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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第四章
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復讐と暴力の挑戦者 9

 意外だった。

 まさか本当に、奴が決勝の舞台まで勝ち上げって来るとは思っていなかった。

 そして、再戦することになるとは。

 

「リリエンス殿、彼が優勝しましたよ。いかがなさるのですか?」

「おいおい、それではまるでリリエンス殿が圧倒的に勝利すると言っているようなものでは?」

「はははっ、いくら彼が強くなっていようと、リリエンス殿には敵うはずも無いでしょう。まさか、去年の決勝をお忘れですか?」

「まさか! ……言われてみれば確かに、彼は文字通り手も足も出なかったんでしたな」


 解っていない。

 この馬鹿な貴族達は何も解っていない。

 あれが去年の勇者だと? 馬鹿な事言うな。全然違うではないか。

 私が倒した勇者は猪突猛進、力と早さに任せて馬鹿みたいに突っ込んでくるだけの奴だった。だが、今の奴はどうだ?

 一歩も動かず、知略を巡らせ、その上で圧倒的な戦闘力を持って勝ち上がっているではないか。

 勝てない訳ではないが、苦戦する事になりそうだ。

 と、私は一人別世界で思考していたのだが、不意にざわついていた貴賓席の空気が変わった。


「これはこれは! 魂の探索者(ソウルサーチャー)殿! 来ておられたのですか?」


 振り返ると、白いローブに身を包んだ初老の男が立っていた。

 魂の探索者、魔法使いの男だ。魂の探索者は代々、サーチャーという名を名乗っているそうだ。

 一度記憶した魂、その持ち主の所在を調べる事が出来る魔法を使えると聞いている。それにより、十数年前の魔王討伐は容易になったと聞いている。私個人の意見としては、非情に胡散臭い奴だ。だが、魔王が倒されてから、確かに魔物の侵攻が少なくなったのだから、その力は疑い用も無い。

 しかし、そんな男が一体何故ここに?


「うむ。馬鹿弟子の無様な姿を見に、な」

「……馬鹿弟子? もしや、勇者レオはあなたの弟子なのですか?」

「いかにも」


 私の問いかけに、サーチャー殿は頷いた。

 勇者が魂の探索者の弟子? 初耳だ。


「あの馬鹿弟子、『いつ魔王が復活しても良いように、俺にあんたの力を与えてくれ!』などとほざきおってな。一応信用しておったと言うのに、去年か? 死にかけおってからに。おっと、貴殿が謝る事は無いですぞ、カノン殿。全て、我が馬鹿弟子の責任故」


 サーチャー殿は戦いが終わった舞台を見下ろす。


「どれ、会いに行ってやるかの。明日が楽しみじゃ。遠慮は必要ないですぞ、カノン殿」


 くつくつと笑い、足早に立ち去って行った。

 何をしに来たのだろう?




ーーーーーーーーーーーーーーー




 本日の天気は曇りなり。

 いい天気だ。

 

