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第13話 勘弁してくれお嬢様①

佐原さんの本性が滲み出てきます!

作者的にはこういう子も有りだと思いました!

(つ´∀`)つ

「はぁ…」


教室の開け放たれた窓から思いっきり溜め息をつく。

昨日のことがあまりにも鮮明に脳に焼き付きまったく離れない。


「やあ、木下。元気が無いじゃないか」


高瀬が声を掛けてきた。

こいつも昨日はなかなか酷い目に合っていた。若干いつもよりお調子ぶりが抑え気味ではあるが。


「昨日のことがあれば誰でもこうなると思うぞ?」


「まぁ、あれはね…」


昨日のこと。

俺の部屋の前で三坂と遭遇し、そこで佐原と高瀬に主従関係を勝手に暴露したことがお嬢様にバレてしまった。その後、怒りを露にしたお嬢様に胸ぐらを掴まれ、首部分の脊髄がおかしくなるんじゃないかと思えるほど揺さぶられた。首が絞まり息もできなかった。

余程この関係を知られるのが嫌だったらしい。いや、でもいずれ佐原辺りにバレていたんじゃないかと気がしないでもない。

とりあえず、それは置いといてだ。その後にも、今後は無闇にペラペラ喋らないことを胸に誓うことになる決定的な出来事があった。


──そのことを少し詳しく回想してみよう。



「し、死ぬかと思った」


ようやく解放された俺は酸素の足りない身体をベッドに投げ出して新鮮な空気を取り込んでいた。

くそっ、俺も行動が軽率だったかもしれないが、何も首が絞まるほどやらなくてもいいじゃないか。


「今度勝手したら許さないから」


俺だってこれ以上広める気はない。身近な奴だけ知っていればいいんだ。


「まあまあ、姫ちゃん。そう怒らずにさぁ…おっとこれは…?」


「おい、佐原。人のベッドの下に潜って何をしてやがる」


「そりゃあ男子の部屋に入ってまずやることと言ったらガサ入れっしょ」


「残念ながらお前が御所望の物の類いは無いぞ。諦めるんだな」


「御所望の物って何だろうねぇ、ふっふっふ」


甘い、甘いぞ佐原よ。この俺が他人に見られてまずいものをそんな所に隠すわけがない。もっと賢しい隠し方をしているんだよ。

例えば、木を隠すには森の中といった感じにな。

あと、佐原。お前はもう少し自分の姿というものに気を遣うべきだ。

寝ながらでも分かるが、今お前はベッドに頭を潜らせて尻を無防備にしすぎている。それをあの高瀬がほっとくだろうか、いや、ほっとかない。

ここぞとばかりに態勢を低くしてデジタルカメラを構えようとしている。それも他の奴には見えない死角をついてだ。上手すぎる。アングル的にもバッチリだろう。

さあ、やれ。男子の希望は布の下に隠れている秘境にあるんだ。


「ぐへっ!」


高瀬の頭がお嬢様に踏み潰された。


「そういうのなら本棚の下から二段目にブックカバーで偽装してあるわ」


「ナイス姫ちゃん♪」


「ちょっ、おまっ、いや、お嬢様!なんで知ってるんですか!?」


「この家で私に隠し事ができると思ってんの?」


薄笑いが妙に様になっている。ちくしょう、なんて恐ろしい奴だ。明日からどう接すればいいのかがわからねえ。

いや、それより今は佐原を止めなければならない。なんでこいつ家捜しでこんなにイキイキしてんだよ。将来は空き巣にでもなればいいんじゃねえの?

