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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第四章
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復讐と暴力の挑戦者 5

 今大会ダークホース、勇者レオと黒フード。

 その黒フードの試合が、もうすぐ始まろうとしていた。


「フィー、見つけました」

「遅いわよ、リース。もうすぐ始まるわ」

「えっと……うん」


 何か言いたそうだったけど、リースは何も言わずに観客席に着いた。

 それにしても……この大会の出場者はみんなレベルが高い。

 勇者は言わずもがな、シュイだってそうだ。持っていたあの剣、恐らく馬鹿にならない量の魔力を使っている。ある程度の魔力が無ければ、あれは剣として機能しないはず。

 リースの対戦相手だったアイクというのも、生成の難しい土のマナを自在に扱っていたし、リースだって凄かった。

 まあ、単純な凄さで言えば勇者がダントツだろうけど。

 突き刺した剣から舞台の下の土に魔力を送って砂に変えて、それがバレないように大量の魔力を放出していた。カモフラージュのやり方が凄く——無駄。

 あれだけの魔力、もっと効率よく使えば、あんなに追いつめられる事は無かったと思う。

 凄いんだか凄くないんだか、磨けば光る原石のよう。


 と、試合開始の合図がされた。


 黒フードの対戦相手は、『無限剣のダン』と呼ばれる男。

 ダンが指を鳴らすと、黒フードを取り囲むように何百本ものナイフが現れた。


「シュイとアイクを足した感じね……。腕も、かなり良い」

「あれは……私でも厳しいですね。シュイ君と当たっていたら、厳しかったでしょうから。……で、えっと」

「……舐めてるのかしら」


 あたし達がダンを凄腕と言っているにもかかわらず、黒フードは。


 構える事もせず、ただ、立っていた。


「えっと、あれは舐めてるの? あの状態からでも大丈夫だって言ってるの? それとも恐怖で動けないの? 何なの?」

「フィー、落ち着いてください。たぶん、あれがあの人の戦い方なんですよ」


 いや、だって、腕は下がってるしフードは被ったままだし、あれで戦えるの?

 状況だって解ってるようには見えないわよ。


 何故か対戦している黒フードよりも、熱くなっているあたしだった。


 と、再びダンが指を鳴らし、ナイフが一斉に黒フードに向かって行った。

 恐らく、致命傷は避けるのだろうけど、それでもあんなのをまともに受ければ、身体がずたずたにされる。

 けど。


「嘘っ!?」

「えっ!?」


 盛大な金属音が鳴り響いた。

 あれだけの攻撃全てが、黒フードの目前で撃ち落とされていた。


 そして、何故かダンが倒れた。


「……コールを」

「し、勝者! 匿名希望選手!」


 足早に去って行く黒フードを追いかけるように、司会者の声が木霊した。

 その呼び方はなんか変。

 というか。


「……リース、今、何が起こったか解った?」

「いえ。フィーは?」

「あたしも全然。……あの意味不明さ、もしかして」

「かも、しれませんよね?」


 アイツはいつも意味不明かつ、凄かった。

 それに似た現象が、今目の前で起こっていた。


 黒フードの正体は……レイ?


 

ーーーーーーーーーーーー



 黒フードか。ふうん、面白い奴だな。

 大会予選で見せた空中闊歩を見たかったが、相手の戦法上それが見れなかったのは残念だ。しかし大体解った。

 恐ろしく優秀だと言う事が。

 生半可な実力者では間違いなく勝てない。魔術師だろうが一流の剣士だろうが、無理だろう。

 それこそ、俺のように馬鹿みたいな魔力でゴリ押せる奴でなければ。


 針のような魔力を放出し、ナイフの力と相殺させていた。戦姫のように構成している魔術を破壊して無効化するのではなく、魔術はそのままに、物理的な部分のみを無効化している。

 魔力の使い方が恐ろしい程に上手い。まったく無駄が無い。

 保有する魔力の量はそんなに多くなさそうだから、これはそれを補った技術か。俺並に魔力が多かったら、どうしようもない化物になっているだろう。


 面白い奴だ、と俺は闘技場を後にした。


 

「勇者様、無茶をしましたね」

「んあ? 別に大丈夫だぞ」


 宿にて爆食していると、まるで当然だと言わんばかりにノエルが席について来た。

 無茶? なにそれ、美味しいお茶?


