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第14話.勘弁してくれお嬢様②

お気に入り登録が50を越えました。私としては嬉しい限りです!

それなのに投稿が不定期となってしまっているのが申し訳無いですm(__)m



トランプで俺達の社会的命運を賭けた男女対抗勝負をすることになった俺達。石を飲み込む思いで受けて立とうと身構えていると、佐原がふと「やっぱゲームはフェアじゃないとね」とかほざいて部屋を出ていった。誰かを連れて来て審判を頼むようだ。

フェアも何も、男子が一方的に勝負せざるをえない状況であるこの場で今さら公平さを求めるか。そもそも審判必要か?という意見もある。

やはりこの勝負、女子も負けたら何かをするべきだ。そう言ったところで承諾を得られず筈もないんだろうが。

とにかく佐原が連れて来る人に協力を仰ぐしかない。なるべく俺が有利になるようにな。高瀬?奴は星にでもなればいい。

話が解る人を連れてきてくれればいいんだがな。例えばメイドの松本さんとか、執事の矢野さんとか。

間違っても俺を冥土に送らんとするメイドには来てほしくない。例えば…いや、やめておこう。

どう審判を丸め込めるか考えを巡らしているとドアが開き佐原が入ってきた。


「そこら辺に居た人を連れてきたよ!」


「審判を務めさせていただきます羽川と申しますぅ」


礼儀正しい立ち姿の童顔準三十路メイドが軽く会釈して入ってきた。

俺終了のお知らせ。

無理だ。この人をどうこうできる技術を俺は持ち得ていない。


「ゲームのジャッジは私の独断及び偏見によって行いますぅ」


なんで男子の方ばかり見てにこにこしてる。

もうフェアじゃない。

この人がお嬢様有する女子陣に肩入れしない訳がないだろ。佐原はフェアという単語をよく知るべきだ。なんなら辞書を貸してやろうか。

辞書はどこだったかなと机の辺りを見ていると誰かが肩を突っついてきた。漫画や小説ならこれは女子の行為である率が高いのだが、残念ながら高瀬である。

耳打ちしてきた。


「なあなあ、あのメイドの子すげぇ可愛いじゃん。僕らより年下?」


なにやら羽川さんに対してときめいているようだ。

初見の奴は彼女が俺達と同年代か年下の少女であると勘違いしてしまうのだろうが、彼女はれっきとした年上なのであり、十年以上人生の先輩だ。


「それなりの覚悟があるなら口説いてみればいいんじゃないか?」


「なんの覚悟さ?」


「真実を知る覚悟とでも言っておこうか」


羽川さんの本当の年齢を知ったら発狂くらいはするかもしれない。歳と容姿が合わないのは二次元のみの特権だからだ。

実際にそんなの居たら妖怪である。


「真貴君?何か失礼なことを考えていませんかぁ?」


「いえ…」


読心術スキルは卑怯だと思う。思わず首筋がヒヤリとした。これでは羽川さん相手におかしなことは考えられないじゃないか。

だが、本当はたまたまなのかもしれないし、勘の良さなのかもしれない。

今度目の前で彼女の水着姿を想像してやろう。読心術を身に付けているのか検証する必要があるからな。

決して、羽川さんが水着を着たらどんなのが似合うかな?とかいう俺の個人的趣向ではなく…!

俺が誰にともなく心の内で言い訳しているとトランプを切り終えた佐原がそれを中央に置く。


「さあ、勝負は三回戦。先に二勝した方の勝ちね。一回戦目は、そだね…インディアンポーカーにしようかな。みんなやり方は知ってるよね?」


全員が頷く。

インディアンポーカー。

『遊び方』

①全員がトランプを一枚ずつ引き、自分は絵柄見ないで他の人に見えるよう額の所へ持っていく。

②周りの絵柄と反応を見て自分のカードの強さを予想する。

③予想したらそのカードで勝負に出るか降りるかを判断する。

④勝負して一番大きかったら勝ち。その他は負け。


一通りルールの確認を終えてから羽川さんが一つ咳払いをする。


「こほん。それではポイント制として勝負に勝てば2点、勝負に負けたら−1点としぃ、先に5点先取した方の勝利としますぅ。ちなみに女の子が女の子に男の子が男の子に負けてもマイナスになりませ〜ん。いいですねぇ?」


