第12話.木下真貴は部屋から出ない
いつの間にやらPVが一万を超えてましたね。
初投稿から読んで下さっている方も途中から読んで下さっている方もありがとうございます!
執筆は不定期となりますがこれからもヨロシクです。 (^^)/
☆
作者とその友人Kの本当にあったどうでもいい会話
(読みたい人だけ読みましょう。ほんとどうでもよすぎる会話なので)
K
「ヒロインが何話も出ないとか萎えない?」
作
「萎え…なくはなくなくない」
K
「どっちだよ」
作
「いや、これってさ、私(仮称)の思い付きと自己満足だけで書き初めて今もそんな感じなんだよ。萎えるもなにもその時の気分次第」
K
「でもヒロインをもっと出した方がいいんじゃないかな?」
作
「そうかなぁ。てか、ヒロインってそんなに大事?」
K
「ヒロイン大事じゃなかったらヒロインなんて言えないよ」
作
「じゃあ聞くけど、ヒロインって、この小説で言うヒロインって誰よ?」
K
「え?」
作
「ん?」
K
「決まってないの?これラブコメだよね?」
作
「ラブ?」
K
「え?違うん?」
作
「違…いや、うん…うん、るぅえ?」
K
「るぅえ、じゃなくて」
作
「なんとなく日常的なコメディを書いてるつもりだった」
K
「この先の話の見通しとかは?」
作
「ない。完全なる行き当たりばったりの思い付きなのです」
K
「ここからどうなるの?」
作
「あー…るっさい。もうよくわからん」
K
「おい、グダグダじゃん」
会話がこんな感じのくせして10年ほどの友達付き合いなのですよ。
「よし!」
気合いを入れてデジタルカメラ、略してデジカメを手にした高瀬。
現在は俺の部屋。つまり泉堂家の屋敷で俺に割り当てられた一室だ。
その室内でパパラッチ暗躍の如く高瀬はメイドの盗撮──いや、メイドの独断及び隠密撮影会をしようと企んでいる。
まったく、三坂によって精神的痛手を負ったというのに元気な奴だ。だが、立ち直りの速さは見習うべきところかもかもしれない。
ちなみに俺、まだあのストーカーという言葉をひきづったままだ。あの言葉はグサッと来たよなぁ。危うく精神崩壊に陥るレベル。うっかり自殺したらどうしてくれんだ。
「木下、メイドってどこにいる?」
「屋敷の中を歩いていれば見つかるよ。かなりのエンカウント率でな」
「ここに来るまでに会わなかったけど?」
「裏道を使ったからな。早くこの部屋に着くように」
撮影している高瀬の隣にいて俺まで被害を被りたくないとは言えまい。
勝手に歩き回って現実を脳内フィルムに焼き付けて来いよ。そっちのデジカメは使用不可になる可能性が高いからな。後で再生ができない。
「つーかさぁ、実際に来てみて驚くことばかりなんだよな、ここ。こっから見える庭も超広いし。てか、庭かあれ?」
「お嬢様曰く庭らしいな」
「おお、来たねぇそれ。マジでお嬢様とか言っちゃってんの」
「俺にとってはこれが日常だからな。学校で泉堂って呼ぶのに違和感を感じるくらいだ」
こんな会話の間にも高瀬は何やら準備を進めている。
「そういうもんか。しかし、あれだよね。泉堂財閥の娘と言ってもいまいち実感無かった姫香ちゃんも、こういう所に住んでるとやっぱり金持ちのお嬢様なんだなぁって思えるよ」
高瀬は黒い布のような何かを鞄から取り出し、着替えだした。
なにやってんだ?
「………まあ、お嬢様は容姿的には品があるくせに他が凡人以下だからな」
「そこもまた可愛いんじゃないか。ギャップ萌えってやつ?」
「ギャップ……ねぇ」
なんか鼻で笑ってしまいそうだ。
確かに見た目と行動や仕草のギャップによって、そこが良いとか思えることも無くはないかもしれん。
しかし、それは普段見慣れてないからこそ沸き起こる感情だ。
はっきり言おう。俺はお嬢様が世間一般で言うお嬢様らしくないことをしたからと言って、何かの衝動に掻き立てられることはたぶんない。
泉堂姫香というお嬢様がお嬢様らしくないことは、俺にとってカラスがカァーと鳴くらい普通のことであり、日常茶飯なのだ。
それなら無理にお嬢様ぶらず、どこにでもいる少女として振る舞ってくれていた方が安心できる。いや、まあお嬢様が極一般の女子高生の振舞いをしているかと言えば怪しいが。
とにかく、お嬢様がお嬢様らしいことをしたら、それはもう熱でもあるんじゃないかと疑うしかない。
それほどまでに泉堂姫香は泉堂姫香なのだ。
泉堂姫香、それすなわち容姿以外は普通よりダメ系少女である。
俺はなんの考察をしているんだろうか?
