誰がために
僕に手を差し伸べてくれたあの人は、もういない。
けれど、あの人が僕に教えてくれた事は今も心の中で生きている。
「『助けて』って言える事は、とても難しい事なんだ。恥ずかしいし、申し訳ないし、自分が弱いってことを受け止めなくちゃいけないからね」
同じ日本人でさえも差別し合っているのだから、種族が違えばその差別もより酷くなる。
亜人。
人間にない身体的特徴を持つ人々の総称。人類の敵である、魔物の血を引くと言われている。
獣人、エルフ、ドワーフ……彼らは森の奥や未開の地に住み、ひっそりとした生活を送っている。そこを踏み荒らし、売りさばくのが人間だ。
亜人は身体能力が高く、奴隷として高値で取引される。
そのため彼らに取って人間は、忌むべき存在に等しい。
平穏な生活を壊し、想像を絶するような屈辱と苦痛を与える人間達は、滅ぼしてやりたい程憎い存在だろう。
だけど違うのだ。
彼らは、決して人と争おうとはしない。
集落を襲われた彼らは、諦めたように奴隷としてその人生を終えて行く。
それは何故なのか、僕は知ってしまった。
「だけど、言わなきゃダメなんだ」
隠された真実とは得てして、知らなければ良かったと思う情報だ。
だけど、知ったからには、どうにかしたい。
例えそれが偽善と呼ばれようとも。
なぜなら。
「社会ってのは、助け合う事で形成されているんだから」
僕が持っていない物を、あなたは持っている。
あなたが持っていない物を、僕は持っている。
持ちつ持たれつの関係だ。人は一人じゃ生きられないんだから。
僕を助けた男は、死んだ後にこう言った。
「感謝はいらないよ。今度は君が助ける番だ」
アルカディアが最初に行った事は、亜人の救済だった。
ちょっとした叙情文です。
誰がための国なのか。
更新遅れます。