思春期だから
ジャンルが自分の中ででよく分からないものになったのですが、最初に恋愛っぽい物を書こうと思ったのでこちらにお邪魔しています。
今日は朝からいい天気だった。あることを除けば何事も無い一日だった。
そのあることのおかげで僕はとても緊張する羽目に陥った。
ことの起こりは昨日にさかのぼる。
昨日、雑談をしている時に何故か思春期特有の話題になった。何故かだなんて思春期だからとしかいいようが無いと思うけど。
そこで僕だけが持っていないことが判明した。
中学一年になって三ヶ月、他の面々がどうかなんてことは分からないけれど、少なくとも僕の友人関係は全員持っているとのことだった。
何をと思っている人がいるかもしれない。十八歳未満はお断りの出版物。要するにエロ本のことだ。
そして今日、長年の親友に紙袋を手渡された。
彼なりの優しさなのだろう。しかし、よりにもよって今日じゃなくともいいではないかと思う。
話は変わるけど、僕には幼なじみの女の子がいる。一つ年上でお隣さん、同じ中学に通う世話焼きな女の子だ。
ここで重要なのは《世話焼き》の部分、そして、僕が彼女を好きだということ。
また話が変わって申し訳ないけれど、以前中間テストがあった。僕はその中学最初のテストでものすごく悪い点数を採った。
それを知った幼なじみは《世話焼き》を発揮し教えてくれることになった。
木曜日と土曜日。
そして今日は木曜日。
このことを知ってるのは当人と家族ぐらい。少なくとも僕は親友にすら話してない。だから彼に悪意があるわけでないことは承知している。
それでも、今日でなくともいいではないかと思うのは仕方のないことだと思う。
早く終われ早く終われ早く終われ……
帰りの号令を級長が言い終わるのと同時に鞄を手に取りダッシュ。
親友の呼ぶ声が聞こえた気もしたが意識から排除。
今日は教師の話がいつもより長かった気がする。時計を見る限りではいつもとあまり変わってなかったのが信じられない。
いつもの通学路をこれまでにない速度で走り抜ける。自分にこんな力があったなんて、もっと別の機会に知りたかったと思うけど。
そうこう考えてるうちに自宅に到着。
鍵は…………閉まっている!
彼女は僕の家の鍵を持っており、僕より先に終わったときは遠慮なく家の中に入るようにしている。
―――間に合った。
自然に安堵のため息がこぼれる。好きな人に発見されてしまうという最悪の事態を回避……
「あ、お帰りなさい、みぃ君」
ゆっくりと振り向くと水色のワンピースに白いカーディガンを着たお隣さんがいた。
「ゆ、ゆう姉さん!?」
「今日先生が出張でかなり早く終わったの」
長いストレートの黒髪が似合う姉さんは笑いながら言った。
――まだ大丈夫まだ大丈夫。前向きに考えろ、隠している最中にやって来られるよりマシじゃないか。そうだ、鞄の中なんてそうそう見られるもんじゃない。冷静になれ、よっぽどのミスでもしない限り大丈夫だ――
「ねぇ、大丈夫?」
「大丈夫、まだ大丈夫ダヨ!?」
「えっと…………調子悪いなら今日の勉強はやめにしようかと思ったんだけど、大丈夫ならいいよね」
あぁ、その優しさが今は憎い……
今は僕の部屋で勉強をしている。
不自然にならぬよう最大限の注意を払いながら鞄から教科書ふでばこノートを取り出して鞄を閉めて一時間半。いつになく緊張した時間を過ごしている。
目の前でゆう姉さんがため息をついた。
「今日はもうやめにしようか」
「え、なんで?いつもなら後三十分ぐらいやるのに」
そうしてくれると嬉しいけれど。
「今日のみぃ君なんか変だから、体調とか気を付けないとダメなの。少し早く終わって休まなきゃ」
うぅ、じくじくと罪悪感が……
そんなこと知らない彼女は机の上を片付けて部屋を出ていった。
「おとなしくしててね」
「うん、分かったよ……」
ごめんなさい姉さん……
姉さんが出ていくと僕は机に向かって倒れ込んだ。出しっぱなしのシャーペンが床から落ちた。
三分ぐらいそのままでいるとだんだん落ち着いてきた。落ち着いてくると僕は鞄の中身が気になってきた。
みんな見てるんだから、僕が見たって何も問題ないのであって、何も悪い事をしている訳ではないから。
誰にしているのか分からない言い訳を心の中で呟きながら鞄に手を伸ばし、紙袋を取り出して中身を取り出す――
コンコン
「みぃ君、今家から体温計持って、きたか、ら…………」
……ノックしてもすぐに開けたら意味ないと思います。
硬直した僕と、その手元にある紙袋から半分でている物を見つめる姉さん。
数秒の硬直の後、姉さんは顔を赤らめながらも、僕から紙袋を取り上げ床に置き、さっきまで勉強していたテーブルを横にどかしてその場に座って自分の目の前の床を叩く。そこに座れということだろう、僕はそれにおとなしく従い正座した。
「……みぃ君も、男の子だから……こういう、物に興味があるのは仕方がないって、思うけど、こういうのは大人になってからで、具体的に言うと十八歳になってからじゃないと、ダメだから…………」
顔を赤らめてうつむいたまま、時々つっかえながら姉さんは続ける。
そんな姿に僕は罪悪感を感じながらも、可愛いなぁ、とかそんなことを思って、そんな自分に自己嫌悪したりしてた。
「………という訳で分かった?」
「は、はい!」
やばい聞いてなかった。
「じゃあこれはわたしが没収して処分しておくから」
「え!?待って、それは借りたやつだから処分するのは」
「友達のせいにするのはダメ」
「本当だって!」
「…でも借りたのはみぃ君だからやっぱりダメ」
「う〜、でもそこまですることはないと思うんだ。処分なんかしたら友達も怒ると思うしゆう姉さんだって自分が貸した物を処分されたらいやでしょ?だからちゃんと明日返してくるからっ!」
一息で言いきる。
「……でもダメ」
「なんで!?」
ここまで言ってもダメなのか!?神は我を見捨てたのか!?まぁ、姉さんが戻ってきた時点で見捨てられている気がしないでもないけど。
「………ダメなの」
―――!?泣いている!?
「ど、どうしたの?どこか痛いの!?え?なんで?」
そこで姉さんは顔をあげた。瞳は涙で濡れていた。
「みぃ君のことが好きだから」
え?
「みぃ君のことが好きだから、そういうのは見て欲しくないの……」
「…………」
「…………」
えっと、これはどういうことで??
「………………」
「………………」
長い沈黙。
耐えきれなくなったのは未だ混乱中の僕ではなくて姉さんだった。
「…みぃ君はわたしのこと好き?」
「うん、好きだよ」
それは間違えようのない簡単な、混乱中の頭でもすぐに答えられる問いかけ。
「僕もゆう姉さんのことが好きだよ」
僕が言葉を言い終わるのと同時にゆう姉さんは僕の胸に抱きついてきた。
告白のきっかけとしては最悪の部類に入ると思う。
だけど過程はどうあれ僕は、僕たちは幸せを感じていた。
ちなみに紙袋は結局処分された。