「しかし羨ましいよ木下」
「何がだ」
「そりゃ姫香ちゃんの学校では見せない姿や屋敷のメイドさん達を毎日見れることさ」
「知らないことは罪だな」
「あ?なんのことさ?」
聞き返しながら高瀬は全身黒タイツに着替えた。
もう俺は知らんぞこれ。目を瞑ろう。
「安易な考えだって言いたいんだ。毎日視界に入ることで新鮮さの消えてく悲しみを知らないだろ?」
「知らないさ。いつもメイドや姫香ちゃんが僕の近くにいる訳じゃないからね」
「確かにな」
「んじゃ、僕は行くぜ。日曜六時台のアニメみたいな会話だけの展開は飽き飽きなんでね。いざ、行かん!フォトショットロード!」
謎の宣言を残して高瀬、もとい黒タイツ野郎は部屋を出ていった。
なぜあんな姿になったのかは敢えて考えないようにした。おそらく何かに影響された結果の残念な姿なのだろう。痛々しい。
さて、暇になったから読書にでも励むとするか。召し使い業も今日は無いし。本棚に以前買った漫画を放置しっぱなしだったはず。おっと、これだ。
俺って買って満足してしまうタイプなんだよなぁ。ちゃんと読まなければもったいない。
10分後──。
『きゃあぁぁぁ!!?』
『変態がいるわ!絶対に逃がさないで!!』
『お嬢様の部屋に近づけるなっ!』
『殺せーっ!』
何やら外が騒がしくなってきた。
まったく、人が読書に耽っているのに騒ぎを起こしてんのは誰だよ。ホント誰なんだろうな。
さらに10分後──。
コンコン!
部屋の扉が控え目ながら確かにノックされた。
寝そべっていたベッドから降りドアを開ける。
するとそこには若い女性が二人立っていた。
「どうしたんですか?秋山さん、それに松本さんも」
秋山さんは快活な印象のある人で松本さんは逆に大人しそうな人だ。二人とも泉堂家の立派なメイドである。
そう訊ねると秋山さんが口を開いた。
「それがね、屋敷に全身黒タイツの不審者が侵入したんだよ」
続けて松本さんが言う。
「ですから木下君にも気を付けてほしいのです」
「変な奴に会ったらあたし達メイドか執事の人に伝えてね。それと無理に自分で捕まえようなんて思わないこと、いい?」
「それは大変ですね。わかりました、気を付けます」
俺がそう答えると秋山さんはうんうんと頷く。しかし、一方で松本さんが何か言いたげだった。
「どうしました松本さん?」
「あの、言いにくいのですけど、もしかしてその不審者は木下君の友人の方なのでは、と…」
「ははっ、俺にそんな変態の友人はいませんよ」
「そうですか。では、私達はこれで失礼します」
「まったねー!」
二人は礼儀正しく一礼して去っていった。
不審者ってのが誰なのかはもう見当ついている。だからと言って俺がとやかく言う必要はない。これは奴が選んだ道なのだから。
さらに30分後──。
満身創痍で疲れきった不審者が──いや、高瀬が戻ってきた。まるで戦場から帰ってきたような顔をしている。
「よく帰ってこれたな」
「ああ、デジカメだけはなんとか守りきったさ」
そう言ってデジカメを愛しそうに撫でていた。悟りきった微笑みを浮かべている辺り、凄まじい体験をしてきたのだと理解できる。 これが俺がもうメイドを怒らせるようなことはしないと決めた瞬間だった。
「いろいろ失ったモノも多かったけど、手に入れたモノはそれだけの価値があったぜ」
何かカッコイイこと言っているが、お前がしてきたのは盗撮だぞ。もう警察につき出していいレベル。
「ほら、僕の戦果を見せてやるよ。今すごい良い気分なんだ」
渡されたデジカメの再生をする。
ふぅむ、これはなかなかのものだと評せざるを得ない。
タイミングやアングルもバッチリで、被写体の良さも際立つ。
お?これは逃走中の写真か。逃げながら撮ってたのかよ。
つーか、秋山さんが何か槍みたいなもんを持って追い掛けて来てるショットがあるだが…。この屋敷のどこに槍があったんだ?そして秋山さんはなんでこんなに楽しそうなんだ?