身体を起こすがすでに佐原は本棚へと近づいてしまった。

クラスメイトの女子に秘蔵のアレを見られるとか洒落にならん。俺は叫んだ。


「待て佐原!それを見られたら明日から俺はどうお前とも接すればいいんだ!」


「気にしなくていいよ。ただ私が心の中でささやかに蔑むだけだから」


なんて良い笑顔でキツいことを言うんだ。ささやかにってのがさらに恐ろしさを増長させる。


「やめるんだ!なんかいろいろ死ぬ!」


「おやおやぁ、いつもクールな木下君がどうしたのかな?そこまで動揺させるほどの物は…これだぁ!」


的確に佐原がそれを手にした。


「うおぉぉぉぉぉ!!」


俺は飛んだ。飛んだと言ってもたった三メートルほどをその書物に向かって飛び付いただけだ。

しかし、それがいけなかった。

決して人の目に触れてはいけないそれは無事に俺の両手が保護した。保護はしたが、その勢いのまま俺の左肩が佐原の背中に激突。

耳のすぐ横で、ゴッ!と鈍い音がした。

何が起きたのだろうと視線を動かすと、不意をつかれたらしい佐原が額を本棚にぶつけていた。


「佐原さぁぁぁん!!?」


俺を突き飛ばしてお嬢様が駆け寄る。

当の佐原は額を押さえ足をバタバタ動かして悶絶していた。「ぐおぉぉぉ…っ」という女子として少しあれな呻き声を発しながら。

謝った方がいいのだろうかと思い近づいてみると、急に顔を向けて来た。

目尻に涙溜まり、赤みを帯びた額を押さえている姿から、純粋に痛そうだなぁと思う。それと同時に俺の冷や汗が半端ない。

そんな俺とは対象に佐原本人はなぜか口元に笑みを浮かべた。


「くぅ〜…っ!ふっふっふっはっはぁ!やってくれんじゃん木下さんよぉ。これはもうアレだね。宣戦布告というやつだよね!」


戦いを挑んだ覚えはない。


「これは没収!」


再度佐原に名ふし難い保健体育の参考書のようなものを奪われた。


「佐原さん、泉堂さん、こんなものを机の中から見つけました」


今まで何をしていたのか、三坂がいくつか何かを手にして近づいていった。

いや、何をしていたのかではなく、確実に机を漁っていたな。

クラスの美少女が三人も自分の部屋にいるという誰もが羨む幸福な状況なのだが、正直に言おう。帰ってくんないかなこの人達。


「小鳥ちゃん、これは?」


「写真と何かのメモ帳のようです」


写真とメモ帳?……ハッ!


「ヤメロォォォ!!!!」


三坂の制止に掛かるも時すでに遅し。それらが佐原の手に。当然ながらお嬢様も覗き込む。


「ばっ!ちょっ、これ!?」


お嬢様が顔を赤くして驚きの声を上げる。


「なによこれ!私達の写真じゃない!いつの間にこんな…」


「いや、これは…」


弁解の余地も無く剣呑な瞳で睨まれる。

これが昼休みにただで高瀬から受け取ったものならまだいいだろう。その後、少々課金してお嬢様達の体操服姿やら薄着姿やら無防備な姿やらなんやらが加えられ十二枚ほどに増加している。

これはもう最後の審判が降るのではないだろうか。


「あなたいつこんなの盗み撮りしたのよ!」


「あ〜いや、撮ったのはそいつ」


指差しで高瀬を示す。

「木下テメェ…っ!」とか何か言ってるが気にしない。

女性陣が白い目を向けると高瀬は両手を振って弁解を始めた。


「こ、これはアレさ!ビジネス!そう、ビジネスなんだよ!」


女性陣がみんなして「あ?何言ってんのこいつ?」みたいな顔をする。


「いや、だからさ。これはいわゆるエンターテインメントってやつさ。つまりは娯楽。これによって僕は大衆により良い生活を…」


言い訳を続けようとした高瀬に金髪をさらりとゆらした佐原が口元に笑みを浮かべて、そのかわり目が笑っていないまま問う。


「ビジネスって、これってさ、双方に利益があってこそじゃない?私達には全然無いんだけど?」


「それは…まぁ、宣伝料とかさ」


「宣伝?」


「き、木下なら解ってくれるだろ!?僕の言わんとしていることが!」


たぶん学校でのアイドル的人気上昇とか彼女にしたい女子ランクとかそんなんだろうが、悪いな、高瀬。


「わからん」


「こぉんの裏切り者がぁ!!わかると言え!」


「ということでこれも没収ね!」


「ああ!?」


驚きの手さばきで佐原がデジカメを奪い取った。なぜか羽川さんを彷彿させる何かを見た。


「ふふふ、ホントいい気味ですね。あなた達の社会的命運も明日がお葬式です」


三坂が隠そうともせずにどす黒い腹の内を口にしていた。

俺達は人質、ではなく物質を取られているため何も言い返せん。もし、三坂の言う通り社会的に死んだら肉体的にも生きていく自信がないぞ。

どうする俺?下手に出る。


「佐原、ホント勘弁してくれ。それは、何をしたら返してもらえる?」


「そだね。私達はここに遊びに来てるわけだからゲームに勝ったら返してあげるよ」


そう言って制服のスカートからトランプを取り出した。いつも持ち歩いてんですかそれ?

トランプをケースから出したところで三坂から異議ありとの抗議が出た。


「佐原さん、そんなチャンスを与えずにやっちまいましょう!」


ホント黙ってくれ。

俺達の絶命を願う三坂に対して佐原は首を振る。佐原にもまだ良心というものがあったらしい。


「こういうのはね、とことん叩きのめして立ち直れなくしてから地に落とした方が面白いってもんだよ」


「なるほど、それいきましょう」


こいつの良心は悪魔に支配されていたみたいだ。


「姫ちゃんもそれでいいよね?」


「わ、私は、どっちでもいいわ」


かくして男子二人vs女子三人のトランプ対決が決定した。男子の意見はもちろん全否定され取りつく島もない。

佐原の不敵な笑みに内心怯えてしまっている自分がいるが、勝たねば社会的な死が待っている。

絶対に勝つ。そう心に誓いを立てた。

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