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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第四章
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復讐と暴力の挑戦者 8

「魔王を倒し、神出鬼没の英雄となりました。そんな彼も、去年の決勝、その冒険者生命を絶たれたかに思われました。しかし、昔年の恨みを晴らすべく復活を遂げてます! 勇者レオ選手です!」


 地響きのような歓声に、俺は一応手を振ってみる。

 サービスくらいはしておこう。

 ……そういえば、去年もこんなことしったけな。

 あん時は、まだ色々見えてたっけ。


「対するは、正体不明、しかしその実力は折り紙付き。空中を舞い、未知の攻撃で敵を倒して来た——匿名希望選手です!」


 歓声を背に浴び、黒フードが舞台へと現れた。

 顔を伺えはしないが、まるで喜んじゃいない。むしろ、鬱陶しそうだった。


「キャラが被ってたから、予定より早く俺が正体ばらさなきゃダメになっただろうが。どうしてくれる!」

「………………」


 会話のキャッチボールをする気はないようだ。

 いいぜ、じゃあ拳で語り合おう。


 試合開始の合図と共に、黒フードは宙を駆け上った。


 そして、微動だにせず俺を見下ろしてくる。


「ああっと! 匿名希望選手! 早くも勝負を決めに掛かっています! 準決勝で見せた、視認不可能な攻撃を繰り出そうとしているのでしょうか!?」


 やけにハイテンションのノエルに、俺は苦笑を浮かべる。

 まあ、これが終わったら、アレをするという約束なだけにか。

 ……勘違いであってほしい。


「…………」

「…………」


 俺と黒フードは共に微動だにしない。

 観客には睨み合いが続いている、ように見えるだろう。

 だが、違うのだ。

 俺は今、もの凄い攻撃を受け、それを無効化している。


「……っ」

「どうした? お得意の魔術が効かなくて驚いてるか?」


 倒れない、切り刻まれない俺を見て、黒フードがわずかに焦りを見せたのを見逃さず、俺は挑発した。お前の魔術は見切ってるぜ?


「一つ教えてやろう。俺の勇者としての能力の一つに、どんな環境でも動けるって奴がある」


 自分の能力でもないのに、俺は自慢げに語る。


「魔王のような強大な敵と対峙した時、恐怖で動けなくなる事がある。それは別に恥じる事じゃない。生物として当然だ。だがな、勇者だけはそれじゃダメなんだよ」


 剣を担ぎ上げ、俺は笑みを浮かべる。 


「勇者ってのはとんでもない愚か者だ。恐怖も何も感じはしない。毒の沼地だろうが、灼熱の溶岩だろうが、突っ込まなきゃダメなときは突っ込まなきゃならないからな。俺の言いたい事、解るよな?」


 ちらりと黒フードを伺うが、その表情は読めない。

 ただ、いい加減もうこの魔術が効かない事は解ったのだろう。


「俺の周りだけを真空にしたり、極寒にするそのセンスはすげーよ。だがな、俺にそれは効かない」


 本来なら呼吸が出来ない程に寒い空間なのだ。俺はかけられた魔法により何ともないが、生身の人間ならぶっ倒れているだろう。

 溶岩だろうが、毒の沼だろうが、それこそ宇宙空間だろうが、俺は活動出来るようにされているのだ。

 それを理解したのか、黒フードはふわりと舞台に降りてきた。

 俺は剣を構えてみせる。珍しく、勇者らしく剣を構えた。


「勇者ってのは、守るために戦ってんだ。どんな状況でも、最後まで立ってなくちゃ行けないんだ」


 要するに化け物だが、文句でもあるか?

 皮肉気に笑ってみせる俺に、黒フードは大きな動揺を見せた。


「やっと……見つけた」 


 何を?

 一瞬そんな疑問が浮かんだが、俺は気付いた。


「——ッ!!」

 

 そういう事か。

 やれやれ、俺は随分と人に好かれるようだ。

 だが、戦いは止まらない。いや、止められないのだ。

 俺には俺の目的があって、この大会に参加しているのだ。優勝しなければならない理由があるのだ。

 

「これで終いにしようぜ?」


 俺は剣を構え、黒フードを誘う。黒フードも、武器も持っていないのにそれに乗って来た。

 

 決着は既に付いてた。

 お互いがお互いの正体を知って、それでもうおしまいだった。

 本当なら、戦う必要だって無かっただろう。

 ただ、ここが武闘大会だから、こういう決着の付け方となってしまった。

 謝りたいが、謝らないぞ。


 交錯したそのとき、どちらとも知れず、その言葉は呟かれた。

 それは、俺達二人にしか聞こえなかっただろう。


「マモル」


 どさりと倒れる黒フード。起き上がる気はないようだった。

 というか、俺が昏倒させたんだが。


「しょ、勝者! 勇者レオ!」


 ノエルが宣言し、会場は大歓声に包まれた。

 救護班と思われる人達が駆け寄ってくるが、俺はそれを制する。


「これは俺の知り合いなんだ。俺が責任を持って治療する」


 そう言って、倒れた黒フードを抱え上げ、俺は舞台から降りた。


 黒フードの存在が、俺の計画を左右する事は無い。

 俺はするべき事をするだけだ。

 しっかりと治療させてもらおう。明日、全てが終わるまでは眠っていてもらうように。


「やっとだ。長かった。だが、舞台は整った……」


 けけけっ、と悪魔のような笑い声を上げそうになりながら、俺は闘技場を後にした。


 復讐を、始めよう。

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