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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第二部 序章
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レベル10のウサギ 1

「誇りを持て。お前の死は、無意味じゃない」



「……俺が弱そうだからって、そいつは酷いんじゃないですか先輩?」



 カンパニーの食堂で野菜スティックを齧っていた俺に、先輩はそう話しかけて来た。


 ビエスト王国首都、シュリダン。

 その中心部にある堅牢な建物、カンパニー。ギルドと冒険者の存在しないこのビエストで、魔物と戦う者達、ウォーリアの管理場所だ。


 話しかけて来たのは女性で、その美貌はいつ見ても頬が赤くなりそうだ。

 絹のような白銀の髪に艶のあるもち肌、翡翠のような切れ長の目も綺麗。スタイルも良く、さらにこれまでの戦いで一度も傷を負った事が無いらしく、肌は戦いに身を投じる者としては異常なまでに綺麗である。

 黒光りするきめ細やかな制服は、レベル8のウォーリアのもので、この制服を着ている者は国に二十人といない。

 黙っていれば傾国の美女、けれど実際は男勝りの性格。それがシス先輩である。



 とりあえず、手に持ったお盆に乗っている豚の丸焼きには目を瞑ろう。



 何にしても、食事中に死んだときの話をするのはやめてもらいたい。

 確かに俺は痩せっぽっちですぐ死にそうですよ? 髪と肌が白くて、野菜ばかり食べているから『ウサギのラビ』と呼ばれてますし。

 でも、いくら何でもこれは酷い。


「何を言う。お前がウォーリアになったのは、誰かを守るためだろう? お前はそれを誇って良い。国民のために生きたことは誇りだ」

「……俺が文句を言ってるのは、俺を舐めないでくださいってことで、別に誇りがなんちゃらは理解してますよ」


 昔、俺の住むスラムで見たウォーリアがカッコ良かったから。

 その生き様を真似ている。

 俺は無い力こぶを作って、宣言した。


「俺は世界一の戦士になるんですから!」

「無理だろ」


 即答だった。一切の躊躇いも無く言い放ったぞ、この人。

 酷い……。子供の頃からの夢だって言うのに、一言で否定された。

 

「ごほん! ……ところで、どうしたんです? 突拍子も無くそんな事を言って」


 まるで、絶対に生きて帰れない任務を与えられたようじゃないか。

 死んでも無意味じゃない、とか。

 

「うむ、実は今日から長期任務でな、今日がお前と話す最後の日になりそうなんだ」

「……そうですか」


 少し嬉しそうに言うシス先輩に、俺は少し複雑な気持ちになった。

 俺と別れるのがそんなに嬉しいですか、とかじゃない。多分この人は、単純に与えられた任務に喜んでいるのだろう。


 この長期任務とは、実質昇格試験のようなものだ。この任務を成功させる事が、ウォーリアのレベルを上げる事に繋がる。ウォーリアは国を守る役目を担っており、そのレベルに応じて高い給金が払われ、ビエストの色々な施設を無料で使用出来るようになる。

 シス先輩はレベル8。多分、この国のいかなる施設も顔パスだ。

 俺はレベル7。高級な宿に無料で泊まれる。ぶっちゃけ金の使い道が無い。


 シス先輩は俺がウォーリアになってから今日まで、色々と面倒を見てくれた、心の中の師匠なのだ。

 その先輩の昇格は嬉しいが、遠くに行ってしまうようで少々寂しい。

 思い出せば浮かんでくる、シス先輩との数々の思い出。



 シス先輩の元に配属されて、最初に俺を見て、先輩、こう言ってたっけ。

『お前は死んでも役に立たなそうだな。精一杯生きろ』

 ……あれ? シス先輩、今と言ってる事が違う。

 


 最初の任務を俺がそつなくこなしたのを見て、先輩、こう言ってたっけ。

『馬鹿者! この程度の任務で傷を負うなど、死にたいのか!』

 ……あれ? シス先輩、あの任務はレベル5でしたよ?

 俺はレベル1だったのに。



 俺のレベルが上がったときは、先輩、いつもこう言ってましたよね。

『うん、よく頑張ったな。いつかお前が私と一緒に任務を受けられるのを待ってるぞ』

 そう言って、満面の笑顔を……いや、これは俺の妄想だ。

 本当は確か……。

『お前、まだそんなレベルだったのか?』

 と、不思議そうな顔してたっけ。

 シス先輩、レベル以上の任務を受けさせてましたからね。

 無断で。



 仲間のウォーリアの訃報を聞いた時、先輩、言ってましたよね。

『私達の死体は家族に引き渡されることはない。だから、家族に会いたければ死ぬな』

 馬鹿だな、シス先輩。俺に家族はいないのに。

 まあ、心配してくれて嬉しかったですけど。



 こうやって思い出してみると、会話の中身はともかく、いつも隣にいてくれたんですね。

 でも、それも今日までですか。

 寂しいです。美人の隣は嬉しかったです。性格はアレでしたけど。

 だからこそ、ちょっと辛いです。

 けど、俺は覚えてます。


「シス先輩、今までありがとうございました」


 先輩は言いましたよね。


『別れは必ずある。その時には、笑って別れろ。お前じゃない、相手を後悔させるな』


 だから俺は、シス先輩を笑って見送る。

 俺は飛っきりの笑顔を、シス先輩に向けた。





 俺は生涯、決して忘れない。





「うむ、ありがとう」


 そう言って、豚の足を引き千切って食していたシス先輩の事を。

 あっ、いや、素敵で可憐な先輩の事を……。


 タイミングが悪いんだよぉ。


これは序章です。

主人公はまだしばらく出ません。

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