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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第二部 序章
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レベル10のウサギ 4

 漆黒のマント、深紅の肩当て。金色のエンブレムを胸に、白銀の剣を掲げる。

 自分よりも巨大な剣を片手で持ち上げ、俺は部下である全ウォーリアに命令を下した。


「誇りを失うな。お前達の決断は決して過ちでない」


 

ーーーーーーーーーーーーーーー



「カッコ良かったよ、ラビ♪」

「……うるさい」


 食堂でレアのステーキに齧り付く俺に、チコは笑顔を見せた。

 紺碧のマントを羽織るチコの胸にも、俺と同様に金のエンブレムが刻まれている。

 先月の長期任務を終わらせ、俺達はレベル10となった。


 無事に、とは行かなかった。


 目眩にぶっ倒れた俺は、その日の夜中になるまで目を覚まさなかった。

 正直、一人の任務だったらと考えるとそら恐ろしい。

 多分俺は死んでいただろう。

 生き残った代償なのか、それ以来生活習慣が乱れていて、最近は夕方に目が覚めて、朝方に寝るようになってしまった。

 まあ、それが生き残った代償ならば、安いものだが。


「でも、どうしたの? いつも『誇りを持て』とか言ってたじゃん」

「ん? ……別に、対して変わってないだろ」


 俺も他のウォーリアの上に立つ男になったのだから、後世に伝えるべきことはちゃんと伝えなきゃならないなと考えてみたが、あの言葉以上に伝える事は特にないかな。



 レベル10となって気付いた事がある。

 俺達ウォーリアは、想像以上に入れ替わりが多い。

 驚いた事に殉職する者の大半が、レベル5〜9だ。下位レベルは与えられる任務の難易度が低かったり、集団であったり、引率者がいる事からそうそう死にはしないようだ。

 レベル5からある一人での任務は、心細い。大量の魔物に囲まれれば縮み上がってしまう。一人であるが故に、魔物に背を向け逃げ出しても咎める者はいない。心が不安定になる。

 だから俺達は言葉にする。



『誇り』



 俺達ウォーリアが戦う事から逃げ出せば、国は瞬く間に戦場と化す。

 ウォーリアになったのは、大切なものを守りたかったからだろう?

 誇りを持て。

 死ぬ事は恥ではないのだ。死力を尽くせば、魔物は倒せない敵ではない。

 死ねとは言わない。

 ただ、諦めるな。

 それが、先人達が残して来たウォーリアの教えだ。


 この国の魔物の数は異常だ。

 かつて魔物と交渉しようとした者がいたようだが、結果は無惨だった。

 そもそも、魔物を統べる者は存在せず、彼らは生きるために人間を喰らっているのだから。同族である魔物を喰うよりは、美味しい人間を食べた方が良いに決まっているだろと。

 それならば、戦うしか無いのだ。

 ビエスト王国は、どこの国へも攻めもしないし、助けにも行かない。勿論、他国の魔物が比較的少ない土地が欲しくない訳ではない。出来れば戦争し、土地を手に入れたい。だが、この国は維持するだけで精一杯なのだ。

 もしもこれほどまでに魔物が存在しなければ、ビエストが他国を侵略出来たのならば、世界統一だって夢ではなかっただろう。

 とは言いつつも、ビエスト国民が目指しているものは、魔物の消滅。

 世界征服など別に良い、領土もそこそこあるので、安全になればそれで満足だというのが現状だった。

 俺達は時折思う。



『もしも、魔物が存在しない世界だったら、俺達は何をしていただろう?』 



 一般人の生活を想像する。

 畑でもつくったり、漁業をしたり、魔術具の発明をしたり、行商の旅をしたり、結局戦いを求めて傭兵をしているのかもしれない。

 別にウォーリアになったことを後悔している訳ではない。

 ただ、俺達は夢を見ている。



 いつかそんな時代が来れば良いと。



 命を燃やすのは、やはり少し怖いのだ。



 ん? そういえば、命を燃やして戦っている証拠は、何一つ無いな。



次回からやっとマモルが出せそうです。



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