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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第四章
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エピローグ

今回の後書きは、本編とはまるで関係のない話となっております。

11/3,14:15、若干の後書き変更(*部)。

「サーチャー、どういう事だこれは!? 貴様、魔王は確かに死んだと言ったではないか!」


 貴賓席にて、武闘大会を見に来ていた皇帝は俺を怒鳴りつけた。

 魔王討伐、本来はニルベリア皇国を攻めるだけの理由だけだっただけに、貴族どもは魔王が生きていて、復讐しに来たのに怯えている。

 自業自得だ。

 

「その通りですぞ、陛下。魔王は確かにあの時死にました」

「では、これはどういうことなのだ!!」

「魔王は確かに死んだ。となれば、奴は魔王を語るキチガイでしょう」


 怒鳴り散らす皇帝に、待ってましたとばかりに俺は言った。


「そ、そうか……。ええい! 兵士どもは何をしている! さっさと奴を捕えんか!」


 馬鹿か? アイツがここまで勝ち上がってこれたのは、まぐれでもなんでも無いんだぜ? 一般の兵士どもが敵うかよ。

 そして、例えアイツが魔王でなかった所で、復讐しに来たのは間違いないんだぜ?

 各国の有名な人物達がいるこの大会で、あの事件が無意味であったと言う事を公表する事に意味があるんだ。虐殺された人は数知れず、子供を奪われ憎しみを覚えた親は幾千と。

 その怒りがアイツに向くのか、この国に向くのかは解らないが、はたしてどうだか。

 さて、アイツがどうするか楽しみだな。



ーーーーーーーーーーーーーー



 皇帝が怒鳴っているのを尻目に、僕は周りを囲んで行く兵士達を見た。


「貴様……どういうことだ?」


 カノンが無表情で僕に剣を向け、問いただしてくる。

 どういうことも何も、この通りなんだけどね。

 眼帯の外れた左目、義足が近くに転がっている右足。


「一年前のあれは、飛んだ茶番だったと言う事さ、カノン・リリエンス。本来なら、君なんて歯牙にもかけやしない」

「貴様、私を侮辱する気か?」

「侮辱するにも値しないよ」


 僕に取ってお前は、どうしたらいいのか解らない存在だ。

 



 お前がレイを殺したように、僕もお前の兄を殺しているのだから。




 僕らはお前の兄、『生首の挿げ替え暗殺者』を、必要だから殺した。

 それに対して、お前はレイを殺した。

 僕にはお前に復讐する権利があるのかもしれない。だがそれは、レイの死を無意味にしてしまう行為だ。

 だから、僕は何もしない。僕から真実は語らない。僕もお前の兄を殺した、などと言いはしない。ここで、僕とお前の復讐は終わりにしよう。

 仮想人格のレオは、色々したがっていたようだったけど。


「……死ね」


 無表情の割に、怒りがすぐ言葉に出てしまうカノンだった。

 一瞬で爆発的加速、僕に切り掛かってくる。

 周りの兵士達が、僕を逃がさないように囲っていた。結界が外部からの助けを拒む。

 

