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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第二部 序章
61/67

Prologue

第二部となります。

三人称は別の小説で書くので、やはり一人称とさせてもらいます。

「お前の妄想はこれで終わりだ、××」




 間もなく朝日が昇る。

 それが、この世界の新たな夜明けとなるだろう。


 鋭き太刀が僕の喉元に突き付けられた。

 一切の曇りの無い刃に、反りを持つ剣。日本刀。銃弾すらも切り裂くような、見事な業物だ。

 それを持つ少年の手に震えは無い。

 少年は無慈悲であり、善悪の感情など無視し、異能の力であれば切り捨てる。

 

 志を同じくした仲間とは分断された。

 恐らく、仲間達も危機的状況に陥っているだろうことを僕は理解していた。

 頼る事は出来ない、自分の力でどうするしかない状況。

 だが、これはあまりにも絶望的だった。


「復讐でもなんでもない。ただ、邪魔だから。人を不幸にするのに」


 そんな理由で、その少年は僕を殺そうとしていた。

 

「巫山戯るな!」

「他人の不幸を喜ぶのが人間と言う生き物だ。復讐ってさ、他人が不幸になっている様を見て喜ぶものだろ? 心理としては同じだよ。俺はただ、それを無差別にしているだけ」


 その過程で、僕は邪魔だった。

 だから、殺す。


「最高に面白いと思わないか? 美女が涙ながらに懇願する様は情欲をそそるし、美少年を見るも無惨な姿にするのは楽しい。幸せな家庭を見てるとムカムカするだろ? 借金で不幸になったとか聞いたら、ざまあみろって思うじゃん。付き合ってるカップルを見たら、爆発しろなんて気軽に言うしさ。それと一緒だよ♪ ただ俺は、自分で相手を不幸にするだけ」


 その時僕は、初めてこう思った。


『こいつだけは生かしておけない。絶対に殺さなければならない』と。


 豚のようにまるまる太った税金喰らいの領主、他人を見下すのが好きな執事、この世の全てを欲した収集家、意識の外から人を操るお嬢様、問題を先延ばしにしかしない国主、皮剥ぎ殺人鬼、無慈悲な虐殺を続けた将軍。


 それらの人生を僕は奪った。だが、奪おうと思って奪った訳ではない。結果として、奪ってしまったのだ。

 だが、今回は違う。

 何が何でも、こいつだけは殺さなければならない。生かしておいてはいけない。

 そう思った。


「お前のして来たことは、きっとたくさんの人から賞賛や謝辞を受けるんだろう。不治の病を治したり、長年人を苦しめて来た化け物を倒したり。だけどさ、万人から認められる行為なんて存在しない。俺がお前を否定するように」


 少年は言う。


「だって、ズルいじゃないか」


 と。


「俺はそんな奇跡みたいな事は起こせない。いや、奇跡みたいじゃなくて、奇跡そのものだろ? なんだよそれ、不公平じゃないか。人は平等であるべきなんだ」


 僕は不治の病を治した。死にかけの者の傷を癒した。死に瀕した者を救い上げた。

 それは、魔法が使えたから。


「だから、俺はお前を殺す。現実的に」


 瞬間、少年は刀を突き出した。決して遅くはないが、速くもない速度で。

 僕はそれを横に避けるが、避けきれずに頬を刀が切り裂いた。

 問題ない、はずだった。

 しかし頬の皮を突き破り、真っ赤な血が噴水のように飛び散る。


「っ!?」


 その事実に、僕は驚いた。

 頬を流れ続ける血に触れ、その血の色に顔色を悪くする。


 魔法が、発動していない。

 

「言っただろ? 現実的さ。俺は現実主義者だからね。俺は魔法を使えない。代わりに俺は魔法、奇跡を否定できるんだ。不治の病は絶対に治させないし、傷口はすぐに治せない。死んだら死んだ、復活なんてあり得ない。現実的だろ?」


 その説明は大きな隙だった。


「人が奇跡を願って何が悪い!」


 その一瞬の隙を見逃さず、僕は懐から鉄塊を取り出し、少年の眉間に突き付けた。

 銀色に輝くL字型のそれは、拳銃。引き金を引くだけで相手を殺せる武器。

 それを掴む僕の手は、震えていた。


「はははっ、なんだよ、怒ってるのか? そのくせ手が震えてるじゃないか! なんだおい、もしかして、お前は人を殺した事無いのか!? そいつは傑作だ!!」


 少年は豪快に笑い、刀を構える。


「お前じゃ俺を殺せやしないよ、××!! お前の理想は全て俺が殺す!」

現実主義者(リアリスト)がっ!!」


 少年が刀を振り上げるのと、引き金が引かれたのは同時。


 現実主義者は夢を見ない。

 幸せなんて、夢を見ない。

 だから不幸を楽しんだ。



 銃声と共に、一人の命が消えた。


第二部は不定期更新と成ります。

あらかじめ、ご了承ください。

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