Gランクの天才 6
……何故先ほどの狙撃手はカイルやリース嬢を狙わなかった? 馬車の中にいたカイルはともかく、リース嬢は狙えたはずだ。
——いや、あのメンバーで銃撃を避けられないのはフィーくらいか。研究所に引き蘢って、戦闘の経験が浅いフィーを除いて皆、気を読める。僕だって出来るんだから、彼らなら完璧に避けるにしろ防ぐだろう。
狙撃手は何を思ってフィーを攻撃した?
魔術師が邪魔だった? だが、わざわざ存在を知らせてまでやる事か? いや、本当は別の意味が——。
あったのか。
「——っ!!」
そして誰もいなくなった、というお話がある。
一人が消えて、二人が消えて……最終的には誰もいなくなるのだ。
その手のタイプの話には、必ずと言っていい程、消えた人物に裏切り者がいる。
死ぬ事によって、自分の存在を容疑者でなくそうとする。
僕は、これもそんな感じだと思っていた。
僕がガイラスを見つけて、適当にぶん殴って縛り付けて、裁判してもらえば良いと考えていた。
だが、そうじゃなかった。
「……ガイラス」
ガイラスが死んでいた。
頭を鈍器で殴られたようで、頭が陥没し血を流して、ガイラスは死んでいた。辺りに争った形跡も無く、背後からの一撃だった事が伺える。最後まで槍を離さなかったが、ランクBの男の死体としては、どこかむなしいものがあった。せめてもの救いは、即死であった事だろう。
ガイラスを殺した犯人の凶器は、重量のある鈍器。一撃で死んでいなければ、何度も何度も殴られる。そして地獄を彷徨った事だろう。
と、僕の足が何かを踏んだ。
それは——線。
「——ッ!!」
一瞬のうちに茂みに飛び込んだ。
次の瞬間、ガイラスの身体が爆発した。
木っ端みじんに吹き飛んだ。
軽薄な男だった。よく僕に噛み付いてくる、あまり好きじゃないタイプの男だった。むしろ嫌いだったよ。
だが、こんな死に方はないだろ。
戦士としての誇りなど微塵も無く、無惨に散った命。
——ああくそ、何を感傷に浸っているんだか。任務はまだ終わってないんだ。
ガイラスをその場に残し、僕はカイル達の元へと駆け出した。
ガイラスが、殺害された。なら、もう答えは出ている。
さらばガイラス、お前の敵は取れないかもしれないが、お前が化けて出ないような結末は用意してやる。
それと。
「裏切り者には報復しなくちゃな」
僕は憎悪と狂気で口元を歪ませた。
僕はさ、裏切りが大嫌いなんだよ。前世の死因もそんな感じだし、この世の表向きの死因もそうだ。
だから復讐——しなくちゃ。
奴が何を思って裏切ったのか僕は知らない。いや、最初から仲間ではなかったのか。最初から、カイルとリースを殺す事を考えて行動していただけだろう。
最初の晩こそが、奴の動ける最高の日だった。焚き木拾いや不寝番、そこで誰かを殺害する予定だったのだろう。ここでガイラスを殺したように。そうだったら僕だろう。自分で言うのもなんだが胡散臭いからな。……もしくは、全員か。
だが、僕が睡眠剤を投与した所為で、実行出来なくなった。そして強攻策として、魔物とあの狙撃手。
協力者がいるのは、出来れば知らせたくはなかっただろう。
この世界の銃は、不意打ちにはぴったりだが、それだけで戦うには無理がある。
気、と呼ばれる物が感知されるのだ。銃での攻撃は、殺気を伴うため察知されやすい。
切り札、に近い物がある。
どうやら、奴も相当焦っているようだ。
急がなければ。さっきの爆発で、あちらも動きがあったはずだ。
裏切り者——、ラングに報復を。