「最高だろ?」
最高の写真ではある。しかし、最高の証拠でもあると言える。こいつが犯人です、と。
「とりあえずその黒タイツを着替えたらどうだ」
ここで誰か来たら俺が匿っていることになってしまう。とばっちりは勘弁願いたい。
高瀬自身もこのままでは不味いと思ったのか直ぐ様制服に着替え終えた。
一瞬なにゆえ黒タイツなんぞ着たのか問うべきかと考えたが利益の無いことだと思い直しやめた。
「そういえば姫香ちゃんはどこにいるのさ?」
「知っていたとして、俺がお前に教えると思うなよ」
「いやそう言わずにさぁ」
「知らねえよ。まだ屋敷に帰ってきてるのかさえ知らねえよ」
「今さらだけどお前って放課後は姫香ちゃんと一緒じゃないのな」
「放課後まで俺が面倒見きれるかよ」
それにお嬢様にも佐原や三坂と言った友人ができたんだ。いつまでも俺が何かしてやる必要はない。
頼りたかったら友達を頼ればいいさ。佐原達なら俺なんかより親身になってくれるだろうし、なにより俺が楽できる。これでみんな幸せ。ハッピーエンドだ。
「ん…?」
「どうしたのさ木下?」
「いや…」
今扉の向こうに人の気配があった。
誰だ?羽川さんか?しかし、羽川さんなら気配を完全に消しているはずだ。俺なんかに察知されるようなヘマはしない。
なら他の家の人か?例えばさっき来た秋山さん達とか。不審者騒動があったんだ。見回りに来てもおかしくはない。
だったら正直に言うしかあるまい。犯人はここにいる高瀬であると。
俺にも責めの手が掛かるだろうが、適当なことを言ってかわしていけばいいだけのことだ。口先だけは誰にも負けないと自負している自信がある。三坂には戦わずして大敗したけど。
「高瀬、もし外にいる人がお前を探しているメイド達だったら、俺は潔くお前を売り渡すつもりだ」
「いやマジで勘弁してください。ここもう逃げ場無いっす。顔はバレてないはずだから上手く誤魔化してくれ!」
泣きつくな、気持ち悪い。
「俺の利益は?」
「今回僕が撮った写真を焼き増ししてタダで贈呈してやるよ」
「まかせとけ」
うん、まあ、欲望には勝てませんわ。だって正直欲しいものあの写真達。
さあ、誰が来ようと丁重に追い返してやろう。己の欲のために。
俺はガチャッとノブを回し、ゆっくりとドアを開けた。
するとまあなんてことでしょう。黒髪のショートヘアに眠そうな半開きの目と小綺麗な顔。
三坂……なぜ、お前がそこにいる。
「うお……おぉ…ぉぃ」
言葉にならん。三坂はそんな俺を上目遣いに見ると目を細めて冷たい視線を浴びせてくる。
なんだその目。まるでゴミを見るかのようじゃないか。
「み…三坂さん……どうしてこちらに?」
「私がいる理由をあなたに言う必要性があるのか疑問ですね」
俺はお前がなんでそんなに攻撃的なのかが疑問でならないよ。
「逆に聞きますけど、なぜあなたのような男子がここにいるんです?」
「俺みたいな男子ってなんだよ。ジャンルか?ジャンル分けしてんのか?」
「質問に答えなさい。これだからバカな男と話すと疲れる」
話さきゃいいじゃないか、とはさすがに言えず溜息を吐くことになった。
もう何を言っても心を抉る言葉しか返ってこねえ。それにここで言い合いをしたとして、それはそれは余計な労力にしかならないだろう。
ならば退いてやる。俺は紳士だからな。決して人間の祖先とかではなく。
「なになに?木下、そこにいんの誰なんだよ?」
高瀬が顔を出してきた。それを確認した目の前の毒舌女は舌打ちをした。
「ちょっとちょいっと、なんなんだよこの子。出会って早々トゲをさしてくるんだけど」
「気持ち解らんでもない」
「あんたそれ酷くないっスか!?」
お調子者を見て時折苛立ちを覚えてしまうことはよくあることだ。そういう奴に限ってその場の状況が分かってなかったりする。空気読めよみたいなさ、感じがあるじゃないか。
「話を戻します。なぜあなたがここにいるんですか木下?」
ついに呼び捨てか。まあいいんだけど。お互い様だしな。
「わかった、言うよ。俺はこの泉堂家で…」
さて、どう言ったものだろ?
召し使いだなんだ答えてしまえば全力で馬鹿にしてくるに違いない。それも辛辣な単語オンパレードで。 オブラートに包んで言うしかない。
「まあ、その……お手伝いさん、みたいなことをしてるんだ」
「なるほど。召し使いってやつですか。あなたにはとてもお似合いの立場で」
ちくしょう!包んだものを広げやがって!!
