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例えば仮の魔王様  作者: 零月零日
第四章
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復讐と暴力の挑戦者 4

「正直、私はこの大会の結果なんてどうでも良かったんですが……、ちょっと負けられない事情が出来ました。ですので、手加減はしませんよ?」

「はん。舐められたもんだな、この俺様も」

 

 アイクと名乗る青年が、私の対戦相手です。

 本当のところ、戦うことに興味があまり無い私が、この大会に推薦枠で参加するのは心苦しい。

 戦姫などと呼ばれているけれど、私は戦うのがあまり好きではない。だから断ろうと思っていたのだけど、国の上層部が勝手に推薦していて手遅れでした。

 仕方がないので、みっともなくない程度には戦おうかな、と思っていたけど。


 今回は勝たせてもらいます。

 


 フィーが教えてくれた真実は衝撃的でしたが(色々なんて言えばいいのかよくわからない場面が多いのですけど)、私は別にどうとも思ってません。

 だって、最初から私達が関わってきたレイという人間は、その少年だったのでしょう?

 それなら、別に問題ありません。むしろ、同じくらいの年頃で良かったと——なんでもないです。何が良かったとか、気にしないでください。

 フィーの話が本当なら、レイさん(と呼んでもいいのか微妙ですが、それしか知らないのでレイさん)は、確かに生きていそうです。その炎の力があれば、刺し傷くらいはなんのその、けろっとした顔で出てきそう。

 ただ、レイさんが何の連絡もくれないのが、少し気になります。

 見捨てられたのか、忘れているのか、あえない事情があるのか、私にはわかりません。

 ですが、この大会に来るというのなら、丁度良い機会です。自分の実力を見せ、レイさんに認めてもらいましょう。ほっとけない存在だと、認識させます。

 そうすればきっと、今までよりも良い関係を築けるような——って、私はそんな関係を築きたいの?


「しかし、あんた綺麗だな。伊達に戦姫なんて呼ばれちゃいないな」

「はい? あ、そうですね」


 聞いてなかったので、適当に相槌を打っておきます。

 ここは武闘大会、舞踏会ではないでしょう? それなら、言葉を交わすよりも武器を交わしましょう。

 と、よく見るとアイク選手は手ぶらでしたが。

 

 試合開始の合図と共に、アイク選手が地面に手を付きました。


 何か嫌な予感がしました。手加減はしないと宣言した以上、最初から全力で行きます。

 聖剣で強化された足で、大きく跳躍。


「魔術師、ですか」

「……っち」


 跳躍した私が見たのは、人一人分ほどの大きさの無数の棘。

 それが、アイク選手のいる場所を除いて、舞台上にびっしりと生えていました。

 あのまま攻撃していたら、串刺しでしょう。


「まだまだ!」


 宙にいる私には届かない棘が、不意に伸びました。さらに、棘から棘が出てきます。

 土のマナを使った魔術、ですね。

 それは、まるで鋭利な木が一瞬にして生長したかのような攻撃。

 それが意味するのは。

 

 足場が無い、ということ。


 恐らく、棘の一つに着地したところで、その着地面からも棘が生えるのでしょう。

 足をついたが最期、次々と棘が私を貫こうとするはず。

 あっけなく、私は窮地に経たされていた。 


 けど、駄目ですね。


「私が戦姫と呼ばれる理由を知っていますか」 


 落下しながら、私は微笑んだ。

 まさか、この聖剣だけが私の力だと思ってはいませんよね?


「なっ!!!?」


 それを見たときの、アイク選手の顔は見ものでした。


 私に触れた瞬間、棘が粉々に——土のマナへと変わりました。


 私を貫こうと伸ばされてくる棘はすべて、マナへと還元されます。

 魔力を魔術が崩壊するように流し込む、簡単に言えばそんな技術です。

 これが、私が戦姫と呼ばれる理由。

 魔術がマナへと還元される時、一瞬だけ見せる光の輝き。

 それが、美しいそうです。

 

 聖剣で行く手ふさぐ棘を切り、呆然としたアイク選手の前に降り立ちます。

 そして、ピタリと剣を頬に近づけます。じわっと肉が焦げる音が。


「降参だ……」


 何が起こったのかまるで理解していないような顔をしていたアイク選手でしたが、やっと正気に戻ったのか、諦めたように苦笑し、潔く両手を上げました。


「勝者! リース選手です!」


 周りの歓声は一切気にせず、私は舞台から降りた。

 


「あれ?」


 試合を終えてフィーを探して歩いていると、通路の影から黒フードが見えました。

 今大会注目度ナンバーワン、ツーを争う二人の黒ずくめ。

 一人が勇者レオ、もう一人はいまだ正体不明。

 そう言えば、レイさんも誘拐事件のとき、あんな格好をしていたような……。

 まさか!?

 どうやら、誰かと話をしているようでした。


「……どうしてお前がここに!」

「保護者のつもり——冗談だ、そんな怒らないでくれ。ただ大会に参加しただけだ。ほら、もう一回戦は勝っている。君と当たるとしたら決勝だろう? 君に迷惑はかけない」

「……ならいい。ただ、目立つから話し掛けるな」

「お互い様じゃないか?」


 黒フードと話しているのは、私の前の試合で戦った、キョウという選手でしょうか。

 黒色のピシッとした、異国風の服に身を包んだ青年です。

 二人は、知り合いなのでしょう。

 ただ、あまり良い雰囲気ではないですが。

 どうしてか、黒フードの声は聞き取りにくいです。

 と、黒フードの方がいなくなってしまいました。

 黒フード、いえ、レイさん——かもしれない人。

 どうやら、別ブロックにいるみたいです。少し見てきましょう。

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