「自分の未来は選んだか、世界最強?」

「…………」


 ショートの金髪を靡かせ、カノン・リリエンスは俺を待っていた。

 動き易さを重視した軽鎧を身に纏った、騎士と言った雰囲気を醸し出す女だ。腰には俺の目と足を奪った剣が差してある。


 ノエルが俺達の因縁を長ったらしく話しているが、そんな事は耳に入っていなかった。

 カノンが当ててくる殺気を打ち消すべく、闘気を発していたからだ。

 前哨戦は、引き分けと言った所か。

 そして、遂に、


「試合開始です!」


 試合開始の合図がされた。

 俺は剣を掲げ、カノンも剣を抜いた。

 俺がここまで一歩も動かずに勝負を終わらせて来た事への警戒だろう。動かない俺に、カノンは突っ込んで来るような事はしなかった。

 俺はこれを待っていたのだ。

 カノン・リリエンスの強さは、勇者以上の身体能力だ。まともにぶつかっても勝てない。シュイのように決めにこられると敗北は必至だ。

 だから、俺は一歩も動かない戦法、カウンター戦法に切り替えたように思わせたのだ。

 準備万端、じゃあ、始めようか。

 俺は剣を高々と掲げ、叫んだ。





「参った!!」





「「「は?」」」


 俺の一言に、会場は沈黙した。

 俺はそそくさと移動し、カノンの手を取って握手を交わす。

 あまりの出来事に惚けているカノンの手は、いとも簡単に握る事が出来た。


「手に汗握る良い戦いだった」

「なっ……なっ……」


 驚いて言葉も上手く出せないようだ。

 いや、人間の限界を超えた死闘を繰り広げたのだ。その疲弊が原因か。

 なんて冗談を吹き飛ばすように、カノンは大声を上げた。


「貴様! 馬鹿にしているのかっ!?」

「戦ったさ。あの一瞬で、俺達は何度も戦った。——脳内シミュレーションで」

「貴様、復讐のためにここまで勝ち上がって来たんじゃ——」


 違うな。

 違うが、


「そうさ。俺は復讐のために勝ち上がった」


 間違っていない。

 だが、意味を取り違えているんだ。


「だけどな、カノン・リリエンス。お前は唯の駒でしかなかった。一年前のあの日から、今日この日のためのな!」


 俺はカノンから自然な動作で歩いて(・・・)距離を取り、マントを脱ぎ捨てる。

 脱ぎ捨てたマントが一瞬、俺の身体を全ての視界から隠した。




ーーーーーーーーーーーーーーー




「参った!!」


 何を言っているのか、全く理解出来なかった。


 意表をついたその発言に私の思考は停止していた。

 レオに手を握られたが、突然の出来事にまるで対応出来なかった。


「手に汗握る良い戦いだった」

「なっ……なっ……」


 ぶんぶんと適当に振り回される手。

 手に汗握る? 何もしてないではないか!


「貴様! 馬鹿にしているのかっ!?」

「戦ったさ。あの一瞬で、俺達は何度も戦った。——脳内シュミレーションで」


 意味が分からない。

 何を自己完結しているのだ!

 私をここまでやる気にさせておいて、逃げると言うのか!?


「貴様、復讐のためにここまで勝ち上がって来たんじゃ——」

「そうさ。俺は復讐のために勝ち上がった」


 小さく笑みを浮かべ、レオは吠えた。


「だけどな、カノン・リリエンス。お前は唯の駒でしかなかった。一年前のあの日から、今日この日のためのな!」


 マントが宙を舞い、一瞬レオの姿を隠す。

 そう思った次の瞬間には、そのマントは消し炭のように風で崩れ、勇者を覆った。

 姿が隠された勇者に、会場が大きくどよめいた。何が起こっているのか、私にも解らなかった。

 と、ボーイソプラノが闘技場に響く。


「お集りの皆様、お初にお目にかかります」


 現れたのは、少年だった。

 風で靡くのは、流れるような艶のある黒髪。

 中性的な顔立ち故か、やけに幼く見える少年だ。

 だが、闇のように奥深く、見ているだけで囚われてしまいそうな双眸が、少年の幼さを否定する。

 少年の言葉は大した声量も無かった。だが、今この場の雰囲気は彼の言葉に飲まれている。ざわめきなどなく、皆が黙って彼を見ていた。

 魅了されていた。誰もが、少年の次の言葉を待っている。

 そして、少年は笑みを浮かべ、言った。



「六歳の子供を殺し損ねた帝国の皆様方、はじめまして。魔王です」




後数話で第一部完結なので、予告。


賞の応募用に書いた没プロローグを、エピローグ後書きに載せようと思っています。主に、感想・意見を聞きたく。しかし未発表のままにしたいため、後書きに。

分量的に本編エピローグより長くなると思われますので、先に一言報告させていただきました。

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