「おいおい、木下。言われちまったなぁ」
ニヤニヤしながら高瀬が肩に腕を置いてきた。
三坂も酷いが、こいつも相当うぜぇ。女子に舌打ちされた程度の奴だと思うとさらにうぜぇ。
「おかしいですね。聞こえないはずの何かの声が聞こえますね」
「ついに僕を居ないもの扱いにしやがった!?ていうか、なんでこいつここにいるんだよ!トドメを刺しにきたのか!」
高瀬が勢いよく三坂を指差して叫ぶ。三坂自身はあらかさまにその小綺麗な顔で嫌そうな表情を作った。 小綺麗とは、辞書などで調べると『きちんと整っていて気持ちのいい感じのする様子』だ。
つまり三坂は外見的に言えば、小柄で清楚で周りの人々が和む感じなのだ。
しかしながら、この三坂小鳥は外見のみ小綺麗という誉め言葉が該当するのであり、中身はどす黒いもので構成されているのではないかと推察できる。
外見は超美少女なのにそれ以外は残念の二文字に尽きるお嬢様となんとなく近い。
その三坂はここに来て初めて高瀬を視界に入れたとでも言うかのようにしれっと、さらには小馬鹿にしたように口を開く。嫌みな笑みを浮かべて。
「おや?あなたもいたのですか高瀬さん。ここは人類の最下層に位置する者がいてはいけない所ですよ?この星からさっさと出ていってください」
「星追放かよ!会話のキャッチボールが一球一球豪速球過ぎる。受け止められねえよっ!」
それでも返球してるお前はさすがに打たれ強いな。
「くそっ!いい加減にしないと泣かすよ」
「泣かす?いまだそんなのしか友人がおらず馬鹿で無能で怠け放題存在そのものが迷惑。先程メイドさん達が騒いでたのもあなたのせいでしょ?そんなあなたに私を泣かす権利など」
「お前にはそこまで僕を罵る権利を持ってるとでも言うのかい!」
「私は良いのです。何故ならばあたな風情には一生得ることが出来ない泉堂さんや佐原さんと言った愛らしい宝(友達)が。さらに学業においても常時トップ。つまりあなたに勝るとも決して劣らない私にはあなたを罵倒する権利…いえ、義務があるのです。では批判を続けましょう。大体…」
三坂は得意気に言い続ける。それに対して高瀬は悟ったような微笑みを浮かべている。
「……うん、仕方無いな。もう何も言い返せないからお前を黙らせるには暴力しかないよね」
「!?」
「やめとけ」
高瀬を羽交い締めにして止めた。
「離せ木下ぁ!僕はもう我慢できねえ!学校退学してもいいからこいつに屈辱を味あわせてやる!!」
「落ち着けバカ」
力任せに興奮気味の高瀬を三坂から遠ざける。様々な諸事情により男子高校生が女子に対して考える屈辱的なこととやらを実行させるわけにはいかないのだ。社会的面からも道徳的な面からもな。
やけに目が血走っている高瀬を部屋の中へ引きずり込んでいると、誰かが声を上げているのに気づいた。 三坂も気づいたらしく廊下の方へ顔を向けている。俺の耳がおかしくなっていなければ。
「み、三坂ちゃん。やっと見つけたわ。あ…」
「泉堂さん…ここに変な微生物達がいます」
三坂黙れ。やはりお嬢様だった。お嬢様はこの場面を見てみるみる顔色が曇っていく。
彼女は俺が泉堂家の召し使いであることを学校では公表したがらない。あくまでも友人としていることを御希望だ。
それがどうだ。今現在、三坂が俺の部屋の前にいて俺と対面しているという現実がある。言い逃れはもう不可能だ。そもそも俺がもう事情を言ってしまっているし。
「やっはー♪二人ともおっそいから探しに来ちゃったよ。ここ広いねー」
「さ、佐原さん!?こっちに来ちゃ…」
「あれ?木下君じゃん……って、高瀬もいんのか…」
佐原が部屋の前でおもむろに溜息を吐き出す。佐原は何かと高瀬に対してあらかさまな態度を取る。このことが前々から気になるところだが、今はそれどころじゃない。
高瀬もいると知ってお嬢様が俺をキッと睨み付けてきている。他の奴等がいなければ容赦なく詰め寄って来たことだろうな。
さて、この状況をどうするべきか…。
「あ、あの、佐原さん…三坂ちゃん…。これはね、その…」
お嬢様はなんとか取り繕おうと言いかけるが佐原がそれを笑って制した。
「大丈夫大丈夫!姫ちゃんと木下君の関係はもう知ってるからさ」
「えっ…」
再びお嬢様は俺を睨み付けてきた。今度はそれだけに留まらず詰め寄って来て胸ぐらを掴んできた。
やはりかなりお怒りのご様子だ。
「真貴、ちゃんと話してもらうから」
「……はい」
俺の放課後ライフは自室に居ながらめんどくさいことになることが決定した。