 ああくそ、やっぱり……。


 いいなりになる奴は嫌いだ。



 僕はただ、指を鳴らした。それが、合図だった。


 結界で助けが無理? 違うだろ。

 結界をぶっ壊せば、関係ない。


「なっ!!!?」


 指を鳴らす音と共に、一筋の光が雲を割いた。

 光は僕を包み込むと共に、大きく地面を抉り取る。爆風が舞い起こり、地面が大きく揺れた。悲鳴と爆音が入り交じる。観客は誰一人としてまともに立ってなどいられなかった。

 言うなれば、サテライトキャノン。

 僕は無傷だが、まともに光を浴びたカノンはボロ雑巾のように地面に転がっていた。あれを受けて死なないなんて、規格外にも程がある。人のことを言えた義理じゃないが。

 まあ、魔王直系の僕にしてみれば、何も不思議な話ではないのだけど。


「なっ、何が起こったのだ」

「陛下! アレをっ!!」

「なっ!!!?」 


 何が起こったのかと空を見上げた者達は、雲の裂け目から覗くソレ(・・)を見て息を飲んだ。


「何だアレは!!!?」


 雲の裂け目から覗くのは、おおよその物理法則を無視した存在。

 ちょっとした街程の大きさを誇る、巨大な建造物。


 とある王が創り上げた、最高傑作にして一つの浪漫。


「天空の城、名を『失楽園(エデン)』。先代魔王が創り、僕が改造した天空要塞。そして、我が国、アルカディアの首都だ」



 島が一つ空に浮いていた。



「さて、世界最強がぼろ雑巾よろしく転がっていますから、僕の力はお分かりでしょう。その上で、あなたに僕は交渉をします」


 僕は魔術で声を良く通るようにし、あえてこの交渉を会場に居る者全てに聞こえるようにする。

 サテライトキャノンもどきで結界は壊れており、僕は軽々と皇帝のいる貴賓席まで跳躍した。

 怯える貴族どもを嬲り殺したいのを抑え、僕は笑顔(・・)で皇帝に語りかける。


「僕はあなた方が行った虐殺を許さない。国の上層部の勝手で苦しめられる人々を助けたい。飢餓や貧困で苦しむ人を救いたい。これは、そのための国だ」


 あんたらの勝手で苦しめられるのは、あんたらを支持する人間だけで十分だ。

 知ってるか? 許容する人間は、加害者なんだよ。

 一度だけチャンスをやるって言ってるんだ。


「僕の力を持ってすれば、この国なんてすぐにでも潰せる。それくらい、解ってますよね?」


 今ここには、あの魔王討伐という名の虐殺を企画した人間がほとんどいる。

 今ここで、復讐と言うなの虐殺を繰り広げても良いんだ。

 だが、それはしない。


「僕が求めるのは、アルカディアを国として認めること、それだけです」


 僕は、誰も殺さない。

 苦しめるためには、生きていてもらわなきゃダメなんだ。

 僕は悲鳴が聞きたい。懺悔が聞きたい。後悔させたい。

 二度とあんな愚かな真似をしないようにしたい。

 殺すだけじゃ無意味だ。

 それなら、僕は奴らと同じになってしまう。彼女(・・)と同じになってしまう。

 レイが死んだ事が、無意味になってしまう。 

 殺してしまえばもう苦しめられないが、生きていればいくらでも苦しめられる。

 けど、それすらも罪悪感って奴が邪魔する。

 どうにも僕は優しすぎるのだ。

 

 だから。


 罪悪感を感じないように、火種を撒く。

 攻めてもらうための、餌を見せる。


 それがこのアルカディアだ。

 

 こちらからは何もしない。ただ、その餌の味を堪能してもらうだけ。

 オーバーテクノロジー、オーバーマジック。

 科学と魔術、そして魔法で創り上げた『理想郷』。

 決してその技術は外には漏らさず、ただその内部のみを楽園とする。


 アダムとイブが蛇にそそのかされてリンゴを食べたように、欲望に惑わされ、一体どれほどの国がこのパンドラの箱に手を出してくれるだろう。


 欲望で理性をかき乱し、僕の手のひらで踊ってもらおう。

 恐怖と痛みで調教しよう。

 希望と絶望は、最高の飴と鞭になるだろう。


「……わかった。認めよう、貴様の国、アルカディアを」





 楽しみだ。

 正当防衛、それで僕は気持ちよく、後味すっきりに復讐が出来る。

 僕は、守るためなら悪魔にだって魂を売り渡す。


 自分の精神を守るためなら。


 さあ、一体どれほどの馬鹿が、僕の復讐に付き合ってくれるんだろう?



第一部は以上で終了です。

第二部は、三人称となります。


活動報告にて、賞の応募用に書いた物語のプロローグ(没)をのせました。

『例えば』シリーズを足して二で割った感じでしょうか。

『例えば仮の魔王様』同様、感想・指摘・意見などを頂けるとありがたいです。




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