全員が頷く。


「あっ、あと誰かに有利になるような発言は控えていただきますぅ。ゲームが白けてしまいますのでぇ」


おお、少し見直したぜ羽川さん。まともなルールを設定するとは、なんてあんたらしくない配慮だ。

こうした心理的探り合いをするゲームにおいてチームプレーを危惧していたが、これで女子陣の連携を防ぐことができる。

女子ってのは身内に甘いからな。すぐに仲間意識で手助けをしようとするから質が悪いのだ。それが男女対抗ならなおさらな。


「はい、それでは一人一枚ずつ引いてくださいなぁ」


佐原から順々にカード引いていく。全員が引き終わったところで審判が「それでは額の辺りで提示してください」と指示した。


高瀬→8

佐原→6

泉堂→J

三坂→1


こんな感じになった。

これで勝負した場合、高瀬と佐原は微妙だが、お嬢様に勝てる可能性がかなり低い。そして三坂はもうほっとけばいい。

その三坂がこっちを見て不敵な笑みを浮かべた。


「ふふ、木下は天に見放されたようですね。カードに人の程度が見て取れます」


「そうかもな」


とても嬉しそうなところ悪いが、その理論だとお前も相当だぞ?

決めた。こいつを信じよう。そして自滅させよう。

三坂をどうやって勝負に出させるか思索していると佐原が非常に良い笑顔を向けてきた。


「いやいや、そんなことはないよ。木下君も勝負できるって!」


そうか…。その眩しい笑顔で惑わして俺を陥れようって腹か。

悪いな。俺はもう三坂を信じることに決めたんだ。確実に俺のカードは弱い。この勝負は降りる。そしてどうにかしてお嬢様にも降りてもらい、高瀬を勝負に出す。


「そういう佐原もなかなかじゃないか。俺全然勝てる気がしないぜ。まあ、お嬢様には負ける気がしませんけど」


「えっ!?私そんなに弱い!?佐原さん!」


お嬢様は助けを乞うように佐原へ聞いた。


「大丈…!」


「お嬢様、自分から聞くのはルール違反ですぅ。この勝負は失格でーす」


「「「ええっ!?」」」


あまりの厳しさに女子陣が驚きの声を上げた。

なるほど、どうやら羽川さんは本当に公平なジャッジをするようだ。お嬢様寄りになるかと思ってたが、杞憂だった。


「厳しすぎよ!」


「佐原さんから正真正銘の真剣勝負といわれましたのでぇ〜、お嬢様とて手を抜くつもりはありません♪」


「私はお前の主よ!」


「こんな時だけ主風(あるじかぜ)吹かせるのやめてくださいねぇ」


「主風って…ぐぅっ…」


ぐうの音を出しながらお嬢様は引き下がる。

この自滅によりこの勝負は見えてきた。高瀬が勝負に出て勝ち。男子の方が一歩リードする形となる。

ひとまず女子側のマイナスを増やすために三坂には自滅していただきたいところなんだが…。

目配せをすると高瀬の奴も恐らく同じことを考えている様子。互いに頷く。


「小鳥ちゃん」


「なんです?ウザ男」


毒づかれながらも高瀬が三坂へと仕掛けた。


「僕なんとなくだけどさぁ、小鳥ちゃんはもう降りてくんないかなぁ?」


「はぁ?」


さも不愉快だと言いたげにジト目を向ける三坂。


「だって小鳥ちゃんはアレじゃん」


「アレとは?」


「いや、だから小鳥ちゃんはアレなんだよ」


「ですからアレってなんですか!?はっきり言いなさいこの語彙力底辺野郎!」


もう三坂さん毒舌が絶好調だ。


「毎度ながら心を串刺しにしてくるな。だから小鳥ちゃんは……」


「私は、何です?」


「アレなんだ」


「もう聞きません!勝負です!絶対に叩きのめして見下して罵倒の雨をくれてやります!」


「小鳥ちゃん少し落ち着こうよ。ね?」


「いえ、大丈夫です佐原さん!私のカードに任せてください!」


