぇー…」
「えぇー、じゃないですよ。ほら、さっさと椅子に座って」
「今日はもういいでしょ?明日から頑張るわ」
「一日でどうにかできるほど能力があんのか貴様」
もう敬語とかいらない気がした。
「わかったわかった」と言ってお嬢様は渋々ながら椅子へと座りシャーペンを手にした。
俺も広い机の端、お嬢様から見て左斜めの場所にスペースを作り椅子を引いて座る。ノートと問題集を広げて問題に取りかかった。
◇作者とKの語り◇
作
「いや〜やっとこさ月日を進められましたな」
K
「連載してからずっと五月だったからね」
作
「そうそう。このままだと作者の頭の中は永遠に五月かってことになるところだったよ」
K
「うん、まぁ進んだのはいいだけどさ…六月は?」
作
「はい?」
K
「いやだってこの章の冒頭でなんか夏休みがあと少しみたいな感じじゃん?」
作
「うん」
K
「なんで五月の次が夏休み間近の七月?六月はどこいったよ?」
作
「それは…細かいことだしさ。別にマジな小説なわけじゃなくて自己満足による創造物なんだし、いいじゃん」
K
「細かくないよ、月単位ってかなり細かくないよ」
作
「いいんだって。だってなんていうか一応季節に乗りたいじゃん。気がつけばもう8月31日だよ。夏が終わるよ!」
K
「それは作者がぐだぐだしてたから…」
作
「こっちだって忙しいんだよ!そんなひょいひょいひょいひょいネタが浮かぶと思うなよ!」
K
「ていうか、季節に乗りたいとか言ってるけど、その割に季節感が皆無じゃん。なんでテスト?」
作
「自分の高校生時代の夏を思い出した結果、まずはじめにぶち当たった問題が夏休み前の定期試験だったんですなこれが」
K
「作者ってそれなりにテストできてなかった?」
作
「なんかみんなそう言うんだよね。ほんとみんなあの時の私の何を見てたの!?幻ですか!?理系とか壊滅的だったじゃん!!」
K
「そうだっけ?」
作
「うわっ、私の当時の印象が薄かったことが今立証されたよ!数学とか安定の低空飛行だったのに」
K
「まぁそう落ち込まないでよ。たかが高一2回目の数学1◯点だっただけのことよ」
作
「覚えてんじゃねえかぁ!!」
K
「さあ、それはさておきまして」
作
「私のバカさ加減が披露されてそれを置いとくと?」
K
「前々からきになってたんだけど、この小説の名前の『黙りやがってくださいお嬢様』ってやつ。なんかお嬢様そこまでうるさくはないよね?」
作
「構想当初はかなりウザい感じで行こうと考えてました!」
K
「企画倒れか…」
作
「柔軟な対応と言ってほしいね。構想が途中から違って来るなんてよくあることじゃん。某少年漫画雑誌でもよくあることじゃん」
K
「否定はしないけど…。小説の名前は変えない?」
作
「変えないよ今更。どーせ金を取るわけじゃないんだから自由に書かせてよ」
K
「そう言ってる奴ほど作品を消されるんだよ?」
作
「消されたらまた新しいのを書けばいいよ。次はパクり八割くらいで…」
K
「いや、ダメだろ」
作
「今現在世に出てる八割以上の作品が過去のパクりだと私は思う!」
K
「全作品と著者に謝れ」
こんな感じの会話を夜中通してしてました!