「とぼけないで下さい。……あの大量の魔力消費、あれが無茶でなくて何だと言うんですか?」

「…………」


 ……っち。

 そう言えば、ノエルには俺の秘密を話していたんだったか。いや、話さざるを得ない状況だった、と言っておこう。好き好んで話したい内容ではない。

 何せ、勇者の力の秘密なのだから。

 言い淀んでいる俺を見て、ノエルは笑みを浮かべる。


「そ・れ・と・も、私とまぐわうためですか?」

「黙れ痴女」


 くそ、ノエルの奴、秘密を話してからはいつもこんな調子だ。

 隙があれば、すぐに俺と行為に及ぼうとしてくる。


「違うんですか? それなら、私に疑いがかからないように、圧勝してくれたんですか?」

「んなアホな。あれしか良い手が思いつかなかったんだよ」


 シュイの攻撃を剣で受け止めることは出来ない。そして、シュイは相手に剣で受け止めさせるような戦い方をする。

 あの剣の攻撃を防ぐには、自分の身体程ある大きさの盾でもないと、無傷にとはいかない。


「でも、あなたならあの馬鹿みたいに放出していた魔力そのものを、盾のように扱えたんじゃないですか?」

「……動きたくなかったんだよ」


 そう言って、俺は義足を叩く。

 鉄を叩いたような小気味の良い音がした。


「義足……って、嘘でしょ?」

「……お前、俺の事は何でもお見通しかよ」

「そうですよ。良い彼女になりますよ? 既成事実、作りませんか? そうしたら、心配いらなくなりますもの」

「…………」


 俺はロマンチスト。そういうのは時と場所と状況、そして何より愛を大切にしているんだっつーの。

 だから。

 俺はノエルに近づき、そっと頭を抱え込む。そして、ノエルにしか聞こえない声で囁いた。


「ノエル。……愛しても良いか?」


 きゅっと胸元が捕まれた。そして、こつんと頭が押し当てられた。

 見下ろせば、頬を上気させ、瞳を潤わせたノエルの顔があった。


「やっと……言ってくれましたね」


 そう言って、にこりと笑みを浮かべ、ノエルは言った。


「愛してください」



 俺の身体は、魔法でコーティングされた特別性だ。

 そのコーティングする魔法の一つに、魔力の増加を促す魔法がある。

 ある条件を満たせば、魔力が回復したり、限界を上げると言ったものだ。


 その条件というのが……『欲』を満たす事。

 食事や睡眠で、俺の魔力は回復する。それは、『食欲』、『睡眠欲』を満たすからだ。

 そして、魔力の限界を上昇させるのは……。

 後は、言わなくても良いか。

 ただ一つ言うのならば、これを打ち明けたが故に、ノエルは積極的になった。



 ノエルの素肌から体温を感じる。

 温かい。


「一応言っておきますけど、私は、あなた以外とはこんな事するつもりはありませんよ?」

「俺はそうじゃないけどな」


 くすりと微笑むノエルに、俺は意地悪く言ってやった。

 けれど、ノエルの笑みは消えない。


「構いませんよ。英雄色を好む、なんて言いますから。それに、今あなたと一緒に居るのは、私ですもの」

「……ダメな女だな、ノエルは」

「はい。……でも、ダメにしたのは、あなたですよ?」

「…………」


 やばい、何にも反論が言えない。

 仕方が無い。


「ノエル、お前はきっと後悔するぞ。他の男なら一生付き合ってもらえるのに、俺は無理だからな」

「いいんですよ。だって、私があなたを見ていたいんですから。それだけで十分幸せなのに、あなたの方からも私を愛してくれるなんて……それ、なんて、言えばいいんでしょうか?」


 俺はぎゅっとノエルを抱きしめた。

 

「どうだ? 今、幸せか?」

「ええ。でも……心配です。明日の戦いが厳しいから、なんでしょう?」


 本当、お見通しだな。

 確かに、明日の対戦相手が今の魔力の上限では勝てないのもある。

 けど、残念だな。


「違うぞ? ノエルが、あまりも魅力的だったからだ」


 顔を真っ赤にして抱きついてくるノエルを、俺は優しく撫でた。


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