確認するが、三坂のカードは『1』である。

こうした心理戦は三坂にとって難があるみたいだ。メモしておこう。

『三坂はカモ』っと。


「これはヤバい…高瀬!あんたはそれ(そのカード)で勝てると思ってんの?中途半端すぎてすんごいウケるんだけど」


「はっ、甘いね、佐原。そんな揺さぶりは無駄だよ。なぜなら…」


高瀬はクールに笑って見せた。


「僕は全ての勝負に出るからね!運が良ければ全部勝てる!」


メモしておこう。

『高瀬はアホ』っと。

心理戦も何もあったもんじゃねえよ。


「それではみなさんそろそろよろしいでしょうかぁ?お嬢様?寝そべって漫画を読んでないでこっちに集中してくださいなぁ」


「だ、だって、すぐハブられて暇だったんだもん」


「そのような考え方をするからお嬢様はダメ嬢なんですぅ。空気なんですぅ。インジビブルなんですぅ」


「ちょっ、なんでそういうこと言うのよ!?」


三坂ばりの毒舌を受けてすごすごと輪に加わった。

あまり傷を負わせるのはマズイですよ羽川さん。お嬢様の精神的ライフポイントはほぼ無いに等しいんですから。


「では、みなさん。勝負に出ますか?降りますか?」


「出る」←高瀬

「いざ勝負!」←佐原

「出ます!」←三坂

「降りる」←俺


俺以外は全員出した。

いや、まあマイナスにはならないが、ゲームの風味を出すために降りたのだよ?決して高瀬ごときに負けるのも(しゃく)だなんて思っていない。

ただイラッとくることを避けてるだけなんだ。ほら、俺って平和主義だからいがみ合うの嫌いなんだよ。


「自分のカードを手前に出してください。せーのぉ」


羽川さんの合図で三人がカードを出した。

そして…。


「うわぁあぁぁぁん!!!!」


まずは三坂が叫びながら顔を真っ赤にして伏せた。

あれだけ自信ありげに言いたいこと言いながら『1』であったことが恥ずかしいのだろう。確か人の程度がどうのこうのとかも言ってたなぁ…。


「チィッ!こんなのに負けんなんて…」


次に佐原が舌打ちをして毒づく。


「イエーィ!男をナメんじゃないよ女子共がぁ!」


高瀬が調子に乗って踊り出す。


「………」


そして、除外されていたお嬢様は自分のカードを見て固まっていた。

誰よりも強いカードを持っていたから気持ちは分からんでもない。


「これでぇ〜、みなさんの点数はお嬢様0点、真貴君0点、高瀬君2点、佐原さん−1点、三坂さん−1点でぇ〜す♪」


端から見れば、女の子達が叫び、毒づき、後悔し、男子が一名踊っているという妙な光景が広がっていた。それを羽川さんは、うふふ、と微笑みながらそれぞれの反応を楽しんでいる。

ホントに楽しそうだ。


「このまま勝ち続けてデジカメを返してもらうよ」


「そう続けて勝てると思ってんの?」


佐原と高瀬が何か言い合っている。

忘れかけていたが俺達は返してもらわなきゃならない物があるのだ。俺としてはあまり余計な挑発をしてほしくないわけだが。


「思うさ。僕は勝利を約束された男だからね」


「大層な自信じゃん」


「自信しかないね」


「じゃあ…ふへへへ…」


高瀬は気づいていないようだが佐原が不敵な笑みを浮かべていた。

なんだ?嫌な予感がする。


多少の間が空いた後すぐ二回目のゲームが始まった。全員がカードを引く。緊張の一瞬だ。

ここからはまた息も詰まる心理戦。相手の言動に惑わされず、かつ相手を言葉で陥れる。インディアンポーカー。やり方は簡単だが奥が深いぜ。

しかし、落ち着けばそうそう負けはしない。上手いことして俺か高瀬が勝てばいいのだ。すでに高瀬が2点を得ている時点でかなりのアドバンテージ。エンディングはすでに見えた!

だが焦るな、落ち着こう。まずは他の奴のカードを見て思考を巡らす。

落ちつけ。考えを乱すな。心を小川の流れの如く研ぎ澄ませば男子の勝ちが見えるはずだ。

心を整えろ…。


「あっ、そうそう。提案があるんだけどね」


佐原が手を挙げて言う。


「このゲーム、私達女子が五点先取したら男子はバツゲームね」


「「「「!!?」」」」


なに!?それはあまりにもあまりにじゃないか。


「おいおい、ふざけるなよ佐原!それはさすがに俺も黙ってないぞ!」


「これ以上僕達を苦しめてどうしようってんだ!」


「黙りなさい虫けらども!佐原さんのお言葉を否定するなんて甚だしいにもほどがあります!」


三坂よ、お前にとって佐原はなんなんだ?神か?狂信的すぎる。


「ううん、さすがに男子だけじゃフェアじゃないよ。もし私が毎勝負で負ける度に…」


「「度に…?」


「一枚ずつ服を脱ぎます!」


「「受けて立とう!」」


男二名のやる気が100ポイント上がった!

ふむ、雑誌とかに載るとしたら表紙にはきっと『あの金髪美少女委員長佐原が脱ぐ!?』といった感じじゃなかろうか。男子諸君が大興奮だ。


「だ、ダメです佐原さん!?このっ、猿どもが盛ってるじゃねえですよ!変態どもがぁ!ホント死んでください!」


「うるさいぞ小鳥ちゃん!僕らは男としての本能に正直に従ったまで。本能だから逆らえば男は男として死ぬんだ!」


「これだから男は視界に留めとくのも煩わしいのですよ!」


三坂による罵詈雑言を浴びせられるが俺達は気に止めない。これは佐原自ら提案してきたこと。そして男には決して退けない時というものがあるんだ。正に今、この時!

自分のテンションの高揚を実感していると服の袖を引かれた。そこへ目をやるとお嬢様が頬を紅く染めていた。なにこれ?可愛い。

そう思っていると小声で耳打ちしてきた。


「こ、こういうのはいくらなんでも駄目だと思うわ。すぐにやめさせなさいよ」


初だな、お嬢様は。


「大丈夫ですよ、お嬢様」


「な、なにが…」


お嬢様に視線で高瀬の方へ向くよう言うと、高瀬と俺達の目が合った。高瀬はキザったらしく笑うと肩をすくめてみせる。


「ほら、俺や高瀬は本気じゃないんですよ。佐原だっていざとなったら恥ずかしがって絶対うやむやにしますから」


羽川さんだってそれが解ってるから何も言わないのだろうしな。


「そ、そうなの?」


「そうなんです」


うやむやになってる隙にこっちは文句を言って没収された宝を救い出す方向へ持ってくけど。

戸惑いつつも納得したのかお嬢様は元の場所へ戻って行った。まったく、お嬢様は集団でのジョークというやつを知らなくて困る。まあ、そのうち覚えていけば変な気を張らずに済むだろう。


まだ騒がしいが羽川さんが着々と進め。


「はい、カードを額の位置へ置いてくださいなぁ」


またしてもここでは様々な心理戦が繰り広げられたが再び男子が勝ったんだ。

さあ、佐原が嫌がってうやむやになってるところを突いて取り返そうか。戻っておいて宝物達。

と、思いきや、何を思ったのか佐原さん。立ち上がって何も言わずに笑みを浮かべるとブレザーのボタンを外し出した。

え?あれ?おい、ちょっと待てよ。こっちが何か言う暇も与えてくれなかった。全てのボタンを外し終えるとブレザーを勢いよく脱ぎ捨てた。


「さ、佐原さん!?」


お嬢様と三坂が何か言わんとするのも制した。


「女が一度した覚悟。それを折り曲げることは私はしないよ。まずは、一枚」


呆然とする俺達を見ながらそう言った。その顔には笑みを張り付けたままだが、目が笑ってない。


「いや、マジでだなんて、少し僕も驚いたな」


そんな高瀬の苦笑い混じりの呟きに佐原は「はは…っ」と口元を笑って見せた。


「私は面白さのためならどんな犠牲もいとわない」


楽しんでやがる。脱ぐことに一切のためらいを見せねえ。なんて女だ、佐原ってやつは。嬉しいはずなのに戦慄を覚えてしまう。


「ここまでするんだから、二人もゲームに負けた時の覚悟をしておいてね。もうしておいた方がいいかな?ここからは、ずっと私のターンだよ!」


それからの佐原は異常に強かった。

こちらはある種の期待に思考が上手く働かないという危機。その中で彼女圧倒的な運と言葉によって勝利を勝ち取り続け、そしてついには五点先取するに至るのだった。


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